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閑話 -泥棒陣内(13.5)-

-ニューギニア主計本部-


「作戦は必ず成功する!この辻が保証する!」


 保証人にいささか心配があるものの、作戦自体は正攻法であり、作戦進捗に大きな齟齬を与えるものではない。が、実際は、「イイ線(戦)いくんじゃないかなぁ」程度の兵員及び装備品の調達配置がなされた程度で、長期戦を想定して、若干余剰の補給を準備したに過ぎない。

 「作戦の神様」と言われている辻参謀殿の計画ではポートモレスビー攻略までの時間制限は最長5日。これ以上になると我が軍の損失が級数的に増大するそうだ。



「その気になれば精強な帝国陸軍は何年でも戦えるが、ここは一般論としておこう」



 ということなので、「話半分」で、3日程度でカタを付ける必要はある。最前線の兵士諸君の奮闘努力を期待するしかない。

 そもそも主計の仕事は書類との戦いだ。攻勢の準備が整ったところで(我々の)戦いは終わるのだ。

「こんなこともあろうかと」と、延長戦になった場合の補給も確保済みだ。これでいっぱいいっぱい。再延長?誰がそんな馬鹿な事を?「あの」辻参謀殿ですら「一撃で決着しなければ終わりだ」と言っているのだ。

 そうなったら敗戦一直線!主計はただただ、作戦成功を祈るしかない。

 達観した気持ちで各地の補給状態を見守っているニューギニア主計本部には、親分(堀井少将殿)と、陸軍の毒薬こと辻参謀殿が入り浸っている。海軍?宇垣少将殿は楽しそうに艦に帰って行かれた。



「しかし、待つ身は辛いな」



 ぬるくなった湯飲茶碗のコーヒー(宇垣参謀長殿から提供していただいた)をすすりながら、辻参謀殿がぼやく。だからと言って、ここで待つ必要はなかろう。

 聞くところによると、ニューギニア戦線主計本部を参謀殿は大いに気に入ってるらしい。

 自分の思うように動いて、思う以上の成果を上げている輩を無碍にするようであれば、とうの昔に失脚。今頃は靖国の一員になってるだろう。機を見るに敏というのはおこぼれを預かる我々にとっても悪いことではない。

 問題はラビ陥落後、主計本部に入り浸り、私や海軍出向組の仕事の邪魔をしていることだ。



「大局を見る(はなはだ怪しい。そもそも大局とやらが見えれば泥沼のような戦争なんぞしなかったはずである)」



 ことが最近の参謀殿の興味の中心らしい。今はボルネオの油田地帯からの石油の輸送に多大な関心を持っている様で、同じく主計本部に入り浸っていた連合艦隊総参謀長の宇垣中将殿との間で活発に意見を交わしていた。

 軍、階級は違えど職種は参謀なので、共通の話題があるのだろう。

 これらの五月蠅い連中に加え、我らが堀井少将も(さすがに入り浸りではないのだが)30分毎に主計本部を訪れている。本当に、本当に邪魔なのだ。が、一介の主計大尉(それも野戦昇進)が中佐殿や中将殿に「邪魔だから出て行け」とは言えないのだ。

「長いものには巻かれろ」は私の信条である(当然、自分に危険が迫った場合はこの限りではない)


 陸海軍の輜重部隊の全力を投入、(私は全く与り知らなかったのだが)財閥から主要官庁、有力地方の首長までを巻き込んだ一大作戦開始の引き金は、大元帥たる天皇陛下の詔でもなく、大本営陸海軍の指示でもなく、ニューギニアの各地の輜重、主計担当者からの電文でその幕を開けることになっているらしい。



「各方面への補給、人員の配置、全て完了しました」



 通信士からの電文綴りを堀井少将殿に手渡すと、主計本部に詰めていたお邪魔虫2名から覇気が立ち上った…様な気がした。

 恐らく出動命令を伝えたのだろう。駆け足で主計本部を出て行く陸海軍の従兵を横目で見ながら、私の仕事がようやく終わったと、若干、感慨深い感情を弄んでいると、辻中佐殿が声をかけてきた。



「大友大尉!よくやってくれた!ポートモレスビー攻略戦は成った。陥落させられなければ、それは全てベタ金(高級将官)共の責任だ。だが、そうはさせん!この辻がいるからだ!ただ今から督戦に出発する!我らの先にあるものは勝利だ。勝利しかない!勝利しか選択しない!わははははは」



 何なんだ。この盛り上がり様は…



「これから儂は鉄路を経由し、ポートモレスビーに向かう。作戦の不備をこの目で確認せねばならん」

「鉄路は我が軍の勢力下にありますが、航空機からの銃撃もあり得ます。十分注意ください。ご武運を」


 立ち上がって、敬礼する。やっと、戦争馬鹿をお払い箱にできるのだ。これぐらいはすべきだろう。そもそも、私の受難はこのおっさんから始まったのだ。出て行っていただけると、本当にありがたい。うん、本当に、本当にありがたい。



「何を言っておる?ニューギニア戦線を好き勝手にいじくり倒した貴様は事の結末をその目にする義務がある。ちなみに拒否権はない」

「なんですかそれは!私には戦線全体の補給を看るという大事な任務が…」

「そんなものはここに残っている連中で十分だ。いいか?「賽は投げられた」のだ。作戦の起案はこの辻だが、それに乗った。いや、この辻をそそのかした貴様は賭場の胴元の一味としてサイコロの目を確認しに行かねばならん。自分はニューギニア鉄路を経由する。貴様は「オタク号」で「土佐丸」に向かえ。それでは陥落後のモレスビーで会おう」



 言うだけ言って、辻中佐殿は足早に主計本部を後にした。一体何なんだろう?



「どういうことだ?なんで俺が最前線に?」

「中佐殿が気を遣っているんじゃないですかぁ?普通なら全部自分の手柄にしますよ?それを「「土佐丸」で来い」ですからねぇ」

「いや、行きたくないから!行きたくないから!そもそも俺は場末の基地の主計担当…だったはずだ…ぞ?」

「何を今更!大尉殿は「大本営をアゴで使う尉官」とか「ニューギニアの怪物」とかで陸海軍と外務省で有名ですよ」



 何だそれ!あと外務省って何だよ!



「大尉殿はニューギニア戦線維持の鍵を握る人物ってことになってます。まぁ、我が軍の攻勢は大尉殿なくしては成り立ちません。とにかく!「土佐丸」に飛んでください。辻参謀殿の機嫌を損ねたくないですから…。今後、こっちは「弾薬寄越せ」とか「メシはどうした」に対応する程度です。これなら我々で対処できます…お願いですから我々を助けると思って!」



 かくして、「作戦成功後」という前提条件ではあるが、私は最前線に赴くことになってしまったのだ。


 どうしてこうなった。



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