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063話 【前の世界線】第一皇子の最期

 帝都のベシーク城の裏庭。その西側にある練兵場で。


「私が帝都に居残りとは。亡き皇帝陛下の仇をこの手で討ちたかったものだ」


 エルフリーデ将軍が踏み込んで槍を突き出すと、地面から闘気が湧き上がる。その槍を盾で受け、剣で反撃するダビデ将軍。


「帝都の守りとは、一番手柄の得られない場所ですからなあ」


 将軍職は皆上級貴族であり、殊更ことさら、武功をあげることに固執している。名誉欲の塊なのだ。


「二人とも、今日も鍛錬に励んでいるな!」


 サンテン第一皇子が遅れて鍛錬に加わった。


 寝坊したのではない。政務をこなしていたのだ。

 皇帝の座をナーティ第二皇子に譲ることになったとはいえ、彼は遠征に出ているので、代わりに決済をしていたのだ。

 決済といっても、基本的に宰相や内政担当官が細部まで決めた案件が上がってくることがほとんどで、書類に署名するだけだ。


「ナーティごときに不覚を取った俺はまだまだ修行が足りない。ダビデ将軍、もっと俺を鍛えてくれ!」


「承知しました……。ですが、皇子をこれ以上鍛えますと、兵士がついてこれなくなるかもしれませんぞ?」


 サンテン皇子は今でも十分すぎるくらい、高い剣技の能力を有している。


 先の戦いで負けたのは各将の個人戦闘力に原因があるのではなく、軍隊としての総合力だった。

 作戦としては伏兵にやられる形となったが、隠れられる岩や木などが少ない平原における伏兵など、たかがしれている。軍隊としてもっと押し上げる圧があれば、伏兵ごと跳ね除けることができていた。

 そう、分析しているダビデ将軍。剛の者ゆえの考え方だ。


 実際は繁る草の中に潜むこともできるし、丘などがあればその向こうに潜むこともできる。

 草原だからといって伏兵ができない地形ではない。


「もちろん、兵も鍛えて欲しい。俺は悔しいのだ。この三人が揃ってそれでも負けたのだ。もっと鍛えるしかあるまい!」


 歯を食いしばるように言い募る。


「やはり私は、ローラント卿が不在となられたのが、大きな要因だと考える」


 至高至大級魔法使いローラントがいれば、広範囲な魔法で一度に大量の敵兵を消し去ることができる。

 先の戦いの場合は帝国兵同士の戦いだったので魔法の威力を抑えるだろうから、消し去るのではなく、戦闘不能にするというのが正しいだろうか。


 いつもであれば、ローラントの魔法で敵の前線を破壊し、そこにエルフリーデ将軍の騎馬部隊が槍で突撃する。

 エルフリーデ将軍は、その戦法を使えなかった影響が大きかったと振り返る。


「いないものは、どうすることもできませぬぞ。我々は自身を、そして兵士を鍛えることで、第二皇子派を見返すしかありませぬ。まだ活躍の場は残されております。きっと、遠征した軍がシレッド獣国に到達した時点で、援軍の要請が来るでしょうからな」


「ダビデ将軍の言う通りだ。獣国軍は屈強と聞く。ナーティはあまり兵の鍛錬をしていない。獣国軍と対峙できるのは俺たちの兵士をおいて他にはないだろう」


 サンテン皇子たちが鍛錬に励む中、その周りでも、


「とりゃー!」

「たあーっ!」


 兵士たちが必死に鍛錬している。


 サンテン皇子やダビデ将軍、エルフリーデ将軍の直属の兵士は、とにかく鍛錬を重視している。厳しい鍛錬を続けないと戦場で将軍に置いて行かれるからだ。

 先の皇子同士の戦いにおいて、先頭を突き進む三将軍に、兵士たちは見事に置いて行かれた。これは第二皇子軍の巧みな計略も絡んでのことだったが、置いて行かれた事実は覆せない。


 このように、帝都では平和な鍛錬の日々が続いていた。


「そろそろ、ナーティ第二皇子殿下が、シレッド獣国に侵攻を開始した頃ですかな?」


 ささやき鳥を使っても、シレッド獣国から帝都までは距離が遠いため、いくつかの町を経由しての伝達リレーとなる。そのため、情報は二、三日遅れるのが常だ。


「そうだな。出兵の準備をしておくか」


「半分ぐらいの兵が帝都の守備に就いているが、どうする?」


 自らの兵を帝都の守備に充てている。だから、立場上、エルフリーデ将軍は自身が帝都の守備に残されるのではないかと、少々不安に思っている。


 サンテン皇子は城壁の上を巡回する兵を見、それから答えた。


「要請の内容次第では、守兵も連れて行くが、いくらナーティでも、それほど深刻な状況にはならないだろう。我々の直属の兵士より劣るとはいえ、遠征しているのは大陸中に名の知れた帝国兵士なのだ。とにかく、到着を早めるよう、二人とも軽装の騎兵を中心とした編成を頼む」


「承知した!」


 居残りではなさそうだと安堵したエルフリーデ将軍。

 急いで兵舎の方に行き、軍備を整えるよう指示を出す。


 隊長クラスの者たちが四散してさらに指示を広め、武器を集める者、テント資材を集める者、携行食料を準備する者、馬車を用意する者など、多くの兵が忙しく動き出した。


「シレッド獣国の奴らめ、私が行けば槍でめった突きにしてやる」


 その場で、空想上の獣人兵士に連撃を喰らわせるエルフリーデ将軍。

 それから槍を脇に置き、白いバンダナを締め直して気合を入れる。



 翌日。執務室で。


「申し上げます! ビノラ王国との国境にあるリゴウ要塞が、ビノラ王国軍によって占拠されました!」


「なんだと!」


 サンテン皇子は執務椅子から立ち上がり、


「こうしてはおれん! ユリィ、あとは任せる。俺はリゴウ要塞を取り返しに行く!」


 実直で体を動かすのが得意なサンテン皇子は、事務処理は得意ではなかった。学園が冬休みということもあって、書類への署名をユリィにも手伝わせていたのだ。


「サンテン兄様。帝都には兵はいないわ。どうするつもり?」


「なあに。リゴウ要塞にはもともと守備部隊がいなかったのだ。それを突破されただけのことだ。だから、ビノラ王国軍は大軍ではないだろう」


「そう? リゴウ要塞には守備部隊がいなかったの?」


 とくに事件ではなかったので、学園で生徒をしているユリィの元には、その情報は上がってきていなかった。


「ああ。守備を任せていたブルクハルトが、火山の噴火の修復作業をするとかで守備兵を勝手に撤退させたからな」


「火山の噴火って、半年以上前のことよ? 今になっても代わりの守備兵が配置されていなかったってことかしら?」


 常識的に考えて、半年も守備兵を置かないなど、考えられなかった。


「それは、先日お前も見ただろう? 貴族どもの利権争いや地位争いが原因だ。要塞の守備は功を得やすいからな」


 国境付近では小競り合いが起こりやすい。また、国境を越えようとする不審者を捕らえることもある。それで功を得ることができる。それは戦争における武功と比べれば、微々たるものではあるが。


「足を引っ張り合ったってことかしら?」


「そういうことだ。それと、ビノラ王国は長期に渡る日照りで農作物が不足している。民が食に苦しむ中、とても軍など動かせる状況ではないと考えられていた。それで急ぐ案件でもないとされていたのだ」


「ビノラ王国で日照りの被害が……」


 これについても他国のことであり、事件性はないのでユリィの元には報告は上がっていなかった。

 ただ、日照りで食料がないのに軍が動いたという矛盾が気になり、あとで文官たちに日照りの詳細について尋ねてみようと思うユリィだった。


「おっと、長話をした。俺はすぐに発つ。留守はすべてユリィに任せる」


「わかったわ。気をつけて行ってきて」


 サンテン皇子は、マントをひるがえし、執務室を出て行った。


 いつものように練兵場で鍛錬をしているダビデ将軍とエルフリーデ将軍の傍まで行き、


「状況が変わった。俺たちは南西のリゴウ要塞を奪還しに行く。敵はビノラ王国軍だ!」


 サンテン皇子はしっかりとした強い口調で述べた。


「奪還、ですと? 既に要塞が落ちた、ということですかな?」


「そういうことだ。俺たちは援軍ではない。ビノラ王国軍と真っ向勝負に行く。よって、帝都の守備に回している兵もすべて集めて出陣することとする!」


「承知しました!」

「すぐに用意する!」


 シレッド獣国へ向けて出兵するつもりで軍備を整えていたサンテン皇子たちは、目標が要塞奪還に変わったため、攻城兵器など若干準備する物が増えたが、それほど時間もかけずに南西に向かって出兵した。


 途中、いくつかの町に立ち寄り、その町を守る領主の私兵を吸収しながら進軍を続ける。

 領主である貴族そのものは、シレッド獣国に向かっており不在なので、強制的に徴兵した形になる。


「それにしても、不思議ですなあ。ビノラ王国は日照り続きで食糧難。とても軍など動かせる状況ではあるまいに」


「なんらかの方法で要塞の守りが薄いことを察知し、少数精鋭で要塞を突破して、我が帝国から食料を奪う算段ではあるまいか?」


「そうだな。食料を奪うための侵攻の可能性が高い。しかし国境付近の町は小さい。大軍を養えるほどの食料を調達することはできないだろう。よって、敵は少数による奇襲だろうな」


 剛の者同士で考察したところで、正しい答えに辿りつくことはなかった。正解は、いずれ相まみえるときに知ることになる。


「どのような進路がいいだろうか?」


 作戦を考えずに飛び出してきたので、行軍しながら進路を調整する。


「シレッド獣国との戦争に参加していない、ブルクハルト殿の兵を頼るのが良いのではないでしょうかな?」


「兵士は土木作業中だったか? ブルクハルトの領都モンバートに行って招集をかければ、兵数で一気に差をつけられるな。よし、モンバートへ向かうぞ!」


 サンテン皇子の部隊は、一路、モンバートの町に向かった。

 帝国領内ということもあり、斥候は敵の発見よりも、最寄りの町へ立ち寄る際の前触れの仕事を主としていた。

 その結果、サンテン皇子はモンバートの町に接近するまで、既にモンバートの町が陥落してしまっている事実を知ることはなかった。


挿絵(By みてみん)


「申し上げます。モンバートの町の周辺に、ビノラ王国軍が多数駐屯しています!」


 モンバートの町に前触れに行った斥候が戻ってきて報告した。


「どういうことだ? 包囲されているのか?」


「違います! す、既に、モンバートの町はビノラ王国軍によって占拠されています!」


「見間違えではないのか? モンバートの町といえば、そこらの上級貴族の町よりも大きく頑強だと聞いておりますぞ。それにブルクハルト殿は兵士をたくさん雇っていたはず。そんなすぐに落ちるはずがなかろうて?」


 ダビデ将軍は自身の常識と照らし合わせて、あり得ないことだと首を捻る。


 サンテン皇子の部隊はリゴウ要塞が陥落した報告を受けてすぐに出立した。

 たとえ、その報告が数日遅れていたとしても、軽装の騎兵を中心とした部隊の行軍は速い。

 だから、サンテン皇子がモンバートの町に到達するのは、ビノラ王国軍とそれほど時間的差異はないと考えられた。万一攻撃を受けていたとしても、まだ陥落まで至っていないはずだ、と。


「私が全力で疾走し、そのビノラ王国軍とやらを粉砕してこよう!」


 槍を掲げ、馬の手綱を引くエルフリーデ将軍。


「エルフリーデ将軍、待つのだ。斥候の報告が真実だとしたら、ビノラ王国軍はモンバートの町を瞬時に落とせるぐらいの大軍ですぞ。一部隊だけが先行したところで、危険な目に遭うだけですぞ」


 血気にはやるエルフリーデ将軍をダビデ将軍が諫める。


「俺たちは、行軍速度を落とし、様子を見ながら進もう」


 城の守備に回していた兵を組み込んだため、後続のすべてが騎兵というわけではない。なるべく隊列が短くなるようにして進んで行く。


 途中、右手の方に人だかりが見えた。その姿は汚れて見すぼらしく、やせ細っている。


「あれは、なんだ?」


「はて、なんでしょうな?」


 それは、ブルクハルトから「避難先」として未開拓の土地に連れてこられた村人たちだった。

 彼らは、サンテン皇子の部隊の列を見るや否や、一斉に飛びついてきた。とりわけ、食料を運ぶ荷馬車めがけて殺到している。


「襲ってきたぞ! 盗賊か!?」


「皇子。たしかに盗賊のようですが、武器を持っていませんぞ?」


「とにかく追い払え!」


 これから戦闘に使用する大事な物資だ。略奪されてはたまらない。


「行軍の邪魔をする奴は、切り捨てろ!」


 故意に行軍の邪魔をする者は切っても良い。それは帝国の法に則った行為だ。

 次々と村人が切られていく。それでも、その隙に食料を盗もうと多くの者が殺到してくる。


「これは、火山の被害に遭った人々のようですな」


 押し寄せる村人の一人を捕らえて聞き出したダビデ将軍。


「……やむをえまい。食料を、分けてやれ」


 サンテン皇子は、村人に食料を提供するように方針を変えた。


「あのような下賤な者に、ですか?」


「軍の物資をむやみに減らすことには、賛成致しかねますぞ」


「このままでは行軍ができない。仕方ないだろう?」


 このまま進んでも、村人を殲滅しない限り、後続の部隊が同じ目に遭う。

 しばらく行軍を停止し、荷馬車から食料を降ろして分け与える。


「それにしても、こいつらは、ここで生活をしているのか?」


「どうやら、避難地を与える代わり、住む家、畑などを、避難民自らが用意せよ、とのことだったらしいですな。もちろん、食料も現地調達とのことで」


「村人ごときに避難地を与えたのだから、それで十分だったろうに」


 エルフリーデ将軍は根っからの上級貴族だ。村人のことなどなんとも思っていない。これは、帝国貴族の一般的な考え方に近い。


「十分でなかったことは、今の状況を見れば明らかだがな」


 サンテン皇子は一昨年の洪水被害の際、ローラントからの要請で、資金や物資を援助したことがある。

 その書状を読むことで被災地の惨状を知っていたこともあり、災害の被害者に対しては一定の理解がある。


 行軍を停止している間に、いろいろな方面に多くの斥候を放った。

 そして、帰ってくる報告をまとめると、ここから南は、ビノラ王国軍が占領しているということだった。そして、モンバートの町が陥落していることは事実のようだった。


 予想よりも悪い状況に、サンテン皇子は帝都に向けてささやき鳥を飛ばす。モンバートの町が既に陥落している、と。



「え? ビノラ王国軍が、帝国領内に深く侵攻してきているの? モンバートの町がもう落ちているなんて、あり得ることなの?」


 帝都において。ユリィはこの報告を受けて決断をした。


「そんな大軍が攻めてきているのなら、サンテン兄様が危ないわ。中立国だけど、聖ファサラン国に援軍を頼んでみましょう」


 一抹の希望を託した使者を乗せ、高速飛竜が、南へ向かって大至急飛び立った。



「あれがモンバートの町か」


「下級貴族の領都とは思えぬくらいの、大きな町ですな」


 小高い丘に陣取り、望遠鏡で様子を窺うサンテン皇子。

 町にはビノラ王国の旗が掲げられている。

 そして、町の周囲には、入りきらなかったビノラ王国軍が溢れている。


「皇子、どすうる? 突撃するか?」


 エルフリーデ将軍が馬上で槍を構える。


「先日のことで、俺たちは物資が乏しくなった。長期戦を臨めないのはわかるが、このまま敵軍に突撃するにはリスクが高すぎるだろう」


 ビノラ王国軍は想定の遥か上を行く大軍だった。突撃を仕掛けたところで、時間の経過によって押し返されることが予想される。


「我々のとれる作戦は、モンバートの町を短期決戦で奪還するか、即時撤退するかの二択ですな」


「敵を前にして戦わずに撤退するなど、帝国軍人の名折れ。私は町の奪還を所望する」


 剛の者同士の作戦会議は、単純だった。ゴーかバック、いずれかの二択なのだ。


「それではこうしよう。町の北壁面に兵を集中させ、一気にそこを突破する!」


「一点突破ですな。承知しましたぞ」


「皇子、早く号令を!」


 町の周囲に散在するビノラ王国兵には手を出さず、モンバートの町を武力をもって速やかに奪還する。方針は定まった。


 町の北側の壁面に向かい、一斉に突撃を敢行するサンテン皇子の部隊。


「我こそは、帝国の疾風、エルフリーデ! 体に風穴が欲しい奴は前に出ろ!」


 エルフリーデ将軍の騎馬部隊が突撃を敢行すると、その勢いにビノラ王国軍は怯え、逃げ惑い、しばらく反撃ができない状態となる。

 それは圧倒的で、進路上にいたビノラ王国軍は瞬時に一掃された。


 しかし、ここからが問題だった。

 後方で急いで攻城兵器を組み立てている間に、ビノラ王国軍は態勢を整え、左右から挟み込むように攻撃してきた。


 騎兵中心のサンテン皇子の部隊は、一度止まると勢いがなくなる。

 なるべく旋回するように動いてはいるが、城壁から矢を射かけられたり、側面から槍を突き立てられたりして兵の数が徐々に減って行く。


「攻城兵器、まだか!?」


「完成しました!」


 後方から燃える岩が飛んでくる。

 次に城壁に長い梯子が立てかけられ、兵士が次々に上り、矢や石を当てられて落ちて行く。

 その背後から、完成した攻城塔が二基、徐々に近づいて行く。


「あれさえ隣接できれば……」


 その目論見は、攻城塔の転倒、炎上をもって崩れ去る。

 ビノラ王国軍に包囲され、すぐに壊されたのだ。


「これまでか! 作戦は失敗だ。撤退するぞ!」


 サンテン皇子が撤退の指示を出したときには、視界はビノラ王国軍で埋め尽くされ、退路と言うものは存在しなかった。


「死中に活あり! 行くぞ!」


「どけどけどけー! 死にたくない奴はどけーっ!」


「邪魔だ! 串刺しになりたいのか!」


 サンテン皇子と二将軍が敵軍の中を駆けて行く。

 その先では多くのビノラ王国軍兵士が突き飛ばされたり、両断されたりして道は開けているようにも見えたが……。


「うわあ!」


「エルフリーデ将軍!」


 大きな声に振り向けば、馬に矢が刺さり、落馬するエルフリーデ将軍の姿が目に入る。

 サンテン皇子は走る馬を止めてエルフリーデ将軍の元に駆け寄る。


「サンテン皇子! 来るな! 私を置いて、逃げろ!」


「エルフリーデ将軍は俺の大事な人! 俺は命に代えても君を守る!」


「皇子……」


 馬を降りて引き寄せる手に、エルフリーデ将軍は頬を染める。


「はははっ。その気概、好きですぞ! これしきの敵、私がすべてほふって見せましょうぞ!」


 ダビデ将軍も駆け付け、馬から降りて剣を振るう。


 三人は周囲を埋め尽くさんばかりのビノラ王国兵に囲まれ、四方八方から同時に槍を突かれる。

 その矛先のすべてを、三人の武器で高くから叩いて地面へと向かわせる。それから三人同時に体をひねり宙を舞うように飛び上がって、無数の槍でできた板の上に立つ。


「行くぞ!」


「皇子とともに、どこまでも!」


「帝国一の豪将ダビデ、ここにあり! 死にたい奴はかかってこい!」


 三人は剣を振るい、槍を突き、ビノラ王国兵の海の中へと突入して行った。


 切っても、刺しても、次々と新手が現れ、途切れることのない攻撃。


 一歩進むたびに傷が増える。

 視界が徐々に赤く染まって行く……。

 敵兵の返り血と、自らの傷から流れる血。


 何十人、何百人と敵兵を切り伏せた。そして、自身には、何十もの傷を負っていた。

 剣を振る速度は鈍くなり、槍で突く威力も落ちていく。

 もはや、体力の限界だった。


「まだだ、まだ……。俺は、お前を守る!」


「皇子……。もう、いい……」


 肩で息をし、だらりと下がったサンテン皇子の腕に、エルフリーデ将軍が縋りつく。

 見渡す限りの敵兵。もはや突破できる見込みはなかった。


「はぁはぁ。とりゃあ! クソッ。剣が折れたか」


 その隣で、ダビデ将軍は荒い息遣いのまま剣を捨て、敵兵に掴みかかる。

 あっという間に無数の敵兵の中に埋もれ……。


 その後、三人の行方について帝都に知らされることはなかった。

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