安心安全の異世界生活?
クリフという人物は、これまで外出をしたことがない。
全ては、魔法による呪詛だった。
現代日本では、思い込みによる体調不良と絶望感を抱かせる、まさに身体を蝕むものだが、異世界では事情が違う。
「クリフ様は、呪詛により身体の過度な動きが禁じられていたのです」
精神的影響はなく、単純に呪われる。
呪いは身体に纏わりつき、本人の何かしらを制限し、本人が呪いにより制限された事を行うと、身体が異常をきたし、病に倒れる。
その正体は、魔法があるならではの世界にあってこそ通じるもので、身体の内在魔力の使用傾向の制限である。
既に解かれた呪いだが、その代償はクリフという少年の記憶だったようだ。
「今は何もかもが分からないことかと思います。我々一同が身命を賭してお支えいたしますので、どうかご心配なくお過ごしください」
クリフは、転生という事態に浮ついてるため、現状がどの様な状態なのか興味を向けることができなかった。
生まれ直し、新しく得た時間と若さ、生前にはなかった裕福さに酔いしれていた。
「ありがとう、以前の事は何も覚えていないが、どうかよろしく頼む」
どんなに考えようとも、悩もうとも思い出せないことをどうこうしようというのは、できないことだ。
ならば、これからの人生は、クリフにとっても最良といえる人生にするべきだろう。そのためには、良好な関係作りから始めるべきだ。
「クリフ様・・・我々も全力でお支え致します」
ケインの頼もしい言葉に頷きつつ、内心は不安が募っていく。
ここは、現状への深い理解が必要だと考え、二人に外出を提案する。
それに、家族の信頼は必須である。
どんなに良いとこの坊ちゃんでも、家族で不和は良くない。
ここは、家族に家族と思ってもらえるような、そこまでできなくとも尊敬される、外に出して誇らしい人間になるべきだろう。
それには、実績が必要だ。
「ケイン、コルト、早々だが少し外を見てみたい。いいだろうか?」
「クリフ様?」
ケイン眉根を下げ、心配な様相をする。
「何故か分からないが、外に行きたいんだ」
クリフにとって、外に行き、現状を少しでも理解することが不安解消のつながる。そう信じての提案である。
その願いは切実になっていた。
「クリフ様・・・分かりました。私がお供いたします。外出してみましょう」
「閣下への許可は、私が取りましょう」
コルトがそう言うと、ケインはコルトを見て頷く。
「ケイン様、気分が優れないなど、ささいなことでも仰ってください」
「ああ、ありがとう」
結局、両親の許可は取ることができ、早々に異世界をこの目で見る機会を得た。
新天地どころか、現代の価値、感覚が全く通じない世界である。
文化も違えば、技術も違う。
「クリフ様、ご用意が出来ました」
クリフは、スーツという、現代と全く同じ格好をすることになった。
違うところと言えば、一張羅の様な動きやすさを持ち、私服以上に動ける様に感じる。
しかし、見た目はスウェットやジーンズといった、足や身体のラインを見えるようにはなっていない。
「これがオーダースーツ、良すぎでしょ」
「クリフ様?」
木製とは思えない程重厚で、巧みなデザインを施された大きな扉の向こうには、馬車が待っていた。
扉の前で待つケインが腰をまげ、クリフを導いていた。
しかし、2人は既に高齢、20代で腰を痛めていたクリフには、その姿が尊く映った。
「行こうか」
「はっ」
いざ、異世界へ。




