裏で陰口を叩かれる第三王女が女王になるまでのお話
『気味が悪いんです。この前のお茶会なんて、彼女のカップだけ何もしてないのに割れて……』
『第三王女様には何か取り憑いています。ええ、私がお部屋に呼び出しに行った時も、窓にたくさん動物の血が……』
『夕食の時も、お嬢様が食べようとしたスープが目の前でビューンと飛んでいってしまったんです。魔法も使ってないのに……』
ーーー以上、ナミナ国第三王女『マリィ・クレヴェール』の評判。
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「我が娘、マリィよ。お前の入学先が決まった。お前はこれよりメチトリの街に向かい、そこにあるルドベキア魔法学園に通うのだ」
王座の間に静かに響くお父様の声。
メチトリは確か辺境の街……厄介払いか。
私……『マリィ・クレヴェール』はそんな思考をする。
「ふふっ、ごめんねぇ。我が妹がこんな怪奇現象ばかりに巻き込まれていたら、心配になっちゃって!私、いい姉でしょ?」
王座の横で笑って私を見下すのは第二王女の『シクラ・クレヴェール』。
いつも姉妹などどうでもいいと言っているくせに、王座でわざわざそんなことを言うとは。
よほど私のことが嫌いと見える。
「ええ、ええ。なので貴方の婚約者、ミステリアスでかわいいクレオウメ家の次男くん!私が結婚してあげる。貴方はあの辺境……いいえ、ルトなんとか魔法学園で慎ましく頑張ってねェ?」
……男目当てかよ!?
思わず声に出そうになった気持ちを奥へ奥へと沈め、とりあえず『わかりました』とだけ言って王座の間を退出しようとドアの方へ向かう。
「ああ、本当に残念。あの次男くんも可哀想よねぇ……元婚約者がお手“憑き”だったなんて……」
去り際に一言、シクラ姉さんが捨て台詞を私に放ってきた。
……あの人、よほど暇なんだろうな。
一礼してすぐに部屋から出た。
廊下を歩き、自分の部屋に向かう。
……メイドからの視線がすっごく厳しい。
おおかた早く出ていけとか、いなくなれ、とかそういう非難の視線。
「はぁ〜あ」
ため息をつきながら、自分の部屋の前まで到着。
部屋にはもう荷物が準備されていた。
……よほど早く立ち去って欲しいんだなあいつらは。
「言われなくても出て行きますよーだ……」
荷物を持ち、再び廊下へ。
メイドの視線が警戒から安堵に変わっているのに嫌気を覚えながら、屋敷の外まで歩く。
外にはすでに馬車が停まっていた。
ついてくる従者はいない、私と馬車の運転手二人っきり。
最初に運転手から説明があって、メチトリまでは三日かかるらしい。
「それじゃあ、出発しますんで」
私はその言葉に頷きで返す。
肯定ととった運転手は馬の綱を引き、馬車は辺境の街にむかって動き出した。
三日の長旅も終わり、街の門前。
「つきやした、長旅ご苦労さんです」
そう言って私を降ろし、馬車はどこかへ行ってしまった。
……とりあえず街に入ることとしよう。
街は比較的普通であった。
辺境だからといって人々が陰鬱な雰囲気だと言うこともなく、かといって騒ぎ立てているほどでもない。
街といったらこんな感じ、を体現しているようなとこだ。
そして門から結構離れた一本道の終着点。
そこに、ルドベキア魔法学園はあった。
西洋と東洋の建物が混ざったかのような建物が特徴的だ。
入り口に入ろうとして……誰かいるのに気づいた。
目が合う。
「……キミ、ナミナ国の第三王女?」
「そうですけど」
近づいてきたスーツ姿の女性。
背が私よりも圧倒的に高く、赤色の髪をポニーテールでまとめている。
「ああ怪しい者じゃない、私はここの先生、アキカサ・レウターンだ。よろしくね」
そういって手を差し伸べてきた。
こちらからも手を差し出し握手をする。
……なんか握る力強くない?
「……君さ、王族だよね。お腹減ってない?」
「は?」
初っ端から生徒に金をたかる先生はどこにいるのだろうか。
ここにいた。
「いやー本当ありがとね!すっごいお腹減っててさ」
「それはどうも……それで、このルトべキア魔法学園って何学ぶんですか?」
せっかくのいい機会なので聞きたいことを聞く。
払わなくていい食べ物代払ってんだぞこっちは。
「んー。うちはねぇ、まあ魔法学園って名乗ってるくらいだから魔法と……“力の使い方”かなぁ」
「力の使い方……ですか。随分スピリチュアルですね」
「私魔法の方がそうだと思うけどなー!原理がわかんないのに使えるから使っちゃおうなんて怖ーい……原理がわかってた方がさ、対処しやすいじゃない?」
そう言って私を見るアキカサ先生。
「たとえば、君の周りに起こる怪奇現象とか。原因がわかりやすくていいよね」
アキカサ先生が食べ終わったのち、私たちは再び学園への一本道を歩いていた。
……先生には、私に怪奇現象が起こっている理由がわかっているみたいだ。
ならさっさと教えて欲しいのだが。
「ふぅ。腹もいっぱい、食後の運動もグー。さあ、同級生との対面といこう!」
元気いっぱい、と言う感じの先生。
転校生が来ると聞いてはしゃぐタイプの人間は私とは相容れないので、距離をとりながら先生についてゆく。
「到着。あ、そうだ言い忘れてた。きみで一年生は3人目だ。うちは少人数だから」
「少ない割に教室が広くありませんか?」
「フツーに設計ミス。じゃあ10秒したら入ってきてね」
先生はそう言って『おっはよー!』と元気よく教室に入っていく。
そこから十秒数えて、教室のドアを開けた。
「ということで、転校生のマリィちゃんでーす!」
タイミングは完璧。
教室に足を踏み入れる。
と、同時にお札とナイフが私の後ろの壁につき刺さった。
「……え?」
飛んで来た前方を見ると、明らかな殺意を持ってこちらを睨んでいる二人の女子。
黒髪ロングの着物を着ている少女。
もう一人は、ナイフを数本持ったままの青髪ツインテール、パーカーを着ている少女。
「先生。この方は『ルフ』の気配がします。即刻殺害の許可を」
「……やべぇっすね、本気でやんなきゃ勝てないか?」
「転校生って言ったでしょーが!」
一瞬で彼女らの真後ろに現れた先生が、二人を思いっきりゲンコツした。
痛みにうめいている彼女たちをよそに、先生はこっちを向いて話し始めた。
「殺気高くてごめんねー。でもまあ君の怪奇現象の原因はそれほどまでにやばいやつでさ」
「……なんなんですか?その原因って」
「ルフ。“人類天敵“の一体だ」
人類天敵……?
聞いたこともない単語に首を傾げていると、先生がさらに話しを続けた。
「人類天敵は、人類が滅亡する可能性の一つとして生み出される化物のこと。今この世界で発見されているのは疫病、魔王、生物の三種。君に憑いているのは『疫病』だ」
「そうです、でもまだオーラは弱い……今殺せば対処も、って痛い!」
「だーから、転校生だってんでしょーが。それに彼女はルフ自身じゃないよ。ルフが身近にいたせいで、ルフの強すぎる力を自然に取り込んでしまっただけさ」
途中また札を投げられそうになったものの、先生がなんとか止めてくれた。
……ルフ云々よりも、今後この人たちと仲良くやっていける自信がない。
「ファーストインプレッションは最悪だけど……まあ大丈夫だよね」
「「「大丈夫じゃない(っよ)(です)!!!」」」
「お、息ぴったり」
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少し落ち着いて、三人ともとりあえず教室で先生の話を聞いている。
……二人からの熱い(殺意の)視線が厳しい。
「さっき言った通り、マリィはルフと接触したことによりああなってんだよね。何かそれっぽいやつ知ってる?」
「……知らないですよ。そもお城に変な人がいたら大問題です」
本当のことだ。
私はあまり外には出ない、どちらかというと本を読むのが好きなタイプである。
なので結構殿方のと話も合うことが多い。
……まあそのせいでシクラ姉さんに嫌われているのだろうけど。
「……そっか。じゃあ、とりあえず親睦会ってことで三人は東の森で魔物退治ね。私は用事があってついていけないから、サボっちゃだめだよ〜」
「正気ですか先生!?この方がルフじゃないという確証もないでしょう?ただ力を押さえているだけかも……」
「じゃあみんな仲良くねー」
先生は着物の少女の抗議も聞かず、颯爽と教室から出ていってしまった。
……空気が絶望的に悪い。
そんな中で、青髪ツインテールの少女が口を開いた。
「ま、センセーが信用してんなら大丈夫っすかね。さっきはすみませんでしたね、マリィさん。アタシはアベリア・ソロレード。タキ国のしがない一般市民です」
「アベリア!」
「もー、ナデシコさんは気にしすぎっすよ。あのセンセーが大丈夫ってんなら平気じゃないですか?」
「……はぁ、マリィと言いましたね。私はナデシコ・フヨウ。あなたのことは信用していませんので、そのつもりで」
ようやく名前を知れた。
ナデシコさんとアベリアさん。
……殺されかけたのに、自己紹介なんて本当に変な気分だ。
「改めて、私はマリィ・クレヴェール。さん付けとかはいらないわ。よろしく」
「よろー。そんじゃま、面倒だけど魔物退治行っちゃいましょうか」
「そうね」
「じゃ、マリィついてきてくださいっす」
……なんか思ったより軽い。さっきまでの緊張感が嘘のようだ。
少しの不信感を覚えながらも、彼女たちについていき東の森へ向かった。
東の森は、名前の通りメチトリの街から外に出て、東にずっと向かうとある。
そこでは木についている葉の色が紫に変色しており、動物も凶暴化してしまっているとのこと。
そのためよく退治のために私たちが呼ばれるそうだ。
「にしても、歩きなんですね」
「馬車を使っても良いけれど、自費から出さなければいけないからあまり使わないの」
「……いっそのこと馬車買いたいっすね」
三人で話をしながら、ひたすらに東へと向かう。
アベリアとは少し仲良くなれた気がする。
反対に、ナデシコは冷たい反応が多い……やっぱ警戒されてるのか。
「そういや、マリィは何で戦うんすか?」
「私?うーん、氷魔法かな。初級しか使えないんだけど、全く使ったことない剣よりかはマシだし……」
ふと、思い出す。
そういえば元婚約者の彼は何の魔法を使っていたのだろう。
剣が得意とは言っていたが……まあいいか、私にはもう関係のない話だ。
「そうっすか、そしたら後ろにいてもらった方がいいですかね」
「……私はまだ後ろは任せられない」
「じゃあ私が前線に出るんで、ナデシコさんは後方で札の支援よろです」
「承知したわ」
その会話から数分後。
紫の葉っぱのなる木が、奥に奥にと続いている。
まるでおとぎ話のようだ。
「ここからは、魔物がいつ来るかわかんねっす。二人とも十分に注意をお願いするっす」
「おっけ」
「ええ」
そうして私たちは、紫の森に足を踏み入れた。
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「確か、凶暴化したホノオオオカミがテツヒツジを異常に食ってしまうのがまずいので、そいつの討伐が今回の目標ですよね」
「ホノオオオカミは文字通り炎魔法を打ってくるっす……っつ!静かに。巣ありました」
「……確かに、目が赤い。凶暴化しているわね」
しゃがんだ体制から巣の方を見る。
毛の一部が燃えているオオカミが、数匹洞窟に集まっている。
しかも同族を喰って……!
「まずはナデシコさん、鈍化の札を使ってくださいっす。その後アタシが突撃します。マリィさんはなるべくアタシに当たらんように魔法を!」
そう言ってかけ出すアベリア。
横を見ると、ナデシコがアベリアに言われた通り、すぐ札を生成していた。
『札よ、鈍化を命ずる。その能を示したまえ!』
飛んで行った札が、オオカミたちの足元に突き刺さる。
それに気づきオオカミがこちらに来ようとして……全く進んでいない!
私はその状態のオオカミに、氷の弾丸を打ち込む。
『氷削:結晶弾!!』
「ナイスっスよ!」
ナイフで踊るように獲物を狩るアベリア。
当たらないように、こちらも弾丸を展開しどんどんぶつけてゆく。
数分後、凶暴化した個体は全て狩ることができた。
「ふぅ……ミッションクリアっすね」
「よかったぁー。アベリア、ナデシコも……ありがとう」
「……どうも」
……うん、少し仲良くなれている気がする!
少なくとも殺されるような関係からは進展している。
「じゃあ帰りますかね」
「ええ、そうね」
森から出ようとする二人についてゆく。
……ん?
ナデシコの後ろ、に何か……っつ!
「ナデシコ、危ない!」
「え、キャァ!?」
ナデシコを突き飛ばし、後ろからの攻撃を受ける。
……痛い!ただ炎とかではない、氷魔法でギリガードできるくらいの威力!
「マリィ!っつ、そこっすか!」
アベリアのナイフが影へと飛んでゆき、敵に刺さる。
すると、影から姿を現したのは。
「最悪。あれは……ゴーレムじゃねえすか?」
石の肉体に、怪しく光る目。
全ての指が銃のようになっており、そこから魔力を射出する。
全身砲台……それがゴーレムである。
赤い目ってことは、言うまでもなく凶暴化してる……!
「ナデシコ!」
アベリアが叫ぶ。
しかし、ナデシコは動けない。
「アベリア、こっちは任せて!『氷砕:雪破片』!」
全力で走って、氷魔法を発動。
結晶を砕いた破片によって、ゴーレムからの全方向攻撃を防ぐ……!
「あ……マリィ、どうして?私、あなたを殺そうとした。最初の自己紹介の時だって、あやまりもしなかったのに!?どうして、庇ったの……?」
それ今聞くこと!?
と言いたい気持ちを強く抑えて、私は答える。
「私、王女なの!だから優秀な人材ってのは、殺さず活用するのがエレガントってもんでしょう!?」
破門に等しい状況だとしても、貴族としての誇りが私を突き動かす。
民は守るもんだし、優秀な人材は使う。
上の姉様たちは「下のものを守るなんて」と馬鹿にしていたけど、私は違う。
「だから、本当に私に申し訳ないと思ってんなら……私に活用されなさい!」
「マリィ……」
破片が溶けてゆく。
ゴーレムを悔い止めているアベリアももう限界に見える……。
ジリ貧一方……どうすれば。
「……わかった。活用されるわ、あなたに」
立ち上がったナデシコは札をもち、雪破片の範囲外に出ようとする。
……正直、ナデシコでもゴーレムには勝てない。
ふと、浮かんだ方法を実践してみようと思った。
私はナデシコの札に、◾️◾️を付与した。
すると、付与された札が地面に落ちて、染み込む。
そこがまるで黒い沼のようになり……ナデシコの目の前に地面から一本の刀が現れた。
「ツバキ」
その刀の名を、私はつぶやく。
罪を犯した者のみ触れることのできる、疫病の刀。
『札よ、炎化を命ずる。その能を示せ!』
ナデシコはツバキを地面から抜き、札でゴーレムを燃やす。
しかしまだゴーレムは止まらない。
「アタシがいるってこと、忘れんなよこの石頭ァ!『連鎖:狩人の罠』!」
アメリアがゴーレムの後ろから現れ、魔法でゴーレムの動きを鎖で止める。
「ナデシコ、今!」
「連なる花に咲き乱れ、『つらつら椿』!」
紅色の一閃が、頑丈な石の体を二つに断つ。
ゴーレムは叫びもあげず、あるいは自分が斬られたのにも気付かず。
そのまま、地面に倒れていった。
「ふぅ……これにて、御免ね」
そう、これにて終わり。
本当の本当に引き上げるだけである。
「マリィとナデシコの間に何があったのかとか色々聞きたいんすけど……今は早く出ましょうか!次あったらやばいんで」
「そうね。マリィは私の背中に」
「……ありがと」
そうして、私たちは東の森を後にした。
「へぇ……やっぱ使えんのか」
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あれから2週間がたった。
私も魔物退治に慣れてきて……氷魔法の新たな可能性を広げるのに成功。
ただ、本来の目的『怪奇現象の原因を取り除く』はまだ達成できていない。
そんなある日、先生から衝撃の報告があった。
「ナミナ国の王族が全員惨殺された。ちょうど第一王女もいた時に行われたそうで、ナミナ国の血筋は君だけになってしまった」
「は?」
「もう一度聞く?ナミナ国の「違いますよ……!」」
「ふざけないでくださいよ!?どうして、どうして殺されたんですか?何かあったんですか?」
「……ルフだ。君に接触してきた奴が、本格的に動き始めた。今回の事件で正体もわかった」
「誰ですか?」
「君の元婚約者。君との婚姻解消後に第二王女シクラ・クレヴェールが婚姻関係を結び、ナミナ国王の城に連れてきた『トリト・クレオウメ』だ」
その言葉を聞いた瞬間、背筋が凍ったような感覚に襲われた。
私の知っているトリトは普通の好青年である。
一度顔合わせをしただけで、その後会わなくなったが……まさか。
「ごめん」
「……なんで謝るんですか」
「君たちが東の森に行ってた時、私はシクラと話した。でも彼女は君への恨み僻み、自分がいかに素晴らしいかしか語っていなくて、私の忠告など効きはしなかった……」
先生は、息を吸って先を話す。
「でも、従者たちは全員命がある状態だそうだ、助かった人は皆、『王女と女王、王様に助けてもらった』と……」
「……姉は、そう言う人です。私だって嫌いですもん、シクラ姉さん。第一王女のデルフェ姉さんも嫌いです……嫌い、なん、でず……」
涙が、溢れてくる。
相手が嫌っていても、私が嫌いでいても、たった三人の血のつながった人。
いなくなった、もう会えない、もう聞けないその声が、脳内でこだまする。
『ばかねぇ、そんなこともできないの?』
『アンタにクレオウメ家から縁談!?は、ふざけ……ちょっとお父様ー!』
『……縁談…、どうだった?そう、あー……今日ぐらいはいいわね、お疲れ様。よく、頑張ったわね』
「う、ううう、うわ、ぁ」
どうしょうもなかった、けど金賞をもらえるような姉たちに思いを馳せて、泣きじゃくった。
泣いて、泣いて、先生の前でみっともなく泣いて……。
「はぁ…………すみません、先生」
「いいよ、別に私のせいでもある。」
しばしの沈黙が流れる。
きっと私には勇気のいる言葉でも、先生にはお見通しなのだろう。
「……私を、ナミナ国王の城に連れてってください」
「何のために?」
「私が、ナミナ国の王女だからです」
先生は頷き、話し始める。
「きっと、ルフは何千もの兵力を持っている。そのため、こちらも全勢力を持って迎え撃つ。君は城に一人で潜入し、ルフを打つんだ」
準備はいいか、と目で訴えられている気がした。
「はい」
そうして、決戦が始まった。
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ナミナ国の城は、おどろおどろしく変わっていた。
白かったかべは赤く染まり、ところどころに黒い植物が生えている。
まさしく、魔境と呼ぶに相応しい城であった。
「はぁ〜あ」
まるで、城を出ていった時と同じようなため息が出る。
今はもう出ていけ、という目線はない。
ただ靴音だけが響く廊下を一人、歩いている。
王座の間についた。
息を吐いてから、ドアを開ける。
「どうだった?俺の城は」
「開幕一言目がそれ?」
悪趣味な壁紙に、悪趣味な椅子。
そこに座っているのは……ルフ。
人類天敵であり、人類が乗り越えなければならない滅びの一つ。
「いいだろ、俺はこういうデザインが好きなんだ。ん、そうだ。もっと戦いやすい感じにしてやろう」
トリト・クレオウメの姿が歪む。
グニャグニャと、まるでハンバーグでもこねているように形が変わる。
「どうだ、童顔じゃない。ラスボス風イケメンになったろう」
茶髪のオールバックに、吸血鬼が着るような襟がすごい長い黒コートを羽織っている。
なのに中はワイシャツ。下は黒のジーパンだ。
「コスプレみたいだね。人類天敵ってのは給料出ないのか?」
「ふっ、お前を倒せば出るかもなぁ!『血脈:二枚刃刺巳』!」
ルフが魔法を唱えた瞬間、私の左右に血の刃が召喚された。
私を真っ二つにしようと避けられない速さで迫ってくる……!
『氷砕:雪倉!』
雪の壁を作り、刃を凍らせてルフへの攻撃へ移る。
「あんた、血魔法を使うんだね。初めて知ったよ!」
「知ってもらえて光栄だなぁ!」
氷の弾丸を生成。
これを砕いてさらに細かく……!
『氷削砕:結晶合戦!!!』
千の弾丸が、ルフの体を貫く。
常人ならば確実に死に至るほどのダメージ。
「痛ってーな」
それが、人類天敵でなければ。
「言われたろ?人類天敵には弱点が一つしかない。それ以外の攻撃は意味をなさないってなァ!」
血の刃が四方八方から飛んでくる。
こっちの攻撃の間に詠唱を終わらせていたのか……!
残っている雪倉をかき集めて壁を作り、何とか耐える。
「なあ、マリィさんよ。もういいんじゃねえか?」
急に、血の刃での攻撃が止んだ。
「……何?」
「俺はアンタにとっていいことしかしてないと思ってるんだ。アンタ、家族嫌いだったろ?あんなこと陰で言われて、報復したかったろ?俺がそれを全部してやった。従者は逃しちまったけどな」
「……」
「どうする、仲間になるか?どーせ何したって俺には敵わない」
決めた。
もう奥の手を使う。
理由?単純明快……怒ったからだ。
「あのね……自分でしない復讐に、スカッともザマァとも思わない!当事者じゃないお前にやられたってなっんの意味もないわ!」
右手を天に掲げ、あの時のように、ナデシコの札に付与した魔法を発動する。
その魔法の名は『抗体』。
病魔を防ぎ、守る力。
「っつ!貴様……そうか、俺の力を取り込んでいたから、自身の肉体で抗体を作ったのか!?」
「正っ解!さあ、終わりにしましょう、『万鎖一掃』!!!」
アベリア、ナデシコと一緒に特訓した、二人の思いが乗っかった剣。
重なった鎖の剣が、ルフの肉体を真っ二つにする。
「くっそ、なぜ、なぜ……ガァぁあぁぁぁぁぁ!!!!!」
再生はさせない。
ルフに残されているのは、完全な消滅のみ。
「……」
完全に消滅し届けたのを見て、王座の間から出ようとする。
……ああ、言い忘れていた。
「行ってきます」
そう言って、私は部屋から出た。
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『女王様はすごいわ!!この前、魔物が現れたのだけれど瞬きの間に倒してしまったの!一体どんな手を使ったのでしょう……!』
『側近の……アベリアさんとナデシコさん?もめちゃかっこいいよな!俺も大人になったら刀使って戦うんだー!』
『お食事の作法もきれい!いつか私も、ああいうお姫様になりたいんだ!』
ーーー以上、ナミナ国代表女王『マリィ・クレヴェール』の評判。




