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閑話2 -別府造船装備品開発室物語その1.5-(別製夜間哨戒器)

「今度は海軍ですか」


「ご丁寧に、日商を経由してきやがった。絶対陸軍から情報が流れてる。高畑(日商)さんももうちょっと考えて欲しいなぁ~」


「有用な装備を早く、安く開発したんですから海軍だって注目しますよ。非正規ではありますが、対潜水艦曲射砲架は駆逐艦にも搭載されているそうですよ?で、何かあるんですか?」


「ないよ!そもそも、『夜間ノ作戦行動ヲ容易ニスル装備ヲ開発セヨ』だぞ?要は電探作れってことだ。アイツら(海軍)、自分トコで予算が出ないからこっちに押しつけやがった。開発費はこっち(別府造船)持ちだぞ?そんなモン研究してたら会社が傾く」


「じゃぁ、辞退しますか?」


「できるならやりたい。が、アイツら(海軍)の事だ、辞退したが最後だ。次からは入札にすら呼んでくれなくなる。海軍のフネの整備とか修理はウチにとって無視できない」


「何とかするしかないんですね」


「そうだ。やるしかない。駄菓子菓子!電探開発は無理!絶対無理!そもそも国産電機部品なんぞ使い物ならん。部品が悪いから稼働率が低い。特に真空管なんかは惨憺たるもんだ。知ってるか?「土佐丸」の電探は鹵獲した米国製だが、交換した国産部品がさっぱりで、動作している時間より調整してる時間の方が長いらしいぞ?どうすんだよ!宮部ぇ~電探以外で何かない?」


「私は造船が専門ですよ?夜目が利くような機械なんて造船屋には作れませんよ」


「だよなぁ~。ウチは造船所なんだよね。まったく…夜目が利く犬猫とかを載せるってのは…ダメだろうなぁ~」


「ダメでしょうね。細かい意思疎通ができない動物を兵器として活用するのは無理ですよ。狼男とか、吸血鬼とか、意思疎通ができそうな妖怪が西洋にならいるかもしれませんけど」


「妖怪ねぇ~。国産だって結構多いぞ?ぬらりひょんとか雪女とか。まぁ、見たことないけど。いや、貧乏神様は見たかもしれない。まぁ、リアル世界じゃ「妖怪」なんて呼ばれてるヤツ(ジジイ)らにロクなのはいないからね。うん、国産はダメだね。(日本の妖怪なんて)ぱっとせん。それに比べると、狼男とか吸血鬼とかカッコイイよなあぁ…ん…?吸血鬼?ヴァンパイア?おい!宮部!」


「はい」


「ちょっとコイツを見てくれよ。要求は『夜間ノ作戦行動ヲ容易ニスル装備ヲ開発セヨ』で、電探とは一言も書いてないよな?」



 来島社長は宮部技師長に海軍の要求仕様書押しつけた。


「はぁ?拝見します…。確かに…電探とは書かれてませんね…」


「だよな?よし!もしかすると何とかなるかもしれん。ちょっと逝ってくるわ。おい、東京に出ることになるかも知れんから、予定のやりくりをしといてくれ」



 社長室の飾り(これが正しいあり方である)である、初老(=オバハン)の秘書にそう言い残すと、来島社長は部屋を飛び出していった。



「秘書室長。社長がガンガン動き回るから日程調整に万全を期してください。大きな取引になりそうですからね」


 宮部技師長は、隣室の秘書長に楽しそうに自分が仕える…なんで仕える様になったのかその理由が自分自身でもわからない、適当な言葉を探せば「なんでこうなった」としか言えない上司であり、扱いの難しい変人の扱いを依頼する。そう。「何ともならない。が、なぜか何とかなる」それが来島社長なのだ…。





-別府造船超技術研究所(略称:OTL)-



「と、いうことだ。よろしく頼む」


「何の事かわかりません!」



 別府造船のキワモノ開発は基本、別府造船超技術研究所で社長の訳の分からない一言から始まる。



「そのうち判るよ。簡単に言うとだな。海軍の夜間戦闘用索敵機材を作る」


「はぁ?何です?それ?」


「夜間の索敵装置って、電探じゃないんですか?」


「いい質問だ。確かに電探は有用だ。だが、今の国産部品じゃきっちり動く電探なんて夢のまた夢だ。99%の稼働率の部品を50個組み合わせて製品をつくると、完成時点での製品稼働率は60%になる。半分が使い物にならないってことだ。製品が90%以上の稼働率を得ようとすると、50個の部品からなる製品の場合、それぞれの部品の稼働率が99.99%を越えなきゃならん。でだ。稼働率99.9%を越える部品。特に電気関係の部品を日本で作れると思うか?稼働率が90%を越える電探が作れると思うか?電探なんて部品が500個じゃ済まないんだぞ?」


「…」


「よって部品点数が少ないモノを作る事は統計学上正しい。であるからして、別府造船は部品点数の少ない電探以外の夜間装備を作る」


「いや…電探しかないでしょ?天候に左右されずに使用できますし…」


「要求仕様書には『夜間ノ索敵手段ヲ構築セヨ』とだけある。天候については1文字も書かれてない。それにお手軽な夜間索敵手段を作ってしまったら、海軍の夜間見張員が失業するだろーが!俺達が作るのは『夜間見張員が失業せず、なおかつ稼働率の高く、部品点数が少ない電探以外の夜間装備』だ」


「無茶苦茶です!」


「アイデアはある。いいか?こっちから不可視光を照射して、跳ね返ってきた光を目視できる装置を作るんだ。電波を出す部分を作らなくていいから、電探より部品が少なくて済む。当然、安くなる。受光部は電気部品が必要になる。当然、稼働率は低いだろうが、交換が簡単なら稼働率は100%だ。まぁ、交換部品があればの話だけどね…イメージはこんなもんかな?」



 来島社長が黒板に向かい下手くそな絵を描き始めると、超技研の連中は食い入るように黒板を眺め、手元の書類に何やら書き込みを始めた。どうやら彼らの食指が動いた様である。



 こうして完成したのが別製夜間哨戒器である。

「できるだけ部品を少なく」というコンセプトで製作された哨戒器。その正体は、船舶の探照灯に赤外線フィルタを被せて不可視光(赤外線)を対象物に照射。その反射を望遠鏡で受光。光電子管フォトマルで増幅したものである。

 哨戒器本体は日本光学工業製12糎双眼望遠鏡夜間用(水雷用)の片側に光電子管受光部を突っ込んだもので、見た目は双眼鏡だが、実は単眼鏡という詐欺のような装置に仕上がった。キモの光電子管は5分程で交換できるようになっている。

 この光電子管。別府造船では完全に門外漢なので、「決して安くはない額」の開発費を、東京芝浦電気(現東芝)に提供。「アフォでも作れる(来島社長談)」光電子管の開発を依頼した。

 東京芝浦電気の西堀技術本部長らは、この無茶振りに良く応え、2ヶ月後には、量産先行試作品200本を別府造船に納入。別府造船は精力的な陸上の性能評価※の後、実戦評価のため、海軍でなく民間の輸送船に赤外線フィルタ付き110cm探照灯(複数)と共に搭載された。探照灯複数照射での判別性能は、3000mとまぁまぁの性能であった。

 電探と異なり、操作に習熟する必要があまりない(=直感的に操作できる)ため、専門の夜間見張員がいない民間船の見張員はこの新装備に大喜びであった。何せ悪天候でなければ「真昼のごとく」周囲が見渡せ、「どうせみえないだろう」と浮上して接近してくる潜水艦を素早く発見、対潜水艦曲射砲架から対潜水艦用迫撃砲弾を浴びせられるのだ。



 この効果は輸送船の船長から口コミで広まり、哨戒器の購入依頼が別府造船に殺到する。

 海軍でも積極的に導入しようとしていたのだが、駆逐艦の夜間専門見張員の反発が多く、発注数に対し、配備される艦船が少く、これに苦慮した海軍は民間輸送船に「順番を譲る」形で先に搭載されることになった。

 民間船では、まず、護衛のつかない独航の輸送船から搭載されはじめ、輸送船団を通じて護衛の駆逐艦に広まっていった。

 当初導入に否定的であった駆逐艦も、哨戒器は夜間見張員の補助と位置づけられたため「夜間見張員が失業する」事態は避けられ、逆に夜間視力の高くない航海士や艦長が積極的に使用する様になった。



 夜間哨戒器の噂を聞いた陸軍も夜戦(日本軍は基本、夜戦大好き軍隊である)用に採用しようとしたのだが、真空管用の高圧電源が必要なのと、光電子管が振動に弱いという構造的な欠点があるため、機動戦、夜戦(攻勢)での使用は見送られ、防御陣地に設置。

 敵偵察部隊、夜間攻撃部隊の殲滅、撃退に成功している。



「もう少し気合いを入れたら、探照灯なしでも見えるんじゃね?」との言葉で、東京芝浦電気も光電子管の更なる性能の向上に着手。終戦直前には月明かりだけでも300m先が判るまでに性能が向上していた。この技術が半世紀後、ニュートリノの観測成功に繋がったのは言うまでもない。


 別製夜間哨戒器は、扱いやすさと(電探と比較して)安価であったため、その性能が正当に評価されはじめると瞬く間に海軍のあらゆる艦艇に搭載されるようになった。

「夜間哨戒器よりもいいらしい」と、夜間哨戒の基準の装置となったことで、新機軸(電探)導入に対する忌避感を薄らげるのにも貢献したといえるだろう。(その電探は当初トホホなものだったらしいが)




※別府市内を望む山の中腹に設置。露天風呂を観測し、その性能を評価したという話がまことしやかに伝わっている。下半身が元気だと首から上も元気になるのだろうか?


本筋がなかなかなので、サブストーリーを投稿しました。日本の電探て「トホホ」だったんですが、これを代替できる機材があればどうなったのかなぁ~と妄想してみました。

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