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閑話 -泥棒陣内(9)-

-ラビ上空-



「前も見てろよ!俺は山にぶつかって死にたくない」

「山脈は越えてますから大丈夫ですよ。それよりも射線に入らないようにしてください。ほぼ垂直に降ってきますよ。味方の射撃で撃墜されるなんて最悪な死に方はしたくありません。うぉ…滑走路上は飛行機だらけだ…夜明けに出撃するつもりなんでしょうけど灯火管制くらいはしないと駄目だよなぁ~おお、爆弾運んでるや…こりゃ砲弾が落ちたらおおごとだ」


 座席に強引に搭載した「別製夜間哨戒器」を覗き込みながら、何を喰っているのか?戦場にはあるまじき体型の下士官が感心したように偵察の結果を操縦士に伝える。時刻は深夜。航空機はとっくに「おやすみ」の時間である。



「便利だな…その夜間哨戒器って…」

「蓄電池が重いのと、哨戒距離が短いのが難点ですね。軍艦用の探照灯使ったとしても3000メートル先までしか見えないそうですよ。戦闘機だったら3秒先の様子しか判りませんね」

「だから「オタク号」か…コイツは恐ろしく遅いからな…」



 ノロノロと飛行する、ニューギニア戦線主計本部所属のFi156。通称「オタク号」は、真夜中にもかかわらず敵基地の至近を飛行している。通常であれば(それなりに)激しい対空砲火、戦闘機のお迎えがあるはずなのだが、今の米軍に夜間出撃が可能な戦闘機および夜間出撃が可能な技量を持つパイロットがいないこと、滑走路は明朝の出撃に備えそれどころではないことから、止まっている様な速度のFi156は意図的に無視されている。

 混雑気味の滑走路を無理矢理空けて、迎撃機を飛ばしたくないのだ。何せ戦闘機は「速い」。低速のFi156を撃墜しようとするならば、速度を活かして攻撃するしかないのだが、山肌ぎりぎりを飛行するFi156に近づこうとすると、山肌と仲良くなる可能性が高い。それを知ってか知らずか…Fi156は暢気に飛行を続けていた。



「大型の爆撃機にはいずれ標準装備されるんじゃないでしょうか…これなら真夜中に爆撃できますから…」

「真夜中に爆撃?俺は、そうまでして(戦争は)したくないな。夜は寝るものだと思ってる」

「同感です。さて、間もなく砲撃開始時間です。もう少し山肌に沿ってください。え~左旋回90度。4秒後に右旋回90度で」

「了解。旋回90度…3、2、1…右旋回…」

「そのまま直進願います」

「直進了解!」


「…射撃開始時刻になりました。間もなく飛んでくる…きたー!」


 武蔵、長門、陸奥、伊勢、日向の5隻による46センチ9門、40センチ16門、36センチ24門の対地砲撃が開始された。



「射線観測!こっち(飛行)は心配するな!御宅(みやけ)。着弾観測開始だ!」

「了解!ぽちっとな…」


「あーあー、大日本帝国陸海軍の皆様。ご機嫌いかがですか?こちらは、ニューギニア主計本部ラビ基地上空!私は、我が軍の艦砲射撃を実況生中継でお送りしております!現在の状況は、戦艦部隊の第1斉射が敵基地真上どんぴしゃりで炸裂!滑走路脇で出撃準備中の敵航空機がボロ布の様に炎上中であります。タンブル、ガーネイの敵飛行場は火の海です!」



「ニューギニア主計本部」臨時所属の凄腕通信士、御宅曹長は、短期間ででっち上げられた電子機器のスイッチを入れると、これも自作品らしいスロートマイクの位置を直し、陽気な声で(こともあろうに)着弾観測を「音声」で実況し始めたのだ…。


…どうしてこうなった…

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