閑話 -泥棒陣内(10)-
サブタイトル、変更しました。
-ラビ ガーネイ飛行場-
「ここはどこ…?」
ラビ。ガーネイ飛行場「だった」土地。「補給調査」の名目でFi156、通称「オタク号」で降り立った私の口からは、正直な言葉が出る。
戦艦部隊の山脈越え砲撃による鉄の暴力は、上陸部隊攻撃のため結集していた航空機だったものを奇妙なオブジェに変えてしまっている。痘痕のようにあちこちに点在する着弾後の摺鉢状の穴とともに、ここが元飛行場だと気がつく人間なぞいないだろう。近辺に異臭を放ちながら存在を主張している人間「だったもの」については言及しない。うん。言及したくない…。
私をここ(ラビ)に運んできたFi156(本作戦中は「ニューギニア主計本部専属となっている)は舶来品だけあって、凄まじい性能を発揮する。何せ離着陸に50m程度しか必要としない。そのため突貫作業で作り上げた100m程の架設滑走路に着陸し、補給調査と、上陸部隊の給食に駆り出されている。給食はよいとして、私はこれがよいのか悪いのか…。
一介の大尉(それも野戦昇進)である私は「ニューギニア主計本部」の責任者らしい。それならば、建前だとしても責任者を最前線に送り出すのはいかがなものかと思うのだ。
「いやぁ~、すっげいですねぇ~戦艦の艦砲射撃って…これを見たら陸軍の重砲部隊なんてやる気をなくしますよ。しっかし…怖かったろうなぁ~」
溶け落ちた軽金属の破片を足先で突っつきながら、通信要員として同行している御宅曹長が感想を述べた。陽気を装っているが、声が震えている…かなり無理をしているはずだ。何せ「人間だったもの」があちこちに転がっているのだ…。
「ここ」は滑走路のど真ん中だ。いや、だったはずなのだが、起伏の激しい里山の入り口のような地形になっている。(当然、草木は全く生えていない)
戦艦5隻による砲撃はそれだけ激しかったと言うことだろう。大口径の砲弾が反撃の余地なしで夜通し、絶え間なく降り注ぐ。そんな状況に耐えることができる人間はそう多くはなかろう。
それが証拠に、我が軍の上陸に対して、敵はほとんど抵抗らしい抵抗を行わず降伏した。(降伏した者も、抵抗した者も非常に少なかったと聞いているが…)まぁ、完全にやる気をなくしていたのだろう。過剰だと思われるほどの砲弾を叩き込んだ甲斐があったと思う。うん。どう考えても過剰なのだが、これは、海軍の「大砲屋(宇垣少将から教わった)」の鬱憤晴らしらしい。大砲の命数と砲弾の消費量、それの補給が大変だとは思うが、兵隊が死ぬよりは遙かにマシだ。
我が陸軍では「兵隊の命は一銭五厘」と標榜しているが、冗談ではない。その「一銭五厘」が1人死ぬだけで、戦死者広報への掲載、遺族への年金の支払い等、多額の「死に金」を支出する事になる。そこらへんを新兵教育にあたる古参兵は理解していない。
「人は城、人は石垣、人は堀」
と武田信玄は言ったらしいが、それは「人を石垣にしろ」と言ったのではないのだ…。
その点でいうと、ラビ攻略は大成功と言うべきだろう。例え、占領地が地獄のような風景になっていたとしても…。
調査の結果(というか、一目でわかる)ラビは前線基地としての機能を完全に喪失したと判定された。
戦艦部隊、上陸部隊。なぜか破格の懸賞金までかけられている「土佐丸」を攻撃すべく、オーストラリア大陸と、ポートモレスビーから飛び立った戦闘機、爆撃機が大挙ここに集結していたらしい。ここに山脈越えの艦砲射撃が集中したから、たまったものではない。連合艦隊戦艦部隊の砲弾は、ラビの航空戦力に加え、この地域の敵航空機の数を大きく削ることに成功したのだ。
当然、復讐に燃えてオーストラリア本土、ポートモレスビーから航空機による攻撃が散発的に敢行されてはいるもの、これらは、戦艦部隊に同伴した軽空母と、我らが「土佐丸」航空隊、ニューギニア東岸の基地航空機により大半が阻止されている。
何せ、敵の「綺麗どころ」は(搭乗員も含め)軒並み戦艦の砲撃で地上で破壊されている。出撃してくる敵航空部隊はいわば「残りカス」だ。練度はそうそう高くはない。
復讐に燃えるのは結構だが、精神力だけでは戦争はできない。
かくして、これらの航空機も、陸海軍の航空部隊の戦果を上げることに協力するだけになりつつある。
聞くところによると、爆撃を受けた戦艦もあったらしいが、戦艦は、爆弾を数発喰らったからといって、沈むようなものではないらしい。
「こりゃ、駄目だな…。ここ(ガーネイ飛行場)を復旧するだけの資材がない。輸送手段もない。放置だな」
「放置…ですか?もったいないなぁ~」
私のつぶやきに、御宅曹長が不満を述べた。理解はできる。何せ尋常でない量の砲弾を叩き込んでいるのだ。それに音声実況した手前、占領した敵基地を放棄と言うのは納得できないものがあるのだろう。重ねて言う。理解はできる。だが、戦争とは情で行うものではない。戦争とは算盤ずくで行うのだ。(ここだけの話。算盤ずくという点では我が帝国は既に負け戦である)
「山脈を越えての補給路はない。海岸沿いだととんでもない距離になる。海上輸送は現在の状況ではラビに補給を行うだけの余力がない。考えてみろ?ニューギニア東岸の我が軍の航空基地が機能しているのはスタンレー山脈が天然の防壁になってるからだぞ?その防壁の外に拠点を作ったら、早晩撃破されるに決まっている。ここには抑止力になる程度の戦力を置いて、我々の次の目標に向け、戦力を集中した方がいい」
私の意見は、「ニューギニア主計本部」の意見として陸軍のみならず、連合艦隊司令部にも届けられたらしい。
占領地を放棄するという、(帝国陸海軍の)常識では考えられない意見であったが、なぜかこれがあっさりと了承された。(連合艦隊司令部に私が直接説明に行く羽目になったが)
連合艦隊総旗艦「武蔵」(巨艦らしいが、「土佐丸」を見慣れているのでそうは思わなかった)の会議室での私の説明に対し、宇垣参謀長は終始好意的で、山本大将も異論を述べることはなかった。うん、陸軍もこうだと非常に助かる…。
ミルン湾には、海軍が抑止力となる戦力を海上に配置するという言質を取った。当然、これに対する補給は「ニューギニア主計本部」の仕事になるが、陸上基地の維持よりもはるかに経済的だ。乗らない手はない。
かくして、我が軍はニューギニア西岸進出の障害を取り除くことに成功した。次の目標はポートモレスビーである。私は輸送資材の内訳と、輸送船舶の割り当てをあれこれ考えながら「武蔵」を辞した。
「人間、化けるもんだな…頼りない部分もあったんだが…」
「同感です。修羅場は人を育てるのでしょう。ニューギニア戦線の補給。彼にとっての修羅場は我々には容易に想像できませんが」
連合艦隊司令長官、山本大将の言葉に宇垣総参謀長が答える。思いっきり大砲が撃てたので、大変機嫌が良いらしい。
「勝ち馬には乗るべきだな。陸軍の今士元殿の要望に我が連合艦隊は応えてやりたいのだが、ミルン湾に配置すべき戦力のアテはあるのかな?」
山本長官の言葉に、宇垣参謀長は笑顔(=レア)で答えた。
「ええ、適任の兵力があります。早速配置しましょう」
かくして、ツラギから移動中の戦艦「扶桑」「山城」は急遽目的地を変更。ミルン湾に陣取り、連合軍の艦船に睨みを効かすことになった。
どうしてこうなった…。
砲門数。隻数等、ご指摘をいただいたいます。きっちりまとめて修正しますので、しばらくご勘弁ください。




