閑話2 -別府造船装備品開発室物語その0.25(戦時輸送船「おおが」)-
「本業(造船)とは言え、この注文はひどいんじゃないの?言っちゃ悪いが素人の発想だぞ?」
日商経由で送り込まれた、「帝国陸軍戦時多目的貨物船建造ニ関スル基本要件書」と書かれた薄っぺらい書類を応接セットの上に放り出しながら、別府造船社長来島義男は毒づいた。
「そもそも陸軍ですから玄人じゃないですね」
大分県日出。別府湾の北側に位置する別府造船の本拠地。社長室の主の愚痴に付き合っている「ぷっつん宮部」こと、宮部技師長が有力顧客の問題点を淡々と述べた。
「技師長、冷静だねぇ~。まぁ、「土佐丸」が頑張るんでいろいろ欲しくなったんだろうけど。しかし…『ぼくのかんがえたすごいふね!』みたいな要求仕様だろ?正直引くわぁ~。平○の爺様がこれ見たら、ブチ切れて暴れるんじゃね?」
「造船の大権威ですよ?そんな人には見せてませんよ。こっちに持ってくるのはそこまでの船じゃないでしょうから。ぱっと見、できないことはないフネではありますが、いかんせん条件がきつすぎます」
「工期と費用ね。『戦時標準船ヨリ安価カツ短期ニ製造可能デアルベシ』と来やがった。
思うんだけどさぁ、陸軍て船舶を戦車と同じ程度に考えてるんじゃなのか?ヘータイの命が一銭五厘とか言ってるし。普通に考えるとドンガラの輸送船しかできないのよね。量産で工数と費用を下げるとしても、哨戒船、護衛船、油槽船、輸送船を1つの船種で賄えだからなぁ~。やっぱ、あいつら(陸軍)馬鹿だわ。その馬鹿につきあわなきゃならん俺たちも馬鹿だけどさ…。まったく…高畑さんもええかげんにして欲しいよな…。真面目にやってたら大損一直線の案件だもん」
「高畑さんも、いろいろあるんでしょうね…社長の腹案とか…超技研…あそこで何とかなりませんか?」
「あ~宮部君。俺は別として、あそこ(超技研)は基本、無駄な能力しかない連中の吹きだまりだぞ?妙なことやって大損こかないように、研究(隔離)させてるんだ。ここは正攻法しかない。つまり、宮部技師長が全身全霊をかけるしかない!「困った時の超技研」ではの○太になっちまう。やはりここは宮部技師長!君しかいない!「そんなこともあろうかと」と腹案をぷぁ~っと…」
「無茶振りですよね?無茶振りしてますよね?」
「怒るな!何で「バールのようなもの」が出てくるの?ある!一応俺にも腹案はあるんだから!だから落ち着け!落ち着いて下さい!」
「あぅあぅ…死ぬかと思った…。技師長は表情変えずに迫ってくるから怖いよ。このトシでお漏らししそうになった…」
「で、腹案とは何ですか」
「あ~、相手は 素人(陸軍)さんだから、こっちは何やってもかまわんだろ?でだ。まず、耐用年数を削る。うん、ゴリゴリ、徹底的に削る。戦時急造船だから設計寿命が短く設定されてるけどこれを更に縮める。もちろん、ヤバイなと思ったら「大規模改修(案)」をぶち上げて、改修費用をふっかける。じゃなきゃ、廃船にすれば良い。まぁ、絶対に廃船にはしないだろうけどな。要はこっちが完成後にウハウハ儲けられるように設計するんだ」
「うわぁ、鬼畜ですね…」
「おお、ジョ○スの手法だ。見た目高級品。だが性能は陳腐、耐久性皆無。かつ、想定外の使用はすぐさま壊れる。そ~ゆ~モノを造る。いや、造るしかない。そもそも戦争に使うフネをず~っと持ってる方が鬼畜だと思わんか?でだ。その上で徹底的にブロック工法を使う。要求している哨戒船、護衛船、油槽船、輸送船の大部分を共通ブロックで作る」
「護衛船、哨戒船と輸送船て全く仕様が異なりませんか?それとジョ○スって誰です?」
「なぁ~に。各船種に「ちょっとだけ」妥協して貰えば問題ない。ん?、ジョ○スか?リンゴ屋だ…。まぁ、気にすんな。工数と費用がかかる船首、共通化が図れそうなブリッジ、重要区画の機関部あたりを共通にする。で、その他の部分は用途に合ったブロックを突っ込めばいいじゃん?」
「艦形の問題はどうします?油槽船仕様と、護衛船仕様では全長や喫水下の加工が全く異なってきますよ?そうなれば、少なくとも船首はそれぞれの専用設計が必要です」
「水線下に整流板とかいろいろ付けて誤魔化せばいいじゃん。ど~せ水面からは見えないんだから。そこらへん(整流板)の設計は超技研に放り投げよう。とにかく、体裁だけ整えりゃいいんだよ」
こうして完成したのが「おおが(大神)」型戦時輸送船である。、
来島社長の基本コンセプト。「リンゴ屋モドキの見た目高級品」をそのままの形にしたため、なんとなく強そうな外観に仕上がった。陸軍関係者はいたく気に入ったようだ。
工数のかかる船首(曲面が比較的多い)、重要区画の機関部、ブリッジがほぼ共通の「おおが」型汎用船は、ぱっと見同じ船に見える。
しかしながら、哨戒型は船首に別製魚群探知機。ブリッジと機関部の間に、別製対潜水艦曲射砲架を搭載。護衛船型は船首とブリッジの間に、回転機構を付与して簡易装甲を施した九六式十五糎榴弾砲と正式採用されたばかりの一式重機関銃を装備、輸送及び油槽型はその部分が船倉となっている。
被弾、被雷が想定されている哨戒型と護衛型については、兵装ブロックに水密構造の規格型貨物庫を溶接で取り付け、装甲と、なんちゃって水密区画を実現している。戦闘時以外にはこの区画が兵員室、倉庫となっており、乗組員以外にもかなりの「お客」や貨物を搭載することができるようになっていた。
「とうとう完成か。見た目軍艦だが、悲しいくらい安物だ」
「陸軍さんの前で言っちゃだめですよ」
「かまわんだろ?安普請なのは本当なんだから。むしろここまでハッタリ効かせた船を造ったと感謝状が欲しいくらいだ」
「で、船名がなんで「おおが01」なんです?それと英語の艦名併記って必要なんですか?」
「100隻以上造る気だったの?そんなら001にしとくべきだったな…」
「いやいや!そっちじゃなくて!普通1隻毎に名前を変えるんじゃないんですか?」
「命名は「土佐丸」で懲りてるよ。統一でいいじゃん。それに発注が1桁止まりだったら「おおがまる1」とか読めるから。英字の方には番号付けてないから大丈夫だよ」
「縁起でもない!最低15隻は建造しないと黒字になりませんよ。それと英語表記の綴り間違ってませんか?」
「細かいことを言うようだけど、後付け装備品と、大規模改修予定があるから採算ラインは13隻だよ。決裁する際に、経理部長からさんざん言われたんで間違いない。後付けの夜間哨戒器とかで付属品売り上げがあるから大丈夫だ。それと、綴りはわざとだ。間違ってない」
「何で「OGRE」なんです?「OGA」もしくは「OHGA」でしょ?」
「OGAは男鹿と間違えて読まれる可能性が高い。ローマ字表記って結構面倒なんだわ。OGREの方が格好いいだろ?陸軍に「敵性語だけど、鬼って意味があります」と言ったら大喜びだった」
「…」
この「おおが」型戦時輸送船。ブロック工法、溶接の多様、徹底した工数管理で同業他社よりも建造が早かったことから、輸送船不足に悩む海軍からの発注をも取り付けた。海軍と不仲の別府造船ではあるが「お客様は神様」。来島社長は心に棚を作るのが得意だった。
海軍仕様の「おおが」は護衛船と輸送(油槽)船、軽武装ハイブリッドの「武装輸送船」になり、仕様上別艦型に分類、「ていとく丸」型と称された。こちらも命名権を海軍から強引に奪い取っての命名だ。
「まぁ、50隻程作ったら俺の意図に気がつくだろう」
とは「第一ていとく丸」引き渡し時の来島社長の弁である。
まさかの4連投。ええ、しっかり出し尽くしました。当分何も出てきません。
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