閑話 -泥棒陣内(13)-
投稿ミスっちゃいましたorz
ソロモン乱戦を皮切りに珊瑚海での連合軍補給路の分断、ラビ攻略、ケアンズ空襲と連戦連勝中の帝国陸海軍は(戦略的には至極妥当ではあるものの)実現は無謀の極みと思われていたポートモレスビー攻略に道筋を付けてしまった。
これに俄然、やる気を出したのが本土の陸海軍省と外務省である。何せ(ポートモレスビー攻略は各省内で)画餅と陰口を叩かれていたからだ。これが実現すれば米豪遮断構想は現実となる!
「勝ち馬に乗る」
出世する役人員は機を見るに敏だ。が、オーストラリアの降伏は夢のまた夢。というかあり得ない。現実的には、
「いかに帝国に有利なようにオーストラリア様に武装中立宣言をしていただくか」
ということに尽きる。そう、あくまでも下手に出なければならない。強攻策(例えば交渉材料として再度ケアンズ、あるいはタウンズビルへ空襲を行う)は反日感情が高ぶることはあれ、反戦感情が高ぶることはあり得ない。
しかしながら、オーストラリア離反工作(=武装中立への移行)への道として、または国内に対するポーズとして帝国陸海軍はそれなりの戦果を上げなければならない。
問題はこの「戦果」がオーストラリアにとって屈辱的であってはならないことだ。
ボロ勝ちすると真珠湾の二の舞。人間、都合の悪い事実は隠したがる。火に油どころの話ではない。
弁明までに言わせていただくと陸海軍省も外務省も真珠湾から学ぶものがなかった訳ではない。ではどのくらいの戦果を上げるのが妥当か?
戦果で言えば7:3、理想を言えば6:4位の損害で帝国がポートモレスビーを占領するのが望ましい。無論、これは人間の命とか感情を廃した「事務屋」の弾きだした数字である。現場の人間に伝えられる類いの話ではない。
要は、
「善戦した(惜敗した)ので勘弁してやる」
「これは名誉ある中立である」
と相手に思い込ませる謀略というか、詐欺的な手管が必要だ。
残念ながら帝国陸海軍及び外務省にはその手の達者はいない。そもそも、勝ちすぎてはいけない作戦案なんぞ(現場に)提示できるはずがない。
下手な動きは自分達の不利。ここで陸海軍省及び外務省は「優秀な他部署」に工作を委託(=生け贄の任命)を内々に決定する。省庁間の表だった調整はない。このくらいはあうんの呼吸で
「言い出しっぺがやるのは自明」
「そりゃそうだ」
「海軍としては、陸軍の意見に同意するものである」
となる。
編成上の上位組織である陸海軍省と、その尻馬に乗った外務相が工作を押しつけたのは、ニューギニア方面の南海支隊(第四十四軍)であった。
命令は 陸軍軍令部から辻中佐へ。海軍軍令部から連合艦隊を経由し、そして身内であるはずの南海支隊の堀井少将に渡り、ニューギニア戦線主計本部に伝えられた。命令の内容は簡素。
「ポートモレスビー攻略までの作戦を立案せよ。(ただし、完勝してはいけない)」
であった。
-ニューギニア戦線主計本部-
「ポートモレスビー攻略の作戦立案?なんで?ここは主計部だぞ?」
「馬鹿じゃないのか?専門外にも程がある!」
「作戦立案会議」冒頭で会議開催の目的を聞いたニューギニア戦線主計本部の面々から思わず声が上がった。うん。私もそう思う。
しかしながら宮仕えの悲しさ。命令は絶対だ。親分(堀井少将)、あるいは身内(辻中佐も最近「身内」になってきているらしい。彼は第三十三軍の参謀だと思うのだが…解せん)程度が相手ならば十分反論する自信はある。が、、ニューギニアから遠く離れた本土の陸海軍省と、理解できないが外務省までの連名の命令だ。これを拒否できるのは畏れ多くも大元帥陛下しかないだろう。
だが、連中は必要とあらば(大元帥陛下の勅命まで)用意しそうな…気がする。官僚を侮ってはいかん…。
私(大友主計大尉である)は、ポートモレスビー攻略のために集結しつつある陸海軍の兵、船舶、航空機への分刻みの補給日程の調整の激務で、さほど頑丈でなかった胃袋が悲鳴を上げつつあった。
シクシクと精神に働きかける痛みに、私は(胃袋が複数ある)牛でなくて良かったと楽観的に考えるようにしていたのだが、さすがに作戦立案となるとそんな楽観的な考えも吹っ飛ぶ。胃袋に加え、取ったはずの盲腸まで痛くなってくる。
「自分もそう思う。で、何かいい案はないか?」
仕方なしに開いた作戦立案会議の出席者(腹立たしかったので、キンキンに冷やしたパイロット用のラムネを調達してやった。ざまぁみろ)。同期の主計士官連中に加え、ラビ攻略からずっと私の下についている「腹心」、陣内特務少尉、御宅曹長、海軍から派遣されている仲曽根主計中尉の3名の出席は当然だが、なぜか辻中佐殿と海軍の宇垣中将殿が参加してラムネを美味そうに飲んでいた。誰だよ…こいつら呼んだのは…
沸点の低い辻中佐と、無表情が何となく怖い宇垣中将に遠慮しながら、作戦案を求めたところ、予想どおり、作戦案ではなく、まぁ、当然の反応が返ってきた。
「そもそも、参謀教育なんぞ受けてない我々が作戦立案と言うのがおかしいのと違いますか?」
「へたくそな作戦を立てて反撃させてお茶を濁すってことか。それでウチ(ニューギニア戦線主計本部)の出番な訳?」
「えげつないなぁ」
「いや、馬鹿だろ?俺たちに簡単に推測される程度の低い陰謀だぞ」
「普通の参謀閣下では来歴に傷がつきますからねぇ。それを嫌がったでしょうね」
…こいつらも言うようになった。普通、佐官、将官の前では絶対に出ない言葉がポンポン飛んでくる。判っているのだろうか?無表情でラムネを飲んでる宇垣中将は連合艦隊司令部参謀長様だぞ?それと帝国陸軍の筆頭参謀と自負している辻中佐殿の前で参謀批判とは…。もしかすると彼らは辻中佐殿を「話のわかる参謀殿」と思っているのではないのだろうか?それは巨大な誤りだ!
罵詈雑言の類いが飛び交っているにも関わらず、当事者の辻中佐殿はニヤニヤ笑いをするだけ、宇垣中将殿は表情すら変えない。どうやら上は本気で自分達に作戦立案をさせるつもりらしい。
胸くそ悪いが俸給分に加え、特配のラムネ分の仕事はしてもらわなければならん。参謀本部及び陸海軍省、外務省への悪口が一段落したのを見計らって、私は自分の推測した「上」の狙いを伝えた。
「恐らく、陸海軍の「上」はモレスビー攻略で損害が出るのを恐れているんだと思う。しかしモレスビー攻略は絶対に避けて通れない。じゃあ、損害が出た場合の責任は誰が取るか?そこで俺たちの出番だ」
「素人に作戦立案させて、損害が出た責任を押しつける。作戦を失敗させたニューギニア主計本部は解散かぁ。主計部がニューギニア方面の実権を握っているのはどう考えてもおかしいからな。最終的には俺たちが最前線送りってとこに落ち着くのか。まぁここ(ニューギニア)は最前線だから実態は何もかわらんと思うが、そんな作戦で命を落とす奴らの遺族に恨まれるのはご免被りたい」
同期(私と異なり真っ当な業績で階級を手に入れた手に入れた、尊敬すべき主計中尉殿である)が陸海軍の魂胆と、自らの考えを述べると、これに辻中佐殿が反応した。
「それはない。この辻が保証する。何せ貴様等はニューギニア方面に加え、トラック島とボルネオ方面の将兵の胃袋を掴んでいる。十分とは言えないまでも補給が途絶えない。メシが喰えるということはそれだけ重要なのだ。それと、だ。ポートモレスビー攻略は、まぁ、負けることはない。が、こっちの被害も相当なものになる。恐らく最大の激戦、最大の損害となる。以前の俺ならなら力押し上等、一番槍は貰ったと思っていたんだが、近頃欲深くなった。モレスビー攻略は、確実に最初に手を出した部隊が貧乏くじを引く。陸海軍はこれを皆嫌がってる。どうしてかだと?我々は勝ちすぎたんだ。負けるのが怖くなったんだ。まぁ、原因の半分は貴様ら(ニューギニア戦線補給本部)にある。なんとかしろ!いや、何かならんか?」
辻中佐はここで少し言いよどんだが、鼻を鳴らしてこう言った。
「奇想天外な手管と精緻な実務で、ニューギニア戦線を維持しとる貴様らであれば、案外、面白い作戦案が出るんじゃないかなと思ったのだ」
「作戦の神様」とか言われている辻中佐からそう言われると悪い気はしない…宇垣中将。そこで頷かないで下さい…。絶対に何かあると勘ぐってしまう。
この状況をいつまでも続ける訳にはいかないだろう。「三人寄れば」「船頭多くして」とかの諺もある。後者は物量で何とかしろという意味に違いない。とにかく、何とかするしかない。
「ということだ。こうなったら腹をくくって頭を捻るしかない。思いつく事を全部出せ。ただし、適当に負けるってのはなしだ。兵士の命は、決して一銭五厘ではない。あっち(連合軍)も、こっち(日本軍)もそれは同じだ。靖国の鳥居をくぐる人間は一人でも少ない方がいい。それとだ。どうせ主計(素人)の立案だ。真っ当に考える必要はどこにもない!特配のラムネの分くらいは考えろ!」
辻中佐の「お褒めの言葉」に何か感じるものがあったのか、これまでのワイガヤから一転、真剣な表情で考え込む我がニューギニア戦線主計本部の面々に私は安心した。これ以上文句を垂れ流してると、作戦立案抜きでポートモレスビーの現状調査と言う名目で最前線に送られそうな気がしたからだ。(彼らもそう思ったのだろう)
ラムネ瓶の外側を流れ落ちていた露が乾ききり、屋外の物資の搬出や航空機のエンジン音が気になりだした頃、何らかの結論にたどり着いた我が「腹心」達から意見が出始める。
「やはり、初動で敵の最大戦力を小被害で潰すしかないでしょう。潰さなくても、運用できないようにすることは必須。日中無効化でも十分です。この場合はモレスビーと周辺基地の航空戦力ですね。ラビ砲撃並の火力があればいいんですけど」
誰が名付けたのか、「NHK(ニューギニア放送組合)」というふざけた略号で、週に2回、ラジオで連合国向けの戦略放送を行っている御宅曹長が自らの見聞を基にした意見を述べる。実に真っ当な分析である。
「航空機は滑走路を潰せば無効化できるが敵も必死だ。滑走路を潰してもすぐに復旧される。航空機を根こそぎ破壊するか、滑走路を継続的に使用不可能な状態にしなければ航空戦力の無効化はならん。ラビのように艦砲射撃で破壊できればいいが、それは無理だ。今回は衝立(スタンレー山脈)がない。逆に戦艦部隊に被害が出る。フネは航空機と比べると格段に速度が遅い」
「そうなると、陸海軍の基地航空隊と海軍の機動部隊による攻撃が一番効果がある。上陸部隊の消耗も少ない。だが、反対に航空機と搭乗員の消耗は激しくなる。機動部隊の航空兵は陸軍の航空兵よりも育成に時間がかかるらしい。それに航空兵の損耗は物資の損耗とは比較にならん。航空機の攻撃は避けるか、あるいは消耗を可能な限り少なくしなければ今後に差し支える」
「そうなると、奇襲しかない。が、この状態で奇襲なんてのは考えられんぞ…相手は万全の体制で待ち受けてる。奇襲の目はないな」
…主計の作戦立案なんてこの程度だ。煮詰まったところで、海軍の仲曽根中尉が辻中佐に意見を求めた。
「辻中佐殿(陸軍の呼称に合わせるというところなど、なかなかに適応性が高い)。先人に学べというのがあります。奇襲の参考になる戦いはないのでしょうか?」
「奇襲ということであれば、鵯越、厳島、桶狭間あたりだ。共通するのは予想外の場所、時間の急襲という点だ。夜戦ということなら河越もある。最近では海軍さんの真珠湾攻撃だ。だが、向こう(ポートモレスビー)もそこらへんは十分に承知しているだろうから諸君らが予想するとおり、奇襲成功の目は少ない。今のところ「思いもよらない場所」はニューギニア鉄路か、空挺部隊による落下傘降下くらいだが、空挺作戦はパレンバンでネタが割れているから相手も警戒するだろう。鉄路はそれほど警戒はされていないが、鉄路終点のカギからはモレスビーは距離がありすぎる。鉄路延長はこちらの意図を晒すことになる。カギからある程度のまとまった兵力がモレスビー目指して進出しようとするとこちらが進軍している間に向こうも迎撃準備が整う。返り討ちになる可能性の方が高いな。何せ、あっちの方が数が多い。攻撃三倍の法則からしても、守備側の三倍の数で攻撃する必要があるが、我々(第四十四軍)の頭数はそれほど多くない。単独での攻撃では壊滅。上陸兵力と呼応しても3割から半数は数を削られるだろう」
さすが参謀である。現状の問題点と我々が捻り出そうとしている「作戦計画」がいかに面倒なものかどうかがよく分かった。強行偵察やら通信傍受などから予想されるモレスビーの兵力の充実っぷりから、我が軍は海岸から上陸戦に突入する兵力と航空機、艦船による攻撃を加えたとしても、いいとこ「がっぷり四つ」程度ということだろう。しかし「攻撃三倍の法則」か…。経験則らしいので、否定する気は毛頭ない。しかし、攻勢側にかなりの損害が出るというのは何とかしたい。いや待て!そもそも、鉄路からの「攻勢」に出るのは決定事項なのか?そもそも、攻撃と守備の違いは何なのだろうか?頭のなかでもやもやとしたものが沸いてきたので、私は辻中佐にその疑問をぶつけてみた。
「攻撃側は常に不利ですが、なぜ攻撃なのでしょうか?攻撃三倍の法則というのであれば、こっちが守備側なら相手の三分の一でもいい勝負になるんじゃないですか?」
私の質問に馬鹿を見るような顔で辻中佐は応じた。
「貴様何を言っとる?こっち(帝国陸軍)がモレスビーに攻め込むんだから攻撃側だろうが?そもそもどうやってこちらが守備側になるんだ?」
うん。最初にあった頃は中佐殿はこんな顔で私を見てたな。どっちにせよ省略が過ぎたようだ。補足しよう。
「攻撃の消耗が激しいのなら、向こう(連合軍)が攻撃せざるを得ない状況に持って行けばいいんじゃないかと思ったのです。そうすれば、こっちは攻撃側の三分の一で手が足ります」
私の意見にあっけに取られたような顔をしていた辻中佐は、眉間に皺を寄せて唸っていたが、やがて顔をあげた。
「…その考えは実に新鮮だ。攻める必要はない、攻めてきて貰えばいい。で、どうやって我々が守備側になる?」
「まずは、「奇襲」。これを最小限の損害でなんとか成功させます。そしてポートモレスビー側からこっちを攻撃してこなければならない状況に追い込みます。簡単に言えば、飛行場を継続的にひたすら使用不能にする。これに尽きます」
「具体的には?」
「そこらへんは中佐殿にお任せします」
私の言葉に辻中佐は頷き、「作戦の神様」の脳内で展開された作戦案の実現の障害となっている事項についての質問が飛んできた。
「…継続的に飛行場を使用不能にするにはモレスビーの滑走路を継続的…そうだな…航空機発進不可能な夜間に攻撃。敵の制空権を奪った後、日中は友軍の航空戦力で飛行場を攻撃し続ければ、鉄路側は「攻撃側」にならない。問題は奇襲の方法だ。カギからの距離は結構あるから、歩兵進出は相手に感づかれる。となると、重砲しか攻撃手段はあり得ん。だが、ニューギニア鉄路は、歩兵とその支援火器、補給物資しか届けられん。鉄路に重砲を運搬するだけの能力はない。鉄路によらず、人力で重砲を輸送するというのは考えられんな…」
辻中佐の言に私は狂喜した。見えた!何だか生き残る術が見えた
「重砲の運搬は不可能ではないと考えます。確かに大ドカの運搬量は1.5トンですが、3条のレールは5トンにまで耐えられるように敷設されたとのことです。中佐殿。列車の重連運転をご存じですか?」
「おい!重砲が何とかなるのか?」
「運搬不可能と敵が思い込んでいる重砲を、山脈越えでポートモレスビーの飛行場を射程圏に納める場所まで進出させる。中佐殿のいう「奇襲」の要件を完全に満たしているのではないですか?」
「うむ。確かに!航空機発進直前一撃を加え、滑走路と航空機を使用不能にする。その後、航空機が飛び上がれない飛行場を陸海軍の航空部隊が徹底的に破壊。戦艦部隊の艦砲射撃の障害を排除。航空隊が引き上げた夜間は、戦艦部隊が継続的に飛行場を射撃して滑走路の整備を妨害する。当然、脅威となる重砲への攻撃があるだろうが、その際は我々が守備側だ。相手の三分の一での兵力で持ちこたえられる。抵抗は戦艦部隊が射程距離に入るまででいい。そうなったらこっちの勝ちだ。うん。これならやれる! でだ…貴様、本当に主計か?」
「自分は、ニューギニア戦線の主計です。我々主計は必要な時に、必要なものを、必要なだけ手当する。それだけです」
いささか大風呂敷だが、まぁ、いいだろう。しれっと忘れていただければありがたい。
辻中佐は大喜びで鉄路で運び込まれる兵器の選択を始めた。玩具を与えられた子供の様である。
「十五糎加農が最適だが、あれは砲身だけでも7メートルある。重量は24トン。防盾を外しても輸送はできんな。そうなるとジッカ(九二式十糎加農)しかない。これを2~3門射程距離まで突出さる。後方に十五糎(九六式十五糎榴弾砲)を配置してジッカの後衛とすればいい。各地の部隊から重砲をかき集める必要がある。「土佐丸」の試作運荷艇を使えば問題ないだろうが、大層なことになる。連合艦隊に護衛を依頼することになりますがご協力いただけますか?」
辻中佐の言葉に、宇垣中将は無表情で頷いた。
「それじゃ、重砲の移動の手配と補給を確実にするための時間を稼ぐ手段もついでに考えておいてくれ。俺は宇垣中将殿と、作戦の策定に入る。おお、大友大尉。貴様も残って立案に加わってもかまわんぞ?貴様は参謀の素質がある」
「何度も言いますが、自分は主計です。そもそも自分は参謀教育など受けておりません」
陰謀の片棒を担がされてはかなわない。それに辻中佐が作戦の主導権を握ると言うことなら、責任はウチ(ニューギニア主計本部)には回ってこない。これで私の「仕事」は終わった。ケツ拭きなんぞまっぴらゴメンだ!
「はははっ。まぁいい。この作戦が成功したら貴様を野戦任官でなく、正式に大尉に昇格させてやる。そのときには参謀教育も受けさせてやるから楽しみにしておけ」
「いえ、断じてお断りさせていただきます!」
ここで黙っていた宇垣中将が口を開いた。
「陸軍が嫌か?ならば海軍はどうだ?主計でも参謀でも好きな職に就かせてやるぞ?中尉からの出発になるがな…」
「鉄仮面」が不気味に笑う。どうして、どうしてこうなった。




