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サヨナラ歌姫、世界と共に

作者: シャオラン

少年は笑った。

己の眼下に広がる光景に、嫌気がさして。

でも嬉しくて仕方なくて、結果、笑みが浮かんだのだ。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


美しいと、彼女は言っていた。

しかし少年はそう思えなかった。

「こんな世界の、一体どこが美しいんだ」

吐き捨てるように紡がれた言葉を、彼女は優しく掬った。

「色んな色があって、光があって闇がある。全てが全てを引き立ててるから、美しいと思えるんじゃないかな」

少年は、苦笑いを浮かべた。

人と違う感性を持つ彼女にしかわからない世界だと悟ったから。

常人には理解できないことを思う彼女だからこそ、美しいと感じたのだろう。

事実、常人である少年には理解できなかった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


少年は彼女の元へと足を運んだ。

彼女はビルの屋上に立ち、歌っていた。

「何、してんの」

少年は問う。

端から見れば、どう考えても、彼女が歌っているように見えただろう。

しかし彼女は歌ってなどいなかった。

「世界と話をしていたの」

淡く儚い笑みを浮かべ、彼女は再び世界と話し始めた。

彼女の話し声は風に乗り人に何かを感じさせる。

地を忙しく動き回る人々は、彼女の声に耳を傾け、天使の歌声だという。

(ーーー変わってるな)

少年は、人々の言った言葉に対してそう思った。

何の意味もなくただ、純粋に。


「ねぇ、聞いてくれる?」

彼女はいつの間にか横に立っていた。

「くだらないって笑うかもしれないけど、聞いてくれる?」

少年は黙って頷いた。


「明日、世界が終わっちゃうんだって」


彼女はふにゃりとした笑みをこちらに向け、屋上のフェンスを掴む。

「世界が教えてくれたの。だから私に帰ってこいってさ」

つまらなそうに空を仰ぐ彼女は、すぐに消えてしまいそうだ。

「帰って、何になるの」

少年はそんな彼女をあざ笑うかのように言う。

「これで何度目だよ。どうせ最後の最後で、またやるんだろ」

「ううん、明日で本当に終わらせるんだって。もうダメなんだって」

必死に訴える彼女の目には、涙が輝いていた。

「悪魔がいる世界が消えないから、いっそのこと世界を終わらせようって」

少年は何も言わない。何も言えない。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


翌日、少年は彼女の元へと足を運ぶ。

逃げ惑う人々、泣き叫ぶ子供。

迫り来る業火。

それら全てに逆らいながら、少年はゆっくりと歩みを進める。

少年を止める者は誰もいなかった。


ビルの屋上で、彼女は世界を眺めていた。

冷たくも暖かく、慈愛に満ちた眼差しで。

少年は赤く染まる頬に手を伸ばす。

彼女の顔を見て言い放つ。

「世界は再生できるよ」と。

それを聞いた彼女はゆっくりと涙を流す。

少年の手をつかみ、離すまいと両手で包む。


彼女の望む結末。それは少年がいなくては迎えられない。

少年の望む結末。それは自分がいると迎えられない。


2人の決断は世界を破滅へと導いた。

彼女が望む結末も、少年が望む結末も、今の2人には迎えられないから。


彼女の背中の白い片翼。

少年の背中の黒い片翼。

2人は手を取り合い、世界の破滅に身を投じる。



そして少年は笑った。

己の眼下に広がる光景に、嫌気がさして。

でも嬉しくて仕方なくて、結果、笑みが浮かんだのだった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


明るい太陽の下、彼女は歌っていた。

その傍らで、少年はうたた寝をしていた。

少年の隣には、彼女にそっくりな顔をした女の子と、少年にそっくりな顔をした男の子がいた。

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