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魔道具師と魔導人形の魔法戦記  作者: 吉川詩織
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第一話

 駆ける。ひたすら暗い博物館の廊下を駆けている。私は、すぐ背後で追いかけている警備用ガーゴイルから、必死に逃げていた。

 

「なんでこうなったのー!」


 涙目になりながら走馬灯のように今までのことを思い出していた――。



 私ミカリエ・ガーネットは、もともと魔法貴族の令嬢だった。でも、魔法が使えなくて、嫌になって十二歳で家出した。それから二年、今は鍛冶屋の師匠の元で住み込み働いている。でも、最近はお小遣いがピンチで、新しい魔道具の材料に飢えていたの。そしたら今朝、街で「アデライード建国記念博物館の宝物庫には未公開の魔導人形が眠っているらしい」って噂を耳にしたわけ。

 ――しかも、その人形には超高純度のエーテルクォーツが使われているとか。……もし、そのエーテルクォーツさえ手に入れば、新しい魔道具を開発できるかもしれない。――『青百合の庭』に、一歩近づけるかもしれない。

 そう考えた私は「善は急げ」と、今夜ついに博物館に侵入した、んだけど……。


「ガーゴイル多すぎ! は〜! 博物館の警備舐めてた……」


 目当ての宝物庫がどこにあるか、事前に調べておけばよかった……。全力で駆けながら、後悔ばかりが脳裏に浮かぶ。

 長い廊下の突き当たりが見えてきて、私は絶望した。このままだと、ガーゴイルの飛行速度的に追いつかれるじゃん! ああ、盗みなんか入るんじゃなかった! ちゃんと真面目に稼げば、こんなことには……。

 ――このままだと、ガーネット家のヤツらにまた笑われてしまう!

 すると、すぐ目の前に迫った壁に、ひとつの扉が見えた。私には悩んでいる暇なんてない。


「ええい!」


 無理やりドアを開き、部屋に入るとすぐさま扉を閉めた。……ふ、振り切れた?

 安心して脚から力が抜け、私はドアを背に座り込む。


「はー。疲れた……ん?」


 足元に何か当たった気がして、目を凝らしなんとかそれを見ようとする。――そこには、女の子みたいなものが。なんでこんなところに? よく見れば、それは球体関節人形のようだった。……にしても大きい、私の身長より少し小さいくらいかな?

 銀色の綺麗な髪をした人形だった。瞼こそ閉じているけれど、顔立ちがとても整っている。


「かわいい……」


 思わずそう呟き、人形の頬に触れたそのときだった。

 突如、身体が熱くなり魔力が抜かれるような不思議な感覚が私を襲う。しかも、人形は光を放ち始め――。


「お、かあさま」


 人形の口が、動いた。しかも言葉まで発して、その閉ざされていた瞼もゆっくり開かれ、真紅の瞳があらわになる。

 神秘的な光景だった。光に包まれた人形はゆっくり身体を起こすと、虚なその目で私を見つめる。


「――マスターの後方から、気配がします」


「……え?」


 人形は立ち上がり、なにかブツブツと呟いた。かと思ったら背後のドアを破り、無数のガーゴイルが私に襲いかかってくる。


「し、死ぬ……!」


 ああ、師匠ごめんなさい、ミカは悪い子です。『青百合の庭』はとても見つけられそうにありません。師匠に、恩返しのひとつもできなかった――。


「――マスターは死にませんよ」


 声がした瞬間、虹色の光に包まれる。突然すぎてなにが起こったのか分からず、光が消えてから振り向いてみると、飛びかかろうとしていたガーゴイルたちが、固まっていた。――まるで、魔法で石になったみたいに。


「す、すごい……。アナタ、魔法使えるの⁉︎」


 私は興奮気味に、助けてくれた人形に詰め寄る。すると、彼女はキョトンと首を傾げて。


「――? これ、魔法って言うのですか?」


「え?」


「すみません。わたくし、自分の名前と使命以外はなにも覚えてなくて」


「そ、そうなんだ」


「――申し遅れました、わたくしはマリア」


 人形の女の子こと、マリアは腰が引けた私に手を差し伸べる。少し迷っていると、球体関節の手のひらが私の腕を引いた。触れられた皮膚が、じんわりと熱を持つ。


「いかなるときも、マスターを守ります。どうぞ、ご命令を」


 マリアからは、エーテルクォーツの気配がする。それもとても質の良い、高純度の。まさか、この子が――?




 これは魔法が使えない『魔道具師』と、魔法を操る『魔導人形』の物語である。

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