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ツラギ攻略戦(5)

 連合艦隊司令部の大騒ぎをよそに、ツラギ攻略部隊「土佐丸」と、ポートモレスビー攻略部隊、第七戦隊「鈴谷」及び第十九駆逐隊の面々は手持ち無沙汰であった。

 ツラギの攻略命令はおろか、ポートモレスビー攻略の命令すら発令されていないのだ。

 敵のラエ空爆が原因なのはおぼろげながら判っているものの、これと発令保留の因果関係を現場の人間に推測しろと言う方が無理である。

 ぽっかり空いた時間をどうするか?当初は持ち帰りを厳命された規格型貨物函コンテナの害虫・鼠対策のための密閉・清掃作業などの雑務が山積みだったのだが、船倉内で汗だくで作業している「土佐丸」甲板員を見た「乗客」の呉陸戦隊の面々が、


「飯喰ってるだけというのも心苦しい。訓練にもなるだろうから」


 と助っ人を買って出てくれたため、あっという間に片付き、彼らのヒマを「土佐丸」乗務員も共有することになってしまった。

 呉陸戦隊員にとっても、いつになるかわからない作戦発令のおかげで大規模訓練は無理。かといってブラブラしていたら士気が下がるので、何らかの「身体を動かす」任務が必要だったらしい。

 当初は、「土佐丸」装備の目玉。ウェルドックからの強襲揚陸訓練も実施されたのだが、彼らに言わせれば、


「今までよりも(上陸が)楽だから1回やれば十分だよ」


 ということで1回の訓練で「習熟完了」となってしまった。あとは「緊張を保ちながらのんびりと待機」となり、陸戦隊は装備の整備、「土佐丸」は、ドサクサにまぎれて搭載された、わがままな新装備のお守りに十二分に時間を割り当てることができた。

 呉陸戦隊にはラエに上陸して「お手伝い」という選択肢もあったはずなのだが、ベッド完備、冷房完備(ここ重要!)、メシが美味い「土佐丸」を離れてラエに上陸して野営するなどという奇特隊員は一切存在しなかった模様だ。

 余談ではあるが、連合艦隊総旗艦「大和」は「大和ホテル」とその居住性の良さを揶揄されていたが、「土佐丸」は「土佐丸御殿」と密かに呼ばれていたらしい。


 米国太平洋艦隊は、突如として湧いてきた「新型空母を含む機動部隊」のおかげで不足してしまった戦力の補充に悩んでいた。

 先日のラエ攻撃の失敗と日本軍の掃討戦で空母の稼働機はその数を減じ、増派される第16任務群の航空機と第11、17任務部隊の残存航空機を合わせても、稼働機は300機前後と、攻略部隊と予想される日本軍の増援部隊との両方に対応できるだけの数がどうしても確保できないのだ。

 補充を急がせているものの、中継地のハワイは未だ再建中であり、何より熟練を要する母艦搭乗員の手配がままならない。通常であれば被害を最小限に食い止めるために後退し、十分な戦力を補充してから反撃に転じるのだが、戦略的、戦術的にも撤退という選択肢はなかった。何せ、航空兵力補充のため大統領の悲願である東京爆撃を中断しているのだ。彼らにはもう、「戦う」ことしか残されていない。


 日本軍の通信量の増大で、攻略作戦実施は確実と見られている。おまけに増援部隊が派遣されるとの情報まである。こちらが機動部隊でラエを攻撃したので相手も機動部隊で応戦するのは確実だろう。が、現在の戦力では攻略部隊か増援部隊のどちらか一方にしか対応できない。パイロットの数が壊滅的に不足している。緊急措置として海兵隊航空団のパイロットをオーストラリア経由で補充する案まで出たのだが、


「海兵隊だって?ジャップにやられる前に(着艦事故で)死んじまうぞ?巻き添えはごめんだ!」


 と大反対が起き、却下される。「制御された墜落」と呼ばれるほど難しい航空母艦への着艦は、海軍の機材を使用しているとは言え海兵隊パイロット達には荷が重い。


 「戦う」ことしか残されていない太平洋艦隊だったが、その選択肢は2つあった。


 ・敵機動部隊を攻撃

 ・攻略部隊を攻撃


 である。



 太平洋艦隊の名誉のために言わせてもらえば、相手が攻略部隊だけならば余裕で撃破できる。実際、そのつもりでラエ攻撃をかけたが、なぜか攻略部隊には「新型の大型空母」を含む機動部隊が随伴しており、これとラエの航空隊に「ヨークタウン」「レンジャー」航空隊が喰われてしまった。

 しかしながら、相手も損耗しているはずだから、増援部隊の航空戦力をつぎ込めば撃破は十分に可能だ。

 問題はその後だ。増派されてくるであろう機動部隊がこの状態を黙って見ている訳はない。攻略部隊に手出しをし、勝利を手にした瞬間、間違いなく袋叩きに遭う。

 つまり、攻略部隊の撃退と引き替えに、太平洋艦隊最後の機動部隊が壊滅することになる。これは何としても避けなければならない。今や空母とその航空兵力は宝石よりも貴重だ。

 それでは、逆に機動部隊を相手にした場合はどうか?

 日本軍パイロットの練度と航空機の性能差はあるものの、数の論理で押し切れば十分互角にやり合える。最悪でも痛み分けに持ち込めば、日本軍の機動部隊再建には時間がかかるはず。その間に現在編成中の機動部隊をつぎ込めば最終的に勝利に持ち込むことができる。欠点は「若干」時間がかかるだけだ。

 戦略的観点から考えても機動部隊を攻撃目標とするのは正しい。また、対外的、政治的にも「攻略部隊を撃退した」と「機動部隊を殲滅した」では、後者の方がインパクトが大きい。ワシントンからも「目に見える戦果を上げろ」と言外に要求されている。

 太平洋艦隊の意向とワシントンの意向が一致し、太平洋艦隊は攻撃の対象を、増援されてくるであろう機動部隊と定めた。(蛇足までに。「政治的な思惑」が加わった「作戦」の結果は大抵ろくでもないものになるのは世の常である)


 その「ろくでもない政治判断」のおかげで、米軍の、いや太平洋艦隊の作戦目標は


 「敵機動部隊の殲滅」


 に決定された。

引っ越しとかがあり、投稿が遅れてました。


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