【子語り怪談】指先
子にせがまれて、毎日語る怖い話の一つです。
寝るときは、これをやらないと眠れない! ってこと、ありませんか。例えばどんなに暑くても、お腹に一枚、タオルか何かが掛かっていないとダメだとか、寝るときは必ず全裸でなければいけないだとか。
子供の頃の私の場合、うつ伏せになり顔は左に向け、両手の平を枕に入れる、でした。その格好で、右手と左手の指先を、枕の下でこちょこちょ触れ合わせていると、いつの間にかぐっすり寝入ってしまうのです。
ところが、その日の私は、どう言うわけかなかなか寝付けずにいました。それと言うのも、眠りに落ちる寸前で、決まって鼻の頭が痒くなるから。
枕の下から左手を引き抜き、鼻を掻いて、また枕の下に手を突っ込む。そんなことを、何度も繰り返しているうちに、何やら違和感を覚えます。どうにも、左手を引き抜いた時と、右手の指先から左手の指先の感触が消える時に、あきらかなラグがあるのです。
はて。これは一体、どう言うことか。
いたずら心を起こした私は、出来るだけ不意を突くように、枕の下から左手を引き抜いてみました。すると確かに、無いはずの左手の指先を、右手に感じられたのです。何やら面白くなって、枕の下で私の左手のふりをする何かを出し抜こうと、なんどか試していたところ、
「やめろ!」
枕の下から大音声が起こりました。
驚いて飛び起き、枕を持ち上げますが、そこには何もありません。私は枕を戻し、「ごめんなさい」と一言謝ってから、また寝床に横になりました。右手と左手に、それぞれの指先の感触を覚えましたが、もうそれを試すようなことはしませんでした。