053話 【前の世界線】トモリン、冬休みを満喫する
帝国歴300年12月末。
後期末試験で赤点をとり、補習を受けることになった三人。
「今夜は、ベシーク城で舞踏会があるらしいぞ」
「建国300周年記念の、ビッグイベント」
「白馬に乗った王子様、迎えに来てくれないかなあ?」
ぽけーっと上の空になる、トモリン。
「トモリン。残念だけど私たち下級貴族の子供には招待状は来ていない。だから参加はできないぞ」
舞踏会には上級貴族の子供は招待されるが、下級貴族の子供は招待されない。だから、学園の生徒で舞踏会に参加できるのは、上級貴族クラスの者だけだ。
「えー。行きたかったなー」
まともに踊れないトモリンが、舞踏会に参加したがる理由……。それはもちろん、踊りたいのではない。イケメンとの出会いを夢見ているのだ。
「ボクたちは、寮で打ち上げ会」
今夜、エマが用意してくれたお菓子でパジャマパーティをする予定だ。
「そっちも、楽しみだねー」
ニコニコなトモリンだった。
夕暮れ。三人は寮のトモリンの部屋に集まってガールズトークに花を咲かせる。
「剣術の授業ではな、柄の部分に三つの欠けが入っている剣。あれが使いやすいんだ!」
「初代皇帝も、剣士だった。きっとそれは初代皇帝が寄付したとされる伝説の訓練用剣」
「もぐもぐ。このお菓子もヘブンスイーツ!?」
ガールズトークはどこに……。
「外は、真っ暗だなあ」
「少し雲があるけど、星が綺麗」
「わあ! 流れ星!」
いつの間にか、日は完全に沈み、外は真っ暗になっていた。
「どこだ!?」
「あれ!」
トモリンが指差す。
ミーサは窓を開け、体を乗り出して流星を眺める。
「うひゃー! 長い尾を引く流れ星だな!」
「うん。あんなに長いのは初めて見た」
下級貴族の女子寮の部屋の窓は西に面している。そして、流星は遠い西の空から東へと向かっている。
「おお? 赤くなってきたぞ!?」
「本当。赤い」
「ねえ、あれ、火球だよ?」
山育ちで視力のいいトモリンは、流星が火球に変化したことをいち早く察知した。
「なんか大きくなってきたぞ!」
実物の大きさは変わらないのだが、高度を下げて接近することで大きくなっているような錯覚に陥る。
「このまま行くと、帝国に落ちる」
「えー! お星様、落ちちゃうの!?」
窓の配置の関係で、この先どうなるかは見えない。
三人は急いで部屋から飛び出して外に出る。
「わあ、あんなに東に!」
再び外で流星、火球を見つけたときには、既に遠い東の空の上にあった。
「光った!?」
東の空が赤く輝き、空の雲がピンクに染まる。それが引いていき、空が再び暗くなる。
だいぶ遅れて「ドドーン!」と音が聞こえた。
「落ちた!?」
「かもしれない」
「わあ、隕石拾いに行きたーい!」
本当に帝国内に落下していれば、隕石どころの騒ぎではないのだが……。
「うー、寒い。早く部屋に戻ろう」
空から消えた流星には興味はなく、現状の寒さに震えるだけのエマだった。
数日後。
帝国の東部に流星が落ちたらしいと噂が流れる。
そして、東部に住む生徒には帰省禁止のお触れが出た。なんでも、帝国東部で伝染病が発生しているらしい。
「東部で伝染病かあ。ミレイニーの町も東部だしなあ。これじゃあ、トモリン、冬休みは帰省できそうにないな」
「そだねー。それならさ、聖ファサラン国に行ってみようよ! ルデイルさんが、行けばいいよって言ってたよね?」
「聖ファサラン国。ボクも行ってみたい」
聖ファサラン国は帝国の南にある。伝染病の心配はなさそうだ。
三人は補習が終わったら聖ファサラン国へ観光に行くことにした。
十日ほど補習を受け、遅めの冬休みが始まった。もう、年は明けている。
「聖ファサラン国に行くには、南に向かう乗合馬車に乗ればいいんだよね?」
「たぶんな!」
夏休みにミレイニーの町に行ったのが初めての遠出だったミーサは、旅行の仕方などさっぱり知らない。
「それでいい。でも、今回は時間がもったいないから飛竜を雇う」
エマは親の仕事について帝都の外に出たこともあり、少しは頼りになる。
「ひ、飛竜だって!? そんな金、持ってないぞ!」
飛竜を雇うには金貨が五十枚ぐらいかかるらしい。知識だけはあるミーサ。
「大丈夫。ボクが雇う」
エマには目論見があった。飛竜で移動すれば、寄り道しても誤差のうちだと。
飛竜の運送屋の前に行く。
冒険者風の三人の姿に、運送屋の者は。
「おい、嬢ちゃんたち。冷やかしなら、帰んな」
どう贔屓目に見ても駆け出し冒険者にしか見えず、とても飛竜を雇えるようには見えなかった。
「料金なら、問題ない」
そう言って運送屋の元に行き、地図を広げて二人で協議し、行き先までの運賃を支払うエマ。
基本料金は決まっているけど、交渉次第で値引きも可能だ。飛竜のグレードを落とさない範囲で、値引きをしていた。
「お、おう……。毎度あり! 契約はこちらの飛竜になる。おい、客だ!」
飛竜の前に行き、ぼーっとしていた御者の背中を叩いて、トモリンたちを乗せるように指示を出す。
「こいつ、本当に襲ってこないんだよな?」
飛竜のバスケットに、怯えるように乗り込むミーサ。
「お客さん、冗談がきついなー。ウチの飛竜は賢いから客を襲ったりはしませんぜ」
同行する御者が両手を広げてアピールする。
三人が乗り込むと、飛竜はふわりふわりと浮かび上がった。
「わあ! 飛んでるよ!」
「今、飛べって指示を出してなかったよな?」
「お客さん、ウチの飛竜は賢いんでさあ。お客は三人だと、ちゃんと理解してるんですぜ」
「行き先も、たぶん、聞いていた」
「お客さん、詳しいなあ! その通り! 飛竜は耳がいいから、行き先もちゃーんと聞いて頭に入ってるんですぜ!」
「それなら、おじさん、いらないんじゃないの?」
トモリンは歯に衣着せぬ言い方で御者に問う。もちろん悪気はない。
「お客さん、冗談キツー! あっしは、お客さんの行き先変更や、帰りのサポートを担当するんでさあ」
「そうなんだー」
結構な頻度で、行き先の追加依頼を受けることがあるらしい。
そして、飛竜は賢くても変更によって生じる追加料金を回収することはできない。だから、御者が乗っている。
御者とくだらない話をしているうちに、結構の時間、空の旅を満喫していた。
「あれ? 聖ファサラン国って、南にあるんじゃなかったのか?」
「うん。南だってルデイルさんが言っていたよ?」
歴史と地理がダメダメなトモリンは、伝言系かつ疑問文で答えた。
「今、南西に向かっているよな?」
「フフフ……。今向かっているのは、初代皇帝にまつわる有名な史跡のある町」
エマは含み笑いするかのように話した。
「夏休みにも、似たような所に行ったような気がするぞ?」
「そこは、獣国軍の猛将を破った古戦場。今から行くのは、初代皇帝が類まれなる称号を得た戦いのあった場所」
初代皇帝マニアのエマは、初代皇帝がどこでどのような歴史的偉業を成したのかについて、事細かに覚えている。
「お客さん、着きましたぜ」
御者の言葉が先か、飛竜が高度を下げ始めたのが先か。
見下ろす町がだんだん大きくなっていく。
飛竜は、この町の飛竜の運送屋に着陸した。
「あっしは職場で待ってますんで!」
「また、明日」
そう言って御者と別れた。
「今から、史跡へ直行」
「おおお? 最優先なのか?」
「初代皇帝は、ここで何をしたのかな?」
この町には、中央に丘のような部分があり、そこが史跡のようだ。
「中央広場にしては、傾斜がついていて不便そうな場所だなあ」
「初代皇帝は帝国の版図を広げるべく、南西へと軍を進めた。そしてこの場所で、はぐれドラゴンに遭遇した」
「えー! ドラゴンさんって実際にいるんだ?」
ドラゴンは空想上の生物だと思っていたトモリン。
「ドラゴンは最強の生物と言われているんだ。人語を理解し、魔物とは区別されているらしいぞ」
「初代皇帝が遭遇したドラゴンは理性を失っていて、言葉が通じなかった。周辺の民家や畑を手当たり次第に焼き払い、多大な被害を出していた」
「へー。ドラゴンさん、激おこだったんだね? 誰かがいじめたの?」
「おいおい、ドラゴンをいじめられる奴なんか、いないぞ?」
あきれるようにミーサが合の手を入れる。
「このままでは周辺の住民が全滅する。それで初代皇帝はドラゴン討伐に乗り出した」
レキジョでもあるエマは、歴史話を熱心に語る。
初代皇帝は率いていた軍隊でドラゴンを囲み、弓を射たり槍で突いたりしたが、まったく効果がない。
それどころか、口から吐き出されるブレスにより、包囲していた軍隊が壊滅した。
初代皇帝は迷った。撤退すべきかと。
そんな初代皇帝を励ますかのように、四天王が次々と口を開き、熱く語りだす。四天王は皆、熱血漢だ。
「大事を成すには民衆をもって礎と成します。国を、我々を慕ってくれる民衆を見捨てるわけにはいきません!」
「そうだ。我ら焼かれた村は違えども、集いし国はただ一つ! 国に仇成すドラゴンを放置する訳にはいかぬ!」
「次にブレスを吐いたときに、全力で行きましょう!」
戦い続けるうちに、ブレスを吐いている間は、ドラゴンを覆う魔法の障壁が緩んでいると見切った四天王。
「来た! 今だ!」
四人が一斉に各自最大限の魔法を発動する。
「どうだ!?」
「怯んだな! 渾身の一撃、ハートブレイク!」
初代皇帝が、ドラゴンの心臓めがけて大剣を突き立てた。
大剣が刺さったドラゴンは、荒れ狂うように頭を振る。そして、空中にブレスをまき散らしながら、地面へと突っ伏した。
「このようにして、この地で、初代皇帝がドラゴンを討ち果たした。その結果、初代皇帝は人類初となるドラゴンスレイヤーの称号を得た」
「初代皇帝って、凄いんだな!」
「あの建物に保管してある頭骨が、その当時のドラゴンのものだとされている」
見世物小屋は、入場料を取っていた。
エマが支払い、中へと入る。
「ドラゴンさんって、大きいんだね!」
頭骨だけでトモリンの背丈を越える大きさだ。
その周囲には初代皇帝を称える文言を書いた木板が、いくつも立てられている。
ドラゴン討伐のあとに、周辺地域の復興にも取り組んだようだ。
見世物小屋から外に出て、遠く南西の空を仰ぎ見る。
「ドラゴンは、あそこに見える、ドラゴン連山に棲んでいる」
ドラゴン連山は遠くからでも見えるぐらいの巨峰だ。
「え? 今でもいるんだ? それならさ! 会いに行こうよ!」
「会ってどうするんだよ?」
夢見るトモリンに対し、あくまで現実的なミーサ。
「だって、ドラゴンさんだよ? 見てみたくない? ここからなら聖ファサラン国よりも近そうだよ?」
「見るだけ……。できれば、素材を分けてもらいたい」
「あれれ? エマもドラゴンに会ってみたいのか? しょーがないなあ。それじゃあ、明日はドラゴン見学に決定だな!」
旅の行き先がコロリと変わる三人だった。
翌日。
飛竜の御者と相談し、ドラゴン連山最寄りの町であるモンバートの町に、行き先を変更した。
「あっしの仕事をわかってもらえて、嬉しいですぜ!」
御者としての仕事を理解してもらえたと感激する男。
飛竜は史跡のある町を飛び立ち、南へと進む。
モンバートの町に着くと、そこで着陸する。
本当は、ここモンバートよりもドラゴン連山に近い所にも小さな町や村があるのだが、そこには飛竜の運送屋の施設がないので、降りられない。
三人は御者と別れてモンバートの町の中を歩く。
「あ! あの屋敷の庭にいるの、チャラ男じゃない?」
遠くを見通すトモリンの目が、屋敷の庭で剣の鍛錬をしているチャラ男ことダミアンを捉えた。
剣術の授業では薬を使って手を抜いていても、実家に帰るときちんと練習しているみたいだ。
「え? そうか? 言われてみれば、ダミアンに見えなくもないな」
ここモンバートの町はダミアンの実家ダスティ家の領都であり、ダミアンは飛竜を使って帰省していたのだ。もちろん、赤点をとっていないから、十日ぐらい前に。
「うん。ここにはダミアンがいる。だから、この町は物資が乏しいはず」
「ん? 『だから』……?」
ここにダミアンの家があることを知っていたエマ。そして、言葉の真意に気づくミーサ。
(怖っ! エマは敵に回してはいけない人物の上位にランクインだな!)
貧乏なミーサなら、三日と経たずに干上がることだろう。
「不便な町に用はない。今日はドラゴン連山の近くの町まで走る」
「走る? エマちゃん遠くまで走れるようになったの?」
トモリンが不思議そうに尋ねると、エマはポーチから靴を取り出した。
「それは、この間のウイングブーツ!?」
「うん。ウイングブーツを使えば、問題ない」
「へー。それを履けばマラソンランナーにもなれるんだね!」
以前、遊びでウングブーツを履いて走ったことはあった。でもそれは短時間かつ短距離だった。体力のあるトモリンにしてみれば疲れるような運動ではなかったから、「疲労しない」効果を、そのときは肌では感じていない。
「これがあれば、どこまででも走れる」
「凄い靴だよな。走れるだけでなく、体の動きそのものが軽くなるしな」
三人はモンバートの町の西門を出ると、それぞれウイングブーツに履き替え、先に見えるドラゴン連山に向かって走り出した。




