妹ができた日
フライパンから上がる湯気。じゅわじゅわという肉の焼ける音。
今日の朝ごはんはベーコンエッグだ。
両親が長期休暇で京都にランデブーなので、今は自分で家事をしなければいけない。
いい感じに焼けたのを見て火を止める。
野菜は適当にレタスをちぎったのと野菜ジュース。個人的にマンゴーが入ってる奴が好きなので、それを冷蔵庫から出す。主食は食パン。トーストはセルフサービスで。
使った調理器具は水につけ、朝食も大方テーブルに並べ終えたので、もう一人の家族を起こすために二階へ続く階段を登っていく。もう九時なのに、一向に目を覚ます気配がないのだ。ちょっと億劫だけど、私一人では食べられない量を作ってしまったのでしょうがない。でも、ハルちゃん寝起き悪いんだよなあ…。
面倒な気持ちを押さえ込んで部屋のドアの前に立つ。
物音がまったくしないので多分まだ寝ているんだろうけど、一応ノックをしてみる。
こんこんこん。
「ハルちゃん起きてるー?」
控えめな声で呼びかけるが、返事はない。
……よろしい、ならば突入だ!
ドアノブを捻り、室内に踏み込む。部屋の中は色々な物が溢れかえっているものの、この年頃にしてはまあ片付いてるほうなんじゃないかなと思う。もちろん人にも依るだろうけど。
さて、ベッドの上に標的とおぼしき物体を発見した。タオルケットを被っているようだ。
近寄って、先程よりも大きめに声をかける。
「ハールちゃーん、あーさだよー!!」
結構声を張ったというのに返事はやっぱりなくて、聞こえるのは安らかな寝息ばかり。
ダメっぽいのでさっさと実力行使に移ることにする。こうしている間にもベーコンエッグは冷めていくんだ。レンジで温めたりなんてしたら黄身が固まってしまう。
というわけで。
私は標的のタオルケットに手をかける。でもってこう、がばっと剥ぎ取りながら叫んだ。
「起きろーーーーーーーー!!!!!!」
「ん――――」
そうして隠すものがなくなったベッドの上で、ちょっと寝苦しそうに寝返りを打ったのは。
「……え?」
――――長い栗色の髪の、とってもきれいな女の子だった。
少女はようやく目が覚めたみたいで、こげ茶色の目をうっすら開いて不機嫌そうに言った。
「はるちゃんて呼ぶなバカ……」
桜色の唇からもれる声も小鳥のさえずりのように愛らしい。…どちらさまですか?
「………ん?」
見知らぬ少女は不思議そうな顔で首を傾げながら、ゆっくりと起き上がる。その時にも何か違和感を感じたようで、慌てて自分のてのひらをを見詰めたあと全身を眺め回し、目を丸くする。
私は恐る恐る、黙り込んだ彼女に声をかけた。
「……………ハル、ちゃん?」
「………………雨祢?」
どうしよう美少女に名前を呼ばれてしまった。ていうか返事をしたってことは。
「…………」
「…………」
しばらくの沈黙ののち。
「「わああああああああああああああああああああああっっっっっ?????!!!!!」」
私と美少女――もとい、ハルちゃんは顔を見合わせ声を揃えて絶叫した。
拝啓、お父様お母様。
本日、弟が妹になりました。