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ソロモン乱戦(4)

「ブジヲイワウ」


「鈴谷」からの労いの発光信号に、「土佐丸」首脳はほっとしていた。「ソロモン外縁ツアー」は、駆逐艦の護衛はあったものの、不十分だと「土佐丸」の誰もが思っていたからだ。近所にたくさんの砲を搭載した巡洋艦や駆逐艦、小さいとは言え「本物の空母」がいるだけでも心強い。

 加えて、「鈴谷」艦長の木村大佐は叩き上げの指揮官として知られており、

 

「この人ならば、貧乏くじを引くことはない(=間違いない)だろう」


 という信頼というか、認識もある。


 連合艦隊がツラギ沖とソロモンのど真ん中で敵艦隊と一大決戦を、陸軍が陸路によるポートモレスビー攻略のための補給・輜重問題で大紛糾している最中、「土佐丸」と、それに関わる連中は、命令どおりソロモン外縁を巡る航路を平穏無事に航行していた。

 無論、敵への注意は怠ってはいなかったのだが、肝心の敵が大物(第一航空艦隊)を求めて「土佐丸」の航路から大きく離れた位置に突撃しており、「土佐丸」は何事もなくポートモレスビー攻略部隊の船団護衛との合流を果たすことができたのだ。

 いわば(結果的にではあるが)蚊帳の外である。

「土佐丸」の面々は、ソロモンで何かが絶賛進行中ということを感じてはいたのだが、詳細な情報は知らされなかった。陸海軍が同居する「土佐丸」には意図的に情報が流されなかったのではないかと勘ぐる者も少なからずいたが、実際のところは「乱戦」の言葉どおり、当事者達(この場合、日米両海軍)が戦況を正確に把握することができなかったことの方が大きい。

 乱戦も落ち着き、「それではポートモレスビー攻略部隊をどうしよう?」という話になったのだろう。時期をほぼ同じくして、サラゴア沖に停泊する「土佐丸」甲板に陸海軍の航空機が分厚い書類を投下してきた。どうやら通信では何かと面倒な話らしい。

 各軍軍令部からの書類を一読した海軍陸戦隊、陸軍ポートモレスビー攻略部隊のトップは、即座に陸海軍合同会議の開催を「土佐丸」首脳に要請。全艦艇の首脳が土佐丸格納庫に集合することとなった。

 名目上の旗艦である「鈴谷」ではなく、「土佐丸」で会議が開催されたのは、海軍陸戦隊、陸軍、海軍の首脳が一同に会せる場所が他になかったからだ。「鈴谷」ではキャパが圧倒的に不足している。(狭いという表向きの理由の裏には「大和ホテル」を凌駕する「土佐丸御殿」の艦内設備とメシの美味さがあったと邪推するのは間違っていないだろう)



「ポートモトモレスビー攻略部隊は、サラゴアに上陸。南部を順次攻略することとなった。先に言っておく。訳がわからん」


「海軍陸戦隊は陸軍と合同で作戦にあたることとなった。が、後方待機のようだ。なぜこうなったのは見当もつかん」


「『土佐丸』は、本土とボルネオ(ブルネイ)、サラゴアの補給任務に従事せよとことだ。訳がわからなすぎる。自分も良く忘れるが、『土佐丸』は揚陸母艦なんだが…」



 「鈴谷」宛の分厚い命令書を流し読みしてた木村大佐も、軽く首を振ると、


「「鈴谷」と「祥鳳」、第十九駆逐戦隊はポートモレスビー方面で輸送船と潜水艦狩りだ。「土佐丸」随伴の駆逐艦と「神川丸」はトラックへ帰投せよとある。ここ(ニューギニア)に深入りしたいのか、さっさと逃げたいのかわからんな」



 と、感想を述べる。結局、持ち寄った情報を統合してみても「理解不能」な状況に変わりはなかった。



「命令に従うのは軍人の責であるから、粛々と従うべし」



 と、言う形に収まったが、会議終了近くの雑談では、


「土佐丸のメシが食えないのはつらい」

「『御殿』から地獄に引っ越しってのは、あまりに酷いんじゃないか」

「冷房完備の個室生活が…」


 という声が海軍陸戦隊と陸軍将官から漏れた。人間、贅沢が当たり前になると堕落するのだ。



 実際のところは、


「攻勢を一時停止。米濠遮断を確実に行い、その後、ポートモレスビーを攻略する」


 という、意外にもまともな判断だったのだが、今までが今までである。陸海軍の将兵にとっては不可解な命令に思われたのだろう。

 「勝ちすぎ」に危機感を持った連合艦隊司令部と、突然、「補給・輜重」に目覚めた陸軍が、投機的な侵攻を自重しただけ。完勝と言って良い戦果が逆に慎重さの追い風になってしまっただけなのだ。


 対する米国は、ソロモン乱戦敗退で、戦力立て直しのためフィジーに後退した。欧州のみに注目し、太平洋戦線については。


「自国領土に踏み込まれなければ勝ち」


 と、米国政府は考えていたのだが、航空戦力に加え、老朽艦ではあるが戦艦部隊までも壊滅したことで、にわかに(自分達の政治的な)生命の危険を感じ始めた。彼らは、


「ソロモンで米軍は、裏をかかれて(誤解である)敗退している。日本軍はソロモンに限らず、真珠湾でも自分達の思いもよらない作戦で艦隊を壊滅させている。そう、彼らは「トーゴーの息子達」なのだ。いつ何時、「第二次真珠湾攻撃」や「西海岸攻略」に乗り出さないとも限らない。そして、それを予測することはひどく難しいだろう」


 と考えたのだ。米国人は決して自分達が弱いとは考えない。負けた場合は「相手が強かった」と考えるのだ。そして、それは相手の過大評価に繋がる。消極論が広がるのは政治的な話ではなく、米国人の気質によるところも大きい。


 このような状況下で、太平洋艦隊司令部(改組後)から、


「ソロモン乱戦の敗因は、投機的な作戦(=東京空爆)で、本来集中運用すべき航空戦力が分散されたことにある」


 とのレポートが提出された。米海軍省及びホワイトハウスは、当然、封殺したのだが、なぜかこれが上下院議会にリークされ、議会の共和党議員から主要新聞社に更に情報が流出され大騒ぎになった。

 一説によれば、更迭されたニミッツ長官のシンパが意図的にリークしたと言われているが、真相ははっきりしていない。

 このレポートは戦力の分散運用を非難したのだが、議会、国民の受け取り方は(恐らく)リークした者の意図を完全に裏切る事になった。

 政府への非難は、ソロモンでの作戦指揮ではなく、大統領が実施しようとした東京空襲に集中したのだ。一部ではあるが、法律学者の


「ハーグ条約に違反する。アメリカは正義でなければならない」


 という、いかにも米国らしい主張や、宗教者の


「銃を持たない者を蹂躙するのは、主の御心に反する」


 という、主張がなされたが、多くは、


「東京空襲を行って、反撃で(どこかの)都市が攻撃されたのではたまらない。死ぬのは兵士だけで十分だ」


 という考えがあったのは間違いないだろう。これを受けて、積極攻勢派の議員までもが、


「今はじっくりと体勢を立て直して反攻すべき」


 と、かなり消極的(まとも)な判断を行うようになり、議会は消極論に傾きはじめた。本来ならここで一番の攻勢派である大統領が、政治的主導権を発揮するはずなのだが、彼はソロモンの敗退の報で体調を崩していた。無理もない。戦艦と巡洋戦艦の撃沈(程度)で


 「戦争全体で(その報告以外、)私に直接的な衝撃を与えたことはなかった」


 と、英国首相が慟哭するのだ。ソロモン敗戦のレベルだと、生きている方が不思議である。

 米国政府のシステマチックな運用もあり、政務は副大統領のウォレスが代行しているが、このような状態では、新たな作戦の承認などとても行えない。

 当然、オーストラリアを経由してニューギニア方面からフィリピン方面に攻め上がる反攻作戦は先送りを余儀なくされつつある。この状況に米陸軍、特にフィリピンに多大な利権を所有していたマッカーサー中将からは不満の声が上がるのだが、ソロモン方面の制空権、制海権が完全に日本側にある現状では何もできない。何より、前線哨戒の起点として日本軍がツラギを手に入れたため、オーストラリアへの輸送状況は敵に把握されてしまっている。米軍の行動は筒抜けになっているのだ。

 ツラギを奪還、もしくはツラギの航空兵力を殲滅できれば状況は多少、好転するだろうが、ツラギを攻める航空兵力は乱戦で消耗しきっている。おまけに複数の戦艦(「フソウ」クラスの旧式戦艦)がツラギ近辺を遊弋しており、戦艦以外の艦艇によるツラギ攻撃は難しい。いずれにせよ、戦力が全く足りていないのだ。


 ニューギニアの対岸であるオーストラリアは、米軍以上に深刻だ。日本軍が狙う(であろう)大陸北部への上陸を自前で阻止しなければならなくなったからだ。

 米国から物資の補給は約束されているが、ソロモンの制海権を失った今、南太平洋を経由しオーストラリアに輸送船を送り出すのは、敵に「喰ってくれ」と言わんばかりの行動である。ここは大人しく国内の守りに徹するべきなのだが、オーストラリア政府は勇敢(馬鹿)だった。


 「制海権が完全に奪取される前に物資を運び込め!」


 と、ポートモレスビーに大量の兵員、物資を輸送しはじめたのだ。日本軍は阻止する以外の選択肢はない。潜水艦隊が輸送船団の攻撃に向かったのだが、報告によれば、


「輸送船。海ヲ埋メ尽クスガゴトシ」

「入レ食イナリ」


 の状態。大戦果をあげるも、相当数の兵員、物資がポートモレスビーに揚陸された。



「どこに(魚雷を)撃っても命中する」



 とまで報告された輸送船の数に、潜水艦隊は魚雷を使い果たし後退せざるを得なくなったのだ。


 この一連の潜水艦隊の攻撃で、オーストラリア大陸からポートモレスビーに至る航路は、


「葬送航路(Funeral Procession Line)」


 と呼ばれ、輸送を決断したオーストラリア政府は国内(特に女性と老人)から強く非難された。カーティン首相は「日本の脅威」を引き合いに出し徹底抗戦を呼びかけるが、


「自国領に侵攻されてからでも遅くはない」

「日本軍にオーストラリア大陸を攻略するだけの戦力はない。外交で片付く」


 と反対に非難される。実際は、日本軍の補給線は延びきっており、現時点でポートモレスビーに殴り込みをかけても、返り討ちになる公算が高かったのだ。


 そんな訳で、必死で戦力をニューギニアに送り込むオーストラリア。それを阻もうとする潜水艦隊以外は「基本的に何もやらない(できない)」という奇妙な状況ができあがってしまった。

 「土佐丸」はこの奇妙な状況に振り回されることになったのである。


今ひとつまとまりがない文章になってしまいました。

主要コンセプトの「どうしてこうなった」を追求していると支離滅裂になってしまいます。

とりあえず、ソロモンでの活躍(?)はこれで終わりそうです。

人物名が間違ってましたので修正しました。

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