過陰
実は、この作品がここ2年で書いた唯一の作品です。
今までのは小4〜中1までに書いた作品を少し手直しして公開していました。
この作品は、小4から今までの俺が求めた、『狂気』の塊とも言える作品だと思います。
呼んで頂けたら幸せです。
怖い。
怖い怖い。
怖い怖い怖い。
今、由美子の心を占めているモノは“怖い”と言う感情だけだった。
(・・あ〜もう・・なんで近道ここしかないんだろ〜・・)
・・今の時刻は午後7時45分。
辺りはもう完全な暗闇と化し、電灯すらないこの暗い道は、会社勤めを始めたばかりの女性の恐怖心を煽るのには、十分な力を持っていた。
オマケに、最近この道では無差別連続殺人事件が起きており、既に5人がその犠牲となっていた。
(もぅヤダぁ・・こんな物騒な場所・・。アパート変えた方が良いんじゃ・・ん?)
恐怖に体を縮こませ、肩を抱きながら歩いていた由美子の目が、前方の電柱の後ろに潜む“何か”を捉えた。
(何・・?アレ・・)
由美子は電柱から10メートル程手前で立ち止まり、目を凝らして電柱を見た。
電柱の後ろに潜む“何か”は、うずくまっている人間に見えた。しかし、辺りが暗く視界が良くきかない上、恐怖心が邪魔をしているだろうから、絶対的にそうだとは言えない。
(どうするの・・?やっぱり引き返した方が・・良いわよね?)
と、由美子は踵を返した。
そのまま引き返そうとした瞬間――。
(待てよ?)
由美子の足は止まった。
(今から引き返して別ルートで家まで帰ったら・・嫌でも40分はかかるわよね・・。・・でも、そんな事してたらドラマ始まっちゃう・・。)
『根っからのドラマ好き』で職場でも有名なOL・浅井由美子は、今の状況も忘れて眉をひそめて考え込んだ。
(私にとってドラマは命!職場では“ザ・ドラマー”と呼ばれる私が、その職場で話題についていけないなんて考えられないわ!しかも今日は最終回!絶対に見逃せない!)
“ザ・ドラマー”こと浅井由美子は決意すると、返した踵をまた返し、電柱を見ないようにして一歩踏み出した。
(そうよ、“アレ”を見ないようにして、早歩きで通り過ぎれば問題無し!第一“アレ”が人間・・、れ、例の殺人鬼だなんて事、ある訳ないじゃない!粗大ゴミかなんかでしょ!全く誰がこんな所に捨てたのよ!迷惑極まりないわ!)
由美子は強引に自分を納得させると、電柱に・・いや、電柱に潜む得体の知れない“モノ”を強引に意識から外し、ドンドン進んで行った。
――電柱との距離が、縮まっていく。
・・8メートル。
・・5メートル。
・・3メートル。
(何も無い!大丈夫!大丈夫大丈夫!!)
1メートル。
(電柱を見るな電柱を見るな電柱を見るな電柱を・・)
ガッ
「ひっ!?」
由美子が電柱の前を通り過ぎた瞬間、“何か”が足を掴んだ。
「いやあぁぁぁああ!!」
由美子は足を掴まれた衝撃とショックで派手に転んだ。
しかし由美子の足を掴んだ手は、それでもまだ足から手を離さない。由美子はパニックを起し、足を掴んでいる手を自由な右足で蹴り捲った。
「ははは離しなささいよ!離して!!」
由美子の蹴りの嵐を受けた手の持ち主は、怯みながらもまだ手を離さなかった。
だが、やはり痛みは感じる様だった。
「痛たたたた!痛い痛いって!!」
「痛いなら離しなさいよ!!」
「分った!分りました!すいません!だから飯を喰わせて下さいぃ!!」
「いーから離しなさ・・飯?」
由美子は多少の冷静さを取り戻し、がむしゃらな蹴りを止めた。
すると、足を掴んでいた手がスッと引いていき、その手の持ち主が難儀そうに立ち上がり、被っていたフードを取り、服の汚れを軽くはたき落とすと、マントを翻して由美子に近付き、手を差し延べた。
「大丈夫かい?」
「あ・・大丈夫・・です・・って。私よりあなたの方が大丈夫?」
由美子は差し延べられた手を取り、立ち上がった。
「僕なら大丈夫。」
「本当?私ガンガン蹴っちゃって・・。」
「いや、こんな暗い道で座ってる僕が悪かったんだよね。ごめん。」
「いや・・」
と、ここで由美子は、自分が“初対面で得体の知れない男”と話している事に気付いた。
「それよりあなた、ここで何してたの?」
由美子はなるべく自然な形になるように、男から一歩身を引いた。
この男が自分に危害を加えないとは限らない・・と言う考えからきた行動。
そして少し顔をあげ、状況と暗闇に馴れて来た目で、男の顔を見た。
(背は低いけど、なかなか良い男ね・・童顔気味だけど。)
「・・何してたか、言うの恥ずかしいな〜・・。」
男は質問の内容に苦笑すると、『童顔気味』と判断された顔を、わずかばかり歪めた。
「恥ずかしい?」
「うん、いやぁ、ね。はは、ちょっと腹減って倒れてたんだよねぇ。」
「・・」
「・・やっぱ格好悪いでしょ?」
「・・あの・・笑って・・いい?」
「どーぞ。」
次の瞬間、由美子の盛大な笑い声が、暗い夜道に響き渡った。
「んまい!んまいよ由美さん!」
「・・あ、そ。そりゃよかった。」
由美子は目の前で炒飯を口いっぱいに頬張る男をまじまじと見つめた。
一見15、6歳くらいに見えるこの男は、既に大盛炒飯6皿を、僅か10分で平らげており、もはや世間で“大食い”と呼ばれる領域を遥かに超えていた。
(良く食べる・・と言うか恐ろしく食べるわねぇ・・。・・いやそんな事より、ついに男連れ込んじゃったなぁ。しかも見ず知らずの浮浪者モドキ。私も甘いって言うか、何て言うか・・ってか、父さんが知ったら泣くだろうなあ。)
と、由美子は溜め息をついた。
それを見た男は、7皿めの炒飯を食べ終えると同時に由美子に問い掛けた。
「・・あの、なんかすいません。」
「別に良いけど、食べ終わったら警察行くからね。君まだ未成年でしょ?御両親が心配してると思うから、警察に連絡してもらってお家帰りなね。」
それを聞いた男は、苦笑しながら答えた。
「あーごめん。俺両親どころか帰る家とかもないんだよ。はは。」
「警察行くの嫌だからって、嘘つかないの。」
「残念ながら嘘じゃないんだよねぇ。つか戸籍とかも無いよ?多分。」
由美子は顔をしかめた。
「じゃあ君何?不正入国でもしたの?もしそうなら尚更警察だよ?」
「はは、参ったなあ。何て言えばいいんだろう。」
男は頭を掻くと、
「う〜ん」と唸って腕をくみ、下を向いた。
由美子も上手い言葉が見つからず、しばしの間、その場に沈黙が訪れた。
「・・そー言えば。」
その沈黙を破ったのは由美子だった。
「まだ君の名前、聞いてなかったよね。教えてくれない?」
「・・ナマエ?」
男は顔をあげ、首を傾げた。
「ナマエ・・ナマエ・・。」
「どうしたの?名前、あるでしょ?」
由美子は怪訝な顔付きになった。
「・・うん、名前、あったよ、確か。」
「あった?じゃ今は?」
由美子は眉をさらに眉間に寄せ、男の顔を覗き込むようにして見た。
「今は・・どうなんだろう。でも昔はあったよ。でも、もう忘れちゃったよ。」
男は照れているように苦笑いした。
由美子は目の前の男を精神病やら脳障害で頭が少しおかしいやらと疑い始めたが、そこそこしっかり応答しているので、もう少し様子を見る事にした。
「じゃあ普段なんて呼ばれているの?なんて呼ばれていたの?」
「普段、俺を呼ぶ人なんていないんだけど、まぁ、強いて言うならちょっと前までリストって呼ばれてたね。」
「りすと?珍しい名前だね。漢字で書けるの?」
「どうだろう?」
「自分の名前が漢字で書けるのかも知らないの!?君日本人じゃないの!?」
「ニホンジン・・?」
「ああ・・もうどうしようも無いわ。君何なのよ。何処から来たの?」
由美子が呆れた様子で問った。
すると男――リストはいきなり真剣な顔になった。
「な、何?」由美子は戸惑った。
リストはそんな由美子にお構いもせずに聞いた。
「ここから先は俺の事聞かない方がいいと思うな。由美さん絶対後悔するから。」
由美子はリストの真面目な顔付きに少し怯んだが、負けじと真面目な顔を作って返した。
「後悔も何も。君の事聞いておかないと、私次の行動とれないんだけど。」
「・・分った。そこまで言うなら話そうか。」
リストは大きく息を吐き、また笑い顔を作った。
「あ、由美さんに言っておくけど、これから俺がする話、絶対信じられないだろうから、別に信じなくてもいいからね。」
「はぁ・・?」
由美子は困惑しながら、そろそろ始まるドラマの録画予約をすべく、席を立ち上がって。
「さて。」
リストが笑い顔で由美子を見つめる。
由美子はドラマの録画予約を終え、先程と同じようにテーブルにリストと向かい合って座っていた。
「最初に僕が何者であるか話そうか。」
最初に、と言うか、それさえ聞ければ由美子は十分だったが、つっこむのも面倒臭いのであえて流した。
「僕は人間じゃない。」「・・。」
先程リストは“信じられないだろうから信じなくてもいい”と言ったが、本当にいきなり信じ難い言葉が出て来たので、由美子はしばし口を開けっ放しにした状態が続いた。
リストは、そんな由美子を見て苦笑すると、話を続けた。
「僕は“過陰”と呼ばれる存在。」
「かいん?」
「そう。簡単に言うと、そうだね、反逆者かな。」
「反逆者?誰に反逆したの?」
「君達が“神様”と呼ぶ存在にさ。」「・・神様?」
理解できない。本当におとぎ話ではないのだろうか。いや、やはり精神病だとか・・。由美子の思考が脳内を暴走する。
「由美さん、この世界は何の為にあるか知っているかい?」
そんな由美子に構わずに、いきなり訳の分らない質問を投げ掛けるリスト。
「・・分らないわ。」
「まあそうだろうね。簡単に言うと“神様”専用の養豚所兼奴隷製作所だね。この世界で良く出来た人間は“神様”の食事になり、それを超えた最高級の人間は奴隷として永遠に働かせて『もらえる』んだよ。それ意外の人間は良質になるまで延々と転生を繰り返すんだ。」
「・・それが本当の話だとして、君は何でそんな事を知ってるの?」
由美子が問う。
「良いとこ突くね、由美さん。」
リストは笑った。
「実はそこがさっき言った“過陰”と繋がるんだ。」
リストは一瞬遠い目をしたが、すぐに元に戻り、話を続けた。「僕は一回“最高級の人間”として死んで、“神様”に会った事があるんだよ。」
由美子は微動だにせず、ただリストの話を聞いている。
「“最高級の人間”は死ぬと、“神様”の前に引き出されて、選択させられるんだ。」
「選択・・?」
「そう。神様に“私に永久に仕えるか、激痛を伴う儀式を経て現世に悪鬼として存在するか、選ぶが良い。”・・ってね。」
「それで?」
「“仕える”を選ぶと、永遠に“神様”の手駒として働かせられる。まあ仕事の殆どは夜伽だね。で、飽きると破壊する。」
「・・後者を選ぶと?」
リストは顔を暗く歪ませた。
「“神様”に逆らった罰として、“過陰”として存在し続ける。まあ大抵のヤツは前者を選ぶよ。存在し続けるなんて苦痛すぎるからね。後者を選ぶのは“神様”になんか使われたくない・・って思ってるヤツだけだよ。」
「・・でも、君は後者を選んだんだね?」
「・・まあそんなもん。僕は“神様”の玩具みたいな存在でありながら、“神様”に背いたのさ。その代償として、死ぬ事は許されないけどね。」
さらにリストは続けた。
「この世界では“死”が最大の安らぎ、喜びだ。それがない僕は、言わば“陽”無き“陰”そのもの。『限度を遥かに“過”ぎた“陰”の塊』。それが僕さ。」
由美子は正体不明の恐怖に唇を震わせた。
リストが嘘を言っているようには見えない。だがこれはあまりにも現実離れした話だ。すんなりと信じる事は出来ない。頭の中が爆発しそうだった。
「どう、由美さん。やっぱ信じられないでしょ?」
「・・。」
由美子は答えられない。何と言えばいいか分らない。
「別に信じなくてもいいさ。まあとりあえず俺出てくね。若い女の人の家に、見ず知らずの男が居ちゃまずいからね。美味しいご飯ありがとう。助かったよ。」
そう言うとリストは立ち上がり、フードを深々と被ると、マントを翻して玄関に向かった。
「待ってっ!」
由美子は叫ぶと、既に玄関の戸を開けて去りかけていたリストの背中に言葉をかけた。
「君、最初私に『聞いたら絶対後悔する』って言ったよね?あれ、どういう意味なの?」
リストは少し間を空けて振り返り、由美子に言った。
「すぐに分るよ、由美さん。」
そう言い残し、リストは夜の闇に消えた。
「お前だな。」
リストが前方に立っている男に話しかけた。
先程由美子とリストが出会った場所。
今リストはそこにいた。
前方に立っている男の右手には若い女の首が握られている。
女の首は左目が見開かれており、右目は視神経に繋がった眼球が飛び出していた。
割られた頭からは液体が生々しく飛び、首の断面からは骨や食道が突き出ていて、刃物などで斬られたのではなく、強引にねじ斬られた事を物語っていた。
「・・なんだお前は。」
男は血塗れの顔をリストに向けると、血走った目で睨み付けた。
「ちと聞くが、お前は過陰だな?」
リストの問いに、男の目が少しばかり動揺を見せた。
「・・お前も過陰か。」
「いかにも。」
リストは答えると、10メートル程男と距離をとり、フードをとった。
「お前、幾つだ?」
リストは男に尋ねた。
「・・12000。」
「若いな。」
リストは笑うと、さらに5メートル程男との距離を縮めた。
「その若さで、気の毒だがな・・。」
「・・何を言っているのか分らんが、そういうお前は幾つなんだ。」
「これから消えゆく存在に何を教えても、無駄であろう。」
「な、にぃ・・?」
男は目をギラつかせると、持っていた女の首を、リストの後ろの電柱に投げ付けた。
先程リストが佇んでいた電柱に首がぶつかり、激しい音をたてた。
女の首は頭から鼻にかけてが飛び散り、電柱は衝撃によって大分抉られた。
「俺とやる気か。馬鹿な奴だ。過陰は死なない。俺もお前も過陰なのだから、争っても無意味だぞ。」
「僕はお前とは違う。過陰を“消す”術を知っている。」
「はったりか。」
男は鼻で笑った。
「ためしてみるか?」
リストは冷たく微笑み、左手を地面につけた。
「レ・レルドラゥワイン」
そして意味不明な言葉を口にした。
――その瞬間。
辺りが真っ暗になった。
普通の“暗闇”ではなく、本当の“闇”。
電柱や民家、道や塀、ありとあらゆる全てが瞬時に消え、リストと男2人だけが存在する空間が出来上がった。
見えるのは自分とお互いの姿のみ。
他には何も無い。
「・・なんだこれ?」
男が不思議そうにリストに聞いた。
「同じ事を二度言わせるな。」
リストは今度は左手を男の向かって左肩に向けた。
「これから消えゆく存在に何を教えても無断なのだよ。」
瞬間、男の左肩が爆発し、左腕がボトリと落ちた。
男は表情も変えず、不思議そうに自分の左腕を見ている。
「どうした、何もしないのか?」
リストは男の右肩に左手を向けた。
「一つ聞かせろ。」
右手を落とされた直後に、男がリストに言った。
「何故俺と争う?」
リストは無表情のまま答える。
「我々過陰は知られてはならない存在。人と言う存在を遥かに超えているからだ。なのにお前のような愚者は、常識を超えた力で連続殺人事件などを起した。当然人間は“常識を超えた存在”・・つまり我々に感付く。我々の存在は知られてはならない。それを邪魔するお前。・・消すしかあるまい。」
「・・なるほど。」
男は軽く頷いた。
「分ったならおとなしく消えてもらう。」
リストは左手を男の首に向けた。
「くくっ、嫌だねぇ!」
それを見た男は驚異的な跳躍力で、6メートル程飛び、真上からリストに襲いかかって来た。
だがリストは少しも慌てず、左手を落ちて来る男に向けた。
「ローラ・ア・レ・クロモン」
また意味不明な呪文のような言葉を発した。
瞬間、リストの左手から無数の赤い玉が出現し、男にぶつかって行った。
「なんだこれはっ!」
男が悲鳴をあげる。
赤い玉は次々と男にぶつかっていく。
そして、ぶつかった瞬間に小規模な爆発を起し、男の肉を削り取って行く。
最終的に、男の体は全て細かな肉片と化し、頭だけが残った。
その首から上だけになった男が叫ぶ。
「何故お前は神と奴隷共のみが使える“パスト・リル”が使えるんだ!あれは神が編み出した禁断の呪術!下界に行く事の無い奴隷達にしか教えないはずなのに・・!」
リストは男の首を見下ろしながら言った。
「このままじゃ再生を続けて手に終えない。早いところ消させてもらう。」
「まだだぁっ!」
男が叫ぶと、肉片が次々と首にあつまり、 体を形成していく。
「まだ・・」
「消えよ。」
リストが男の声を遮って、左手を男に向けた。
「ディ・ラーン」
リストの左手から大きな光玉が現れ、男を吸い込んで行く。
男は声を発する暇も無く、完全に光玉に吸い込まれた。
するとリストは、マントの内側に仕込んでおいた刃渡り30センチ程のナイフを取り出し、光玉に刺した。
光輝く光玉が見る見るうちに赤黒く染まり、完全にその色になった瞬間、光玉が砕け散った。
「さらば。」
リストは言い残すと、“闇”が消えると共に姿を消した。
頭が痛い。
昨日、あの男――リストの話を聞いてから、全く眠れず、馬鹿らしい事に考え過ぎで熱まで出た。
だから今日は会社を休み、一日中ベッドの上で過ごしていた。
・・そのかいあってか、随分と楽になり、夕方にはそれまで何も食べていなかった反動からか、とてもお腹が空いていた。
そして買い物に行こうと扉を開けたら――。
そこにはにこやかな顔をしたリストが立っていた。
「由美さん、顔色悪いけど、大丈夫?」
リストが心配そうに尋ねた。
「平気。それよりこれからご飯作るんだけど、食べてく?」「いや、僕は由美さんに用があってきただけだから、用件が済んだらすぐ消えるよ。」
「用?」
由美子が尋ねる。
「昨日、由美さんに言ったよね?『絶対後悔する』って。」
「ああ・・。」
由美子は顔を僅かに曇らせた。
「やっぱり由美さんは後悔してしまうよ。」
「・・それ、どういう意味――」
リストが振り返った。
マントが翻る。
そして、それと同時に由美子の首に軽い衝撃が走った。
「リストく・・?」
何故か視界が上を向いていく。
視界からリストが消えていく。
「ごめんね由美さん。僕は過陰。知られてはならない存在――。」
「リス・・ト・・」
「ごめんね――由美さん。」
視界に立ったままの自分の体が映った。
首から上が消失し、赤い液体が噴出している。
「さよなら。」
最後に聞こえたリストの声。
僕は過陰。
ボクは過いン。
ボクハカイン。
ボクハ、カイン。
カイン。
「か・・いん。」
如何でしたでしょうか。
御感想、誤字脱字などがございましたら、報告していただければなぁ、と思います。