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去年と今年の間に


雪は、年が明ける少し前から降りはじめていた。


大晦日の夜。

健太は駅前の時計台の下で、

立ち尽くしていた。


人々は笑い、

カウントダウンの準備をしている。


それなのに彼の胸は、ひどく冷えていた。

――去年は、良かった。

仕事も、人間関係も、何もかもがうまく回っていた。


それに比べて今年は、

失ったものばかりが目につく。


年が変わるというだけで、その差が突きつけられる気がして、健太は一歩も動けなかった。


「……寒」


その瞬間、雪が強くなった。



視界が白くにじみ、周囲の音が遠のく。

気づくと健太は、

見覚えのない商店街に立っていた。

古い看板。

閉まったままの店。

軒先に積もる雪。


――ここ、前に来たことがある。


スマートフォンを見ると、画面には

一月二日 午前十一時

と表示されていた。


それは――

健太にとって、

一番うまくいっていた年の正月だった。

胸が締めつけられた。

あの頃の自分は、

迷いがなかった。

未来を疑っていなかった。

歩き疲れて、

健太は路地の角でしゃがみ込んだ。



すると、背中越しに声がした。

「そんな顔してると、雪が溶けないぞ」

振り向くと、ベンチに腰掛けたおじさんがいた。

年の頃は六十くらい。

手には缶コーヒーが二つ。

「ほら、あったかい」

健太は無言で受け取った。

缶の熱が、指先からじんわり伝わる。


「去年と比べてるんだろ」

「……はい」

「そりゃ寒いわな」

おじさんは笑った。


「いい年ってのはな、戻る場所じゃない」


「え?」

「寒い年に、温まり方を教えるためにある」


雪が、静かに降り続けていた。


「比べるなとは言わん。でもな」

おじさんは空を見上げて続けた。


「去年のお前が今のお前を見たら、こう言うと思うぞ。

“ちゃんと生き延びてて、えらい”ってな」

健太の喉が、ひくりと鳴った。



「年と年のあいだにはな、

こういう場所がある」

「……ここは?」

「冷えたやつが、温まり直す場所だ」


次の瞬間、雪が一段と強く舞った。


―――

健太は、再び駅前に立っていた。

カウントダウンの声が響く。

十、九、八――

手の中には、もう冷えた空き缶。

でも、胸の奥は不思議と温かい。

三、二、一――

年が明けた。


健太は空を見上げ、雪を受け止める。

去年は、良かった。


でも今年は、ここから温めていけばいい年だ。

そう思えた。


健太はコートの襟を立て、歩き出す。

雪の中、新しい年は、

ちゃんと彼を待っていた。


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