033話 ドリブル・オア・シュート
休日が終わると、いつもの学園生活に戻る。
「次はミーサの好きな体術。実技棟へ移動」
算数の授業で居眠りしていたミーサは、エマに起こされて実技棟へと移動する。
居眠りというより、知恵熱でオーバーヒートしていたというのが正しいのかもしれないが。
上級貴族エリアの実技棟は、下級貴族の物と比べて、二階部分に観客席が増えているなど、いろいろな面で設備が充実している。
「今日は球技よ。トモリン、楽しみにしていたでしょ?」
「うん、楽しみ! どんな球技かな。バレーかな、ドッジボールかな……」
「球技なら、トモリンに負けないぞ!」
「ルール表が張ってある。七人で対戦する競技」
ルールの概要は以下のようだった。
【ドリブル・オア・シュート】
・選手は1番から7番のゼッケン取り付ける。
・相手選手に上投げでボールを当てると得点になる。
・上投げで投げたボールをキャッチされた場合は、相手ボールとなる。
・ボールを当てる際は頭部を狙ってはいけない。
・コート内で最も低い番号の選手に当てると3得点。その他は1得点。
・1番から順番に当てて行くと、常に3得点になる。
・ボールを当てられた選手は退場。
・7番の選手のみ、二回当てられるまで退場にならない。そのまま試合続行となる。
・ボールを持つとドリブルでしか移動できない。
・ボールを持っていない場合は自由に移動できる。
・一区画に同時に入れるのは同一チームで二人まで。
・選手同士の接触、とくに体当たりは禁止。
・パスは、下投げのみ可能。上投げパスは違反。ただし上投げワンバウンドパスは可能。
・ドリブルを手でカットすることが可能。
・パスを手でカットすることが可能。
・ボールを蹴ってはいけない。
・時間制限または相手選手がコートからいなくなったら終了。
「よくわかんないけど、ドリブルで相手コートに入れるドッジボールみたいなものだね!」
「ドッジボールって、なんだよ?」
いつものツッコミを入れるミーサだった。
「ボールを投げて、相手選手に当てればいいんだよ!」
「それでもいいのですが、1番の選手にいかに早く当てるかが、高得点の要となります」
マルティナがルールを眺めたうえでの考えを説明する。
相手にボールを当てまくって選手を減らせば、それはそれで試合を有利に進められるが、得点差で負けるかもしれない。
1番、2番……、と順番に当てて行くことが高得点の鍵となる。そうさせないよう、1番を守る選手を設定するのが定石だ。
「トモリン。このルールだと、重要なのは7番の選手の活用方法。一回当たってもそのまま続行だから、1番の守りをするのか、捨て身で敵陣に攻め込むのかで、展開が大きく変わる」
エマは自分が体を動かすのでなければ、球技のルールであってもすぐに理解、分析できる。
「うおっ。体術なのに頭を使うのか! 私なら、全員で特攻だな!」
1番の選手が囮になる作戦も、考えられなくはないが、リスクは高そうだ……。
「まずは、七人にならないとチームを組めないわ」
「そだね! ロザリーちゃんを誘っちゃおう! あれ? ロザリーちゃんは?」
ロザリーをチームに引き込もうと探すトモリンだったが、どこにも見当たらない。
「ロザリーは、体術の授業はいつも見学ですよ」
マルティナの見上げる先、二階の観客席に座ってロザリーは見学していた。
「ロザリーは学校もよく休むし、体が弱そうだよな」
「うん。よく、風邪をひいている」
「無理をさせない方がいいわ」
「そーなんだー。残念」
そう言って、トモリンは周囲の浮いていそうな子を探す。
「いたいた。あの子にしよう!」
「トモリンは、元気いっぱいだよなあ」
走って勧誘に行ったトモリンに、ミーサは子供の面倒を見る大人のような感想を漏らしながら、その行き先を眺める。
トモリンは、あっという間に目立たなそうなモブキャラを二人スカウトしてきた。モブ上級貴族とはいえ、皇女近衛騎士から勧誘されたら、それは間接的に皇女から勧誘を受けているのと同意だ。断るに断れない。
「七人、揃ったわね」
「姫様、腕が鳴りますね。球技は剣技と違って飛翔物への対処の訓練になります。日頃の訓練の成果を見てください!」
マルティナは、ボールを飛んでくる矢とみなしているのかもしれない。矢を手で受ける訓練はしていないだろうけど……。
「ボクが思うに、重要なのが1番と7番。誰にする?」
「そうね。1番はトモリンが向いているかしら。7番はマルティナがいいわ」
1番の選手にボールを当てなければ、他の誰に当てても永遠に1点のままだ。だから、1番の選手はとにかく躱しまくればいい。
目で見た通りに真似して体を動かすのが苦手なトモリンではあるが、実は、自由意思で体を動かすことは得意だった。だから、ボールを避けるのにはもってこいだ。
7番にはボールを受け止める度胸と、状況を判断する分析力、反撃できる腕力が必要だ。
マルティナは、子供の頃から大盾の技術を習得しており、服の上からではわからないけど、きっと、脱いだら凄いのだろう。筋肉が。
「2番が私で、3番はミーサ。4番から6番は残りの三人で行きましょう」
もしも1番のトモリンにボールを当てられたら、次に狙われるのは2番のユリィになる。だから、ボールを避ける能力の高い順に3番までを決めたのだ。
「作戦は、こうよ――」
このチームの基本作戦は、2番と3番が敵陣に攻め込んで、7番は守備に徹する。4、5、6番は、学芸会の木のような役割だ。
「試合開始!」
ユリィたちは赤チームで、相手は青チームだ。
青チームのボールから始まり、ドリブルでじわじわと接近してくる。
「これって、全員で1番を囲めば、当てられないんじゃないのか?」
「それはできない。ルールでは、一区画に、チームメンバーは二人までしか入れない」
「そっかー。いろいろあるんだな」
ミーサはエマの解説を聞いてからすぐに左サイドに戻り、敵陣内に走り込む。
一区画に二人までしか入れないのなら、トモリンの傍に行く必要もないだろう、と判断した。もっとも、それがユリィの立てた作戦でもある。
ドリブルの勢いのまま、ボールがトモリンに向かって一投された。
バシッ!
7番のマルティナがしっかりと受け止め、素早くユリィにパスを送る。
「マルティナ、ナイスプレー!」
ミーサが叫ぶ。
ユリィはドリブルで相手選手を躱しながら中央へ進み、ミーサへとパスを送る。
「行くぞ!」
パスを受けると、ドリブルで三歩進んで上投げのモーションからしゃがむようにフェイントをかけ、下投げでユリィにパスを送る。
「えい!」
ユリィはパスを受けると即座に相手の1番を狙う。
ミーサとユリィのパス交換で、右へ左へとボールが振られた結果、相手の守備位置がずれて、1番へのラインがガラ空きになっていた。
「スリーポインツ!」
審判が高らかに声を上げる。
「当たったわ!」
「ユリィちゃん! やったね!」
相手の1番の選手に当たって得点になったボールが場外に転がった。この場合は相手ボールからのリスタートになる。
「守備にまわるぞ!」
得点後、ミーサが一旦後ろに下がるのは作戦のうちだ。
ユリィがドリブルする相手選手に接近し、手を伸ばしてボールをカットしようと試みるが、巧みに振り切られた。
「ボクの出番」
両手を広げ、真正面からドリブルで迫りくる相手選手を待ち受けるエマ。試合開始から、ほとんど動いていない。
ばしゅっ!
「ワンポイント!」
審判の声が上がる。
エマにボールが当てられた。
その跳ね返りを素早く拾う青チーム。
この、得点直後にコート内に転がるボールを奪い合うことも、この競技では重要だ。
そして、エマがトボトボ退場して行く傍らで、得点直後の一瞬の隙を狙い、トモリン目掛けてボールが投げ放たれた。
「もんぱりら!」
トモリンは意味不明な言葉を発し、床に手を当てて、くるりと回転するように宙を舞ってボールを避けた。
そのままボールは場外に出たので、赤チームボールでリスタートだ。
「行くぞなもし!」
「なんだよそりゃ!」
トモリンがボールを持ち、渾身の上投げリスタートの掛け声に、条件反射的にツッコミを入れるミーサ。
山での生活で、モモンガの先生にあの独特な避け方を教わった。
その先生の方言を真似したのだと。
なぜ、モモンガが先生なのかとか、ツッコミどころ満載で、ミーサはこめかみを押さえるのだった。
「ナイスパス、トモリン!」
それでも、飛んでくるボールにはすぐに反応して受け止めるミーサ。
自陣深くの逆サイドでボールを受け、ライン際をドリブルで超スピードで駆け上がって行く。
「ライン際のミーサちゃんだね!」
トモリンの独り言はミーサには聞こえておらず、スルーされた。
相手選手の妨害に遭わず、易々と敵陣まで進み、相手選手がボールを奪おうと寄ってきたところで、ミーサは床を転がるような低い軌道でボールを逆サイドのユリィにパスする。
「姫様、サイドチェンジ、素敵です!」
投げたのはミーサ。それでも、手薄となった逆サイドに位置取りをしていたユリィを褒めるマルティナ。惚れ惚れした顔をしている。
相手選手は攻め上がるミーサの周辺に寄っていたこともあり、2番の守備は疎かになっていた。
ドリブルで接近し、虚を突いて上投げするユリィ。
「スリーポインツ!」
相手2番選手に当たり、ボールが床に落ちてさらに弾いて宙に浮く。
「もらったあ!」
ミーサがジャンプしてそれを奪い、続けざまに3番に投げ当てる。
「スリーポインツ!」
連続3得点だ。これで赤チーム9点、青チーム1点。
赤チームは1番さえ守り抜けば、必勝の点差となった。
「この状況でまだ攻めるのか、それとも守りに徹するのか、どちらで行くのかはっきりしないと、布陣が崩れる」
コートの外でエマが分析する。
ミーサはユリィのアイコンタクトを受け、敵陣の中央に陣取る。
どうやら、作戦は「ガンガン攻めようぜ」のようだ。
「攻め続けることこそが、勝利への鍵よ!」
「まかせとけ! ビシバシ行くぜ!」
「諦めたら、そこで得点追加終了だからね!」
青チームは、得点差から、赤チームの1番を狙う以外に手はなく、全員が前のめりに上がってきている。その背後を襲うように、ユリィとミーサの連携が炸裂する。
青チームも避けたりボールを奪ったり、劣勢ながら奮闘している。
マルティナが攻撃に加わり、適時ボールを奪いに行き、赤チームの三人は流星のように素早く動いて連携プレーを披露する。
「赤い三連星だね!」
「なんだよ、そりゃ!」
ツッコミを入れなければ気が収まらないミーサだった。
ピーッ!
試合終了の笛が鳴った。
結局、試合結果は15対2の、赤チームの圧勝だった。
「やった、勝ったぞ!」
「勝ったぞなもし!」
「姫様、おめでとうございます!」
「ええ。これもみんなの健闘があったからよ。よく戦ったわ」
コート内で称えあう中、コートの外では、
「球技なら、みんなが頑張るから、赤点にならない……」
分析を続けているエマだった。
なっしんぐ☆です。
球技を考案してみました。
類似のものが存在していたらごめんなさい。
(一応、いろいろ検索してヒットしなかったですが)
誰か、再現してみて頂けると嬉しいです。
ボッチなもので……。
なお、再現される場合はもう少しルールを加える必要があるでしょう。
シュートせずにボールを保持する時間に制限を加える等です。




