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ポートモレスビー攻略戦(9)

ちょっと短いです。

 ラビ陥落の報はある意味「想定内の事項」として連合軍に伝えられる。

 理由はある。日本軍がニューギニア東海岸を手中にするためには、ラビは避けて通ることのできない戦略上の要所であり、「必ず」攻略するであろう場所と考えられていたからだ。

 そのため、連合軍のラビ防御戦は敵部隊にそれなりの出血を強いることに主眼を置き、最悪でも戦術的敗退、戦略的勝利を目指していた。

 戦略的勝利を呼び込むための手段が航空攻撃である。

「ラビから航空飽和攻撃で敵の艦隊及び上陸戦力に痛撃を与える。」

 これが作戦方針だ。そのため、「葬送航路」経由で多大な犠牲を払いながら、航空機と人員をラビに送り込んでいた。

 大量の航空機がラビに配備された時点で、連合軍の戦略目的は半ば達成された。もはや遺物となりつつある戦艦部隊。軽空母2隻と「土佐丸」1隻の合計3隻程度の航空戦力。例え、ニューギニア東岸の日本軍の基地航空隊の支援があったとしても、タンブル、ガーネイの両飛行場を埋め尽くした連合軍側が圧倒的に有利である。

 シミュレーションでは、日本軍は軽空母1隻と「トサマル」、戦艦2隻を喪失。残りの戦艦も中破、上陸部隊は全て鮫のエサになっているはずだった。特に軽空母とは言え航空母艦1隻と、そして憎き「トサマル」の撃破はここのところ(太平洋においても、大西洋においても)連戦連敗が続いている連合軍にとって、久々の明るいニュースになるはずであった。敵戦艦部隊が山脈越えの艦砲射撃という奇策を採らない限り…。


 多数の犠牲を払ってラビに輸送した航空戦力に加え、オーストラリア本土、ポートモレスビーから乾坤一擲の作戦に集結していた航空戦力は、払暁を待たず、敵に有効な打撃を与えることなくスクラップと化してしまった。



「タンブル、ガーネイ飛行場が山脈越えの砲撃を受けつつあり!」



 悲鳴のような報告と、日本軍の航空機からの(暢気な)着弾観測の音声通信に、戦艦の主砲の射程距離とその到達高度を思い出した将官は、自分達の迂闊さに真っ青になったが、何もすることはできなかった。

 そもそも、戦艦の主砲の射程距離、主砲弾の到達高度はアナポリスの学生、いや、帝国においては一般の「軍国少年」と称される所謂「ヲタク」でも普通に知っている知識なのだが、これを迫撃、それも山脈越えの間接照準で使用するとは考えつかなかったようだ。

 日本海軍(宇垣少将)がこれを思いついたのは、ひとえに日本海軍、いや、日本軍の「先例主義」によるものである。よく言えば「温故知新」。悪く言えば「お役所仕事」だ。

 彼の提案した「山脈越えの間接照準射撃」は、日露戦争当時、陸に上がった海軍重砲部隊が祝砲にかこつけて、実弾を盲撃ちしたという事例と、203高地からの着弾観測に従って旅順港内を艦砲射撃をかけたという事例によるものである。

 宇垣少将の突飛とも言える発案が比較的容易に受け入れられたのは、このような先例があったのと、彼が根っからの「大砲屋」であるという自負に加え、日露戦争、203高地という勝利の味を司令部が無意識に思い出したからかもしれない。

 連合軍は数十秒毎に発生する鉄の暴力になすすべもない。戦艦部隊の攻撃元は日本軍の勢力下のソロモンであり、これに対応する戦力はラビの航空機と沿岸に配置されたPTボートくらいしかない。だが、夜間は航空機の営業時間外だ。



「ラビを救え!」



 独断で出撃したPTボートも少なからずあったようだが、もはや時代遅れと称されたケースメイト式の戦艦副砲群の火線の前に近寄ることすらできずに波間に消えることになる。

 悲鳴のようなラビからの通信と、暢気な日本語の音声放送(着弾観測らしい。連合軍の司令部で同時通訳を行っていた兵士は悔し涙を流していたそうな)が流れてから数時間後。日の出とともに強行偵察に向かった連合軍の偵察機からの報告、「ラビは地獄のごとし」に、太平洋艦隊司令部は通夜のような状況になっていた。

 上陸部隊はミルン湾口には達していないが、ラビの陥落は確実なものになった。それだけではない。航空機はいうに及ばず、それを操縦するパイロット、整備を行う整備員の喪失。連合軍は金銭では賄えない貴重な資産を失ってしまった。

 ハワイの太平洋艦隊司令部に電送されてきた粒子の荒いラビ基地の写真は、敵上陸部隊を迎え撃つだけの陸上戦力が残されているようにはとても見えなかった。



「ヤツらは堅実に、そして、奇策を以てニューギニアを攻略している。ラビでの損失でポートモレスビーの防衛は難しくなってきている。が、モレスビーを攻略するにはソロモンから珊瑚海を抜けなければならない。ここはまだ我々の庭だ。モレスビーとクックタウンを結ぶラインで我々はヤツらを迎撃。時間を稼ぐしかない。小規模でも勝利を積み重ねてゆけば、物量で勝る我々に負けはない。最後に笑うのは我々だ」



 通夜のようになった太平洋艦隊司令部の幕僚を奮起させるべく、スプルーアンス長官は発破をかけるが、それをあざ笑うかのように、伝令が飛び込んできた。



「ジャップがケアンズを攻撃中です!」

「なんだって!」



 ある意味、当然だろう。十分な補給と十分な休養、訓練を終えた帝国最強の航空艦隊(というか、米軍の航空艦隊は絶賛再編成中であるので、世界最強でもかまわないだろう)第一航空艦隊は、その全力をもって、オーストラリア東岸の軍事要所、ケアンズを叩いたのだ。


太平洋艦隊司令長官名を修正しました。ヤバイ…

チェスター・ニミッツ大将の出番はあり得ると思います。更迭(左遷)時にいろいろ批判もした(ことになっている)ので…


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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字報告 日本軍の「先例主義」によるもおである。
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