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電話の音で目が覚めた。さちよは、受話器を取った。
「生まれたよ」
寛が言った。
そうか。よかった……。
さちよにとっての、初孫が誕生した。
さちよは、いつも夜9時には布団に入る。この日も、いつもどおり、9時には布団に入っていた。
電話が鳴ったのは、深夜1時だった。
電話の音で目を覚ましたさちよは、直前まで夢を見ていた。
予定日まで、あと1週間だったので、その日も、ふだんどおり9時前には床についていたのだ。
「そうかね。おめでとう」
「……」
寛の声が聞こえてこない。
「もしもし?」
さちよは、いやな予感がした。
「う、生まれたんだが……頭がなかった」
さちよは、意味がわからず、「頭がなかった?」と訊ね返した。
寛はそれには答えず、「一度、帰るから。そのとき詳しく話すよ」とだけ答えた。
「そうかね。じゃあ、気を付けて」
さちよは、電話をきった。
寛が帰ってきた。
寛が抱いている赤ん坊のおくるみをとると、電話越しにきいたとおり、首から上の部分がなかった。あるはずの頭部がついてない。口、鼻もない。手足が動くことはあるので、さちよは、(これならだいじょうぶかな)と、ほっと胸をなでおろした。電話越しではうろたえていたようすの寛も、そんなさちよの反応をみて、落ち着きをとりもどしたようだ。
「名前、どうする?」
「もしかしたら、自分で自分の名前を言えない、書けない子になるかもしれんが、元気な子に育ってほしいから、これでどうだろう」
と、寛は1枚のメモをさちよに見せた。
「いいと思うよ。親はあんたなのだから、あなたが決めた名前で」