041話 球技大会
帝国歴300年11月。
毎年恒例の球技大会の日がやってきた。
上級貴族クラスの全学年が同時に出場し、ドリブル・オア・シュートの腕を競い合う。
「ドリブル・オア・シュートかあ。七人でチームを組まないとダメだろう? あと一人、どうする?」
「ちょっとお待ちくださいまし。あと二人ではありませんこと?」
ユリィ、ミーサ、マルティナ、トモリン、エマで五人。七人にするにはあと二人だと主張するロザリー。
「ロザリーちゃんも、私たちのチームだよ?」
「わたくしは出場しませんわよ?」
「なあに。コートの中で立ってるだけでいいんだ。ほら、もう申請書には名前を書いてあるぞ」
ミーサはさりげなく出場チーム申請書を見せる。
「ええ。ロザリーはエマと一緒に立っていてくれればいいわ。ボールは私とミーサ、それにマルティナで回すから、何もしなくても大丈夫よ」
名前のあがらないトモリンは、避け専門職に認定されている。
「ロザリー。姫様を信じて、すべてを任せてください。きっと優勝してみせます」
「……本当に立っているだけですから」
少しもじもじとするロザリー。本当は出場したかったのかもしれない。
「あと一人、まだチームに参加していない人はいないかしら?」
なんとかロザリーの参加の了承を得たユリィは、周囲を見回す。
「それなら、あの子がいいよ! 聞いてくるね!」
山ガールの千里眼は、遠くで孤立する少女をロックオンした。
その少女の前まで走って行き、声をかける。ミーサは遅れてついて行った。
「ねえ、球技大会、一緒にやろうよ!」
突然声をかけられ、驚いて肩をビクっとさせ、それがなかったように取り繕う金髪ツインテールの少女。
「ふんっ! 私に声をかけるなんて! あんた、見どころあるじゃない! どうしてもって言うのなら、行ってやらないでもないわ!」
両腕を組み、片目を閉じ気味にして顎を上げ、自信ありげに話す。
(あちゃー! また面倒なのに声をかけたもんだなあ)
トモリンは、ボッチな地雷を発見するセンサーを標準装備しているのかもしれない。ミーサが頭を抱える。
「そっかあ。うーんっと、他にしようかな!」
ぷいっと、どこかに行こうとするトモリン。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! このクリスティーネ様が行ってやるって言っているのよ! 早く連れて行きなさいよ!」
慌てて引き留めるクリスティーネ。
(なんだ、この子は……。一見、行きたくなさそうにしていて、実は一緒にチームを組みたいのか?)
長年ボッチをしている娘の心情は複雑なのだ。
「じゃあ、よろしくね! クリスちゃん!」
「ク、ク、クリスちゃん!?」
頬を染め、早口で復唱するクリス。
「私はミーサだ。クリス、よろしくな!」
「ふんっ! このクリスティーネ様が仲間になってあげたんだから、あんたたち、きちんと働きなさいよね!」
「クリスちゃんも、一緒に頑張ろうね!」
「い、い、い、一緒に、が、頑張るなんて……、私の実力を見くびんないでよね!」
シドロモドロになりながらも、薄い胸を張るクリス。
「揃ったどー!」
トモリンがユリィたちと合流する。
「この子はクリスだ。みんな、一緒に頑張ろう!」
「クリス。よろしく頼むわ」
「はっ! クリスティーネ様が仲間になってあげたんだから、あんたたち、優勝しなさいよね!」
クリスは、皇女ユリィにもまったく動じない肝の据わった娘のようだ。それが虚勢であるのは、明らかなのだが。
「もちろん、姫様をメインアタッカーに据えて優勝を狙います。それにはクリスの助力が必要なのです。よろしく頼みますよ」
「当たり前じゃない。優勝以外、あり得ないわ!」
「もちろん、優勝するさ!」
握り締めた拳を胸元まで上げ、やる気を見せるマルティナとミーサ。クリスは両手を腰に当てている。
「ボクは応援者」
「わたくしはコートの中で見学させてもらいましてよ。皆様の奮闘を期待していますわ」
一通り挨拶が終わり、ゼッケンの振り分けとなる。
「これまで通り、1番はトモリン、2番が私、3番はミーサ、7番はマルティナで行きましょう」
1番の選手は最も狙われるので、避けるのが上手なトモリンが適任だ。
もし、1番にボールが当たったら次に狙われるのが2番なので、この中で避けるのがトモリンの次に上手なユリィが2番を担うことになっている。
「私はどうなのよ!?」
名前を呼ばれなかったクリスが突っかかる。
実は、学園生活が二回目のユリィには、クリスの運動関係の実力は知れていた。ポンコツだと。
「あなたには、6番をつけて、7番の補佐をして欲しいの。これは、あなたにしかできないことよ」
「ふん! わかっているじゃない! 私に任せておきなさい!」
一番どうでもいい役回りが適任だと、遠回しに指名したのだが、クリスは満足げに納得した。
エマは4番、ロザリーは5番だ。4番から6番は、立っているのが仕事だ。
「チーム申請書を提出してきたぞ」
「いよいよ抽選ね」
各員の番号が決まったら、申請書に書き込んで先生に提出する。それが折り畳まれて抽選箱に入れられ、トーナメント表の割り当てに使われる。
参加したのは24チームだった。トーナメント表は32チーム分の枠があるので、8チームが、一回戦不戦勝だ。
「不戦勝枠、来い!」
ミーサが手を合わせて祈る。
果たして、抽選箱から先生が引き当てたのは、普通に一回戦から戦う枠だった。
「ぐはあ。残念だな」
「姫様の活躍の回数が増えるのです。これは良い機会です!」
後ろ向きになったミーサと、あくまでも前向きなマルティナ。
「一戦一戦、大事に戦って行きましょう!」
「うん! 最初っから全力で行くよ!」
「ウイングブーツ、使いたかった……」
球技大会は薬品や魔道具の使用は禁止だ。
第一回戦。対戦相手は二年生チーム。
「1番を全員で守る陣形だな」
試合開始早々、守備に徹し、カウンター狙いの作戦をとる二年生。
「これだけ囲まれると、1番を狙えないわ」
ドリブルしながら相手の隙を窺がうユリィ。ミーサも、相手選手の間に割り込み、陣形を乱そうと動き回る。
「姫様、私も攻撃に参加します!」
ユリィが右サイドへ進み、それをサポートするようにマルティナが敵陣中央へ上がることで、二年生チームの守備陣形が乱れ始める。
相手選手の意識を引きつけたまま、マルティナは即座に自陣へと戻り、今度はミーサが敵陣内を翻弄する。
ユリィは敵陣中央とサイドを行ったり来たりし、ミーサにパスを送るフェイントをしてから前方へ大きく踏み込んだ。
「空いたわ!」
フェイントにつられ、相手1番の選手へのラインが空いた。ユリィは力を込めて上投げする。
「スリーポインツ!」
「やったな!」
得点後のボールは二年生チームが拾った。
二年生の3番から6番の選手が一斉に攻勢に出る。
敵陣深くから、守備のために自陣へと戻るミーサとユリィ。
「これまでカウンターを狙うときは全員で攻撃してきたけど、今回は四人だけだな!」
「パスをカットして、攻撃陣を狙いましょう」
既に3得点を挙げているユリィチームは、連続して3点選手を狙う必要はなかった。全員で守りを固めるチームなら、守備の人数を減らせばいいのだ。
攻勢に出ている今なら、ボールを避けることに意識は向いていない。狙うなら絶好の機会だ。
ミーサが、巧みにボールを持つ二年生選手に接近する。背後から一気に加速し、腕を振り入れてドリブルしているボールを払う。
そのこぼれ球をユリィが拾い、すぐに相手選手に向けてシュートする。
「ワンポイント!」
「これで相手チームは五人だ! もう守備を固めてもどうにかできるぞ!」
もともと全員でガッチリ守備を固める作戦をとっていた二年生チームは、人数が減ることで3点選手の守りが手薄になった。
ミーサとユリィが左右から守備陣形を崩しに行き、再び中央に出てきたマルティナがパスを受け、駄目押しの3得点をもぎとる。
「姫様、やりましたよ!」
「マルティナ、ナイスシュートよ!」
これ以上守りを固めても勝つ見込みがなくなった二年生チームは、全員で攻撃に出る。しかし、トモリンのヒラリとした躱しやマルティナの献身的なボールキャッチに、攻めあぐねることとなる。
結局、ユリィチームの完勝で試合は終了した。
「勝ったぞ!」
「姫様のシュート、惚れ惚れしました!」
「みんなの活躍のおかげだわ」
「私の活躍のおかげで勝てたのよ! もっと称えなさい!」
ボールに一回も触れていないクリスが、仰け反るように言い放った。
「うん! クリスちゃんもいっぱい走ったよね! 今度、山に走りに行こうよ!」
手を繋いで外に駆け出そうとするトモリンに、
「ちょ、ちょっと何すんのよ!」
「トモリン! すぐに次の試合が始まるわ! 戻ってきて!」
「あ、そうだった!」
テヘペロして戻って来るトモリン。
「トモリンの『今度』は、今すぐのことなのか!?」
ツッコミを入れずにはいられないミーサだった。
第二回戦。
対戦相手は一年生チーム。
「さっきのチームとは対照的に、アグレッシブに攻めてくるな」
ミーサとユリィは相手選手のドリブルの妨害やパスカットに追われる。
マルティナは、何度も飛んでくるトモリン狙いのボールを受け止め、ユリィにパスするが、相手1番選手が右へ左へと動き回り、ドリブルで進んでもなかなか追い詰められない。
相手チームは、全員が縦横無尽に動いてかき乱す作戦のようだ。特定の選手が1番の選手を守るのではなく、1番の選手が動き回って他の選手の陰に隠れるスタイルだ。
「ミーサ、1番の選手をマークして!」
「任せろ!」
ミーサが常に相手1番の選手の近くに位置することで、ユリィがある程度接近してミーサにパスすれば、十分に狙い撃ちができる。
追いかけっこのように走り回る相手1番選手とミーサ。
「体力なら負けないぞ!」
毎朝鍛錬しているミーサは少し走ったぐらいではバテることはない。
それに対し、ミーサから離れようと走り回る相手1番選手は徐々に疲れの色を見せてきた。
「ミーサ、今よ!」
相手1番選手が、今度はドリブルで接近するユリィから逃げようとしたところ、そのすぐ後ろ、絶妙の位置にいたミーサへパスが回る。
「シュートだ!」
「スリーポインツ!」
相手1番の選手に当てることができた。
こぼれ球は相手チームが拾い、すぐに反撃となる。
相手3番の選手がドリブルでトモリンの方向へ進む。
そこから7番の選手にパスし、シュートが飛ぶ。
「もんぱりら!」
空中でくるりと回転し、床に片手をついてボールを避けるトモリン。
その後も、相手チームはボールを拾うと積極的にトモリンを狙うが、ひらり、くるりと躱して当てられない。
「トモリンの避けは、反則級」
山育ちの天性の避けだ。一言断っておくと、上級貴族が真似できるスタイルではない。ちょっと、「おサルさん」に似ている、そんな感じだ。
今まで、正面から狙うとマルティナが受け止め、斜め前から狙うとトモリンが避けていた。そこで、相手チームは趣向を変え、真横からトモリンを狙いだした。
その間に入り、相手選手に向かって仁王立ちするクリス。
「ふん! クリスティーネ様を突破できるとでも? その思い上がり、後悔させてあげるわ!」
「ワンポイント!」
「痛いじゃないの! 誰に当てたと思っているの! 覚えておきなさいよ!」
捨て台詞を吐きつつ、審判に早く退場するように促されてクリスは渋々コートを離れる。
両チームともに攻め続け、試合終了の時間となった。
結果は、ユリィチームの勝利だ。この試合における戦没者はエマとクリスだった。
「二回戦突破だ!」
「姫様、上位8チームに入りましたね」
「優勝を狙うわ!」
「後ろから見ていても、凄い迫力でしたわよ」
両チームが攻めに徹する戦いは、ボールの飛び交う頻度も高く、見応えのある試合だった。コート内の最奥部で観戦していたロザリーは興奮して話した。
「私の活躍も見てくれたんでしょ? どうなのよ!?」
「いい当たりっぷり」
「あれは度胸のある、献身的な壁だったわ。ナイス守備よ」
度胸はあるけど胸の嵩のないクリスは、ナイス「壁」だった。
「いよいよ三回戦か」
他のチームも出そろい、小休憩を挟んで第三回戦が開始された。
今度の対戦相手は三年生チーム。
「例え相手が三年生でも、私たちは勝つわ!」
「これまで通りに戦えば、きっと勝てます」
試合開始の笛が鳴った。
ユリィチームボールからのスタートだ。
ミーサがドリブルで相手陣内に果敢に攻め込む。すると、
「うお! 全員がコートの前方に集まったぞ?」
三年生チームは一斉に移動、コートの前半分に集中し、後ろをがら空きにした。1番選手は中央にいて、その前を一人の選手が守っている。
前進していたミーサとユリィが敵陣深くに取り残されるような形になった。
ドリブルで進み、ユリィへとパスを送る。
「ピー! オフサイド!」
「は? なんだそれ?」
「そんなルールも、隅に書いてあった。ミーサはちゃんと読まないとダメ。オフサイドとは――」
相手陣内において、最奥にいる相手選手よりも奥に向けてパスは出せない。
また、最奥にいる相手選手よりも奥の「オフサイドエリア」では、ドリブルで進むことは可能でシュートも可能だが、こぼれたボールを拾うことはできす、さらに自身にシュートされたボールを受け止めることができない。
そんな感じの説明を、エマがざっくりと話す。
「つまり、ドリブルで後ろに回ったら、シュート以外するなってことだな!」
「大体そんな感じ」
「シュートの後は、避けることしかできなくなるわ。速やかに自陣に戻らないとダメね」
「オフサイドって、残り人数が少なくなったときの、特別ルールだと思っていたぞ!」
今までも、相手選手が残り数人になったときに、追い込もうとしてユリィにパスを送り、オフサイドになったことがあった。
だから、このように相手選手が全員揃っている状況でそれが適用されるとは、夢にも思っていなかった。
相手ボールからのリスタート。敵陣深くにいたミーサとユリィが急いで自陣へと戻る。
「これは、やりにくいな」
今までとは異なる、徹底した組織的な動きに、ユリィとミーサの動きが封じられている。
マルティナがシュートされたボールを受け止め、ドリブルで三歩進んで、ミーサに向けてパスをする。そのときにはもう、三年生チームは守備位置に戻っている。
ミーサのシュートは空を切り、コートの外へと出た。
この布陣で、何度かシュートの打ち合いが続く。
三年生チームは守備位置が前寄りなので、攻めから守りに戻るのが早い。また、その逆にカウンターを狙うのも早い。その結果、三年生チームのほうが攻める時間が長くなっていた。
「ワンポイント!」
エマが討ち取られた。
三年生チームは、3点のトモリンではなく、1点のエマを狙ってきた。
「先制されたぞ!」
「まだ1点よ! すぐに取り戻せるわ!」
「3点取れば逆転です。落ち着いていきましょう」
もともと、立っているだけの三人が被弾することは想定内だ。
トモリンが転がるボールを拾い、ミーサにパスを飛ばす。
ミーサはそれを受け取ると、左サイドをドイブルで駆け上がる。ライン際のミーサの復活だ。
三年生チームが三人でミーサを囲む。一区画二人までのルールがあるので、隣の区画の一人を合わせた三人で巧みに囲い込んでいる。
「身動きが取れないぞ」
囲む選手にシュートして活路を見出すか、それとも、無理矢理進路を開けてパスをするか……。
一瞬の逡巡だった。
ミーサの手からボールをカットし、囲っていた三人がそのままパスを回して攻めに転じる。それをアシストするように、逆サイドからも二人上がってくる。
「守りから攻めに回るのも早いわ」
守備陣のボールカットをすぐに攻撃へと結びつける。守備位置が高いこともあり、すぐに攻め手が押し寄せる。
「ワンポイント!」
「わたくしはここまでですわ。皆様、頑張ってくださいまし」
ロザリーが退場して行く。
三人で攻めてきていることもあり、ロザリーに当たって転がるこぼれ球はそのまま三年生チームのものになった。
「相手は1点ずつ点を稼いでいく作戦のようね」
三年生チームはボールを中央に運び、マルティナを誘い出し、さらに一旦自陣へとボールを戻す。
これを阻止しようと、ユリィとマルティナが敵陣の中へと入り込む。
その結果、右サイドの守りが手薄になり、先ほどの三人が右サイドまで移動してきて、深い位置で自陣からのパスを受ける。
「至近距離からのシュート!?」
「トモリン!」
トモリンは背中をのけ反らせ、その上をボールが通り過ぎて行く。
その間、時間がスローモーションのようにゆっくりと流れる(あくまでもトモリンの思い込み)。実はこの避け方を、ちょっとやってみたかったトモリン。
ボールがコートから出たので、トモリンのスローインによるリスタートとなる。
スローインは、上投げパスが可能で、真っ直ぐにミーサに向かってボールを投げる。
「もらった!」
ボールを受け取ったミーサはライン際をドリブルで駆け上がる。
しかし、そのときには、三年生チームの選手は全員守備位置に戻っていて、1番選手を直接狙えるラインは空いていない。
とにかく、三年生チームは攻守の切り替えが早い。
だからといって、躊躇すると、また三人が囲んでボールを奪いにくる。
「マルティナも攻撃参加を!」
「姫様、わかりました! それではクリス、ここは任せましたよ」
「ふん! 私にできないことなんて、ないんだからね!」
そんなマルティナとクリスとのやり取りを聞いていたかはわからないが、
「トモリン、避けに集中して!」
「うん! 避けまくっちゃうからね!」
ユリィからトモリンに指示が出た。
三年生選手に囲まれているミーサ。今度は、シュートすると見せかけて上投げのままワンバウンドでマルティナにパス。そしてワンタッチでユリィに回す。
ボールを左サイドから中央、右サイドへと流し、ユリィの得意の形ができた。
「がら空きよ!」
ドリブルで三年生選手を躱し、渾身の力でシュートする。
三年生1番の選手に向かってボールが飛んで行く。
バシュッ!
ぎりぎりのところで、三年生7番の選手がそれを受け止めた。
「おしい!」
そして、速攻の反撃が始まる。
「ワンポイント!」
今度はクリスが討ち取られた。
「3点差か……」
「私たちも1点、返しましょう」
ユリィ、ミーサ、マルティナが果敢に攻める。
ミーサがシュートしたボールが、三年生5番の選手に当たる。しかし、それが床に落ちる前に三年生6番の選手が拾い、得点にはならなかった。
当てられても、床に落ちる前に味方選手が拾えば、得点にはならないのだ。
「もう少しだったのに!」
そして、そこから間を置かない反撃。
至近距離にいるミーサに向かってシュートが放たれる。
ミーサはまだ十分に体勢を整えていない状態であり、ボールを避けることはできず、
「ワンポイント!」
「すまん! やられた! ユリィとマルティナで逆転してくれ!」
ミーサがコートを去って行った。
こうなると、ユリィチームは攻め手に欠け、なかなか攻勢に出ることができない。
結局、ワンサイドゲームで試合は終了した。
結果は完敗だった。
「負けたわ……」
「残念だったな」
「姫様、悔しいですね」
精いっぱい戦った。でも1点も取ることができなかった。
悔しい思いでコートを見つめていると、銀色のセミロングヘアにベレー帽を斜めにのせた三年生が近寄ってきた。
「良い戦いでした。あなた方のチームにもう一人攻め手がいたら、試合はどうなっていたかわかりませんでした」
先ほど対戦した三年生チームのリーダーだ。
「2番と3番の二人が両サイド深くまで上がってくることは、前の試合で見ていましたから、それに対処しただけなのです。7番の選手も時々中央に上がってきますが、それ以外に、2番または3番の傍で補助する攻め手がいれば、完全に試合を掌握できたことでしょう」
きりりとした目つきで分析した結果を話す。
「私を三人で囲む作戦は、最初から仕組まれていたのか!」
ミーサが腕を大きく振って悔しそうにする。
「その時々の敵に有効な作戦をとること。それは球技大会に限りません。軍学の授業でも同じことですよ。3番のあなたは孤立して突出しては能力を発揮できません。今回と同じように囲まれてしまうことでしょう」
「そうね……。球技大会は戦争と同じで、個々の力だけでは勝てない。チームの総合力、それと有効な作戦が必要だということね。良いことを学んだわ」
将来起こるかもしれない隣国との戦争。ユリィはそれに向けて大きな学びを得た。
「来年、皆様と再び戦いたいですが、残念ながら私は今年で卒業です。皆様の来年の健闘を祈ります。では、ごきげんよう」
その三年生は名乗ることもなく、そのまま去って行った。
結局、この三年生チームは残る試合すべてに勝ち、優勝した。
「いろいろな戦い方をしていたな」
「私たちに見せた戦法とはまったく異なる方法で、相手を翻弄していたわ」
「おそらく、私たちのチームにもう一人攻め手がいても、対処されてしまうのではないでしょうか。あのチームに勝てるよう、もっと強くならないといけませんね!」
二階の観客席から観戦していたユリィたち。
ベレー帽の三年生の作戦立案力と実行力が、強い印象となって皆の頭の中に残ることとなった。




