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ポートモレスビー攻略戦(1)

「ボルネオ(ブルネイ)、サラゴアノ補給任務ニ従事セヨ」


 との命を受けた「土佐丸」は、積み荷を揚陸し、陸軍(元)ポートモレスビー攻略部隊と、海軍陸戦隊との別れを惜しんだ後(盛大な送別会が「土佐丸」艦内で開催された。後にサラゴアの関係者から「華美な催しは今後自粛願いたい」との苦情が来たそうな)、内地に向かう。

 ウェルドック内と規格型貨物庫(コンテナ庫)内に、真珠湾攻撃で使用されたコンテナ型タンクを搭載するためである。

 触雷時の被害さえ無視すれば、「土佐丸」は外装バルジに5000トンの重油を搭載することができる。これにウェルドック及び貨物庫への石油搭載を加えると、おおよそ1万8000トン弱。これは、戦艦4隻分強の満載燃料に相当する。

 これを21ノットの快速を利して、往復2週間でラエに石油を届けることができる。

 ボルネオは日本軍(陸軍)の勢力下で、普通であれば製油所から得られる石油が陸海軍に潤沢に供給されるはずなのだが、陸海軍の不仲のせいで、良質(=そのまま艦艇の燃料として使用可能なレベル)な原油が海軍に供給されない。

 面白くないのは海軍である。その結果、既得権を行使し意図的に陸軍への輸送船の割り当てを削るという、外部から見れば滑稽としか言いようのない状況が続いていた。

 ところが、ソロモン乱戦の後、陸軍が海軍に不可思議な譲歩を行う。曰く、


「原油をラエ、あるいはサラゴアにて海軍に供給する。ガソリンも余剰があれば供給する。ただし、輸送の面倒は見ない」


 である。ボルネオまで船舶を走らせる手間がなくなった!思いもかけない陸軍からの申し出に海軍は狂喜したが、ラエ(サラゴア)-トラック間の輸送に従事する船舶の手当がつかない。

 血の一滴を確保するため、海軍は船舶の確保に奔走しているのだが、綺麗どころは既に徴用済み。建造するにも、船舶は「朝出して夕方ばっちり」などのようにできるものではない。

 連合艦隊の主計担当者は、タンカーをトラック島まで運行して欲しいと陸軍に頼み込むのだが、陸軍もそれほど潤沢にフネがある訳ではない。

 困り切った連合艦隊主計に、陸軍サラゴア基地の主計大尉が意外な解決策を提案してきた。


「軍艦使えばいいじゃないですか?でっかいタンクがあるんでしょ?ギリギリの量で(ラエまで)来たら満タンにしますよ?」


 日本の軍艦はおおむね航続距離が長い。大型艦の場合、経済速度ならトラック-ラエ間はタンク1/3程度の消費であろう。大尉の出した条件、「軍艦の燃料タンクを満タンにしてやる」は魅力的だ。ラエまでタンク1/3以下で行けるのなら、タンク1/3が余剰分となり、その分、トラックに備蓄できる。

 ソロモン乱戦でトラックの燃料事情はかなり厳しい。油田からの輸送も大変である。何せボルネオ-トラックは遠い。タンカーの増強も望めない。

 陸軍主計大尉の出した案、「戦闘艦艇をタンカー代わりに使用する」のは悪くはない。

 叱責を覚悟で司令部に上奏すると、意外にも上層部が乗り気になる。ボルネオ島付近ならまだしも、ソロモン乱戦で確実に制海権を握ったソロモン-トラック間は危険が少なくなったからである。

 しかしながら、輸送に適したフネがない。(この場合の「輸送に適した」と言うのは、燃料タンクが大きく、また燃費の良い大型艦である)

 議論の末、輸送任務には戦艦が用いられることになった。選出されたのは、新鋭艦「武蔵」、「長門」「陸奥」「伊勢」「日向」、つまり、トラック島に駐留する全ての戦艦であった。

 当初、「扶桑」「山城」もこれに充てようとしたのだが、速度の問題があったのと、(意外だが)ツラギ方面で哨戒業務(=単なる嫌がらせ)でかなりの成果をあげており、輸送任務に引き抜くのは難しいと考えられた。

 特に、中破した「大和」と交替で連合艦隊総旗艦に就いたばかりの「武蔵」は「ちょうど良い」と判断されたようだ。総旗艦の「出撃」には反対する者もあったのだが、ここでも山本長官の


「「武蔵は」完熟訓練ということでニューギニア方面に行けばいい。その間、司令部は陸に上がっておくから心配するな。まぁ、ついでに石油を積んで帰ってくれれば嬉しいけどね」


 で、幕僚を丸め込む。さすが海軍随一と言われる軍政家だ。が、今度はこれを聞いた軍令部が大反対した。多大な費用をかけて建造した最新鋭戦艦の初陣が「石油の輸送任務」だ。理屈では分かっているのだが感情が許さない。

 かくして、軍令部と連合艦隊司令部との間で罵倒語オンパレードの暗号電文が飛び交った結果、本土-ボルネオ間の輸送に従事している船団からタンカー5隻が引き抜かれ、トラックに配属されることとなった。連合艦隊司令部の作戦勝ちである。が、「武蔵をタンカー代わりに使用する」という奇策が上申されなければ、ここまでの成果は上がらなかっただろう。

 一方、日本海軍の(罵倒)暗号電文を傍受していた太平洋艦隊暗号解読担当部門は、突然の通信量増加と、一部、どう評価して良いか判断に苦しむ平文の電文


「ヲトトイキヤガレ」

「ヘソカンデシネ」


 などに振り回されていた。ソロモン乱戦の責任を取らされ、ニミッツらと連座制で更迭されたロシュフォード中佐であれば、自らの経験から別の意見、


「(今回も)罠である可能性が高い」


 を導き出したかも知れないが、大統領が怒りに任せてトップを入れ替えてしまった暗号解読部門には、まだそこまでの経験がなかった。結果、


「日本海軍は近く、大規模な作戦を実施する可能性がある」


 と、誤った情報が連合国側に発信された。これに恐怖したのはオーストラリアである。ニューギニア北岸からゆっくりと、確実に支配地域を広げてきている日本軍に、


「何かが、今までと違う」


 と、疑心暗鬼になっていたのだが、事ここに至って、日本軍の「目標」はポートモレスビーではなく、その南側。すなわちオーストラリア北部ではないかと考えたのである。

 当然、オーストラリア大陸への侵攻など普通に考えて、無理である。が、その「普通でない」行為を何度も繰り返してきた日本軍(特に陸軍)

輸送船団の多大な損害、特に兵士の損害はオーストラリア国内に厭戦気分を振りまくのに十分な材料であった。その最中、連合国側向けプロパガンダ放送の中で半ばアドリブに近い形でオーストラリア兵捕虜の言葉、


「中立宣言で俺達の戦争は終わる。英米に義理立てする必要はないし。日独とは最初から疎遠だ。オーストラリアがモンロー主義を採っても、アメリカは文句は言わない。それに、そろそろ(故郷の)ビーフが喰いたくなった」



に、オーストラリア国内は大いに揺れはじめた。

「どうしてこうなった!」予想のナナメ上を行く展開を考えていると、なぜか「普通」になってしまうのはなぜでしょうか?

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