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いろんな人がいろんなところで

美穂

掲載日:2026/03/18


合コンの席は、照明が少し落とされ、グラスの氷が時おり小さく鳴っていた。

美穂は笑顔を絶やさず、場の空気を読むのが得意なタイプだ。だからこそ、陽子の突然の大声は、空気を裂くように響いた。


「美穂って人の彼氏取りそうなタイプだよね」


その瞬間、テーブルの上に置かれたグラスが、ひとつ、またひとつと動きを止めた。

美穂は一瞬だけ息を呑んだが、すぐに柔らかい笑みを浮かべた。やられたらやり返す。

怒りを見せるより、周囲を味方につける方がずっと効果的だ。だからすぐに行動した。


彼女は席を立ち、近くの女の子たちに小声で相談した。


「今の聞いた? こんなこと言われて、どうしよう」


返ってきたのは、予想どおりの言葉だった。


「美穂が可愛いから妬んでるのよ。気にしないで」


本音はどうあれ、表向きはそう言うしかない。

だが、美穂はそこで終わらなかった。彼女は参加者全員に、同じ質問をして回った。男性にも、女性にも。


その中の一人、普段は目立たず、会話の輪にも積極的に入らない男性が、静かに口を開いた。


「妬んでいるからって決めつけるのはよくないね。冗談だとしても、質が悪い冗談だよ」


その言葉は、まるで合図のように場の空気を変えた。

他の参加者たちが次々にうなずき、陽子をちらりと見る。陽子は下を向いたまま、顔を上げられなかった。

結局陽子は、妬んでいるから、今の言葉を言ったことになってしまった。


美穂は胸の奥で、ひそやかに笑った。

こんなにうまくいくとは思わなかった。


会の終わり、先ほどの男性が遠慮がちに声をかけてきた。


「あ、あの……よかったら、今度……食事でも」

さえない相手だ、と美穂は思った。

だが、今日の出来事を知っている人たちの前で断るのは得策ではない。

美穂はにっこりと微笑んだ。


「はい……わたしでよければ……」


数週間後、彼が地方の有力者の跡継ぎだとわかった。


驚きはしたが、迷いはなかった。

美穂は本気で彼を取りにいった。

丁寧に距離を縮め、誠実さを見せ、彼の家族にも好かれるよう努力した。


そして一年後、二人は結婚した。


披露宴の夜、美穂はシャンパンを口に運びながら、ふと思い出した。

あの合コンでの陽子の一言。


もしあれがなければ、彼と出会っても、きっと恋人にはならなかっただろう。


美穂はグラスを傾け、心の中でつぶやいた。


――陽子、ありがとう。


その声は誰にも聞こえなかったが、美穂は大満足で微笑んだ。




いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

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