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閑話 -泥棒陣内(4)-

「当面の出前は今回の補給で賄うとして、今後はどうするんだ?航空機を補給に使うのなら燃料の問題もある」


 各基地から集合した主計・輜重担当士官、最先任下士官。それとどこから聞きつけてきたのかよくわからないが、いわゆる「顔役」と言われる各部署の強者を前に、私は当面の重点補給目標とその補給方法について話していた。

 重点補給先は「リ号研究」でオーウェンスタンレー山脈方面を偵察中の4個連隊。特に、山脈を倒破中の独立工兵第15連隊になる。

 4000メートル級の山々を越えてポートモレスビーへの侵攻を行う、まぁ、英雄譚にでも出てきそうな壮大な(胡散臭い)作戦だ。普通に「徒歩で富士登山をした後一戦」と考えたら速攻で却下される類の作戦だろう。

 「海軍に頼りたくない」程度から始まった作戦計画に違いない。本来なら補給の困難さを挙げて全力で反対するべき作戦なのだが、まぁ、参謀連中。特に辻中佐なんかはここらへんを意図的に無視しているのだろう。


 で、当初の質問になる。


 至極当然である。戦場は一大消費地であり、生産性は皆無である。

 日露戦争後に「近代戦はいかに無駄弾をバラ撒くかで勝敗が決定される」などという過激な論文さえ発表されている。

「下手な鉄砲も(以下略)」は少なくとも我が帝国軍に対しては正しい。帝国海軍の「百發百中ノ一砲能ク百發一中ノ敵砲百門ニ對抗シ得ルヲ覺ラバ、我等軍人ハ主トシテ武力ヲ形而上ニ求メザルベカラズ」を招集で成り立っている我が陸軍の兵卒に適用する方が馬鹿だ。加えて、現在は戦時下だ。兵に限らず、粗製濫造は当たり前。戦報にある米軍の「不発魚雷」や、我々が身をもって体験した「不発弾」が何よりの証拠である。(恐らく我が軍の爆弾も同じようなものだろう)


「Fi156Cはそうそう燃料は喰いません。それよりも補給に従事する操縦士の確保が大変じゃないですか?」


 いかなる伝手を使ったのかはわからないが、この会議に潜り込んだ御宅の指摘は至極正しい。通信という軍隊の「目」「耳」を担当している彼ならではの状況分析だ。が、安心しろ。それほどでもないが俺たちは補給のエキスパート(敵国語は不可であるので同盟国のドイツ語のExperteを充てよう)である。そこらへんの運用は十分考えてある。


「あの近辺はこっちの勢力下だから、戦闘機の操縦士の編成替えで順番に回しておう。特別食を付ければ、まぁ、通る。最前線の遊軍への「出前」だから、回数にもよるが喜んで従事してくれるだろう。問題は補給を航空機で受けていることが敵にばれたときだ。そうなると戦闘機の護衛が必要になる。いや、その前に「オタク」号が墜とされれば補給そのものが成り立たなくなる。何せ短距離離着陸が可能な機はこの1機だけだ」


「戦闘機護衛の出前か。豪勢だな」


「感心してる場合じゃない。搭乗員割に「出前護衛要員」を割り振りせにゃならん。出前が出る都度、戦闘機搭乗員に余分な負荷がかかる。現在でも搭乗員には「栄養剤」の注射を考えているんだ。無理は効かない」


 茶化した感想に、馬鹿真面目で通っているラエの補給担当下士官が私見を述べる。うん。もっともだ。だが、無茶に無理を重ねるのが戦争なのだ。


「操縦士は別として、Fi156Cを凌駕する機体は既に試作の最終段階らしいですよ。これを実戦試験名目で引っ張ってくれば問題ないんじゃないですかね?」


 おい…御宅…貴様、地の果てのニューギニアでどうやって試作機の情報を入手しているんだ?

 思わず表情に出てしまった私を…というか居並ぶ補給・輜重担当者達を、「してやったり」と言わんばかりの表情で睥睨した御宅は唇の端に笑いを込めた。

 後年、私がこの手の「手段のためには目的を選ばない」輩に対して恐怖と嫌悪感を抱くようになったのはこの時ではなかったのかと思うのだ。


「新鋭機。大いに結構」


 ラエでは「おやっさん」と呼ばれているらしい、古参の整備班長が大声を上げた。この流れはあまり良くない。大抵一悶着起きる前触れだ。案の定、「おやっさん」は御宅に食ってかかる。


「本土で開発中の機体を、どうやってニューギニアまで持ってくる?御宅曹長。Fi156がなぜ放置されているか考えたことがあるのか?」


「え?いや…自分は考えたことがありません」


「アイツはとんでもない精度で製作されている。額面どおりの性能を発揮させるには、手間がかかる。それを毎日「出前」に使用するとなると、整備員の苦労も並大抵じゃない。それと、機械は必ず消耗する。献納機全体に言えることだが、十分な消耗部品なんぞ準備されていない。ましてや舶来品だ。部品は全部1から製作せにゃーならん。アイツの稼働は大目に見ても4ヶ月程度だ。従って、撃墜された場合を除いて、「出前」の最長期間は4ヶ月と考えて欲しい」


 なるほど。使用されなかった理由がよくわかった。それと、「出前」の活動限界もだ。それと、「おやっさん」は御宅が気に入らないのは「おまけ」らしい。これは行幸。話の流れを再びこちらに戻すきっかけができた。


「え~。整備班長の言によれば、4ヶ月を目処に、15連隊への補給をFi156以外の方法で行えるように環境を整える必要があると言うことになる。そもそも、山脈越えの作戦は無謀だ。しかし、我々はこれを全力で支援する必要がある」


 私はここで言葉を切る。ここから先は賛同してくれるかしてくれないか…これは賭けだ。


「帝国陸軍が帝国海軍と共同で、ポートモレスビーの上陸作戦を実施しようとしているのは周知の事実だ。どうやら、我が軍の『軍機』は積極的に敵を含めた外部に公表するべきものらしい」


 失笑が漏れる。『軍機』のポートモレスビー攻略なんぞ原住民にすら知れ渡っている。


「ここから先は、私見だ。恐らく工兵15連隊は今回の上陸作戦に間に合わない。が、補給は現在以上に充実させる。詳しくは言わない。察して欲しい。『時の氏神』はポートモレスビー攻略部隊にこそ必要なのだ」


 小さく頷いた、一部の補給・輜重担当者には理解して貰えたと思う。そう、山脈越えルートは、


「ポートモレスビーからの撤退路」


 なのだ。目の前にオーストラリア大陸、背後は峻険な山脈。輸送手段は海路のみ。このような「詰んでいる」戦場に突っ込んで行かざるを得ない同胞が哀れだ。

 しかし、山脈越えルートが開拓されていれば、無駄に命を落とす連中も少なくなる。

「再占領を目的とした一時的な転身行動」という訳のわからない理由で、ケツをまくることができるのだ。人命は何物にも代えがたい。内地では「ヘータイの命は一銭五厘」と言われているが、冗談ではない。身体的に優位があると認定された「甲種」の連中でさえ、一人前になるまでに半年かかる。

 下っ端役人の初任給がおおよそ50円であるので、兵を一人前にするのは最低でも半年。少なくとも300円の費用が必要だ。ちなみに、我が軍の標準装備である三八式歩兵銃の単価はおおよそ80円。つまり、少なくとも我が軍の兵1人は最低でも歩兵銃4丁の価値を持つのだ。

 もちろん、教育訓練中の間接経費はこれに含まれていない。つまり、絶対に邪険に扱うべきではない。それに、生き残った兵ほど手強い。陣内軍曹がその好例だ。


「そうなると、やはりこの島の外からの補給が問題になるな。毒薬2瓶で足りるのか?」


 補給総量という根本的な質問をよりによって同期がしてきた。一番避けたい内容をなぜここでする?あと、「毒薬」は止せ!


「何だよ?毒薬って?」


「辻参謀と瀬島参謀だよ。大友はこの2人を焚き付けて補給を充実させるそうだ」


 …終わった…同期の出世頭のお前がそこまで阿呆だとは思わなかった…。これで私が首魁になってしまう


「そこらへんは大丈夫だろ?一度腹一杯喰ったら、もう後には引けない。ニューギニア戦線全員が飯盒叩いて「腹減った」と連呼すれば、嫌でも上層部は動く。問題は輸送船だ。我々は自由に運用できる輸送船を持っていない。ニューギニアはでかいと言っても島だ」


 気楽な意見が返ってきた。が、問題点はきっちりと押さえている。


「腹案がある。ただ、これは最前線への補給の手当なんかとは違う。堂々と上に逆らう事になる可能性も十分にある。聞いてしまうと後には引けない。で、諸君はこれに賛同してくれるのかな?」


本編は、いわゆる「歴史改変」が多すぎてどうにもならない状態なんです。閑話がここまで続くとは正直思いませんでした。


この話の「大友少尉」ですが、いわゆる「現代の自分が見えている中間管理職」のシンデレラストーリー(死んでれら かな?)を意識しています。


まぁ、世の中、そんなに上手く回らないんですけど、フィクションでは電器メーカーの会長なんかもいますからね…


主役の「就職先」が決まったら、本筋に戻る予定ですので、本筋をお待ちの皆様、それまでご勘弁を!


注文、ご意見 いただけると嬉しいです。


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