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柚葉とゴブリン

#1


「な!なな!なんで一緒に寝てるの!」


 柚葉の声を聞き、大の字に寝る優太とそのお腹の辺りに抱きついた状態で文乃は目を覚ました。


「え?えっと…」


「おはよう柚姉ちゃん!」優太はにこやかに報告した「昨日、お願いしたら一緒に寝てくれたの!」


「は?なに!初夜?大人の階段上った?ずるい!」

「ば!馬鹿じゃないの!そんな事する訳ないでしょ!」


「ごめんね柚姉ちゃん、今日は文お姉ちゃんと寝ていいからね!」

「優…、なんで私がお姉ちゃんと寝れるわーい!って言うと思ったの?」


 『グルメテーブルクロス』で朝食を取った三人は、最低限の荷物だけを持って、残りの荷は優太の『四次元ポッケ』に仕舞った。優太は備え付けの冷蔵庫の中の飲み物などを全てポケットに仕舞うと、部屋を見渡して満足そうに二人に視線を送る。


「用意はいい?」


「優君、お酒も持ってくの?」

「うん、お酒はお料理にも使えるし、いらなかったら大人の人にあげてもいいでしょ?」

「あ!そうよね」

「まぁ地球産の物はここだと価値があるからね。こっちに来てる地球の人もいるだろうから、こういった物で情報を引き出せるかもしれないよね」


 用意が済むと三人は、元居た宿屋の部屋へと戻った。文乃と柚葉は、優太が『壁紙商店』などのひみつ道具をポケットに仕舞うのを見ると早々に部屋から出始める。今も這う虫の事を考えると、少しでも早く立ち去りたかったからだ。


 階段を降りると、柚葉は受付カウンターに鍵を返した。カウンターの中には昨日の女性では無く、若い青年が座りながら何かの木の実を剥いていたが、柚葉に気付くと笑顔で声を掛けた。


「どうも!良ければ、またのご利用をお待ちしてます!」

「あー、はい…、お世話になりました」


 そのまま三人は外に出ると新鮮な空気を吸った事で、少しだけ気分が晴れた気がした。


「そういえば、私達って優の道具に頼りっぱなしだけど、『四次元ポッケ』盗まれたらヤバイよね…」


「大丈夫、『スペアポッケ』は2つ用意してて、一つは僕のリュックに入ってるのね。もう一つは柚姉ちゃんのカバンに入れてあるの!それと『取り寄せハンドバッグ』の予備を文お姉ちゃんのリュックに入れてもらったから、どれか盗まれてもすぐ取り戻せるよ」


「や、やるやん…」


「もう、登録証って出来てるのかしら?」

「まぁ出来てなかったら、予定を変えて依頼だけ確認したりして、良さそうな宿を紹介してもらおうよ」

「そうだね。依頼ってどんなのがあるのかな?」

「やっぱ、異世界って言ったら、最初はゴブリン退治じゃない?」

「ゴブリンって小鬼よね?本当に弱いのかなぁ…」


「ふふん、大丈夫だって!正直言うと、体動かしたくてウズウズしてるから一人でだって倒しちゃうよ!」

「柚姉ちゃん、改造されて、凄くなっちゃったもんね!」


「改造されたって言わないでよ…」柚葉は優太に抗議の視線を向ける「でも、まぁ!どんどん活躍して、魔王とか倒して、世界救っちゃうかもよ!」


「そんな危ない事、私はしないからね…」

「魔王ってやっぱり角生えてるのかな?かっこよさそう!」


「え…、気になるのそこなの?」


 冒険者組合に着くと、昨日一度入っているので三人は躊躇無く中に入る。だが昨日と違い、早い時間帯の為か何組もの冒険者がおり、依頼が張り出された掲示板や受付には群がっている状況だった。


「うへー、受付並んでくるから、依頼でも確認しててくれる?」


 柚葉は一番空いてそうな受付の後ろに向かい、それを見ると文乃と優太は掲示板に視線を送った。


「人いっぱいで見えない…」

「うん、それにあの中に入っていける気がしないよね…」


 仕方無しに優太はキョロキョロすると、空いている丸椅子を見つけて取りに行った。


「あの…、この椅子、借りてもいいですか?」椅子を持つと優太は手近な冒険者に声を掛ける。

「ん?ああ、構わねぇけど、お前、冒険者なの?」


 頬から耳元に掛けて傷のある男は、椅子に腰を掛けたまま優太を見つめた。それを見ると、同じテーブルに座っていた彼の仲間も優太に目を向ける。


「うん!今日、登録証貰ったら冒険者になれるみたい!」

「なれるみたいってお前…、剣とか魔法使えたりするの?」

「え?そうゆーのは、お姉ちゃん達が担当なんで…」

「そ、そうなの?じゃあ、お前何すんの?」

「何って…、危なくなったら、助ける係り?」

「へ、へー、そうなんだ…。まぁ頑張れよ…」

「うん!ありがとう」


 丸椅子を持って文乃の元に戻る優太をテーブルの一行は眺めていると、優太は邪魔にならない位置に椅子を置いて文乃に座ることを勧めた。文乃は最初は首を振っていたが、仕方なく座ると、その膝に優太を座らせて抱きかかえる。


「かわいい!姉弟かな?」一行の唯一の女性がそれを見ながら言った。

「かもなぁ…。身なりは悪かねぇけど、あの髪色、この辺の人間じゃねぇよな…」

「路銀が心許なくなって、冒険者にでもってところか?」女性の向かいの弓を担いだ男は、そう当たりをつける。

「冒険者は見た目じゃわかんねぇ奴もいるけど、あれはなぁ…」


 そんな話をしていると、二人にガラの悪そうな三人組が声を掛けた。それを見ると、一行は目を細める。相手が組合でも、気性の荒い事で有名なモルドのメンバーだったからだ。


「なんだ、お前ら?冒険者なのか?」


「え?」優太は不思議そうに男達を見つめた「あー、はい、いま登録証を貰いに行ってるから、貰ったら冒険者になれるみたい」


「はん!そんな小さいなりで、冒険者なめてんじゃねぇぞ!」

「あー、やっぱりそう思います?僕も冒険者は駄目じゃないかなぁって思ってたんだよね…」


「あ?お前ら、そんな心構えなのか…」

「でも柚姉ちゃんは魔王倒す気満々みたい!だけど、優君は血とか駄目ですから…」

「魔王ってお前…、昨日、勇者一行が魔王を打ち倒したって報告があっただろうが…」


「え!そうなの?」優太はそれを聞くとびっくりして柚葉の方を向いた「柚姉ちゃん大変!魔王、昨日倒されちゃったって!」


「ばっか!優、おっきな声で言うなって!」

「あー、ごめんなさい…」


 そのやり取りを見ると、周囲から失笑は漏れた。文乃は恥ずかしくて、優太の背中に顔を埋める。


「おかしなガキ供だな…」

「んー、魔王やられちゃったんなら、竜王とか破壊神とかいないのかな?」

「いや、しらねぇよ…」

「そうですか…、親切にどうもありがとう!」


「え?あ、ああ…」


 三人は優太の態度に、首を傾げながら離れて行った。


「ある意味、大物になるかもしれないわね…」一行の女性は、そのやり取りを見て笑う。

「ゲニスのあんな顔、初めて見たわ!」顔に裂傷のある男も笑った。


 しばらくすると柚葉が受付から戻り、二人に冒険者の登録証をそれぞれ手渡した。


「優、恥ずかしいから、大きな声で言わないでよ…」

「ごめんなさい、柚姉ちゃんの伝説がいきなり終わちゃったから…」

「いや、さっきの冗談だからさ…」


「これ、プレートに穴が開いてるけど、紐通して首に下げるの?」文乃は受け取った銅製の登録証を見ながら聞いた。

「別に首じゃなくても、ストラップみたいにして腰のベルトとか、手首とか好きな所に下げていいみたいだよ」

「じゃあ後で、良さそうな紐探そうね」

「うん!」


「あとね。冒険者としての力量、まぁランクみたいなのが上ると、プレートの下に穴が開いてるでしょ?」

「うん、いま1個埋まってるね。これなんの形だろ?」

「花らしいけど、ランクが上る毎に花のピン貰えるんだって」

「じゃあ、私達はランク1みたいなものなのね」

「うん」

「これ?花なの?ゲテモグラかと思った」

「え?優君、なにそれ…」


「それで、依頼はいいのあった?」

「凄い混んでて見れなかったのよね…」

「じゃあ登録証貰ったんだし、もっかい見に行こうよ」

「うん」


 柚葉が先に依頼が掲げられている掲示板に向かうと、優太と文乃も椅子から立ち上がった。先程に比べて幾らか人は減っていたが、その分、掲げられていた依頼は減っていた。


「えっとね、私達は一番下のランクだから、依頼書の上の所に黒い丸が1個あるのしか受けれないんだって…」


 端の方の空いたスペースから柚葉は顔を出して説明する。二人もそれぞれ空いた場所から顔を出して掲示板を眺めた。


「丸が無いのもあるよ」

「それは、ランクに関係なく受けられるヤツだけど、人捜しだったり、町の人のお手伝いみたいのだったりするんだって…」

「あー、強く無くても出来る感じのね…」


「柚姉ちゃん、ゴブリン退治無いよ…」

「あ、それもね。ゴブリンは害獣扱いみたいで、狩ってくれば、いつでも右耳3つで10ルベルで買い取ってくれるみたい」

「え?右耳3つ?じゃあ、依頼って無いの?」

「えっと、街とか村の近くに住み着いたりして、困ってるようなら依頼は出るみたい」


「これ字読めない人はどうするの?」

「それは、受付で応相談」


 三人は一通り丸印の付いた依頼を確認したが、どれもピンとくる依頼は無かった。


「とりあえず、良さそうな宿を紹介してもらう?」

「うん、それからお試しで近場でゴブリンでも狩ってみようか…」

「でも受付、凄い混んでるね…」


「じゃあ僕、さっきの人に聞いてみるね!」優太はそう言うと、先程丸椅子を譲ってもらった一行に近寄った「すいません!」


「ん?どうした?」顔に傷のある男は、優太に視線を送った。

「あの…、この辺であんまり高くなくて、いい感じの宿屋って無いですか?」

「君、宿探してるの?」一行の女性も優太に目を向ける。

「うん…。昨日泊まった所、部屋に虫がいっぱいだったの…」

「うわー、部屋ちゃんと下見しなかったの?」女性冒険者は顔を顰めた。

「うん…」


「この近辺はなぁ…。西門が近いから、ろくな宿がねぇんだよなぁ…」

「値段も高いしね…」

「え?そうなの…?」

「ああ…」


「個人的なお薦めとしては、ここを出て、通りを右手にずーっと行って、2個目の十字路を左に進むと、ランプタルって通りに出るのね。その通りの宿は結構値段が安めで質のいい宿が多いのよ。その中でも、マラハの宿は清潔で値段も良心的だしお薦めかな?今なら、まだ明るいから部屋取れると思うよ」


「あ、じゃあ、そこ行ってみます!どうもありがとう」

「うん、頑張ってね!」


「あっと!すいません、この子の仲間なんですけど…」話が打ち切られる前に、柚葉は割り込んだ。

「ん?うん、お姉ちゃん?」

「あ、まぁそんな感じですけど…。この辺で、ゴブリンを狩れる所ってありますか?」


「ゴブ?」それを聞くと女性は向かいの弓を担いでいる男性に目を向ける。


「この辺だと、北門を抜けて街道沿いに半刻程行った所に、広大な林が広がっている。その当たりなら、それなりに見かけると思うが…」


「そうですか!どうもありがとうございます!」

「いえいえ、でもゴブだけ狩りに行くの?」

「はい、まだ冒険者に成り立てなんで…」


「でも、街から出るのに通行料で一人5ルベル、出入りに3人だと30ルベルだから、10匹以上は狩らないと儲けが出ないんじゃない?」


「ぐっ…」柚葉は、それを聞いて言葉に詰まった「そうですね。ちょっと考えて見ます…。ありがとうございました」


「はいはい、がんばってねー」女性冒険者は、そう言いながらヒラヒラと手を振った。




#2


 冒険者組合から出ると、三人は少しだけぐったりして歩き出した。


「いい宿聞けたのはいいけど、街の出入りにお金が掛るの忘れてた…」

「いきなり10匹も殺すの?」文乃は心配そうに柚葉に視線を向ける。

「いや、腕慣らしに3匹くらい狩ろうかな?って思ってたんだけど…」


「じゃあ部屋借りたら、『どこでも扉』で行ってみる?」


 二人の会話を聞きながら、優太は何気無く口にした。


「あ…、そっか!」

「そうよね!元々、街に入る時もお金払って入ってないし…」

「じゃあ、そうしよ!今日はお試しでゴブリン退治して、明日からなんか依頼を受けよう!」


 予定が決まると、三人は早々に教わった宿に向かった。その教わったマラハの宿は、外観からして小奇麗で、中に入ると年若い娘と温和な印象を受ける中年女性が出迎えた。


「あら、随分早い時間のお客さんだこと…」


「いらっしゃいませー!お泊りですか?」活発な印象を受ける娘はにこやかに三人に声を掛ける。

「はい、三人なんですけど、部屋の空きはありますか?」

「大丈夫ですよ!丁度、三人部屋が空いてますね!」

「えっと…、部屋を確認させてもらっていいですか?」

「どうぞどうぞ!」


 娘は後ろの壁に掛けられた鍵束を手に取ると、カウンターから出て三人を2階に案内した。


「あ、宿全体に陽の光が入ってて、いい感じ」

「うん!いろいろとオシャレだよね!」

「ありがとうございます!ご案内するお部屋も、先程掃除と布団を干し終えたばかりで、お薦めの部屋なんですよ!」


 そう言うとおり案内された部屋は小奇麗に清掃されており、カーテン、枕、掛け布団など、女性らしい細工が施されていた。文乃は多少、神経質に床を見渡したが、昨日の部屋のように虫がいるという事は無かった。


「この部屋って、一晩、お幾らですか?」

「一人200ルベルで、三名様だと600ルベルで朝食付きになります!」

「あー、じゃあ、借ります」柚葉は即答した。


「ありがとうございます!では、先払いになりますので、お一人様だけでも受付までよろしいですか?」

「そうですか、じゃあ私が行きます」

「はい!では、こちらの部屋は、このままご利用頂いて大丈夫ですので…」と娘は鍵を一つ差し出す。


 文乃がそれを受け取ると、柚葉はそのまま一緒に受付まで降りて行った。


「昨日の部屋より、安かったね!」

「うん!安いし、ご飯も付いてるし、何より綺麗に掃除もしてあって、可愛らしくて昨日とは大違い!」


「ご飯、おいしいかな?」

「そこは、期待できないかもしれないね…」


「おトイレはどうする?」

「あー、柚葉は和式だと嫌がるだろうから、優君、おトイレは用意できる?」

「うん、昨日のシリーズで『壁紙トイレット』があるから」

「あ!待って、お風呂も入りたいな…」

「あー、じゃあ、もう昨日の『壁紙商店』、そのまま使う?」

「そうね!寝るのはこっちにして、お風呂とトイレは、昨日のホテル使おうか!」


 そんな会話をしていると、柚葉が戻ってきた。


「ただいまー、かなり感じの良さそうな部屋だったから3日借りたよ。3泊なら1600ルベルにしてくれるって言うし…」

「うん、いいと思う!それでね。トイレとお風呂は優君にお願いして、昨日の壁紙のホテルを用意してもらったから」

「あ!そうだよね!」


 三人は荷解にほどきをし、それが終わると優太は、防犯の為に昨日同様の道具を取り出した。


「優、いま昨日の壁紙ホテルの部屋行って来たけど、部屋が綺麗に片付いてたよ。飲み物もまたあったし…」

「え?1回外すと、リセットされるのかな?」


「まぁ綺麗になってる分にはいいんじゃないかな?」文乃は自分の選んだベッドに腰掛けて言った。

「そうだけど、忘れ物すると、取り戻せ無い事になるかも…」

「あ!そうよね!そこは気を付けないと」


 一通りの用意を終えると、優太は『どこでも扉』を取り出した。


「部屋の入り口は、『空間ひんまげたテープ』を掛けてあるから廊下側からは入れないのね。だから使わない荷物は置いて行こ」

「ガードロボもあるしね」


 最低限の荷物を持つと、三人は『どこでも扉』を抜けて、先程教えられた林周辺に現れた。


「なんか、お腹空いちゃった…」優太は空を見上げて言った。

「確かに…、先にお昼にする?」


「そうね…。ってスマホの時計、もう16時なんだけど…」文乃はスマートフォンを確認して驚いた。

「あー、それ、私も気付いてたけど、もっと前からズレてたかも…。私の方も16時だもん」

「え?通信できないからズレてるの?」

「いや、多分だけど、地球とランバルディアの1日の長さが違うんだと思う…」

「え…、それって1日が24時間じゃないって事?」

「うん…、多分だけど、こっちの1日の方が長いと思う…」


「じゃあ!長く寝れるって事じゃない?」優太は嬉しそうに言った。

「そうだけど、逆に学校とか仕事だと、長く授業があったり働かないとだよ」

「くふ、やだー…」


 文乃と柚葉は、こちらの常識と日本側の常識の差を痛感し、改めて今後の方針を話し合った。


「取り合えず私達には、この世界での協力者、まぁ仲間が必要だと思う。でも、その人が信用できるかは、すぐには解らないから、それこそ優太じゃないけど、奴隷でも買って懐柔して、最低限の情報を得て行くべきだと思うんだよね」


「確かに…、こちらの世界に詳しい人が身近に居てくれると安心よね。人間が人間を売り買いするのには抵抗があるけど、まぁこっちの世界でのルールを変えようとは思わないから、この世界のルールの中で道理的な行いはしたいな…」


 二人が会話している間に優太は草むらに座ると『グルメテーブルクロス』を広げ、ビッグサイズのハンバーガーとコーラを取り出すと、モシャモシャと食べながら二人を見ていた。


「普通に、食事してるし…」

「ゆ、優君、お姉ちゃん、ピクニック用のビニールシートあるから、せめてそれに座ってから食べようね」

「うん、お話長かったから、ごめんなさい…」


 街道沿いで簡単に昼食を終えた三人は、左右に広がる林に目を向ける。幸い木々の間隔は広めな為、見通しはそう悪くは無かったが、この先にまだ見ぬ攻撃的な生物がいると思うと、その中を進むのには二の足を踏んだ。


「適当に進んで見つかるかな?」

「わかんない…、見た目からして知らないし…」文乃は林の中を進むのに抵抗がある様だった。

「『たずね人の杖』使ってみる?」

「それって、倒れた方に探してる人がいるんだっけ?」

「うん、動物でもロボットでも行けたから、行けると思うけど…」


「でもそれ、知らない人でも平気なの?」

「あー、駄目かな?あれ?知らない人でも探してる人になら効果あったかな?」

「まぁ試しにやってみよ!」


 優太が杖を取り出すと、さっそく杖を立てて手を離す、杖は優太の左手側、街道沿いに倒れた。


「林じゃなくて、あっち?」

「まぁ行ってみましょ。視界が開けている方が、気持ち的にも楽だし…」

「でもこれ、成功率70%なんだよね…」優太は言いながら杖を見つめる。

「ま、まぁ確率的には高い方だよね」


 柚葉を先頭に警戒しながら三人は進んだが、すぐにはゴブリンらしき姿は視界に入らなかった。怪しんだ優太はもう一度倒してみたが、同様の方角に倒れたので、引き続き進む事にする。


「あ!なんかいる!」柚葉は小声で二人を制した。


 優太はゴブリンが見たくて柚葉の影から覗き込む。見ると街道から僅かばかり離れた位置に石が積まれているのが見え、その近辺で人型の生物が何やら漁っているのが見えた。


「なんか食べてる感じ?」その状況を見て優太は言った。

「え!やだ…、人?」

「いや、多分、あそこで野営でもした人がいて、その何かを漁ってるみたい」

「柚姉ちゃん、よく見えるね…」

「なんか、視力が地球にいた時よりハッキリしてるんだよね…。身体強化に視力強化もあったのかな?」


 平地だったので、三人は林側に寄って手近な木の後ろに隠れた。


「さて、どうしよう。丁度三匹いるみたいだけど…、距離があるからなぁ…」

「文お姉ちゃん、魔法でどうにか出来ないの?」


「え?あ!そうよね!えっと…」文乃は魔導書を取り出すと、手を添えた「えっと『スートイフリフト』って魔法があるんだけど、どうかな?」


「え?何それ、魔法って英語名じゃないの?」

「なんで英語なの?だったら日本語でいいじゃない?」


「ん?まぁそうだけど、異世界モノって普通は英語ぽい名称で魔法使ってるのに、異世界の情報流してるなら合わせてくれればいいのに、変なとこ不親切だな神様…」


「それで、その魔法どんな魔法なの?」優太はブツブツ言う柚葉を無視して聞いた。

「あ、えっとね。術者が指定した範囲内の大気に眠くなる成分を混ぜて、眠らせちゃう魔法みたい」

「おー、いいんじゃない?あとは寝たヤツを私が倒せばいいんだよね?」

「うん」


「柚姉ちゃん、これ持ってて」

「ん?何これ?」

「『サークルバリヤーポイント』って言って、ボタンを押すとバリヤーが張れるの、張ると中からも外からも何も出来なくなるから、危なくなったら使ってね」

「おー!ありがとう!」

「あ、首から下げれるポーチあるから、それに入れておけば?」

「お!そうだね!胸元の方が咄嗟に使えそうだし!」


 簡単に作戦が決まると、柚葉は昨日買った剣を抜いて、ゴブリンまでの距離を測った。一方、文乃は魔導書に手を置いて、三匹のゴブリンとの距離、効果範囲を調整していた。


「じゃあ、行くよ」文乃は二人に尋ねる。

「うん!優太は、お姉ちゃんの護衛な!」

「うん!大丈夫!」


「はー、緊張する…」文乃はそう言いながらも呪文を唱え始める「グルガ・ルド・マンタータ・『スートイフリフト』!」


 文乃の周囲に僅かな燐光が舞い、唱え終わると同時に、その光は対象に流れて消えた。


 柚葉と優太は、ゴブリンの方に視線を送っていたが、僅かな間を開けてゴブリン達はぐったりと地に伏せていった。


「おー!効いてる効いてる!んじゃ、行ってくる」

「うん、気を付けてね!」


 優太の言葉を聞いて、柚葉は駆け出したが、あまりの速度に優太は目を見開いて驚いた。


「柚姉ちゃんはやーい!」

「ほんとねぇ…、オリンピック出たら優勝しそう…」


 二人は、柚葉が石が積まれている辺りに着くと、剣を振り上げて次々とゴブリンを刺し殺しているのに気付いた。遠目だったが、それを見ると優太と文乃の表情が青ざめ始めた。


「柚姉ちゃん、全部殺しちゃったの?」

「そ、そうじゃないかな?」

「で、でも遠くから見たら、ゴブリンって人間の子供みたいな感じだったよ…」

「え?ちょっと優君、そういう事言わないで…」


 二人が動けないでいると、しばらくして柚葉がトボトボと戻ってきた。外傷どころか返り血すら浴びていない様子だったが、右手に持つ剣先だけは赤く濡れていた。


「ゆ、柚姉ちゃん?」優太は剣先の血を見るとドキリとした。


「た、ただいま…」柚葉は落ち込んだ表情で続けた「こんな事、やめとけば良かったよ…」


「え…?」文乃は表情をしかめて柚葉を見つめる。


「なんて言うか、スキル貰って自分は戦える!出来る!って思ってたけど、出来るとヤレるは別なんだね…」


「柚姉ちゃん?」


「…殺す能力はあるけど、心の方が付いて行かない感じで、刺した瞬間の感触とか生々しくて、殺してる時、なんでこんな事が出来るって思ったんだろうって気付いちゃったよ…」柚葉は全てを吐き出す様に、深いため息をいた「はー…、今日の夜、絶対嫌な夢見そう…」


「だ、大丈夫!ネコえもんの道具で見たい夢見れる道具あるし!僕、今日、柚姉ちゃんと一緒に寝てあげる!」

「う、うん、ありがとね。優…」


「えっと、ゴブリンの右耳は切ったの?」文乃は恐る恐る聞いた。


「無理!もうね、回り血まみれだし、内臓とか出てるし、グロくて1秒だってあそこに居たくない感じだよ…。まぁ唯一の救いは、あそこに人の死骸もあって、あのゴブリンが人を襲った悪いゴブリンだったって事位かな…」


「うー…」優太は聞いただけで怖くて目を閉じた。


「じゃ、じゃあ、帰る?」


「ん、んー、でも、殺すだけ殺しておいて、お金に換えないと、あのゴブリンを何の為に殺したのかって感じだよね…」

「え?」優太はびっくりして柚葉を見つめた。


「人間って、ほら、生きる為に生き物殺すわけだからさ…。お金に換えないと、ただ殺しただけになっちゃうのも嫌だな…」

「そ、そうね…」

「で、でも柚姉ちゃん、あそこに行くの?」


「う…」柚葉はそっちを見ると顔を顰めた「ごめ優、なんか耳切る道具無い?」


「パン切るんじゃないんだから、そんな道具ある訳無いでしょ!」


「優君、なんか、代わりにやるような道具とか思いつかない?」


「あ…、代わりにやる道具ならあるかも…」文乃の言葉を聞いて思い出した様に優太はポケットを漁った「これ!『ツヅキヨロシク』って道具なんだけど…」


 優太は上部に穴の開いたボトルの様な道具を取り出すと地面に置いた。


「この道具が、どうやって続きやってくれるの?」


「上からガスが出て、そこに手を入れると、手袋みたいになるのね。それで、途中まで作業して…」そこまで言って優太は、またゴブリンの死骸の位置まで行かないといけない事に気づいた。


「いや、いいよ…。私が殺したんだし、行って来る…」


「う、うん、ゴブリンの右耳持つだけで、手を引き抜けば、後はやってくれるから…」

「解った…。あ!耳入れるのどうしよう…」


「えっと、コンビニの袋あるから、これに入れる?」文乃は自分のバッグの横のファスナーから、白い手提げ袋を取り出した。

「ありがとう、じゃあ、やってくるね…」


 柚葉は優太が出した道具を使って紫色の煙に手を突っ込むと、その両手はゴム手袋を嵌めた様な状態になった。そのまま足取り重く殺害現場に向かうと、躊躇いながらも作業に入る。

 すぐに柚葉は渋い表情を浮べて戻ってくると、何も言わずに立ち尽くした。


「終わったの?」

「解んないけど、手袋がそのまま作業してるのは解った…」


 しばらくすると左右の手袋が、ふよふよとこちらにやって来て、柚葉の剣と上部を縛った買い物袋を差し出した。その手には血糊が付いており、優太は見ただけでゾッとした。


「えっと…」


 優太はどうしようかと迷ったが、落ち込んでいる柚葉にやらせる訳にもいかず自分で受け取ると、用意しておいた『取り消しスプレー』で手袋を消した。


「ゆ、優君、私持とうか?」


「う、ううん大丈夫…」優太は首を振り、柚葉に剣を差し出した「柚姉ちゃん、剣…」


「あ…、ありがと」


「じゃあ、帰って休も…、あ、先に報告には行った方がいいよね…」柚葉は顔を上げると二人に聞いた。

「う、うん、僕、ゴブリンの耳ずっと持ってるの嫌だな…」

「そ、そうだよね…」


「優、それ、私が持つから…」

「え?でも…」

「優持ってたら、『どこでも扉』とか出せ無いじゃん」

「あ…、そうだよね…」




#3


 宿に戻ると、優太は入り口に仕掛けた道具を外して、すぐに出かける準備を始めた。


「柚姉ちゃん、顔色悪いけど、大丈夫?」

「うん、報告だけなら私と優君の二人で行こうか?」


「いや、大丈夫!これは私がやろうって言い出した事だし!最後までやる!」


「じゃあ、早めに終わらせて戻って来ましょ…」

「柚姉ちゃん、無理しないでね…」


 心配した優太は柚葉と手を繋いだが、柚葉の右手に持たれた買い物袋に視線を向ける。その買い物袋の内側から赤黒い染みが薄っすらと透けて見え、それを見ると優太は胃の辺りがグッと重くなるような感じがした。


「報告終わったら、せっかくだから明日からの依頼も見ていこ!」

「え?」優太は驚いて文乃に視線を送った。


「仕事は別に魔物退治だけじゃないでしょ?だったら出来る仕事探さないと!」

「う、うん、そうだよね!」


「そうだね…。生活していくには、お金稼がないとだしね…」柚葉は少しだけ笑った。


「まぁうちは、優君のひみつ道具があるから、そんなにガツガツ働かなくてもいいのが救いよね!」

「うん!ネコえもんの道具は凄いから!大丈夫!」優太は気遣うように明るく言った。


 冒険者組合はまだ夕刻には早い為か、人の入りは少なかった。その為、三人は待つ事無く受付をする事が出来た。


「すいません、ゴブリンを討伐したんですけど…」

「あ、討伐確認は、右手奥の扉から隣室に行けますので、そこで担当の者にお見せください」

「そうですか…」


 柚葉は言われた通りに右手の扉に向かったので、優太と文乃もその後に続く。言われた隣室は、討伐された魔物の証明部位の廃棄、並びに魔物の解体なども行っている様で酷い有様だった。文乃はすぐに気付くと、幼い優太を前室に残す事にした。


「優君、血まみれだから、見ない方がいいかも…」

「え…」

「そこのお部屋で、待っててくれる?」

「う、うん…」


 優太が素直に戻って行くのを見ると、文乃は固唾を呑んで報告を見守った。


「すいません、ゴブリンの討伐証明お願いします」

「おーう!ちょっと待ってな!いまこれ捌いちまうから!」


 そう言った組合職員の男性は、狼の様な生き物の生皮を剥いでいるところだった。二人はげっそりした表情で俯いていると、男性職員はエプロンで両手を拭きながら笑顔でカウンターまでやって来た。


「どれ!」

「えっと、これです…」柚葉は買い袋をそのまま差し出した。


「なんか、へんな袋だな…」そう言って男性職員は受け取ると、そのまま逆さにしてカウンターにボトボトとゴブリンの耳を振り落とした「あ?たった3つか?」


 二人はその様子を見ると、慌てて横を向いた。


「えっと、今日、冒険者になったんで…」

「ってお前等、これじゃあ赤字だろうが…」

「まぁ、そうなんですけど…」


「あー…、でもまぁ初日じゃこんなもんか…。しっかり生きて帰って多少なりとも成果があったんだったら、明日はもっと上手くやれるだろうよ!」


「はぁ、ありがとうございます…」

「んじゃ、ほれ、10ルベル」

「あ、ありがとうございます」


 柚葉は組合職員の血の痕の残る手で出された貨幣に少しだけ躊躇とまどったが、我慢して受け取ると部屋を後にした。


「あ、おい!嬢ちゃん、この変な袋はー?」

「い、いらないんで、処分してください…」


 隣室に戻ると優太は心配そうな表情で、すぐに二人の下にやって来た。


「お金もらえた?」

「うん…」柚葉は優太を見るとぎこちなく笑った。


「柚は座ってていいよ。私達が依頼見てくるから…」

「ううん、自分が他にどんな仕事できるか見たいし、一緒に探すよ」


 三人は他には誰もいない掲示板に並んで目を向ける。


「丸1つのだと、近隣の村へ日帰りの護衛とかあるね…。今日受付で明日の朝出るみたい…」

「でも、それモンスターが出てきたら殺さないとじゃないの?」優太は心配そうに聞いた。

「あ、そうだよね…」


「丸が無いのだと、オブリ草10束で50ルベルで買取って出てるけど…」

「それ、10個草取ってくればいいの?」優太は出来そうな依頼で明るく聞いた。

「あー、いや、10束だから、1束10でも100?」

「100?そんなに纏めて生えてるのかな…」


「うーん、やっぱり討伐の依頼が多いね…」

「そうね…」


「あ!凄いのあるよ!20万ルベルだって!」優太は目を輝かせた。

「いや、それ、丸いっぱいのでしょ?」

「ううん、丸無いよ」

「え?どれ?」


 二人は優太が指差した依頼書に目を向ける。見ると確かに20万ルベルの依頼書で、依頼主はこの街オルドラーダの領主による物だった。


「えっと、ん?娘さんの病気治したら20万ルベルくれるみたい」柚葉は依頼書を見つめながら読み上げた。


「え?それやろうよ!治すだけでいいんでしょ?」優太はすぐにひみつ道具の幾つかを思い浮かべる。

「うん!私の魔導書も、いろいろな回復の魔法があるから治せるかも!」

「ネコえもんの道具にも『お医者様カバン』があるよ!」

「あ…、そっか!」


 柚葉はすぐに依頼書を剥がし、三人で受付に向う。昨日担当してくれた受付嬢がいたので、三人は彼女に依頼書を手渡すと、彼女はそれを見て僅かばかり表情を曇らせた。


「えっと、こちらの依頼は、確かに力量に関わらずお受けする事が出来るのですが、すでに高位の司祭様、治癒士、薬師の方々が治療に当たりましたが、回復が見込めませんでした。その他にも御当主様は、名高い呪術師、祈祷師、魔導師の方など幅広く人を招きましたが、現在も症状を抑えるのがやっとという状況です」


「はぁ…」そこまで聞くと柚葉は少しばかり表情が曇った。

「だ、大丈夫かな…」文乃も自信無さ気な表情を浮べる。


「治療に失敗しても特に何もございませんが、治療によりご息女の症状が悪化、最悪亡くなったりなどした場合は、組合の方では何も出来ないとお考え下さい…」


「えっとえっと…、自信が無いなら辞めとけって、事ですかね?」

「そ、そうですね…」


「じゃあ、辞めておきます!」優太はあっさり言い切った。


「待て、待て優、すぐに諦めんな…」

「え?でも、治せなかったら、殺されちゃうかもしれないんじゃない?」

「いや、症状が悪くなったらだから…」


「でも…、高位の魔術師とか司祭様が治せないって、どうしてかしら?」

「え?えっと…、呪いとか?」

「…いえ、魔術などの反応は全く無かったようですね…」受付嬢は手配書を見ながら答えた。

「じゃあ、毒?」

「そちらも高名な薬師の方々の診断結果では、似た症状の毒物は確認されていないとされてますし、高位の司祭様なら、解毒が可能ですから…」


「あー、えっと、スキル、能力的なモノで鑑定とか診断とかは?」

「衰弱状態とだけ…、毒、呪い、病気などといった結果は確認されなかったそうです」


「え?病気じゃないと、僕治せないかも…」


「お姉ちゃんの魔導書って、魔法だけなの?」柚葉は後ろを向いて小声で尋ねた。

「ううん、回復から召喚、魔法薬的な製法まで、これまでランバルディアで行われた全ての奇跡の力が記されてるって仰ってたよ」

「じゃあ、それで治せないってありえる?」

「ん?うーん…、そうよね…」


 柚葉は、文乃の魔導書の情報量と優太のひみつ道具の多様性を考えると、どんな病でも治せる気がした。


「あの!私達、東のずっと遠くの国から来たんですけど、いろいろな治療法とか治療薬には自信があるんで、依頼主の方に取り次いでもらえますか?」


「そうですか…、解りました!依頼主は領主のエルデラード様になります。本日中にエルデラード様に皆様方の件はお伝えしますので、明朝、こちらにまたお越し願いますか?」

「はい!」


「それでは、代表の方の登録証をお見せください」受付嬢は柚葉の銅製の登録証を受け取り「ナポリタンのユズハ様ですね」と皮紙にサラサラと写していく。


「ナポリタンのユウタンです!」

「優君はいいから…」




#4


 受付が終わり、三人は冒険者組合の外に出ると周囲を見渡す。


「うーん、体感的には地球の夕方くらいだけど、スマホだともう21時なんだよね…」

「柚、疲れてるなら宿で休む?」


「えっと、ちょっと気分転換に街でも回らない?大人しくしてると嫌な事思い出しそうで…」

「じゃあ、僕、屋台の串焼きみたいなの食べてみたい!」

「いいけど、昨日あんだけ失敗して、よく食べる気になるね…」

「なんか、匂いは美味しそうなんだもん…」


「あ!じゃあ、私はこっちの服とか下着、あと消耗品とかみたいかな…」そう言って文乃はチラリと柚葉に視線を送る。

「あ…、確かに見たいかも…。でも、お金大丈夫かな?」

「まだ金貨1枚は残ってるのよね?」

「うん、あと銀貨は10枚以上あるかな?」


「じゃあ、かなり高額な物買わなければ平気だと思うよ」

「そうだよね。いざとなったら、また優太に蜂の道具出してもらえば…」


「『マネービー』は、この街だともうあんまり集まらないと思うよ。落ちてるお金を集める道具だから…」

「あ!そうか…、こないだ集めばっかだしね…」


「それで、思ったんだけど、明日の依頼が成功してお金が出来たら、王都に行ってみない?」

「え?なんで?お金拾いに?」

「いや、そうじゃなくて…。私達には協力者が必要だって言ってたでしょ?王都なら地球から来てる人だって集まってそうじゃない?」

「あー!そうだよね!」

「地球から来た人なら、いろいろ教えてくれそうだよね!」優太もにこやかに頷いた。


 三人はそんな話をしながら、昨日入った西門の方へと歩きだす。街に入った時、気になる店舗が数件あったからだ。


「優、王都ってもう『どこでも扉』で行けるの?」

「行けると思うよ。もうこの星の半分以上は登録終わってるからー」

「え?…はや!」


「優君、この世界ってやっぱり球体だった?」

「うん、地球と同じ球体だった。衛星はもう全部の表面探査を終えたみたいだから、後は登録するだけ…」

「すげー」

「生活が落ち着いたら、近くの星も調べて行けるようにするし、宇宙ステーションも建造しておくね!」


「「…え?」」


「ネコえもんの道具に『宇宙ステーション実験セット』って、子供用の実験の道具があるんだけど、それで一時的な宇宙ステーションを作ったら、建造し直してもっと大掛かりな物に変えようと思ってるの…」


「そ、それって作ってどうするの?」

「え?世界を観察したり、緊急避難場所にしたり、宇宙から攻撃も出来るよ」

「ちょ!なんか今、最後にサラッと怖いこと言ったよ!この子!」

「だって、ネコえもんの道具って、宇宙探索の道具も結構揃ってるから、使わないと勿体ないでしょ?」


「いや、あの…、優君?お姉ちゃん達は宇宙とかより普通に暮せればいいからね…」

「う、うん…、宇宙ステーションより水洗トイレの方が大事だから…」


「うん、だから、こんな時代遅れの星じゃなくて、もっと地球みたいに文明の発達した星に移住するのもありかな?って思うの…」


「え?そっち?えーっと、なに、その神様も驚きの展開…」

「そ、それって、ここに寄越した神様的にはどうなのかしら?」


「いや、有りかも知れないけど、異世界モノで言うなら『異世界に行ったけどファンタジー世界だったので、近代惑星を求めて宇宙に旅立ちました!』って感じ?訳わかんないよ!」


「まぁそこまで言うなら、この話はここまでにしておくけど、他の星に行きたくなったら言ってね」


「「…うん」」


 優太の予想を超えた話を聞いて二人は何とも言えない表情を浮べたが、西門から右手の外周に向けて歩き出すと、衣料品から武具、雑貨など、多様に並ぶ商店を前にして、すぐにそんな事は頭から離れてしまう。


「あ!お姉ちゃん見て!このカバン可愛い」

帆布はんぷみたいな素材だね。こっちはこういったシャツとかズボン着てる人多いよね」

「うん、でもシャツとかだと、肌に当たると擦れて痛そうじゃない?」

「確かに…、生地固そうだものね…」

「そう考えると、こっちの下着とか、厳しそう…」

「ね…。さっき見たけど、紐っぽいのだったし…」

「でも、私達には優が居てよかったよ…」

「え?そうだけど、なんで?」

「だって『着せ替えキャメラ』があるから、こっちの適当な服を地球の服に変えて幾らでも増産できるし!」

「あー、ってあれって、絵心無いと駄目じゃないの?」

「大丈夫!私の部屋からファッション雑誌とか大量に取り寄せてあるから!」

「あ、写真からでもいいの?」

「うん!だから日本の可愛い下着とか、幾らでも用意できるよ!サイズも自由に変えられるし!」

「そっか!良かったー」


 二人が買い物を楽しんでいる間、優太は店舗の前で待っていたが、あまりにも暇なのでポケットを漁り始める。そして手のひらサイズのメーターと下にボールが付いた道具を取り出した。


(『お宝さがし機』って1000円以上のお宝見つけるけど、日本円じゃないこっちだとどうなるんだろ?)


 そんな事を考えながら道具を起動させると、いきなり下の振り子が大きく反応する。優太はびっくりして、一度文乃と柚葉の方を向いたが、二人はまだ買い物を楽しんでいたのでボールの反応のある方に向かう事にした。


 『お宝さがし機』に誘導されて歩き出した優太は、先程いた位置から50m程行った所で、足元の下に対し強い反応を示した。街中だったが下は地球と違い踏み固められただけの土だったので、優太はポケットから虫眼鏡の様な道具を取り出すと地面覗いて見る。


「あ!指輪埋まってる…」そう小声で呟くとポケットから別の道具を取り出す。


 先端がドリルの様になった手袋型の道具を取り出した優太は片手だけそれを嵌めると、しゃがんで2回ほど軽く掘ってみると、すぐに薄汚れた指輪を掘り当てた。


「優君!」


 後ろから文乃の声が聞こえ、優太は慌てて振り向いた。


「あ、文お姉ちゃん!もう終わったの?」

「終わったけど、勝手にどこか行ったら駄目でしょ?」

「ごめんなさい、見える範囲ならいいかなぁって思って、お宝探してた」


「え?お宝って何?」優太の言葉を聞いて柚葉はすぐに反応した。


「これ!地面に指輪埋まってた」


 そう言って優太が二人に指輪を見せると、二人はすぐにその指輪に視線が釘付けになった。宝石部分は墨でも落としたような黒い石が嵌っており、リング部分は長い間地中にあった為か、細工が潰れくすんだ色合いになっていた。


「え?それ、埋まってたの?」

「うん、この『お宝さがし機』を試したら見つけたの。この道具はね。周囲100mのお宝を見つける事が出来るんだよ!」


「落し物って…、こっちだと警察に届けるとか無いよね?」文乃は隣の柚葉に聞いた。

「埋まってたし、貰っていいんじゃない?」

「そうかな?でも宝石付いてるし装飾も潰れた部分はあるけど凝ってない?」

「まぁ汚れてるし、後で洗ってから調べてみる?」

「うん、そうしよっか」


 指輪の対応が決まると、優太はポケットに指輪を仕舞う。それを見ると柚葉は、先程からいい匂いをさせている壁沿いの屋台の一つに目を向けた。


「優、あの焼き鳥みたいなの食べてみない?」

「あ!食べたい!」

「さっきからいい匂いさせてるし、みんな買ってるから食べようかって話してたんだよね」

「から揚げ位の大きさのが3個付いてるから、一人一切れずつだったら失敗しても我慢できるしね!」

「うん!」


 柚葉は代表して並ぶと、まずは屋台の中を覗いて見る。見ると樽の上に鉄製の板が置かれ、その上にさらに焼けた大きな丸石が置かれていた。その石の上で何かしらの鳥の肉が焼かれている。

 店主はその肉の上に果物をベースにしたタレをジュワッと掛けて、串に刺さった肉を裏返した。柚葉はそれを見ているだけで、口の中に唾が溜まってきた。


「すごいいい匂い!」そう言って優太は鼻を引く付かせる。

「うん!何かの果物と香草ぽいのが焼ける匂いがしてるね!」


 屋台の裏手では、別の男性が次の石を熱しているのが見える。優太は横手に回ってその様子を見ていた。


「石使って焼いてる!」

「まぁ地球でも、石焼き芋とか石焼ビビンバ、石焼味噌とかあったから、石を使う調理って昔からあるのかも」


「ただいまー、10ルベルだった」

「ありがとう、でもそれって安いのかな?ゴブリン3匹分だけど…」

「昨日、10ルベルで大きいパン2個買えるって言ってたよね?」

「うーん、そう言われると適正価格?」文乃はこちらの物価を比較しながら納得した表情を浮べる。


「じゃあ、先食べるね」柚葉はそう言うと肉を一切れ咥えて引き抜いて優太に渡す。

「熱くない?」

「ほっほ、あふい」口の中で肉を転がしながら、柚葉は返事をした。


「優君、ゆっくり食べていいよ」

「うん、ありがとう」


 優太はふーふーと冷まして口にし、柚葉はようやく飲み込んだ。


「あ、結構美味しい、これ」

「うん、タレは変った味だけど美味しいかも!」優太はモグモグと口を動かしながら文乃に残りを渡した。


 文乃はハムッと一口食べて、肉を見つめた「あ、ホントだ。おいしいね!果物のお酒が風味を良くしてるのかな?甘さは何種類かの果物を煮詰めてるみたい。あと地球には無い香辛料が食欲をそそる匂いとこの変った味を出してるのかも!生姜みたいな辛味が刺激を与えてるね」


「文お姉ちゃんすごいね…」

「お姉ちゃん、優にご飯食べさせたくて料理上手くなったからなぁ…」


「あと、このゴマみたいな種なんだろ?」文乃はそう言いながら肉の表面に視線を向けた「ゴマって言うより、イチゴの表面の種ぽいなぁ…。イチゴも煮詰めると種こんな感じになるから、こっちの果物煮たときに出たのかな?」


「これ当たりだったなぁ…。もう1本食べようかな…」

「でも、他にも屋台みたいなのあるから、いろいろ試してみたら?」文乃は食べ終えると屋台の横に串を捨てに向う。

「そうしよっか!」


 その後も三人は、幾つか人の集まっている屋台の料理を試したが、最初の料理ほど口に合った物は無かった。ただ、いろいろな店舗を見ながらの食べ歩きは、それだけで楽しく料理を美味しく感じさせた。


「そろそろ帰る?少し暗くなってきたし…」文乃はそう言って周囲を見渡す。

「そうだね。こっちの服、何着か買って荷物増えちゃったしね」

「荷物、ポケットに入れておく?」


「街中で、あんまり大きな物ポケットから出し入れしない方がいいんじゃないかな優君?怪しまれるから…」

「え…、もう結構、出し入れしてるけど…」


「あ!あれって、ドワーフかな?」柚葉は小声で言って視線を向ける。


 二人もそちらに視線を向けると、数人の人間の男性と二人のぞんざいな髭を蓄えた矮躯わいくの男性が目に入った。特に右側の男性は自分の背丈の2倍はありそうな竿状武器を立てるように担いでおり、周囲の人間も僅かばかり視線を向けていた。


「あ!白雪姫の七人の小人さんよね?」

「え?あれってドワーフなの?」

「確かそうだと思ったけど…」

「そう言われるとイメージちょっと違うなぁ。ゲームとかアニメだと『ガハハ、酒持ってこい!』ってイメージなんだけど…」

「あの人たち、それ言いそうだけど」優太はぽーっと二人を見ながら言った。

「うん、言いそうね…」


「うーん、でもドワーフもファンタジーぽいけど、やっぱり仲間にするならエルフだよねぇ!昨日のエルフさんも凄い綺麗だったし!」

「あ、確かに!」


「僕は、ああゆう感じのモフモフの人の方がいいなぁ」と優太はそちらに目を向ける。


 優太の言葉に二人も視線を向けると、小麦色をしたピンと立った耳が印象的な狐ベースの獣人女性が、人間の男性と楽しそうに腕を絡ませて買い物をしていた。


「ほんとだ!狐ちゃんかわいい!」

「柚!聞こえちゃうよ…」

「あ、耳良さそうだもんね…」


「あ!人間の耳がある所は、モフモフの毛が生えてるだけなんだね…」優太はそれを見ると、少し不思議な気分になった。

「ホントだ…。まぁ普通の猫とか犬とかそうなんだから、そうなるよね…」


「思ったんだけど、狐が混ざった人間がいるって事は、こっちの世界にも狐がいるのかしら?」

「あ…、いるのかな?でも純粋な動物と獣人って、種としたら別物だよね?多分、人間に何かしらの要因が加味されて、ああいった種族が生まれてるんだと思うんだけど…」


「んー、確かにそうかも…。狼男みたいに噛まれて感染したみたいな元々は人間で、なにかしらの要因で派生したって考える方が解かりやすいよね」


「じゃあ、捕まえてネコえもんの道具で調べてみる?」


「発想がこえーよ優…」

「は、犯罪だからね…。優君」




#5


 帰りの道中は夕日に照らされて迷うことなく宿に戻ることが出来たが、部屋に入ると明かりが無いと見通せない程になっていた。 


「はー、こうゆう真っ暗な部屋に入ると、電気の有り難味がわかるよね…」

「だからその分、魔法がある訳だし…」


 文乃はそう言いながら、昨日付与したノック式のボールペンを取り出した。ペン先を出すと周囲を見渡せる程の明かりが室内を照らす。


「その魔法の明かりってずっと点いてるの?」

「これは1週間程度かな?でももっと魔力込めれば、永続的に灯す事も出来るよ」

「へー、魔法って便利だね」

「まぁまだまだ練習は必要だし、いろいろと覚えて行かなきゃならない事も多いけどね…」


「はー、私もそっちにすれば良かったかなぁ…。生き物を殺すのが、こんなに怖い事だって想像して無かったよ…」


 それを聞くと文乃と優太は顔を見合わせた。柚葉は視線を下げたまま頭を掻くと、優太が出した『壁紙商店』の戸を開いた。


「ごめん、先、お風呂入っていい?」

「うん、いいよ」

「あ、ポケットから柚姉ちゃんの荷物出すね!」

「うん、ありがと優…」


 柚葉が入浴に行ってしまうと、優太はポケットから携帯ゲームを出してベッドに寝転って足をパタパタさせた。


「優君、ゲームしてもいいけど、教科書あるんだし勉強もしようね…」

「え…」

「異世界に来たから日本とは違う部分も多いけど、日本の勉強だっていろいろ役に立つと思うから…」

「う、うん…」

「お姉ちゃん、優君がもっと大きくなってお馬鹿さんだったらちょっと嫌だな…」

「お、お勉強します…」

「うん!解らない所は、お姉ちゃん教えるから頑張ろうね!」


 優太は起き上がると、ゲーム機を仕舞って、椅子に腰掛けていた文乃のテーブルの向かい側に座った。


「うんと、国語、算数、理科、社会ってあるけど…、異世界で国語と社会はやった方がいいの?」

「あー、うーん、やった方がいいかなぁ…。漢字はあんまり使わないかもしれないけど、国語は文章の読解もあるし、感性を育てる部分もあるから、やった方がいいと思うよ」


「じゃあ、社会は?」

「社会は、日本とか地球の事だけじゃなくて、歴史的な意味とか地図の見方とか、そういった世の中の仕組みみたいな事も勉強するのね。ランバルディアは地球と違う世界だけど、社会を勉強しておけば…」


 その時、『壁紙商店』の方から獣の叫びとも言える悲痛な声が響き、その後、ズンと地震の様な振動が起こった。優太はその叫び声を聞くと、驚いてビクンと体を振るわせた。


「え…、今の柚姉ちゃんの声?」

「ん…、うん、そうだね…」


 優太はびっくりして目を丸くすると、文乃と『壁紙商店』の方に目を向ける。


「僕、見てきた方がいい?」

「ううん…、放っておいてあげて…」


 文乃は立ち上がると、優太の後ろに回って優しく抱きしめた。


「柚姉ちゃん大丈夫?」

「大丈夫かな?でもね…、私達は神様みたいな人から不思議な力とか道具を貰ったでしょ?」

「うん」

「柚は多分、そういった力を貰って、自分が強くなったからいろいろ出来ると勘違いしちゃったんだと思うのね」


「でも、柚姉ちゃん、ほんとに強くなったでしょ?」

「うん、体とかはそうかもしれないけど、でも、心は日本にいた時の柚と変らないでしょ?」

「あ…、うん…」


「異世界に来たからって、急に生き物を平気な顔をして殺せる訳じゃないし、それが出来るからって、やっていい訳じゃないから、柚は今日、依頼を受けた事で、初めてそれに気付いたんだと思う…」


「うん、解る…。僕もゴブリンの血を見た時、凄く怖かったから…」

「そうだよね。私も凄く怖かったよ…」


「柚姉ちゃんは、殺しても平気になりたいの?」

「うーん、そうじゃなくて、生き物を殺す事を甘く考えていた自分が嫌なんだと思うのね」


「僕、柚姉ちゃんが、ゴブリンとか殺しても平気になちゃったら、ちょっと嫌だな…」

「うん、そうだよね…。でもそれは柚が決める事だし、こっちの世界で生きていく為には力が必要だから…」


「じゃあ僕!柚姉ちゃんが、そんな事しなくても平気な様に頑張るよ!」


「うん…、やっぱり優君は優しいね!」文乃は優太の肩を持つと微笑んだ「でも…、今は柚をそっとしておいてあげてね!それで戻ってきたら、笑ってあげて」


「うん!」


 それから二人は、柚葉が戻ってくるまで勉強をして待った。優太は合間に何度も『壁紙商店』の方に視線を向けたが、いつも明るい柚葉が悲しんでいると思うと胸の奥が痛んだ。


「ごめんごめん!初めてゴブリン殺したからさ。なんか気持ち悪くて何回も体洗っちゃったよ!」柚葉は部屋に戻ると、自分のベッドにボフッと座った。


「気持ちは解るけど、遅いってば…。優君、眠くなっちゃうでしょ?」

「悪かったってば!って優、勉強してるの?」

「うん、文お姉ちゃんにやった方がいいって言われて…」

「え?こっちで日本の勉強なんか、役に立つの?」

「立ちます!せめて義務教育レベルはちゃんと勉強した方がいいでしょ?」

「え?あー、まぁ無駄にはならないかな?」

「でも僕、5年生までの教科書しか持って無いよ…」

「大丈夫、私、優君に教えられる様に中学3年までの教科書全部取ってあって、こないだ取り寄せたから!」


 それを聞くと優太は泣きそうな表情を柚葉に向けたが、柚葉は我慢しなとばかりにコクコクと頷くだけだった。


「まぁ勉強は無駄になる事は無いから、やっときな!」

「うん…」


「じゃあ優君、お風呂入る?」

「えっと、片付けとかするから、文お姉ちゃん先に入っていいよ」

「そう?じゃあ、先に入っちゃうね」

「うん」


 文乃が着替えを持って浴室に向かうと、柚葉はベッドに寝転びながら優太の携帯ゲームを始める。


「柚姉ちゃん、今日寝る時にこの枕使う?いろいろ好きな夢が見れるんだよ!」


「ん?んー」柚葉はゲームの区切りのいい部分で振り返ると、優太の取り出した道具を見つめる「いや、いいや…」


「え?でも怖い夢見るかもしれないよ…」

「うん、そうかもしれないけど、全部自分がした事だから、今日の事は忘れない事にした!だから、怖い夢見ても頑張る!」

「じゃあ、僕、怖くても大丈夫な様に柚姉ちゃんと一緒に寝るね!」

「うん、ありがとね。優」

「ううん、僕も小さい時、柚姉ちゃんにいっぱい慰めてもらったもん!」


「まぁ優はまだ小さいけどねー」と柚葉は笑う「つかさ優、私と寝て胸触りたいだけでしょ?」


「え…、別にちょっと位しか、思ってませんけど…」

「思ってんじゃん…」


「一緒に寝てたら、ちょっと位は触ったり揉んだりするでしょ!事故でしょ!」

「揉んだら事故じゃない気がするけど、まぁ優だったら別にいいけど…」


「何がいいですって?」


 その声を聞くと、二人はビクンとした。


「も、もうお風呂入ったの?」

「パジャマの下忘れたから取りに来たんだけど…、優君だったら何がいいですって?」文乃はそう言ってギロリと柚葉を睨んだ。


「え、えっと、今日、一緒に寝てくれるって言うから、優だったらいっかなって…」


「ふーん、まぁ私も昨日、優君と寝たからいいですけど、優君はまだ5年生だって分ってるよね?」

「も、もちろんですよ…。あ、姉上…」

「分かってるなら、いいけど…。じゃあ、私、お風呂入ってくるから…」


 文乃が行ってしまうと、二人は同時にはーっと息を吐いた。


「僕、今日、文乃お姉ちゃんに怒られてる夢見そう…」

「私も…」

■あとがき


どうも、異世界に行ってもゴブリンを殺せる気がしない福岡です。分割しようかと思っていましたが、区切るポイントが無かったので、そのままの投稿になりました。23000字弱ですが、長いですね。

まぁノクターンで書いてる方では、48000字とかぶち込んだ事があるので、可愛いものです…。


今回は、異世界に来て最初の葛藤を描いた話ですね。基本的に、この物語は異世界に来たら、まず起こるであろうエピソードを描いています。読者の方も、前回の話などの話を含めて、文化の違う世界に来たのだから、こういった出来事は起こっても不思議では無いと思っていただけると思います。


異世界モノの話は多々ありますが、自分の「異」世界の表現はこういった部分で表して行きたいと思っています。


感想、誤字報告ありがとうございます!


次回は今回受けた依頼の話ですね。正直に書くと苦手な人もいる話だと思います。文字数もかなりあるので、分割もまた視野に入れる予定です。


次回は10月19日の予定ですが、分割の場合は1週早めに入れるかもしれません。


それでは、また!

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― 新着の感想 ―
[一言] 感想に頂いた解説が興味深かったです。この作品らしいかも。 でも確かにそこ描いてると本筋からそれて判りにくくなりますね。
[気になる点] 3人ともいっぱいいっぱいだったから仕方ないけど、死んでた人がいたことは報告してあげた方が良かった気がするな。 …次話以降で描かれてたりして。
[気になる点] もしもボックスで一発解決やん
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