ポートモレスビー攻略戦(3)
時系列精査「ブナ」→「ラビ」に変更しました。
ソロモン乱戦の勝利で時間的な余裕ができた日本海軍軍令部は、ポートモレスビー攻略に向けて連合軍の戦力を削ぐため、戦力増強の妨害を行っていた。具体的には基地航空機、軽空母の艦載機による船団攻撃である。これに加え、ありったけの潜水艦をかき集めて珊瑚海に投入する。
この結果、オーストラリア-ポートモレスビーの航路は「葬送航路(Funeral Procession Line)」と呼ばれるまでになり、ポートモレスビーへの海路の補給は事実上不可能なレベルにまで落ち込んでいる。
あまりの損害に、オーストラリア国内には「中立宣言を行うべき」という非戦派(厭戦派)の声が日増しに高まりつつあった。
ヨーロッパ、太平洋で手酷くやられた米軍、戦果らしい戦果を上げることができない宗主国の英国に対し、
「俺達は、アイツら(英米)にそこまでの義理はない。付き合って大ヤケドするのは勘弁!火の粉は珊瑚海から本土に飛んでこようとしているじゃないか!」
という、ぶっちゃけ「死にたくねー」の大合唱である。
オーストラリア政府はこれへの対応に苦慮しており、「万一の場合」を想定して中立国経由で日本に接触しはじめていた。まぁ、外交の基本だ。
通常なら英米からかなりの圧力があるはずなのだが、ボロ負けして「後退」(日本では「転進」と言う。正直な分好感が持てる)している米軍、体調不良が伝えられるルーズベルト、最近喫煙量が右肩上がりに増加しているチャーチルでは、オーストラリアを押さえつけることは難しかった。
いわゆる「大日本帝国万歳!」な状況なのだが、当事者の大日本帝国も台所事情は非常に苦しかった。
珊瑚海には、
伊1、伊2、伊4、伊6、伊7、伊9、伊11、伊152(練習艦)
伊153、伊154、伊155、伊158、伊165
に加え、
呂26、27、28(練習艦)、呂31、呂33、呂34、呂58、呂59
と、練習艦扱いの中型潜水艦までも投入。それでも足りないと、日本に到着したばかりのU-511(Uボート)をドイツ人乗組員とともに投入して、一大補給路破壊作戦を展開ていた。
つまり、これらの潜水艦に補給をしなければならない。人間、メシがなければ生きて行けないのだ。
長大な航続距離を誇る伊号潜水艦は、自力で補給拠点に戻ることができるが、小型の呂号潜水艦では燃料切れになる可能性がある。本来なら、全艦を戦場から引き上げさせ、補給と休養を取らせたい。が、連日の通商破壊で戦局は日本軍に有利になりつつある。おまけに外務省から、
「もうひと押しでオーストラリアは陥ちる。手を緩めず頑張って欲しい」
と、督戦すら懇願された。潜水艦の乗務員に対してはかなり非道な命令だが、このまま通商破壊作戦を継続させるしかない。が、敵にぶつける弾(魚雷)がなければ戦闘にはならない。
洋上補給が最適解なのだが、補給任務に充てるフネが全く足りていない。大型の潜水母艦は空母に転用されてしまっており、当時、補給任務に従事できるフネは、「迅鯨」、「長鯨」の潜水母艦2隻と「靖国丸」、「りおでじゃねろ丸」、「平安丸」の特設潜水母艦の合計5隻。しかも「長鯨」は潜水学校の練習艦になっており、「靖国丸」は内地で輸送任務の準備中。補給任務に当たれる艦船は3隻しかなかった。
これに対して、補給を行う潜水艦は大小合わせて20隻を越える。全艦の洋上補給を3隻で担当するのはどう考えても無理である。
あぶれたフネは陸上(港)で補給を受けるしかない。この時期、陸軍は海軍陸戦隊(「土佐丸」乗船部隊)と共同で、ラビの攻略準備を進めており、近日中にラビは日本軍の前線基地として稼働する予定であるが、あくまでも予定である。そうなると補給は後方のブナ、ラエに限られる。が、ブナにせよ、ラエせよ戦場(珊瑚海)からは遠すぎる。補給の間、戦線に空白が空いてしまうのだ。
ポートモレスビー補給線の通商破壊作戦任務に従事する潜水艦からの定時連絡に登場する一文、
「魚雷射耗シツツアリ」「補給タノム」
に連合艦隊司令部は苦悩していた。
「洋上補給できる艦船はないのか!」
「こんなことだったら、大鯨、高崎を空母に改装するんじゃなかった!」
とグチが出るが、大鯨(龍鳳)、高崎(瑞鳳)は珊瑚海で任務に当たっているのだから、そもそもお門違いだ。
とにかく、補給である。海軍の補給担当者はラエに飛び、陸軍と港湾設備使用の調整に入る。
「空母に潜水母艦を改装したので数がない。ラエで補給をさせたいので、港湾設備使用に融通を利かせて欲しい」
と低姿勢で頼み込んだのだ。この時期、ニューギニアには「陸軍ニューギニア戦線主計部」というニューギニア全土の補給を賄う部署が臨時に設立されており、現地の海軍部隊との関係も良好で「話せばわかる」という希望を連合艦隊司令部が抱いていたのだろう。
ここで、主計部の某大尉から、
「元潜水母艦の空母はなぜ、補給に使えないのですか?」
という質問が出てきた。通常の陸軍とのやりとりならば、
「だが、断る」
なので、脈ありと見たのだろう。海軍主計担当は、潜水艦への補給の難しさを簡単に説明した。曰く、
「潜水艦は海中を航行するから、基本、乾舷が低く作られてる。補給を容易にするため、潜水母艦は航行に支障が無い程度にまで乾舷を低く建造する。舷側が高いと海上のうねりでクレーンが動揺して、なかなか物資の搬入ができない。反対に、空母は喫水線上に格納庫を設けているので乾舷が高い。仮に空母から補給をしようとすると、物資は飛行甲板からクレーンでつり下げることになる。二階から目薬並に難しい。で、そんな都合のいいフネが全くない。で、港で補給せざるを得ない」
である。
これに対して、主計担当の大尉はしばらく考え込むと、「条件次第では、潜水艦への洋上補給に陸軍の艦船を充てるができるかも知れません」と答えた。
想定外の回答に「そんなフネがあるのか!」と驚いて問い返すと、陸軍大尉は、
「陸軍の「土佐丸」なら可能でしょう。「土佐丸」の舷側エレベーターは設計上、喫水線まで下ろすことができます。物資搬入も楽ですし、「加賀」よりも大型ですから潜水艦なら5~6隻分の補給は可能でしょう。それと、味方の勢力圏内であれば航空機と対潜装備もありますし、喫水線上は装甲されていますから、駆逐艦程度の砲撃には耐えられるそうですから適任じゃないでしょうか?もちろん、それなりの融通は利かせていただきますが?」
と答えた。海軍主計担当は狂喜し、「よろしく頼む!海軍はできるだけのことはする」と頭を下げた。この時、大尉を除く陸軍主計関係者の顔に黒い笑みが浮かんだのだが、頭を下げていた海軍主計担当者には、それを伺うことは物理的に不可能だった。
今度は海軍が「どうしてこうなった」とつぶやく番の様です。
うまい話には裏がある。さぁ、どんな裏なのか…




