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-閑話- パシフィック・ラム

 ラビ基地陥落により捕虜となったオーストラリア陸海空軍の兵士達。

 陸の孤島であるラビからの捕虜移送は困難を極めるため、海路を使用するしかない。が、海軍の艦艇に余剰はない。かくして捕虜は一時的に「土佐丸」に収容されることになった。

(この決定に、主に陸軍兵から非難が殺到した。曰く「俺達よりも待遇が良すぎる」である)



「Eat steak!We are the limit!」

(牛肉を食わせてくれ!俺たちは限界だなんだ!)

「 I guess you got a paddock last night. Is that it beef?」

(昨夜肉じゃが出しただろ?あれも牛肉だぜ?)


 以下日本語で(笑)


「あれっぽっちでか?肉のクズじゃないか!肉と言えばステーキだ!ジュネーブ条約違反だ!捕虜としての正式待遇じゃない!」

「落ち着け!あのさ…日本人なんてステーキ食べられるのは3年に1回くらいなんだぞ?理解してんのか?」

「…3年に1度…本当か…クレイジーだ…。それって宗教的なアレか?確か牛肉食ったら地獄に落ちるとか言ってたな?」

「ソイツは回教徒だ。日本じゃ、牛肉は超高級品だ。俺達は(牛肉買うだけの)金がないんだ。そこら辺を理解して欲しい」

「…それは済まん…。が、胃袋が理解しない。肉が食いたいんだ!頼む!」

「「土佐丸」にもステーキにするだけのモノはないからなぁ~。一応、アンタらにも気を遣ってるんだぜ?ほれ、納豆はあれ以来出してないだろ?」

「納豆!…あれはジュネーブ条約の重大違反項目に該当する」

「納豆はビタミン補給には最適の食品だ…俺は関西出身だから好みじゃないけどね」

「アンタは正しい!アレは人間の食い物じゃねぇ!マヂで捕虜虐待かと思った。アンタらが食ってるのをみなけりゃね」

「食事ってのは民族性が出るからなぁ~。で、どんな食材が気に入った?」

「ゴボウだな。最初は木の根っこかと思った。甘辛く煮たのはいいな。あとイカを干したヤツかな?不吉な食い物だと言われてたのと、臭いが気になったが、ありゃ、ガムの代わりになる。最後は飲み込めるのがいい。いや、どうでもいいから肉!肉を頼む!」

「一つ質問だ。ラビの基地跡から牛肉の残骸を引き上げたんだが、あんなに堅い肉でいいのか?タイヤ喰ってる様なもんじゃないのか?」

「タイヤ?なる程…言い得て妙だ。だがしかし!あの噛み応えがいいんじゃないか!」

「なるほど…牛肉の代用になるが、少々癖がある。濃い味付けになる。シチューみたいなモノになるんだが大丈夫か?」

「おお!ありがたい!肉が食えれば文句言わん!戦争が終わったらアンタを俺ン家に招待してやるよ!シドニーでレストランやってんだ」


 こうして食卓に出された「肉」は例の「土佐丸恩賜品」。残念ながら「土佐丸」の在庫が少なかったため、わざわざ艦上爆撃機2機をブナまで飛ばして鯨肉を空輸した。

 史家は「日本軍はジュネーブ条約を遵守しなかった」とこき下ろされているが、「あるものがあれば」当然、最低限の待遇は当たり前である。第一次大戦での独逸軍捕虜への日本の対応がそれを証明している。

 まずは、無難なところから「鯨の大和煮」(シチュー)が食卓に出された。これにオーストラリア兵は狂喜した。

 この鯨肉。「土佐丸」対潜哨戒行動の産物(だと噂されているが真偽は定かではない)。「土佐丸」が対潜哨戒を行うと、高い確率で付近の海岸にシャチ、イルカ、鯨が座礁するのだ。放置して腐敗すると伝染病が蔓延する危険性があるため海岸基地の隊員は総出で「出撃」必死で解体してありとあらゆる方法で食品に加工し、一部は原住民との物々交換にも用いられている。が、それでも肉が余り気味。ブナ基地の兵士達からは「肉食いたくねぇ~」の合唱が出ており、鯨肉は半ば厄介者扱いになっていた。何せ冷凍庫の余剰スペースを無駄に占領するのだ。そのため、1トン近くになる鯨肉の提供要請をブナの補給部は喜んで了承してくれた。


 肝心のオーストラリア兵だが、最初は「鯨肉?」と拒否感もあったが、胃袋の要求には勝てない。恐る恐る口にしたのだが、調味料(醤油)の旨さもあってか、大好評となる。そのうち、米軍捕虜からステーキソースの秘伝を学んだ「土佐丸」厨房要員による「鯨ステーキ」「イルカステーキ」も食卓に並び、これも好評を得る。


 戦後、復員した米兵、オーストラリア兵の一部は極限状態で味わった鯨肉、イルカ肉の味が忘れられず、補給のため寄港した各国の捕鯨船から鯨肉を購入し密かに楽しんでいた。

 これをレストランで提供したのが上記のオーストラリア兵元捕虜である。

 メニュー掲載時に「鯨」ではまずかろうと「Pacific Lamb」という名前で掲載したところ、安さとその歯ごたえの強さ、脂分の少なさがうけ、たちまち看板メニューとなった。(わざわざメルボルンから食べにやってくる元捕虜もいたらしい)

 この原価率の安さに目を付けたのが米国の大手ファーストフードで、鯨肉を美味く食するため日本にスタッフを派遣、じっくりと鯨肉料理の修行を行い、


「鯨肉竜田揚げバーガー」

「ヘルシーパシフィックラムバーガー」


 などの商品が開発される。

 アメリカ人は食品に「ヘルシー」という名前が付いていれば無条件でこれを受け入れるという広い心(馬鹿とも言う)があるため、米国内での鯨肉消費量は一気に増加。鯨肉の活用が一気に進んだ。

 後年、過激な自然保護団体が「鯨を(以下略)」と騒いだのだが、


「美味いし」

「ヘルシーだし」

「うるせー馬鹿」


 とさんざんだったそうな。


うん。ネタですネタ。元ネタは米国産のロボット映画です。

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