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-閑話- 陸軍ニューギニア戦線主計部の野望

「どうしてこうなった」の理由付けです。

「で、何を海軍サンに突きつけるんですか?大尉殿?」


 連合艦隊主計担当との協議後、最先任の陣内少尉候補者(昇進した)がニヤニヤ笑いで私に質問してきた。言質は取った。あとは先方が「呑みやすい」条件を探すだけだ。

 帝国陸軍の劇薬二瓶をダシに、陸海軍でも1、2を争う大型艦(らしい。御宅から聞いた)「土佐丸」を手中に収め、ニューギニア戦線全般の補給任務を委任された新設部隊「陸軍ニューギニア戦線主計部」の実働トップ(名目上のトップは堀井少将だが、これは名簿の欄を埋めるだけの方便にしか過ぎないらしい)になってしまった私は、「特権」を乱用し、自分の周囲を固めさせてもらった。

 優秀な部員が居ないと、広大なニューギニア戦線の補給の的確化なんぞ夢のまた夢だからだ。


「海軍に輸送船を回せとか、輸送船を護衛しろと頼むのは無理だろうね」


「まぁ、そうでしょう。輸送船が足りないんで、こっち(陸軍)に泣きついてきてるんですから」


 物資の融通は「それなり」の事をラエの海軍と行っている。わざわざ上位組織を突っついてやぶ蛇(=無断で物資融通しているのが判明する)になるのは下策だ。恐らく連合艦隊も「その程度」の事は把握していて黙認しているだろう。


「航空部隊の前線への派遣とか、軍艦による支援とか、書類と戦っている俺達には縁遠い話だ。ニューギニアに展開する全部隊で海軍の支援けが必要な所ってあるのかな?」


「さしあたって東端のラビですね。本当はポートモレスビー一択なんですが。あそこに連合艦隊の全兵力を突っ込めば、ニューギニアは陥ちたも同然です」


「陸海軍にかなりの損害が出る。だから陸海軍とも本丸になだれ込むような真似をしていない。攻撃の前線としてラビを確保しようとしているけど、敵も黙ってはいないみたいだしね。御宅、15連隊の補給と、ブナ方面の戦況はどうなってる?」


 「兼務」という形で強引に戦線主計部に借り受けた御宅曹長に情報の確認を行う。通信実技と通信機の整備に高い評価があったのが直接の理由だったのだが、情報分析に長けていることがわかった。あと、「趣味」と称して陸海軍に加え、枢軸軍、連合軍の兵器の諸元にも詳しい。私にとっては「異能」としか言いようがない能力を持っている。

 当番外の時間でもレシーバーを耳に、輸入品らしい「ジェーン海軍年鑑」をニヤニヤしながら読んでいる御宅の姿は限りなく怪しいのだ。しかし、実力は十二分だ。要は私が「上手く使ってやれば」いいだけだ。

 私の質問に、御宅は嬉しそうに友軍の戦況と、独自分析を述べる(この独自分析が通信班の士官には理解されなかったらしい)。


「ココダの飛行場が確保されましたので、15連隊への空輸は順調です。大型機を使用することができるようになったのが大きいですね。ココダから先は「オタク号」で食料、弾薬の空輸をしています。向こうも慣れたもので、おかずの献立の要求をしてくるようになりました。ブナは…物資よりも航空支援要請が主です。補給要請を行う余裕がないのでしょう」


「重火器装備してないからね。厳しい戦闘になるな…ウチ(ラエ)の航空支援はどうなってる?」


「全力稼働中ですが、なかなかうまく行かないようです。敵飛行場に爆弾を落としても短時間で修復されてしまうそうですからね」


 頭の中が一瞬光った。


「飛行場ね…。ああ、ちょっと堀井少将に意見具申してくる」



 笑顔を浮かべて、私は堀井少将の元に向かうため戦線主計部を後にした。戦線主計部の面々が硬直していたのはなぜだかよく分からなかったが…。




「海軍の協力を得られるのか!」


 戦線主計部の責任者、堀井少将は身を乗り出してきた。うん、ツカミは十分だ。


「「土佐丸」の物資が前提です。現在輸送中の石油の2/3を海軍に提供する必要があります。また、次回の「土佐丸」の石油輸送が3週間遅れることになります」


「ラエーボルネオ間が2週間だから1週間合わんな…でどんな手管を使うんだ」


「海軍に「石油を融通する。ただしここ(ラエ)まで取りに来て欲しい」と申し入れるのです。向こうには十分なタンカーがありませんから、無理だと言って来るでしょう。トラックのタンカーは全力稼働中らしいので」


「恨みを買いそうだな。が、貴様の事だ。良からぬ事を考えているんだろ?」


「タンカーの代わりに戦艦を派遣すればいいと言います。大型艦は積載量も多いので往復の燃料を差し引いても、ある程度の備蓄ができるはずです。海軍は嫌とは言えないでしょう。ただし、彼らの面子もありますから、「今回に限って」という条件を付ければ問題ないでしょう」


「なるほど。で、「ついで」に艦砲射撃を頼むわけだな」


「ええ、ラビ攻略には海軍陸戦隊も加わってます。目の前で友軍が苦戦しているのに知らんぷりする程彼ら(海軍)は冷淡じゃないと思います。いや、思いたいですね。これに加えて、珊瑚海に展開中の潜水艦隊群への補給も「土佐丸」が担当します」


「大盤振る舞いだな。しかし、我々の利益が少な過ぎるんじゃないかな?」


「「前例」ですよ。今回の大判振る舞いは「前例」を作ることにあります。幸い、我が軍は今のところ優勢に事を進めています。ニューギニア戦線の最終目標であるポートモレスビー攻略に手札は1枚でも多い方がいいと思われませんか?」


「大友大尉。貴様は参謀の素質があるな。当然「謀略」の方だが」


「ははは…そんな事ありませんよ…。私は一介の主計官ですから…」


 と、爽やかな笑顔で応じた私に、堀井少将は微妙な表情を見せ、曖昧な笑顔で応じた。


 後に陣内先任と御宅から指摘されたが、私の「笑顔」は、第三者から見た場合、「暗黒の笑顔」に見えるらしい。気をつけなければならんな…。



 数日後、新規配備された高司偵でトラックに飛んだ私(直接話してこいと堀井少将に言われた。御宅は羨ましがっていたが)が海軍に申し入れた内容、


「潜水艦への補給は引き受けます。あと、重油をラエ、あるいはサラゴアにて海軍に供給します。ガソリンも余剰があれば供給しましょう」


 に海軍担当者は狂喜していた。

 馬鹿め…美味い話には裏があるんだぞ…私は海軍担当者に見られないよう、顔を下げ、机の表面にのみ笑顔を見せた。


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