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087話 ロザリーの思い出 後編

「お父様に外泊のお許しを頂きましてよ」


 ロザリーは、朝のうちに回復魔法士の施術を受け、薬も多めに用意して万全の態勢で登校した。


「今夜は、私と一緒のお部屋だね!」


(この子を見ていると、なんだかほっこりしますわ……)


 知らない間に、トモリンに惹かれていくロザリー。

 今夜、七不思議体験ツアーを終えた後は屋敷に帰らず、トモリンの部屋に泊まることになっている。


 本日のすべての授業を終え、放課後になると、七不思議体験ツアーに参加するため、寮のユリィの部屋へと赴いた。そこに集まることになっているから。


(皇女殿下のお部屋に入るなんて、不敬にあたらないのかしら?)


 トモリンたちと一緒にいるとはいえ、あちらは皇女近衛騎士だ。ただの上級貴族のロザリーが気軽に入れる場所ではない。緊張しながら扉をくぐる。


「ロザリー。私たちは友達よ。身構えることなんてないわ。対等に接してくれればいいのよ。私のことはユリィと呼んでくれないかしら?」


(皇女殿下がわたくしのことを『お友達』だとおっしゃいましたわ……。さらに、対等に接するようにとも……。わたくしに『ユリィ』と呼ぶようにだなんて……)


 生まれてこの方、ボッチで友達のいなかったロザリーは、どう扱っていいのか判断がつかなかった。


「努力しますわ……」


「本当に友達よ。努力なんて必要ないわ」


(この瞳からは嘘を一切感じられませんわ……。わたくしに、本気でお友達になろうとおっしゃっていますのね……)


「私も友達だよー」


(ト、トモリンまで……。あなたたちは生まれて初めての、お友達でしてよ!)


 ロザリーは感動した。嬉しさのあまり、感情が高ぶって目から涙が溢れる。


(いけませんわ。上級貴族たるもの、感情を表に出してはなりません)


 ハンカチを取り出して、額に当て、汗を拭くフリをして涙を吸い取る。


 それから、一緒にお菓子を食べ、他の皇女近衛騎士とも仲良くなった。


「そろそろ行きましょう」


 ユリィが声を上げたときには、既に外は暗くなっていた。


(『お友達』と一緒に食べるお菓子はなんておいしいのでしょう。つい、時間が経つのを忘れてしまいましたわ……)


 ゾロゾロと連なって寮から出て校舎へと向かう。


「真っ暗な学園に来られるなんて、夢みたいですわ!」


 いつもは明るい学園しか見たことがなかった。夜に出歩くことも初めてだった。ロザリーは、大きな冒険に出るような気分になっていた。


 ワクワク気分で校舎の傍を歩いて行く。


「なんにも、いないねー」


 どれだけ歩いても、七不思議と呼ばれるイタズラは発生しない。

 校舎を諦め、その奥の実技棟まで行くと。


「ボールは転がってませんわ」


「いやー。今日は本当になんにも起こんないなあ!」


 中を覗き込んでも、やはり何も起こっていない。

 よく見ても、ただ暗くて静かなだけの、いつもと変わらない実技棟の様子。


 そのとき。突然、ボールが転がりだした。


「ボ、ボールが転がりましたわ!」


 ロザリーとマルティナが驚いて声を上げた。それでも、他のメンバーはまったく動じていない。むしろ。脱力している。


(どうしてそんなに冷静でいられますの? 早く犯人を見つけないといけませんのに!)


 ボールを観察していると、不意に、今度は少し離れた校舎の方で、ピアノの酷い音が鳴りだした。


「な、なんですの~? ピ、ピアノが鳴り始めましたわよ!?」


(犯人はどこから校舎に入りましたの? 扉に鍵が掛かっていることは確認してきましたわ)


「あちゃ~」


 ミーサは額を押さえて俯いた。


「早く犯人を捕まえませんこと?」


(どうして誰も動こうとしませんの? 犯人に逃げられますわよ?)


「たぶんね、犯人は、初代皇帝像でやってくるよ」


 トモリンは眉根をハの字にして、呆れたように予言した。


(どうしてそのようなことが予測できるのかしら? 初代皇帝像が動いたら、それはそれで大問題ですわ~)


 周りが冷静なだけに、混乱気味になるロザリー。


 やがてピアノの音が止むと、今度はガシーン、ガシーンと何者かが歩み寄るような音が聞こえてきた。


「なんですの? なんですの??」


(こんな所にいては危険ですわ! どうしますの? 皆様、どうしますの??)


 パニックになって考えがまとまらなくなったロザリー。


「姫様、私の後ろへ!」


「大丈夫よ、マルティナ。何も危害を加えるようなことは起こらないわ」


 音はどんどん近づいてきて、初代皇帝像が歩いていることがハッキリとわかった。


(ゴ、ゴーレムですわ! 初代皇帝像の姿をした魔物が学園に侵入してきましたわ!?)


「やっぱり、ココナの仕業だったのかあ」


「ど、どど、どうして戦わないのですの? それに、ココナって何ですの?」


 ロザリーは完全に冷静さを失っている。


「ロザリー。ココナは精霊。この学園を守護しているわ。だから、戦う必要はないの」


(精霊? 何を言っていますの? 何のことですの??)


「ココナちゃん、ロザリーちゃんにも見えるようにしてあげて」


 そう言うと、トモリンの肩から白い波動が広がり、そこにぬいぐるみのような何かがいることがわかった。


「こ、子ギツネですわ! なんて愛らしい。この子が精霊ですの?」


『僕は精霊ココナ。トモリンを守護する精霊だコン』


(子ギツネがしゃべりましたわ!? 精霊が実在するなんて……。魔法の発動の手助けをする象徴みたいな存在だと思っていましたわ)


「目の黒いうちに精霊に会うことができるなんて、とても幸せなことですわ。長年生きていても、精霊に会える人なんて、いませんもの」


 精霊の姿をこの目で見ることができ、さらに魔法まで伝授してもらって、ロザリーは、まさに幻想の中にいるような気分だった。


 本来であれば、魔法は二年生にならないと伝授されない。でも、病弱なロザリーは、そのときまで現在のように自由に出歩ける状態を維持し続けられる自信がなかった。


 それからココナによる七不思議の種明かしがあり、最後に、


『でも、満月の夜に半透明なマントが現れるのは、僕のせいじゃないコン』


「え、え、え、ココナちゃんのイタズラじゃないものも、あるのー!?」


 トモリンは怖さのあまりに意識を失って倒れてしまった。


(わたくし以外にも、倒れる方がいらっしゃるのですね)


 ミーサとマルティナによって、意識のないトモリンは寮まで運ばれた。


「寂しいでしょうから、今夜は、わたくしが介抱してあげましてよ」


 トモリンをベッドに寝かし、添い寝するロザリー。


(この幸福感は、どこから来るのでしょう……。トモリンを見ていると、とても幸せな気分になれますわ……。これがいつまでも、どこまでも続くことを願いましてよ……)


 友達と一緒に夜を過ごすなんて、夢のようだった。


「トモリン、元気になってくださいまし……」


 トモリンの頭を優しく撫でながら、ロザリーは夢の中へと入って行く。トモリンと二人で野原を駆ける夢の世界……。ただ元気に駆けることが、ロザリーの夢でもあった。


 夢のような現実から、また別の夢の世界へ。

 この日は、ロザリーの人生で一番楽しい、夢のような一日だった。


 それからも、楽しい学園生活が続いた。

 時々発熱して休むこともあったけど、学園に来るだけで幸せを感じる日々だった。



 時は過ぎ、ロザリーは無事二年生になり、夏休みになった。


「今頃は、トモリンが帝都を発った頃かしら。きっと楽しい旅行に違いありませんわ」


 屋敷の自室、窓辺のテーブルセットに腰かけ、外を眺めるロザリー。

 トモリンたちは夏休みに下級貴族の領地に旅行に行くと聞いていたため、その姿を想像していた。


「降り注ぐ日の光の下、眩しく空を見上げると、爽やかな風が通り過ぎて行くのでしょう……。ああ、わたくしも一緒に行きたかったですわ」


 最近は体の調子が芳しくなく、楽しみにしていた庭の散策すらも医師に止められている。


「いつもなら、右の肩に触れるようにトモリンがいるのですが……」


 学園の講義室ではいつも窓際に座るロザリー。その右隣がトモリンの定位置となっていた。

 今は、縦ロールを触ってくれる者はいない……。隣で微笑んでくれるトモリンがいない……。

 右の肩に喪失感のような寂しさを覚え、左手でそっと触れてみる。


「トモリンの温もりが、欲しいですわ……」


 一筋の涙が頬を伝い、そして、そのまま気を失って倒れてしまった。


 日が経つにつれ、ロザリーの病状は悪化していく。

 夏休みが終わりに近づく頃には、連日高熱に冒され、ベッドから起き上がることすらできないようになっていた。


「お父様……。このような姿を……、トモリンに、見せたく……、ありませんわ……。学園には、内緒にしてくださいませ……」


「ロザリー。約束する。学園のほうはうまく取り繕っておく。だから、元気になっておくれ……」


 日々が過ぎ、ロザリーの部屋の窓の外では、ピンク色の花が咲き乱れるようになった。


「あれは……、トモリンが、大好きな花……。あの可憐な花を見ていると……、トモリンの笑顔を……、思い出しますわ……」


 ロザリーはベッドに横になったまま、視点の定まらなくなった目で、弱々しく窓の外を眺める。


「あの花が……、散る、頃には……、わたくしは、もう……」



 帝国歴301年11月。

 コスモスの花が散り始めた頃。ロザリーは両親に見守られながら静かに息を引き取った。


「ロザリー! 頼むから、返事をしておくれ!」


「うっ……。ロザリー。私は助けてやることができなかった……。許しておくれ……」


 ロザリーの死に顔は、にこやかで、満ち足りていた。

 この不自由な体から解き放たれれば、きっと、大好きなトモリンに会いに行ける……。最後にそう思っていたから。


 ロザリーの遺言に従い、葬儀は家族だけで密かに執り行われた。

 そして、墓標には「花の妖精ロザリー、ここに眠る」と記された。

 それには、花の妖精になれば、毎年、トモリンに会える。そういったロザリーの願いが込められていた……。

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