閑話2 -別府造船装備品開発室物語その1(別製対潜水艦曲射砲架)
「ト」式を「別製」に変更しました。
強襲揚陸母艦「土佐丸」は、紆余曲折を経てニューギニア戦線専用補給艦※1となった。 これは、「帝国陸軍の劇薬」と言われた辻中佐と瀬島大尉の「二瓶」が、並々ならぬ意欲を見せて活動をした結果である。
しかしながら、彼らの努力も「土佐丸」をニューギニア戦線の専用補給艦として引き抜いたところまで。補助艦艇はもちろん、護衛の艦船までの確保は無理だった。
そのため「土佐丸」は、輸送任務を単独でこなすことを余儀なくされた。輸送船の不足に加え、巡航速度21ノットという快速が船団を組むための大きな障害になったのだ。
まぁ、単独航海が危険かというと、そうでもない。ソロモン乱戦で米海軍は派手に消耗し、当分の間、積極的な攻勢に出ることは難しかったらだ。日本軍はツラギを奪取し、米国本土からオーストラリアへの補給路の哨戒点を得ることに成功している。
ツラギ奪取により、米軍及びオーストラリア軍は、ソロモンでの大規模軍事行動を秘密裏にとることが難しい状況に陥っていた。
ソロモンの制海権、制空権は日本軍が握ったと考えて良いだろう。その自軍の勢力下での航行であるので、機動部隊を起点とした航空攻撃、水上艦艇による砲雷撃はほぼないと考えて良い。
仮にそれらの攻撃があったとしても、軽空母程度ではあるが自前の航空部隊を有し、また(行きだけではあるが)開放型格納庫内や大エレベータ上に重火器を展開し、駆逐艦程度であれば互角の砲戦を行う事ができる「土佐丸」にとっては、脅威とはなり得ない。
残るは潜水艦である。
「輸送船、油槽船、揚陸艦、空母」を1隻で賄う「土佐丸」であるが、さすがに潜水艦に対する対抗策はない。
対潜装備として、爆雷を搭載すること(後部デリックから簡単に放出できる)も考えられるのだが、連合艦隊総旗艦「大和」とほぼ同じサイズの「土佐丸」が駆逐艦レベルの機動を行う事は無理である。
ここで、陸海軍※2は
「潜水艦ヲ攻撃セシメル手段ヲ速ヤカニ開発スベシ」
との命令を、「土佐」の保守業務を行う日商に発した。
困ったのは日商である。経済の戦争は本業だが、リアル戦争は門外漢である。日商はこれを「土佐丸」改装を行った別府造船に丸投げする。
丸投げされた、別府造船来島社長は、
「全然カネにならんじゃないですか…」
とぼやきながらも、別府造船「超技研※3」に自らが描いたデッサンを提示し、開発指示を出す。彼らの仕事は早く、2日後には企画書が提出され、5日後には設計図が清書され、10日後には日商から陸軍上層部へのプレゼンテーションが行われ、先行試作品4セットが完成することになった。
やっつけ仕事の感があるが、こうして誕生したのが、
別製対潜水艦曲射砲架
である。
名称からわかるとおり、この「兵器」は、ただのラックである。
九七式曲射歩兵砲(海軍では三式八糎迫撃砲)を16門、固定設置するためだけのもので、製造そのものは未熟な工員でも可能になっている。※4
新規に開発されたのは対潜水艦用の迫撃砲弾のみであり、砲弾そのものも、信管の改造のみで、既存技術の寄せ集めであり、信頼性が高く、かつ安定して製造されるようになっている。
対潜水艦曲射砲架は16門の九七式曲射歩兵砲をわずかな時間を空けて次々と発射するためのもので、(見た目は全く異なるが)現在のヘッジホックの小型版である。特色は何と言っても「九七式曲射歩兵砲をそのまま転用し、また自由に取り外せる」ということである。
対潜水艦投射はある程度の散布界が必要である。そのため、砲架は、砲弾発射時に砲架中央を中心に、発射反動で散布界が広がるよう工夫されている。
発射(投射)はレバーで行われ、この時の音「ガチャ(レバーを引く音)」「ポン(発射音)」から対潜曲射砲とは呼ばれず「ガチャポン」と呼称されることが多かった。
当初は「土佐丸」専用の機材として使用されたが、門数を9に減らし、甲板上の移動を容易にした2型が制作され、門数不足は砲架の数を増やすことで対応した。
遠距離からの対潜攻撃の手段ということで、「別製」は「土佐丸」と行動を共にした海軍の駆逐艦乗り、護衛なしで敵潜水艦を撃退しなければならない輸送船から、配備の要望が出され、これを搭載した艦は敵潜水艦を多数血祭りにあげている。
別製対潜水艦曲射砲架諸元
種別: 砲架
九七式曲射歩兵砲×16(2号砲架は9)を収納する
緒元は九七式曲射歩兵砲に準ずる
弾薬: 81mm迫撃砲弾・装薬
砲弾: 一式対潜水艦榴弾※5
最大射程:3000m
※1 正確には、トラック島への燃料補給中継船としての任務もあった。
※2 ボルネオ(ブルネイ)から輸送してきた石油を海軍に渡すとの裏約定があったため、「土佐丸」については海軍もかなりの肩入れを行っていたと思われる。残念ながら公式文書が存在しないため、海軍の期待度は不明である。
※3 別府造船でも「特に変わった連中」を集めた「超技術研究所(Over Technology Labo 略称OTL)」のこと。来島社長も入り浸っており、怪しげな機構を次々に開発していたと言われる。研究開発に没頭するあまり、入浴もせず部屋の中が異様な臭いになっていたため、別名「スルメ部屋」と言われている。米国にも「スカンクワークス」という開発部署があるそうだが、恐らく同じような理由だろう。
※4 実際は別府造船の熟練工が担当したため、公差が非常に少ないものとなっている。そのため、散布界が狭まっており、2型を搭載した駆逐艦乗りからは「もっと大雑把にして欲しい」との要望が出た。
※5 通常榴弾を装填すれば、通常の迫撃砲として使用できる
読み手の期待を裏切るのが書き手の使命だと思っています。
そういう点では、まだまだなのかも知れません。




