美穂
合コンの席は、照明が少し落とされ、グラスの氷が時おり小さく鳴っていた。
美穂は笑顔を絶やさず、場の空気を読むのが得意なタイプだ。だからこそ、陽子の突然の大声は、空気を裂くように響いた。
「美穂って人の彼氏取りそうなタイプだよね」
その瞬間、テーブルの上に置かれたグラスが、ひとつ、またひとつと動きを止めた。
美穂は一瞬だけ息を呑んだが、すぐに柔らかい笑みを浮かべた。やられたらやり返す。
怒りを見せるより、周囲を味方につける方がずっと効果的だ。だからすぐに行動した。
彼女は席を立ち、近くの女の子たちに小声で相談した。
「今の聞いた? こんなこと言われて、どうしよう」
返ってきたのは、予想どおりの言葉だった。
「美穂が可愛いから妬んでるのよ。気にしないで」
本音はどうあれ、表向きはそう言うしかない。
だが、美穂はそこで終わらなかった。彼女は参加者全員に、同じ質問をして回った。男性にも、女性にも。
その中の一人、普段は目立たず、会話の輪にも積極的に入らない男性が、静かに口を開いた。
「妬んでいるからって決めつけるのはよくないね。冗談だとしても、質が悪い冗談だよ」
その言葉は、まるで合図のように場の空気を変えた。
他の参加者たちが次々にうなずき、陽子をちらりと見る。陽子は下を向いたまま、顔を上げられなかった。
結局陽子は、妬んでいるから、今の言葉を言ったことになってしまった。
美穂は胸の奥で、ひそやかに笑った。
こんなにうまくいくとは思わなかった。
会の終わり、先ほどの男性が遠慮がちに声をかけてきた。
「あ、あの……よかったら、今度……食事でも」
さえない相手だ、と美穂は思った。
だが、今日の出来事を知っている人たちの前で断るのは得策ではない。
美穂はにっこりと微笑んだ。
「はい……わたしでよければ……」
数週間後、彼が地方の有力者の跡継ぎだとわかった。
驚きはしたが、迷いはなかった。
美穂は本気で彼を取りにいった。
丁寧に距離を縮め、誠実さを見せ、彼の家族にも好かれるよう努力した。
そして一年後、二人は結婚した。
披露宴の夜、美穂はシャンパンを口に運びながら、ふと思い出した。
あの合コンでの陽子の一言。
もしあれがなければ、彼と出会っても、きっと恋人にはならなかっただろう。
美穂はグラスを傾け、心の中でつぶやいた。
――陽子、ありがとう。
その声は誰にも聞こえなかったが、美穂は大満足で微笑んだ。
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