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ソロモン乱戦(2)

ちょっと短いです。

「奴らの狙いは何だ!」


 太平洋艦隊司令部に響く、ニミッツ長官の悲鳴のような問いに応えられる幕僚はいなかった。状況整理のため機動部隊および囮部隊に6時間の時間調整を強要し作戦の練り直しを行っているのだが、不確定要素が多く、日本軍の目的が何であるのか全く予想がつかない。

 特に、「トサマル」の航路は不可解以外の何者でもない。補給を行うのであればさっさとマリアナ方面に待避しているだろうし、ポートモレスビーを攻略するのであれば大回りしてラバウル方面に出現する意味がないからだ。

 「トサマル」の行動を、「機動部隊との合流による航空戦力の集中のため」としてみたが、「トサマル」が航空母艦ではないと判明すると、他の予想と同じく意味を持たないものに成り下がってしまった。

 かろうじて捻り出した予想は、


「「トサマル」はツラギの攻略、もしくは敵機動部隊と共同でヌーメア攻略を狙っている。ポートモレスビーは太平洋艦隊の目を引きつける陽動作戦である…様に思われる」


 という実に情けないものであった。


 何せ、情報が少ない。日本海軍の情報統制は徹底しており、トラックから(恐らく)ソロモンに向かっているだろう増援の機動部隊はその所在すら明らかになっておらず、ラエに停泊したまま何のアクションも起こさない巡洋艦と駆逐艦部隊の動向も気になる。

 例外は、ラエ、ラバウルへの前線からの平文通信で、「トサマル」が荷揚げしたと思われる物資の所在についての問い合わせと配給の要請である。

 その平文も、


「セイシュ、タバコノホキュウヲ セツニキボウスルモノナリ」


 等、「お前ら本気で戦争をしているのか?」と疑う類のものが大半で、暗号解読部門はこれが果たして「平文」なのか?と、真剣に悩む状況に陥っていた。

 従来、この類の電文が平文で飛んできたことはない。従って欺瞞、あるいは一見平文に見せかけた高度な暗号である可能性も捨てきれない。

 実際は「信じられないほど潤沢に補給がなされた」と野火のごとく広がった噂に食いついた前線の補給担当者が、暗号化している暇なんぞないと、平文で物資の争奪戦を始めただけである。彼らにとってはある意味戦争であろう。

 残念ながら日本軍の台所事情など太平洋艦隊、いや米軍に理解できるはずがない。

 太平洋艦隊司令部の面々がこの事態に1度でも陸軍、それも苦戦を強いられている欧州派遣部隊へ「こんな電文を受信したんだがどう思う?」と聞いてみたら少しは違った結果が得られたかもしれないのだが、あまりにも欧州は遠すぎた。

 おまけに、再び「土佐丸」がソロモン海に進路を変えたとの情報と、ラエから敵艦隊が出撃したとの情報が飛び込んできたことで、太平洋艦隊司令部の推理能力は限界を超えてしまった。

 少ない味方からの情報と、多すぎる敵側からの情報に、太平洋艦隊司令部下した決断は、


 「即座に反転し、帰還」


 という作戦中止を決めるものであった。

 が、太平洋艦隊の判断は遅すぎた。6時間の時間調整を強いられた2つの艦隊は、一時的に哨戒、索敵網が手薄になっており、その消滅した哨戒線に第一艦隊、第一航空艦隊の哨戒線が食い込んだのだ。通常、交差するはずの哨戒線が、一時的、ほんの1時間程度であるが、日本軍だけのものになった。


 5月4日早朝。未明から精力的に哨戒を続けていた第一艦隊の水上機が、マキラ島北方を航行する囮部隊を発見。帯同する空母が1隻であることを確認し、情報を送る。

 第一艦隊に帯同する第三航空戦隊(「鳳翔」「瑞鳳」)は艦載機の全力出撃を実行。敵の足止めを狙った。

 通常は半数出撃で、複数回の攻撃を行うのが航空戦のセオリーだが、宇垣参謀長が「敵の足を止めましょう。戦艦の主砲の射程は短い」と全力出撃を主張したからである。(大砲屋はどうしても砲戦を行いたかったらしい)

 同時に、敵艦隊に向け低速の戦艦「扶桑」「山城」を分離。空母の護衛とツラギへの砲撃を指示、「大和」をはじめとする戦艦4隻で、敵戦艦部隊への突撃を開始する。

 当然、「扶桑」「山城」からは猛抗議が起きるが、「その怒りをツラギにブチ込め!」と冷たく突き放し、戦艦部隊は敵艦隊との距離を詰めるべく、(戦艦群の)全速力、25ノットで突撃を始めた。




「敵機来襲。機数およそ50!」

「ヤツらだ!ジャップは引っかかった!。まだまだ俺達はツイてる!司令部に発信。「敵機動部隊の誘引に成功健闘を祈る」だ」



 米軍囮部隊からの通報に、太平洋艦隊司令部と第十六、十七混成任務部隊は驚喜する。一旦は否定した作戦計画が当を得たものだと証明されたからである。(いわなくても判るとは思うが、壮大な誤解である)

 作戦中止を中止し、慌ただしく「敵機動部隊」への攻撃準備を行う彼らの視界には、視界ぎりぎりに接近した、第一航空艦隊の水上機が目に入らなかった。


 敵機動部隊発見の報に沸くのは日本軍も同様であった。ただし、こちらは正確に米軍機動部隊の編成を把握している。連合艦隊司令部の命令後、常に臨戦態勢を整えていた第一航空艦隊は制空権を確保すべく、露天係留していた即応戦闘機隊を直ちに発進させた。


「第一目標空母。第二目標空母。第三目標空母」


 山口少将の訓示を受け、限界までストレスをため込んでいた世界最強の母艦搭乗員達は、その鬱憤を晴らすべく敵機動部隊に向け突撃を始めた。


ツラギは難産でした。「土佐丸」だけという訳にはいきませんので…

9/27 機数が100になっていたのを修正しました。

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