米国海兵隊動く
建造が続行されることになった「土佐」だが、ここで来島は「戦艦以外」への改装を強固に主張する。
海軍の主役は戦艦だ。軍縮の主な目的は戦艦の所有数を減らそうとしたことであり、そのために「土佐」は廃艦の憂き目にあった。これを復活させるのだから戦艦として建造するのが順当であり妥当なのだが、来島は次のように反論する。
・苦労して水密区画を撤去している。もう一度設置する気は全くない。撤去した鉄材は既に使ってしまったから余分に経費がかかる。これ以上丸損街道を突っ走りたくない。
・戦艦としての「土佐」の設計は既に時代遅れだ。これ以上の戦艦はどこかで絶賛建造中だ(「1号艦」の存在を来島は知っていた可能性もある)
・ババアにいくら化粧を盛ってもババアに変わりはない。従って戦艦以外の「新艦種」で勝負すべきだ。
・ウチの技術者は○賀のジジイが大嫌いなんだ。平○設計なんか取り入れたら暴動が起きる。
・兵装はどこから工面する?輸入とかしたら、反乱準備もしくは条約違反で即刻死刑だ。
・大砲なんて飾りだ!偉い人にはそれが判らんのです。
等、私怨や理解に苦しむ主張もあったが、高畑も思うところがあったようで土佐は表向き「超大型高速規格型貨物搭載貨客船」という、妥協&有耶無耶満載の実に日本的な船として改装されることが決定した。(※規格型貨物搭載船とは、別府造船が開発を行っていた貨物船で今で言うコンテナ船に相当する)
こうして改装がスタートした「土佐」だが、買い手が付いていないので当然、資金が回ってこない。別府造船も新規建造中の大型客船に経営資源を集中させたいため改装進捗は全く捗らず「土佐」の苦難はなおも続く。
それでも各種技術開発のテストベッドとして新機構の実装試験が行われ造船所沖と艤装岸壁の間を行ったり来たりはしていた。
幸運だったのは不景気が絶好調であったため、大ドックで作業をしなければならないような船が少なかったことだろう。
一方、高畑の「土佐」の売却計画は依然として芳しくなかった。市場には中古の戦闘艦艇が溢れており、購入資金や意欲のある国家は列強の中古品を友好価格やバーター取引、長期払いで購入していた。
つまり、競争相手大杉である。日商が新規参入する余地なぞ全くない。そもそも競合他社は「国家」である。つまりハナから負け試合なのだ。
通常の売り込みでは絶対に買い手はつかない。そこで、高畑はワシントン会議で削減された兵員に目を付けた。
海軍縮小により兵員数も大幅な削減が行われ、巷には海軍上がりの無職の連中が溢れている。この余剰人員をスカウトし、最終的に「土佐」と兵員込みで売りつけようと思いついたのだ。
求人を出すと、表向き船員で募集した兵員への応募が集中した。嬉しい悲鳴と言いたいのだがコイツらは「土佐」改装完成までは完全に無駄飯喰らいである。日商だけでは雇いきれない。そこで高畑は別府造船傘下の別府汽船の社員として彼らを雇い入れるよう強く申し入れた。
余剰人員の雇用に、別府造船の来島社長はよい顔をしなかったのだが、懇意の元海軍士官の懇願や父親の来島会長の意向もあり渋々引き受けることとなる。
しかし、小航路しか持たない別府汽船に大量の船舶運用要員は必要ない。大半は「土佐」の艤装作業要員やグループ会社の技術員、果ては別府の温泉旅館の従業員として彼らは別府造船グループ他、九州を中心に日本全国に散らばっていった。
(温泉旅館に放り込まれた連中は「土佐」再就役時に烹炊所要員として、造船所の艤装作業員はダメコン要員として大活躍することになる)
本体付属品(要員)の目処がついた高畑は売り込みを再開する。売り込み先は中南米の新興国は当然、中東諸国や北欧諸国にまで及んだ。破産したとはいえ鈴木商店のネームバリューと高畑の人脈、未成艦とはいえ「長門」級拡大改良型の「土佐」だ。購入する気は全くないながらも興味を示す国はかなりの数に上った。
高畑のなりふり構わない売り込みに食指を動かした大国は、意外にも合衆国海兵隊だった。