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029話 学園の七不思議、解明

「明日の夜だぞ。どうやって犯人を捕まえる?」


 ミーサ、ユリィ、トモリン、エマ、マルティナの五人は、寮のユリィの部屋に集まった。

 七不思議の犯人捕縛についての作戦会議を行うためだ。


「学園の敷地内で発生している以上は、学園の関係者に違いないわ。生徒なのか、先生なのか……」


 城壁で囲われた学園の敷地に外部から侵入するのは至難の技だ。高いリスクを冒してまで、イタズラのために外部から侵入してくることは、考えられなかった。


「生徒なら、すぐに降参させて見せましょう」


 マルティナは腰のショートソードに手を触れ、自信ありげに答える。


「戦うことなら、任せてくれ!」


 剣技バカも、犯人制圧論に全面的に賛成した。

 今では、正式に皇女近衛騎士に任命されたこともあって、ミーサもショートソードを腰に下げているから、戦うことができる。

 トモリンとエマは、使いこなせないから下げていない。


「重要なことが、抜けている」


 ここでエマが話を挟む。


「重要なことってなんだ?」


 即座に聞き返すミーサ。本人としては、何も抜けているつもりはない。


「それは、ロザリーの説が、本当に正しいとは限らないこと」


「「「あ!」」」


 ミーサ、ユリィ、トモリンが、はっとした顔で声を上げた。ただ一人、マルティナはロザリーの説を信じ切っているので、何の反応もなかった。


「そ、それは……」


 目を丸くして、ギギギっと不自然に首を動かすトモリン。


「……人為的なモノとは、限らない」


 ちょっとだけ間を置いて、平然と答えるエマ。


「いやーっ!」


 トモリンは怖がりのスイッチが入り、大声を出した。


「まあ、トモリン、落ち着け。私たちには強い味方がいる」


 わしゃわしゃとトモリンの頭を撫でながら、落ち着かせる。


「強い、味方って?」


 半泣きの顔でミーサに尋ねた。


「ココナを連れて行けば、いいだろ? ココナは精霊だって言ってたし、オバケより強いに決まっているさ!」


 頭の中で、犯人がオバケに置き換わっているミーサだった。


「ココナちゃん、強いの? それなら呼ぶよー。ココナちゃん、おいでー」


『トモリン、呼んだコン?』


 トモリンの呼びかけに、もわっと霧のような光の粒が広がり、一瞬で現れたココナ。トモリンの左肩に乗っている。


「実はさ、学園内で……」


 ミーサが、七不思議現象について、おおざっぱにココナに説明する。


『ココナが守護する学園内に、侵入者がいるとは見過ごせないコン。捕まえてお仕置きするコン』


「もしも、それが悪魔の類なら、トモリンが浄化すればいいわね!」


「それなら完璧だ!」


 ココナとトモリンがアタッカーに任命されるのであった。



 翌日。


「お父様に外泊のお許しを頂きましてよ」


 ロザリーは、外泊の道具をポーチに入れて持ってきたそうだ。


「今夜は、私と一緒のお部屋だね!」


 皇女と同室する勇気はなく、一番親しげに接してくれるトモリンと同室になるのは、自然の流れだった。


 なお、自宅通学のロザリーといえど、メイドの手助けなしで着替えとかはできる。帝国子女は皆、いつ戦争が起きてもいいよう、自らのことは手助けなしでできるようにしつけられているからだ。


「今夜が楽しみだなあー」


 日中の授業が、上の空で過ぎて行くトモリン。


 放課後。ユリィの部屋に集まる。

 ロザリーは、やや緊張の面持ちで入室した。


「ロザリー。私たちは友達よ。身構えることなんてないわ。対等に接してくれればいいのよ。私のことはユリィと呼んでくれないかしら?」


 そんなロザリーの姿を見て、ユリィは親し気に話しかけてみたのだけれども、これまでの習慣を崩すには、もう少し時間が必要のようだった。

 皇女と対等に接するとは、なんともハードルの高い行為である。


「努力しますわ……」


「本当に友達よ。努力なんて必要ないわ」


 ユリィの目を見て、これは本心だと悟るロザリー。一気に肩の力が抜ける。


「私も友達だよー」


 トモリンの言葉に、少しホロリと涙をこぼしたボッチなロザリー。すぐにハンカチを取り出し、額の汗を拭くフリをして目元を拭って誤魔化した。


「ともだち……」


 そして、小さな声で復唱していた……。


「とっておきのお菓子」


 エマが持参したお菓子を皿に載せる。

 まだ外は明るく、学園内を探検するには早すぎる。暗くなるまで、お菓子を食べながら、世間話をすることになった。


「サクッとしていて、それでいて歯ごたえが濃厚なバタービスケット。舌の上で溶けるように細かくなって、中に込められたイチゴの風味と甘味が、口の中いっぱいに広がって行くぞ~」


「う~ん。鼻の奥を漂うイチゴの香りは、まるで、イチゴの世界に入り込んだみたいだよ~」


「こ、これは幻のヘブンスイーツの甘味ですわ! 手に入れることさえ困難な一品。それがこんなにもたくさん並んでいるなんて、至福のひと時でしてよ~」


 おいしい物を食べてかしましく雑談していると、あっという間に時間が過ぎ、窓の外が暗くなっていた。


「そろそろ行きましょう」


「準備万端だ! 生徒だろうが、オバケだろうが、どーんと来いだ!」


 寮から出て校舎の方へと歩いて行く。

 前回と同様、月明かりが周囲を照らしている。


「真っ暗な学園に来られるなんて、夢みたいですわ!」


 お嬢様の夢は、安上がりのようだ。


 時折、ザクッザクッと石を踏みしめる音を立てながら、皆で校舎の横を歩いて行く。植え込みの途切れている部分には、石が敷き詰めてあるのだ。


「姫様。危険ですから私の後ろを歩いてください」


 前を行こうとしたユリィを、マルティナが手を伸ばして抑止する。


「マルティナ。私たちは友達なのよ。そんな気遣いはいらないわ」


「姫様……。友達、とはいえ、私は近衛騎士でもあるのです。不逞ふていな輩が潜んでいる場所で、姫様の前をお守りすることは私の務め。どうかご理解ください」


 その言葉を聞いて、ユリィは悲しそうに肩に寄り添った。


「あなたを、失いたくないの……」


「姫様……」


 新しい待遇に、なかなか慣れることのできないマルティナだった。


「この辺りが、トイレだな」


 立ち止まり、耳を澄ます。


「何も聞こえませんわ」


「ええ。水が跳ねる音はしないわね……」


「そういう日もあるんだろうな。次行こう、次。そこの非常扉の窓から、光球が見えたんだ。これは私が見たから、間違いないぞ!」


 前回、水の跳ねる音は聞いていないミーサ。


 マルティナは校舎の壁に背中を合わせ、窓の端からゆっくりと中を覗きこむ。


「何も見えません。中は真っ暗です」


「うん。光球は不在」


 エマも真似して覗いてみた。やはり、何も見えない。

 トモリンはエマの肩に手を当てて、ちょいっと顔を出して一瞬だけ覗きこんだ。


「なんにも、いないねー」


『今日は侵入者がいないみたいだコン。安心安心』


 自称学園の守護者のココナは、外部からの侵入者がいないことに安堵している。


「そうね……。この次のは、とても驚いたから、それも確かめてみましょう」


「社交訓練室のピアノの音かあ。あれは怖かったぞ」


 校舎の角を曲がり、職員室の近くへと歩いて行く。社交訓練室は職員室の上、二階にある。

 職員室の傍まで来たところで、皆、顔を上げて耳を澄ます。二階から音がしないか確かめているのだ。


「聞えてこないなあ」


「何も聞こえませんわ。前に聞いたと言うのは、空耳だったのではありませんこと?」


「前に来たときはさー、ひどい音だったよね?」


「うん。身の毛もよだつような不協和音だった」


 ロザリーの空耳説に対抗して、トモリンとエマが、実体験を語る。


「何も起きなくって残念だなあ。せっかくここまで来たんだし、実技棟のボールでも覗いて行こうか」


「ええ。近くだから、行ってみましょう」


「姫様、どんな虫がいるのか、楽しみですね!」


挿絵(By みてみん)


 通路を歩いて実技棟へと向かう。

 実技棟には低い位置にも窓が設置されていて、ボールなどで破壊されないよう、窓枠の内側に鉄格子が嵌めてある。

 その窓から、中を覗き込む。

 高窓から入ってくる月明かりで、ぼんやりと中の様子が窺がえた。


「ボールは転がってませんわ」


「虫はいないのですか。残念です」


「いやー。今日は本当になんにも起こんないなあ!」


 頭を掻きながら、ミーサが言った。


「こちら側は上級貴族エリア。向こうの下級貴族エリアでしか発生しないのかしら?」


「犯人が下級貴族の生徒なら、その説は、あり得る」


 ユリィとエマが考察する中、ココナがフワフワと浮かんで実技棟に入って行った。転移したのか、壁をすり抜けたのか、その区別はつけられなかったが、今は、実技棟の中にいる。


「ボ、ボールが転がりましたわ!」


「姫様、下がってください。虫を駆除します!」


 しかしよく見ると、ボールの上にココナが乗って転がして遊んでいることがわかった。虫ではなかった。


『ボールを見ると転がしたくなるコン』


 その言葉に、ミーサとエマが脱力する。


「も、もしかして、ピアノの音もココナがやっていたのか?」


 いくつか転がして気が済んだのか、トモリンの肩に戻ってきたココナに、ミーサが問い詰める。


『ピアノ? あの、黒い楽器のことだコン? あれは、乗ると音がして楽しいコン』


 そう言って、ココナはフッと消えた。


 突然、少し離れた校舎の方からピアノの酷い音が聞こえ始めた。


「な、なんですの~? ピ、ピアノが鳴り始めましたわよ!?」


 ロザリーには、ココナの声は聞こえないし、姿も見えない。

 だから、これまでのココナとミーサのやり取りは知らない。一心不乱にずっとボールを観察し続けていた。そこに、突然ピアノの音が響いたのだ。


「あちゃ~」


 手で額を押さえるように俯くミーサ。すべてを悟ってしまった。


「早く犯人を捕まえませんこと?」


 皆が落ち着きまくっているので、ソワソワしながら皆に行動を促すロザリー。


「たぶんね、犯人は、初代皇帝像でやってくるよ」


 トモリンの予言のしばらく後。

 ピアノの音が止むと、遠くからガシーン、ガシーンと何者かが歩み寄る音が聞えてきた。


「なんですの? なんですの??」


 ロザリーは放心状態となった。


「姫様、私の後ろへ!」


 マルティナはこの音を聞くのが初めてのことなので、警戒している。犯人が誰であろうと、ユリィを守るのが使命なのだ。


「大丈夫よ、マルティナ。何も危害を加えるようなことは起こらないわ」


 ユリィも、七不思議の原因がなんであるかを、完全に想像できていた。

 やがて視界に入ったのは、歩く初代皇帝像。


『不審者がいないか見回ってたコン』


「やっぱり、ココナの仕業だったのかあ」


「ど、どど、どうして戦わないのですの? それに、ココナって何ですの?」


 落ち着き、安心しきって話すミーサとは対照的に、ロザリーは焦燥していた。


「ロザリー。ココナは精霊。この学園を守護しているわ。だから、戦う必要はないの」


「ココナちゃん、ロザリーちゃんにも見えるようにしてあげて」


『トモリン、わかったコン。ロザリーの波長を合わせるコン』


 ココナはトモリンの肩の上に転移し、そこでぴょこんと跳ねてから、周囲に向けて白い波動を発っした。

 すると、トモリンとエマ以外の者が輝く光に包まれる。


「こ、子ギツネですわ! なんて愛らしい。この子が精霊ですの?」


『僕は精霊ココナ。トモリンを守護する精霊だコン』


「あれ? 学園を守護するんじゃなかったのか?」


 以前と自己紹介が変わったので、ミーサがツッコミを入れる。


『もちろん学園も守護するコン。トモリンも守らないといけないコン』


 トモリンの肩の上で、そこが当たり前の定位置のようにお座りをするココナ。


「それもそうだけど、今、私にも何か変化があったわ」


「そう言われれば、私も腕の動きが軽快になった気がするぞ」


『ユリィとミーサは、剣技の能力を少し上げておいたコン。マルティナは水属性魔法の伝授と盾技能の能力を上げておいたコン』


「おお、剣の重さが感じられないぞ! 軽やかに素早く、意のままに動かせる!」


 早速、鞘から剣を抜いて試してみるミーサ。


「こ、これは、魔法詠唱用スティック! 新しい魔法まで……」


 マルティナが握り締めているのは黒いロッド状のスティックで、先端に青い宝石のような物があって、その根元には水色の大きなリボンがつけられている。


「我求めるは氷塊。冷堅なる壁をここに顕現し、盾となりて我らを守りたまえ。アイスシールド!」


 新しく伝授された魔法で、前方に大きな氷の壁を生成し、「素晴らしいです!」と喜びをあらわにする。


『ロザリーには、波長調整のついでに、風属性魔法の授与をしておいたコン』


「あら、わたくしにも魔法が……」


 ロザリーは、先端に緑色の宝石、その根元に黄色いリボンのついたロッド状のスティックを手にし、すぐに消した。魔法の試し撃ちはしなかった。


「目の黒いうちに精霊に会うことができるなんて、とても幸せなことですわ。長年生きていても、精霊に会える人なんて、いませんもの」


 魔法を使えるようになったことより、ココナに会えたことのほうが、ロザリーにとっては幸せのようだった。


「姫様。七不思議の犯人は、すべて、精霊のココナでよろしいでしょうか?」


「それは、ココナが全部説明してくれるわ」


 ユリィの視線に乞われて、ココナが一つ一つ説明しだす。


 初代皇帝像は、ココナが作り出した守護ゴーレムで、ココナが操作していた。

 社交訓練室のピアノは、ココナが鍵盤の上で跳ねて遊んでいた。

 水場での音は、ココナが水遊びしていた。

 廊下を漂う光球は、ココナが光を発して巡回していた。

 階段の手すりを滑る光球は、同様に光を発して巡回中に、手すりを滑って遊んでいた。

 庭木が歩いて位置が入れ替わるのは、ココナがその日の気分で庭のレイアウトをいじっていた。


「最後の方のは、私たちの調査では情報が上がって来なかったわ。そんなこともあったのね」


『でも、満月の夜に半透明なマントが現れるのは、僕のせいじゃないコン』


「え、え、え、ココナちゃんのイタズラじゃないものも、あるのー!?」


『あるコン』


 あっさりと肯定するココナに、トモリンは恐怖心から、意識を失って倒れてしまう。


「ト、トモリン!」


「七不思議の謎は解明したわ。寮に帰りましょう」


 ミーサとマルティナがトモリンを抱えて寮まで運ぶ。


「ふう。トモリンの部屋まで運んだぞ。あとは、どうする?」


「そうね。しばらくすれば、また元気になると思うから、安静にしておくのがいいかしら?」


「寂しいでしょうから、今夜は、わたくしが介抱してあげましてよ」


 トモリンをベッドに寝かし、添い寝するロザリー。

 友達と一緒に夜を過ごすなんて、夢のようだった。


 上級貴族筆頭の娘として育ったロザリーには、友人などいなかった。

 ましてや、外泊など、本来であればあり得ないことだったのだ。それが、今回許可された。ロザリーの両親が、普段は言わない我儘を聞いてくれたのだ。


「トモリン、元気になってくださいまし……」


 トモリンの頭を優しく撫でているうちに、ロザリーは夢の中に落ちて行く。

 そこは、日差しの眩しい広い草原。トモリンと手を繋ぎ二人ではしゃいでいるロザリー。普段は走ることなどないのだが、夢の中では無邪気に走り回っている。そしてそのことがとても幸福だと思う……。はかない、夢だった。

トモリンだよ!

おうちにある鎧でイタズラしたらダメだからね!


鎧の置いてある家がうらやましいぞ。


あら? 鎧のない家が、この世界にありまして?


ミーサには全身鎧が必要だったかしら?

今度、手配しておくわ。


ミーサが全身鎧を着たら、重さで剣の技能が半減する。


そうですね。鎧を着こんだミーサなら、私の盾だけで打ちのめすことができそうです。


今日は、私がイジられる番だったのか……。

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