1.青雲門の弟子試験
最弱孤児の私が、冷血剣姫と謎の薬師と組んで修仙界を生き抜く!
しかし試験は魔修の罠だった──覚醒した禁忌の力で、
仲間を守り、世界の真実に挑む逆襲ストーリー!
冒頭:転生者の不安
青石の広場を吹き抜ける風が、道服の裾をひるがえす。握りしめた手のひから汗がにじみ、木剣の柄が滑りそうだった。喉の奥には、鉄のような味が広がっている。──あの日から、もう一ヶ月か。
交通事故で死んだ高校生・小林悠真は、この修仙世界に「林無涯」として転生した。黒髪の少年、年齢は十五歳。しかし、この身体に刻まれた記憶はない。ただ、胸に浮かぶ接引使の言葉だけが残っていた。『仙界大劫を止める鍵は貴方にあり』
「次は……私の番だ」
前方で試験官の名を呼ぶ声が響く。見上げた巨大な門には、龍の彫刻が陽光を浴びて輝いている。青雲門への入門試験。三百人中、合格は三十人と言われる。失敗すれば、またあの路頭に迷う日々が待っている──
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試験開始前:孤独な賭け
広場の片隅で背もたれに凭れ、周囲の受験者たちを観察する。大半は貴族の子弟らしい。霊石をあしらった装飾品、名工の剣。対する私は、門が支給した木剣とボロ布のような道服だけだ。
(蘇璃……あの銀髪の少女か)
視線の先には、群衆から自然と距離を置く少女が立っている。青い道服の袖に刺繍された剣の紋章。青雲門直系の家柄だと噂される蘇璃。彼女なら、一人でも試験を突破できるだろう。
(でも、もし組めたら……)
掌の傷痕が疼く。一週間前、街外れで野良犬に襲われた時、誰も助けてくれなかった。この世界で生き残るには、強さか、仲間か──
「次の受験者,林無涯!」
鼓動が早くなる。深呼吸して立ち上がる。孤児院で飢えを凌いだ日々より,ずっとましだ。自分に言い聞かせる。
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試験開始:決意の一歩
「第一の試練,迷霧の森を突破せよ。日没までに霊草『朱月花』を三本持ち帰ること」
白髪の長老の宣告に,周囲からため息が漏れる。森の入り口には既に十数組のチームが消えていった。誰も孤児の私に声をかけない。
(一人では無理だ。あの蘇璃に……)
足が震える。貴族の娘に話しかけるなど,蟻が象に挑むようなものだ。それでも,木剣の柄を握りしめる。
「す,すみません! 蘇璃さん,組んでいきませんか?」
声は裏返り,額に汗が伝う。蘇璃はゆっくりと振り向いた。氷のような瞳が私を貫く。
「下賎の者が私に話しかけるとは。垢抜けぬ木剣と,その汚れた道服を見ろ。足手まといになるだけよ」
膝ががくんと折れそうになる。でも,諦めきれない。
「でも,森の地形なら──」
「無駄だ」彼女は冷たく言い放ち,一人で森へ消えた。
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出会い:謎の薬師
肩を落として佇んでいると,薬草の香りが近づいた。
「君,面白い存在だね」
振り向くと,薬篭を背負った青年がにやにや笑っている。名札には『陸明軒』。高級生地の道服に,どこか飄々とした雰囲気。
彼の視線が私の左手首に止まった。「……その痣、痛むか?」
「え? いえ、ただの痣です」
「ふうん」陸が薬篭から赤い丹薬を取り出した。「百年ぶりにこんな痣を見た。……まあ、いいや。僕の『破瘴丹』と引き換えに、チームを組まないか?」
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迷霧の森:試練の真相
森の入り口で陸が丹薬を配る。「霧には瘴気が混じってる。これを鼻に塗れ」
薄荷の香りが広がる中,森の奥から悲鳴が聞こえた。見ると,五人のチームが血まみれで逃げてくる。
「や,やべえ……あの花の周りに,地獄蜘蛛が巣張ってやがった……」
陸が苦笑する。「朱月花は妖獣の餌場によく咲く。命懸けの花摘みか。これが青雲門のやり方だ」
前方では別のチームが炎符を爆発させ,巨大な蛇型妖獣を焼き払っている。金持ち子弟たちの霊符が煌びやかに光る。対する私たちの武器は,木剣と丹薬だけだ。
(生き残るには知恵が必要だ……)
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チームワークの芽生え
岩陰に咲く朱月花を発見した時,陸が私を制止した。「待て。花の根元を見ろ」
よく見ると,地面が微妙に波打っている。蘇璃のチームが遠くで剣戟を交わす音が響く中,陸が爆裂丹を転がした。
「爆発と同時に花を取れ!」
轟音と共に土蜘蛛が現れた刹那,私は駆け寄って花を引き抜く。妖獣の触手が頭を掠めるが,陸の投げた麻痺丹が効き,土蜘蛛は痙攣しながら倒れた。
「やった……これで二本目」
「いい判断だった」陸が笑う。「君,いざとなれば動けるんだね」
その褒め言葉も束の間,地鳴りが森を揺らした──