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4月3日の水曜日Ⅰ ②

 その後も、やれ僕の活躍を見せる前に退場するなだの、もし超能力が本当にあったのならもっと面白い使い方をしたらどうかしら、なんて具合に、謎を多く残して去っていった赤い手紙の送り主について、各々の不満を口にしていた。

 やっと解放される。私が思うことはこれくらいのもので、目立ちたくなかった私にとって喜ばしいことこの上ない。

 だが、探偵ごっこは少し楽しかったなどと、そんな心情を表に出すことはしてやらない。だってひどい矛盾じゃないか。

 始業のチャイムが鳴って、自然とそれぞれが席に戻ることで会話は途切れた。


「そういえば私が赤崎と話すようになったのって、予告状が来てからだな……」

 珍しくそう、過去を振り返る。

 父親を反面教師に目立たぬよう息を殺して生きてきた私は、必然的に友人の数は片手で収まる極々少数精鋭となった。目立たないという本目的に付随して、人間関係に心労を得ることもないという利点を持つが、しかしそれはとても孤独な生き方。

「そう考えると、サキちゃんにとってあの手紙は良かったのかもしれないね。何だかあんまり、いい印象がないみたいだけどさ。ほら、赤崎さんと仲良くなれてよかったじゃんか!」

「何言ってんだよ、巴。確かに赤崎と友達になれたのは嬉しいけど、それはそれ。おかげさまで私は有名人だぜ? しかもそれが探偵って方向で周知されてるんだから、探偵として私が扱われるんだぞ。らしく振舞うのだって無理だし、勝手に期待されて勝手に幻滅されるのが、オチの決まった今後の展望さ。未来が暗くなっちまって、良かったなんかあるもんか」

 一人でいたかった。目立ちたくなかった。

 でも探偵みたいなあれは楽しかった。赤崎と友達になれたのは嬉しかった。

 探偵としての働きを今後も期待されることとか、目立ってしまったことは良くはない。だが、犯人の挑戦に踏み込んでいったのは私であり、楽しかった嬉しかったことも心の底からの事実だ。

 ──その思いを、私は言葉を強めに伝えた。

 呆れ、落胆、同調、共感、予想したのはこの辺り。だが巴から返ってきたのは、そのどれとも違う返答だった。


「そこから皆に名前を知られたって? いやいやサキちゃん、それは違うよ」

「は? 何が違うんだ?」

 違うとは、はて。名前を知られ、それなりに有名人になってしまった私の何が違うというのだろうか。

「サキちゃんはね、元からずっと一人で逆に目立っていたよ。出る杭は打たれるっていうけど、埋もれすぎた杭も引っ張り出されるからね。つまりサキちゃんは、極端すぎてその塩梅がへたくそだったってこと。言ってなかったけど、『探偵の娘、孤独の家入紗希』から、『探偵の娘、家入紗希』に変わっただけだよ」

「……それは、ああ……。──えと、そうだったの?」

「え、ホントに気が付いて無かったの? 一般人でいたいなら一般人のフリしなきゃだよ。こういうの、あれ、なんて言うんだっけ……。ああそう! 悪目立ちしてたね」

 悪目立ち……悪目立ちか。いや別に悪いことはしてないだろう。人に迷惑かけるような真似はしてないんだから。

 けれど言われてみれば、谷内も私から見て目立った存在であった。一人でずっと、机にかじりつくように動かない彼を見て、確かにそう、浮いていると思った私は。

 客観的に自分を見れば、当てはまるのは自分も同じだと気が付いた。上と下、どちらにとびぬけても目立つことに変わりはないのだ。

「……ま、いーかもう。今更だ」

「へへ。そうだよ、もう一人だった頃には戻れないからね」

 いたずらっぽい笑顔を浮かべ、巴はそう言った。

 

 

 私と赤崎とを結び付けてくれたあの手紙。巴の言ったことが本当で、もし犯人がそんなにも親切な人間であるとするのならば。

 果たして最後に『赤崎凛は死んだ』などと、あんな冗談を口にするのだろうか。

 

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