優君と異世界事情
#1
三人は冒険者組合から出ると、とりあえず来た道を戻り始めた。
「なんか、ギルドに人少なかった所為か普通に終わったね」
「そうね。どっちかって言うと、みんな私達に興味なかった感じだけど…」
「お仕事、どんなのあるか見てこなくて良かったの?」
それを聞くと、二人は振り返って優太を見つめた。
「優君、もっと早く言ってくれれば…」
「うん…。いや、まぁ、もうお腹減ったから明日でいいけどね…」
「そうよね。どっちにしろ、今日は受けられないしね…」
「あ!ご飯食べたい!」
「この時間だと、お昼と夕ご飯同じになっちゃうかな…」
「あと、泊まれる所も探さないと…」
「あ、そうよね!先に宿を確保してからの方がいいよね!」
「え…、お腹空いた…」
「うん、お姉ちゃん達もお腹空いたけど、ちょっと我慢してね優君…」
三人は一つ手前の広場に戻ると周囲を見渡した。この辺りは街の繁華街と言っていい場所なのか、かなり人通りが多い。その分、周囲には酒場が多く店内からの賑やかな声が通りまで聞こえた。
「この辺だと、夜までうるさそうだね」
「うん、泊まるなら静かな方がいいよね」
「あっちの方は、人少ないんじゃない?」そう言って優太は西の通りを指差す。
「ほんとだ。でも、宿屋あるかな?」
「まぁ行ってみて、最悪、戻ってくるか人に聞こ…」
旅慣れていない三人は、ほぼ行き当たりばったりで行動していたが、金銭面の余裕と優太のひみつ道具がある為、ランバルディアに来た時ほどの焦りは無かった。
「あ!ここ宿屋だよね?」柚葉は看板を見ながら二人に言った。
「ほんとだ。入ってみる?」
「うん」
柚葉を先頭に中に入ると、すぐにカウンターがあり、左手には2階へと上る階段が見えた。三人が入って来たのを見るとカウンターにいた中年女性が声を掛けてきた。
「あら、可愛らしいお客さんだこと、お泊りかい?」
「あ、はい、えっと、一晩幾らになりますか?」
「うちは相部屋だと一晩一人200ルベル。三人一緒の中部屋なら一人300ルベル、悪いけど個室は10日以上の長期客にしか貸してないよ」
「え?相部屋って?」
「大部屋に2段ベッドが6台置いてある共用の部屋だね。男女は別だけど、その子だったら、まぁ女部屋でも構わないよ」女性店員は優太を見ながら言った「中部屋を3日借りてくれるなら3日で一人700ルベルにするよ」
「柚…、100ルベルが1000円目安で考えるといいかも…」文乃は小声で柚葉に教えた。
「あ、じゃあ、中部屋を一晩、とりあえずお願いします…」
「一晩ね。900ルベル先払いで頼むよ」
「はい」
柚葉は銀貨を1枚出すと、女性店員は鍵とお釣りを寄越す。
「部屋は2階の203だよ。鍵を失くしたら1000ルベル貰うから注意しとくれよ。用足しは裏庭、右手沿いの廊下の先から出られるからね」
「はい」
「湯浴み用の桶や、ランタン、タオルなんかは別料金になるけど、必要かい?」
「あ、大丈夫です…」
「あの、えっと、ここって食事は出来ますか?」文乃は気圧されている柚葉に代わって聞いた。
「うちは、食事はやってないけど、そこらの通りなら幾らでも食堂があるから行って来な。部屋に持ち込んで食べたって構わないし、朝は北門沿いに市が立つから、そこで幾らでも朝飯は食べられるよ」
「あ、そうですか、ありがとうございます」
「夜間は鍵をしっかり閉めなよ。何かあってもうちは責任取れないからね」
「わかりました」
一通りの会話が終わると、三人は左手の階段から2階へと上る。上るとすぐに大部屋が目に入り、一番手前の2段ベッドの一つにゴロリと横になった男性が顔を上げて三人に視線を送った。三人は咄嗟に視線を逸らすと、扉の並んだ廊下で、すぐにこちら側の文字で『203』と書かれた自室を見つけた。
「こわ!大部屋こわ!」部屋に入るなり柚葉は嫌そうな表情を浮べた。
「トイレとか一人で行かない方がいいかも…」
「うん」
「ベッドちゃんと3個あるよ」
「あ、ほんとだ。まだ4時前だから、荷物置いて食事に行こ」柚葉はスマートフォンで時間を確認しながら言った。
「え?荷物置いて行くの?盗まれない?」優太は不安そうに言う。
「あー…、盗まれそうかも…」文乃も嫌な予感がした。
「いや、そんな事言ったら、夜中に誰か入ってくる可能性もあるじゃん…」
「じゃあ、邪魔な荷物は『四次元ポッケ』に入れていいよ。寝るときは『ガードロボ』また置いとくから…」
「あ、そうしてくれる?優…」
「ありがとうね優君」
簡単に荷物の整理をすると、三人は出来るだけ軽装になり部屋を出る。柚葉は斜め掛けカバンの下の方に鍵を入れると、邪魔にならない位置に戻した。その腰には、優太が先程言っていた『名刀雷光丸』が、店で買った剣と並んで腰の剣帯に上手い具合に収まっていた。
「さて!何食べる?」宿を出ると、後は食事だけなので柚葉は気楽に二人に聞いた。
「ステーキみたいなの食べたい!」
「あ、そういったのはありそうよね」
「ご飯は無いよね?」
「無いと思う…。歩いてるとき、パンぽいの売ってるのは見たけど、あとはパスタみたいな麺料理があるかな?って感じじゃないかな?」
「え?ご飯無いの?」
「優君、異世界だから、お米が無い可能性の方が高いと思うよ」
「あー、そっかー」
「麦ご飯ってどうなのかな?パンがあるなら、麦ご飯は行けるんじゃない?給食でも出てたよね?」
「給食の麦ご飯ってほぼお米で、1割弱、多くても2割程度しか麦入って無かったのよ…」
「え!そうなの?」
「でも、昔は確かにばくめしって大麦使った全麦のご飯も食べたらしいけど、普段白米を食べてる私達だとキツイと思う…」
「大麦とか小麦とか、よく分かんないな」
「僕も…」
「そもそも、お米無かったら麦だってあるか分らないし…」
「え?でもパンみたいなの売ってたよね?」優太は驚いて文乃に聞いた。
「パンは麦以外でも作れるから…、米粉パンとかあるでしょ?外国だと、とうもろこし粉のパンとかもあるのよ」
「そうなんだ…。そう考えると、私達には優の『グルメテーブルクロス』があって良かったよね…」
「ホントよね…」
三人は賑やかな大通りに出ると、自分達が食事をしても平気そうな食堂を探す。だが、この近辺はオルドラーダの街の出入り口に近い位置故に、飲酒をメインとした飲食店が続いていた。
「やっぱ、街に着いたやったー!って感じに飲んじゃう人多いのかな?」
「そうかもね…。こういった時代だと街と街を行き来するだけでも、凄く大変な事だろうし…」
「日本でもご飯食べる所はお酒もあるから、何処でも平気じゃないの?」
「それはまぁ優の言うとおりなんだけど…、あんな店に入る勇気ないんだけど…」
柚葉の視線の先に二人も視線を向けると、店内に入ってすぐのテーブルに、やたら体格のいい男性四人組が上機嫌に酒を酌み交わしていた。
その声は店外に聞こえるくらい大きく態度も悪い。手前の男性は一口飲む毎に木製のジョッキをダンとテーブルに叩きつけ、正面の男性は木製の皿に顔を埋めてハグハグと犬の様に食べ続けていた。その隣の男性は、そんな仲間にジョッキの酒をピチャピチャと指で掛け、向かいの男は定期的に立ち上がると奇声を上げていた。
「あ、あそこは止めようね…」
「う、うん…」
「もっと普通な飲食店無いかなぁ…」
「えっと、覗いて女の人が多い所にする?」優太は二人を見ながら意見した。
「あ、それがいいかも!」
「確かにそれは安心感がある!」
方針が決まると、三人は冒険者組合の前の通りを更に進んで、飲食店を探した。
「考えてみたら、冒険者ギルドでお薦めの宿とかお店、聞けば良かったね」
「あ、そうよね」
「このお店は、女の人が何人かいるし席も空いてるよ!」優太は店内を覗き込みながら二人に伝えた。
「おー!じゃあ、そこにしようか」
「うん、もうお腹空いちゃったしね」
「うん!」
優太を先頭に店内に入ると、左の壁際の二人組みの女性から注文を受けていた給仕の青年が声を掛けてきた。
「いらっしゃい!どこでもお好きな席へどうぞ…」
その女性客以外に、もう二組の客が食事を楽しんでおり、先程覗いた酒場に比べれば、かなり落ち着いた雰囲気の様相だった。柚葉は二人組みの女性客から一つ開けて席を選ぶと、最初に座り二人も対面に座る。
「メニューとか無いのかな?」
「あそこの壁のが、そうじゃない?」優太は正面の壁に下げられている幾つもの木札を指差した。
「あ、そうかも『ベイドリド』って名前の下に25ってこっちの文字が書いてあるし」
「問題は、それがどんな料理か判んない…」文乃は幾つかの木札を見ながら表情を顰める。
「聞くしかないよね?」
そんな会話をしていると、先程の給仕の青年が厨房から戻り、三人のテーブルまでやって来た。
「先に、ご注文なんかあります?」
「えっと、お酒以外の飲み物って何がありますか?」
「酒以外だと、水、ココ茶、ウルグ乳、マーグ乳、アキロの果実水、マンガライドの果実水くらいかなぁ…」給仕の青年は言いながら指を折った。
「じゃ、じゃあ私は、アキロの果実水を…」
「僕も同じので…」
「私はココ茶で…」
「はーい、アキロ2のココ茶ね…」
「えっと、私達、この街に初めて来たんですけど、ベイドリドってどんな料理ですか?」
「ああ、その黒髪…」給仕の青年は三人に視線を送り直し「ベイドリドってのは、マンズの肉を香草と塩、ケダフの汁で炒め煮したもんだね」と理解した様子で教える。
説明を受けたが、三人にはランバルディア固有の名称が多くてよく分からなかった。
「あー…、なるほど…」柚葉は途方にくれた表情で返事をする。
「あ、あの、お薦めの肉料理はなんですか?」
「ぺリタムなんてお薦めかな?」
「じゃあ、それを1つと…」文乃は食べやすそうな料理を思い浮かべながら続ける「汁物的な料理で、野菜が多めに入った料理はありますか?」
「汁物なら煮込み料理に近いけどイラかな?オウドーも、ちょっと時間もらえれば出せるね」
「じゃあ、オウドーの方を、あとパンってありますか?」
「あるよ。ジャダ粉のパンが」
「じゃあ、それを3つ、あと、炒め物みたいな料理はあります?」
「ホホロ鳥の肉野菜炒めならすぐできるね」
「じゃあ、それをください。あと…、お米の料理とかありますか?」
「オコメ?あー、ごめん、ちょっと解らないけど、うちには無いね」
「そうですか、じゃあ、あとベイドリドを一つください」
「えーっと、アキロ2こ、ココ茶1、ペリタム1、オウドー1、パン3こ、ベイドリド1つだっけ?」
「あと、ホホロ鳥の肉野菜炒めですね」
「あー、そうだった…」給仕の青年は指を折っていたが、文乃に言われて顔を上げた「全部で、150ルベル位行くけど大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です」
「はーい、じゃあ、少々お待ちくださ…」
「おい!モタモタしてないで、料理運べよ!」厨房の方から野太い声が響いた。
「分かってますよ!注文受けてんだから!黙っててくださいよ!」
給仕の青年がブツブツと言いながら小走りに戻って行くのを見ると、三人は少しだけホッとした。
「なんか、たくさん注文したけど大丈夫?」優太は隣に座る文乃を見ながら聞いた。
「パン以外、全部一つずつだから、みんなで取り分けて食べれば大丈夫じゃないかな?」
「お腹も空いてるしね…」
「あ!じゃあ、取り皿貰う?」
「くれるかな?」
「日本じゃないしね…」
「僕、聞いてみる!」
注文が決まり少し落ち着くと、三人は改めて店内に目を向けた。時間帯は夕刻に差し掛かっている為、店内の壁の数箇所に設置されたランプにはすでに火が灯されている。だが、日本の照明に慣れている三人には、店内全体の光度が足り無い様に感じられた。
「柚、食事来たらすぐお金払うシステムみたい」
文乃は後ろの二人組みの女性客が、料理と引き換えに、予めテーブルに積んでいた銅貨を数枚渡しているのに気が付いた。
「食い逃げする人とかいそうだもんね…」
柚葉は肩掛けカバンのポーチから銅貨を一掴み適当にテーブルに出すと、優太が楽しそうにそれを積み重ねていった。
「あ!エルフ…」
今し方入ってきた客を見た柚葉は小さな声を上げる。数名の男性客と女性が一人、そして潤色の髪をしたエルフの女性が最後に入ってきた。特徴的な長い耳、横にいる女性と比べると一回り縮めたような印象を受けるその体躯は細く感じたが、今は鶯色の外套に包まれて全ては分らない。
柚葉はかなり小声で言ったが、そのエルフの女性は僅かばかり柚葉に目を向けて席に着いた。
「わー、映画とか小説での通り、本当に綺麗ねぇ」
「うん!なんて言うか地球の人と違った綺麗さだよね!人形的と言うか芸術的と言うか!」
「僕は文お姉ちゃんと柚姉ちゃんの方が綺麗だと思うけど…」
それを聞くと二人は優太を見つめた。
「ゆ、優君、急にどうしたの?」
「あー、姉ちゃん達と婚約したからおべっか使ってるんだろー?」
「ち、違うもん!…ホントに、そう思っただけだから…」
「はい、お待ちどうさま!先に飲み物ね。アキロ2、ココ茶が1っと…」給仕の青年はトレーから陶器製のカップを3つ置き「続いて、ホホロ鳥の肉野菜炒めとパンが3つと…」言いながら料理とパンをテーブルに並べていく。
飲み物と食事を並べ終えると、エプロンのポケットからナイフと二股のフォーク、木製のスプーンを3つずつ置いた。
「ここまででお代は49ルブルね」
柚葉は優太が積んだ銅貨の束から中くらい大きさの銅貨を5枚拾い上げると差し出した。
「50ルブルね」そう言って青年は、お釣りの1ルブルを同様にポケットから取り出した。
「すいません!小皿とかありますか?」優太は柚葉が受け取ったお釣りを束に積み重ねるのを見て言った。
「小皿?あー!取り分ける皿が欲しいのか」
「はい、3つ下さい」
「ちょっと待ってな。今持って来てやるから…」
「はい、ありがとう!」
給仕の青年は、そのまま賑やかなエルフの一行が座った席に注文を受けに行く。
「くれるって!」
「良かったね優君」
「まぁ考えてみたら、客商売なんだから、それ位くれるよね…」
「これ?ジュースだよね?」
「多分、そんな感じじゃないかな?」
「飲んでみる!」
優太は嬉しそうに自分の前に置かれたアキロの果実水に口を付けた。
「なんか…、温くて、酸っぱくて、変な匂いする…」優太は小さな舌を突き出して、もういらないとばかりに前に押し出した。
「ホントだ…。あんま美味くない…」
「ホント?ちょっと飲ませて…」
「いいけど、お姉ちゃんのココ茶飲ませて」
「うん、これは何かの葉を燻して冷ましたお茶だから、慣れたら好きかも!温いけど…」
「僕もそれ飲みたい!」
「うん、どうぞ」
三人は回し飲みをして味を確かめたが、残念な気持ちの方が強かった。
「これ!間接キスだよね?」
「そうだけど…、優とは小さい頃から食べかけのお菓子とかシェアしてるし…」
「幼馴染ってこういう時、ちょっと残念よね…」
「僕はちょっと嬉しい!」
「あ…、この野菜炒めは普通だね」柚葉はホホロ鳥の肉野菜炒めを一口食べると、お皿の端ににフォークを掛けた。
「味付けは塩とバターぽい何かかな?乳掛った油使ってるね…」
「なんか、この鳥のお肉酸っぱい感じする…」
「え?どれ…」
優太の言葉を聞いて、二人もホホロ鳥の肉を食してみる。
「…これ、賞味期限ヤバイ感じ?」柚葉はフォークを置いて文乃に視線を送った。
「うーん、火は通ってるから大丈夫そうだけど、考えてみたら冷蔵庫とか無い世界だものね…」
「腐ってないけど、単体だとキツイかな…?野菜とならまだ行けるかも」
「優君、まだ他にも来るから、嫌なら別の食べていいからね」
「うん」
それでも優太はお腹が空いてるのか、肉を避けて野菜を口に運んでいた。
「ほい、続いてベイドリドとぺリタム!二つで40ルブルね!それと、取り分ける皿」
「あ、はい、ありがとうございます!」
「あと料理は、オウドーだけかな?」
「えっと、そうですね」
柚葉は料金を払いながら礼を言った。
「あ!これステーキだよね!」優太はペリタムを見て目を輝かせた。
「優、これは食べられるだけ食べていいよ。余らなかったらまた頼むし」
「うん!」
優太は焼きあがったばかりの大きな肉を前に置かれると、さっそくナイフとフォークで切り分けて、大きな口を開けて食べ始めた。だが、しばらくすると優太の動きが止まった。
「ん?どうした優?」
「優君、大丈夫?」
口をモシャモシャ動かしながらも、優太は泣きそうな表情で顔を顰めた。そのうち、口を動かすのもキツくなったのか両手で口を押さえて全く動かなくなった。
「熱かったの?」
柚葉の言葉を聞いて、優太は首を左右に振った。
「お、美味しくないの?」
文乃の言葉に対して、優太は首を何回もコクコクと振る。
「え?見た目、メチャ美味そうだけど…」
「優君、お口から出す?」
優太は首を左右に振ると、テーブルに目を向け、自分のアキロの果実水を手に取って流し込んだ。
「はー、な、何、このお肉…、すごい臭くて美味しくないんだけど…」
それを聞いて柚葉も試しに一切れ口にする「うあー、ホントだ。何これ…、獣臭い感じ?あ…、キツいわ…」
柚葉もアキロの果実水で肉を流し込むと、舌を出して目を閉じている。
「あ…!そっか、草を主食としてる動物って獣臭が酷くて、日本人には合わないって聞いた事ある…」
「え?牛とか草食べてるよね?」
「ううん、私達が普段食べてる牛肉は草と穀物を食べさせる事で、食べやすくしてるの」
「え?そうなの?」
「前にマトンを食べた事あるけど、私もキツくて、それは草の匂いなんだよって言われた事があるし…」
「え…、じゃあ、こっちのお肉って大体こんな感じなのかな?」
「そ、そうかも…。わざわざ穀物を与えた獣を飼育してるとは思えないし…」
それを聞くと、二人は呆然とした表情を浮べた。
「えっと…、ベイドリドを食べてみるね…」
文乃は落ち込んでいる二人を横目に、先程説明されたマンズの肉を切り分けていく。トマトの様な赤い野菜を一緒に炒め煮したのか、器の下には赤いソースが溜まっており、それだけ見れば食欲をそそる見た目はしていた。
「どう?」
「あ…、うん、トマトとは違った酸味のある野菜使ってるみたいだから、少しはマシだけど、少し獣臭いかな…」
「だよね…」
「僕、パンだけでいいや…」と優太はジャダ粉のパンを手に取るとそのまま齧った。
齧ったが、あまりの固さに一度口から離し、取り皿に置いてフォークを突き刺してナイフでザグザグ切り始めた。
「そのパン、そんな固いの?」
「うん、フランスパンの3倍は固いかも…、切っても中も固いよ…」
十字に切り分けると、優太はガジガジとパンを齧り始めた。
「はい、お待たせ!オウドーね!25ルブル」
「あー…、はい、どうも」
柚葉はドロドロに煮込まれたオウドーに視線を向けながらも料金を渡す。
「はい、じゃあ、ごゆっくりー!」
「これはどうかな?豆とか入ってて、繊維がほぐれる位は肉が煮込まれてるけど…」
「見た目はビーフシチューみたいだけど…、美味しくないと思う…」優太は断言した。
柚葉と優太の警戒した言葉を聞いて、文乃は代表して口を付けることにした。
「あ…」文乃は口にする前にスプーンを見つめた。
「ん?どしたの?」
「む、虫が入ってる…」
「え!マジで…」
「と、取り替えてもらう?」優太は心配そうに聞いた。
「あ、羽虫だから、ちょっと付いちゃっただけなのかも、ここだけ除くから…」
「よく見ると器の方に3匹くらい浮いてるけど…」
それを聞くと文乃はクラッとした。
「ここ、お店が駄目なの?」優太は周りを見ながら聞いた。
「いや、これくらいの虫なら、気にせず食べてるんだと思う…」柚葉も同様に目を向ける。
「え!虫が入ってたら、食べれないんじゃないの?」
「えっとね…。お姉ちゃんも虫が入ってたら嫌だけど、地球でも虫をご飯として食べる人もいるのね…」
「え…」
「それに昔の日本も、これくらいの小さな虫なら気にせず食べてたと思うの…」
「そ、そうなの?」
「うん、今の日本の人は衛生面をすごく気に掛けてるから、凄く綺麗な食べ物を口にしてるけど、この世界の人はこれくらいが普通なんだと思うよ」
「それじゃあ、僕も虫とか食べれる様にならないとなの?」
「えっと、私達は優君の『グルメテーブルクロス』があるし、生活が落ち着いたら、お姉ちゃんが優君のご飯作るからね!優君、お姉ちゃんの作るご飯好きでしょ?」
「うん!大好き!」
「虫避けて食べたけど、オウドーは、まだ美味しいかも…」柚葉は少量ずつ口に運んだ。
「味付け濃そうだから、臭みは多少気にならないのかな?虫入ってたけど…」
「他の人、料理にパン付けて食べてるみたい」優太はエルフの居る席の方を見て言った。
「あー、そうしないと固くて食べれないのかもね…」
文乃は周囲を見渡すと、まだ大量にある料理に目を向けた。
「と、とりあえず、たくさんはキツイから、サイコロステーキより小さく切って、私と柚で少しずつ食べようか…」
「え!…正直、もういろいろキツいんですけど…」
「こんなに残すのも、ちょっと…」
「た、確かに…」
「僕も、もうちょっと食べるね…」
「うん、ごめんね優君…」
「料理が美味しくなる道具とか無いよね…」柚葉はペリタムを口に運びながら聞いた。
「あ!ある!」優太はそう言うと、お腹のポケットを漁った「これ!『味のもとのもとのもと』!これ掛けると、味も匂いもすごい美味しくなるの!」
「ゆ、優君、ちょっと声大きい…」
「あ、ごめんなさい…」
「じゃあ、試しにこれに掛けてみる…」柚葉は優太から受け取ると、コショウの小瓶の様な道具をペリタムに掛けてみる「あ!ホントだ!凄い美味しそうな匂い!」一通り匂いを堪能するとフォークで一切れ口に運んだ「うっま!ホントに美味しくなってる!」と続けてパクパクと食べ出した。
「あ!ホントだ!美味しい!」文乃もベイドリドに掛けると喜んで食べ始めた。
「じゃあ、僕、野菜炒め食べるね」
虫の入っていたオウドーはやはり抵抗がある為、残してしまったが、それ以外はキレイに食した三人は、給仕に礼を行って外に出た。味の方はともかく、ゆったりと異世界の食文化に触れた三人は、すっかり暗くなった街路を見渡した。
「街灯とか無いから、真っ暗…」
「文お姉ちゃん、明かりの魔法とかないの?」
「あ!そうだよね」
文乃は優太の言葉で思い出した様に魔導書を取り出す。
「明かりの魔法って基本的な魔法っぽいけど、どう?」
「い、いっぱいある…」
「そうなんだ。明かりが点けばなんでもいいんじゃない?」
「あ!これなんかいいかな…」そう言いながら文乃は、自分のカバンから1本のボールペンを取り出した「イグル・レイ・マズダント・『ライリート』」
するとボールペンの先端に青み掛った光が灯った。その明かりは足元どころか周囲を数mを照らすほどの光度があり、文乃は慌ててボールペンの先を下げて視覚に入らないようにした。
「おー!かなり明るいね!」
「でも、なんでボールペンの先端にしたの?」
「ノックすると」文乃はそう言って、実際にやって見せる「先端を仕舞えば、消せるから…」
「あ!頭いい!懐中電灯だ!」
「でも、字書く時、眩しくない?」
文乃はそれを聞くと優太を見つめて黙った。
#2
宿に着くとカウンター前で、柚葉は立ち止まった。
「ごめん、トイレ行きたいから、暗いし、中庭前の廊下で待ってて貰っていい?」
「あ、私も行っておこうかな…。夜中に行くのは怖いし…」
「僕も…」
先程、女性店員に教わった右手沿いにの廊下を進むと、すぐに中庭に続く扉が目に入る。柚葉は荷物を文乃と優太に手渡すと、ポケットティッシュとウエットティッシュ、明かりの点いたボールペンを貰って、中庭に出て行った。
「夜、おトイレ行きたくなったら、あの大部屋の所を通るの怖いよね?」優太は心配そうに文乃に聞いた。
「うん、私も怖いから、その時は優君、起こしていいから三人で行こうね」
「うん!」
二人がそんな会話をしていると、すぐに柚葉が戻って来たが表情が強張っていた。
「あれ?早かったね」
「む、無理!あんなのトイレじゃないよ…」柚葉は泣きそうな表情で訴えた。
「「…え?」」
「臭すぎるし!目が痛いし!汚いし!壁なんか、手についたの擦り付けたような線があるんだよ!」
「「…え?」」
「足元なんか土で泥ぽいし、ミミズぽいのいたし、足元の所も空気穴だかなんだか知らないけど、ちょっと隙間あるし!とにかく、あんなトイレ入りたくないよ!」
「あ、あー…」文乃は柚葉の言葉だけで、確認する気にもなれなかった。
「優!おトイレ道具でなんとかして!お願い!」
「う、うん…、大丈夫!僕もそっちの方がいいし、なんとかするね!」
「ありがと優!」柚葉は泣きそうな表情で優太を抱きしめた「大好き!」
三人は身を寄せ合って警戒しながら2階に上がると、足早に大部屋前を通過した。柚葉が前以て用意した鍵で中に入ると、三人は少しだけ安堵した。
「明日は、絶対違う宿にしようよ」柚葉はいろいろな面で辟易した表情を浮べる。
「そうね…」
優太は道具を漁りながら周囲をキョロキョロしていたが、二人は荷物を手近なベッドに降ろして寛ぎ始める。
「優、トイレは、そんな急ぎでもないから、慌てなくてもいいよ」
「うん、そうなんだけど…」
「ん?どうかしたの優君?」
「なんか、下、小さいの動いてない?」
「「え!」」それを聞くと二人は慌ててベッドに上がり足を上げた。
「ゴ、ゴキブリ?」柚葉は勘弁してといった表情を浮べる。
「ううん、もっと小さい…」優太はしゃがんで床を眺めた「あー!蟻がいっぱいいる…」
「「え!」」
二人は、改めて驚いた表情を浮べると、ベッドから降りて床を眺めた。
「ほら、こことかここ!いっぱいいるでしょ?」
「うっわ!ホントだ!気持ちわる!よく見ると椅子とかテーブルとかにもいるじゃん…」
「あー、私ダメ、こーゆーの…」文乃は膝を抱えてベッドに座った。
「え…?なんで部屋に蟻なんかいるの?普通、あり得ないでしょ?」
「あはは、蟻だからあり得ないの?」
「笑い事じゃないってば!優」
「ひゃ!ベ、ベッドにもなんか虫いる!」文乃は慌てて立ち上がると、窓際に置いてあるテーブルの方に逃げ出した「ヤダヤダヤダ!なんか茶色い虫いた!」
「え?」
「うっそ…、なんなの?この宿…」
優太は文乃が座っていたベッドに近寄ると、毛布を剥いでシーツを眺めた。
「あー!ホントだー!ちっちゃい茶色の虫が何匹もいる…」
「うわー、気持ちわる…」柚葉は目を閉じて、文乃の方に下がった。
「そ、それ、南京虫じゃないの?トコジラミとか言われてる…」
「え?これ噛むの?」優太はびっくりして1歩下がった。
「うん、噛むから気をつけて!」
「あー、もう…、無理!こんな宿出ようよ…」柚葉は両手で体を抱いて音を上げた。
「今から出ても、他の宿がいいかは解らないよ?」
「いや、今日も優の『キャンピング帽子』の方が遥かにマシ!つか、こんなの比較にもならないよ!」
「た、確かに…、でも街中で、家型の道具なんて出せないでしょ?」
「じゃあ、ここで寝るの?絶対無理!『どこでも扉』で町の外出て、朝にこの部屋に戻って来ようよ」
「あ、それならいいかも」
「僕がどうにかするよ…」優太はそう言うと、『四次元ポッケ』から丸められた紙を取り出した「はい!『壁紙商店』!」
「あ、それ知ってる!壁に貼ると中にお店とか空間とか出来るヤツだよね?」
「うん!」
「でも、それでどうするの?」
優太は板張りの壁にペタリと貼ると、ポケットからサインペンを取り出した。
「あ…」優太は貼り付けた壁紙の四角の欄に手が届かないのに気が付いた「柚姉ちゃん、四角のところにホテルって書いて…」
「あー!なるほどね!」柚葉は優太からサインペンを受け取ると、言われた通りに書こうとしたが考え直した「どうせなら…」
「高級ホテル?」文乃も壁紙の前に立って読み上げる。
「うん、どうせなら、いいホテルの方がいいじゃん!」
「じゃあ、中に入ろ!」優太はそう言って、壁紙に描かれた扉を開いた。
中に入ると、右手に茶系で統一された美しいカウンターが備え付けられた受付があり、天井には豪華なシャンデリアが落ち着いた明るさを提供していた。他にもソファ、テーブル等、質の良い物が置かれ、ロビー兼ラウンジとして用意された場だとすぐに理解できた。
「わー!すごいね!」
「さすが、高級ホテル!」
優太はカウンターに置かれた金色の鍵を取ると、正面の通路を進んだ。
「部屋、右と左の二つしかないみたい…」
「まぁいいんじゃない?」
「うん」
「本当は、自分達がホテルをやる為の道具だしね…」
二人の反応を見ると、優太は右手の扉に鍵を差し込んだ。そして中に入ると、その豪華さにまた三人は目を見開いた。
「わー!ソファが置かれて、リビングみたいなってるよ!」文乃は向かい合ったソファに目を向けて喜んだ。
「浴室なんか大理石で8畳くらいの広さがあるよ!しかもジャグジー付きで円形の浴槽に花びらが入ってるんだけど!」柚葉は浴室を覗き込んだまま報告した。
「あ!一番奥、階段降りるとプールがある!」
「ホントだ…、屋内プールだね…」
「トイレもウォシュレット付きで綺麗だし、冷蔵庫も飲み物いっぱい入ってる!」
「寝室はリビングの隣ね!ベッドも広くて寝心地良さそう!4つもあるし!」
「このテレビ、映るのかな?」
「うーん、このテレビは僕達のいた時代のテレビだから、無理じゃないかな?」
「だよね…」とそこまで言って、柚葉はある事に気付いた「あ!コンセントあるじゃん!スマホ充電できる!」
「充電してどうするの?電波届かないよね?」優太は不思議そうな表情を浮べた。
「時間見れるし、カメラとか音楽聴いたり、電波無くてもいろいろと出来ることがあるの!」とカバンからケーブルとACアダプタ、モバイルバッテリーを取り出す。
「二人とも!その前に、浴室で順番に着替えよ!まだ体に虫とか付いてたら嫌だし…」
「あ…、そうだよね…。こんな綺麗な部屋に持ち込みたく無いよね…」
「じゃあ僕、その前にさっきの部屋に変な人が入って来ないように、『ガードロボ』とか置いてくる」
「あ!そうよね。優君、悪いけどお願いね。その間にお姉ちゃん達、着替えておくから…」
「うん!」
優太はすぐに向かい、一通りの備えを終えると部屋に戻った。戻ると、二人は部屋に用意されていたバスローブに着替えており、その姿を見た優太は顔を赤くして俯いてしまった。
「優君、ありがとうね!」
「…う、うん」
「誰か来た感じとか無かった?」
「それは解らないけど、『ガードロボ』置いたし、部屋の扉に『空間ひんまげたテープ』付けて『スパイツール』を部屋に仕掛けてきたから、ここから部屋を見れるよ。あと『虫の知らせベル』を出すから、寝てても何かあったら解ると思う」
「防犯対策バッチシだね…」
「本当にありがとうね優君!」文乃は優しく優太に微笑んだ「それで、柚葉はプールで泳ぎたいって言ってるんだけど、優君はどうする?優君も泳ぎたいなら、私、先にお風呂入らせてもらうけど…」
「今日は疲れたから、泳ぎたくは無いけど、文お姉ちゃん先にお風呂入っていいよ。僕、道具の用意するし…」
「ほんと?ありがとう優君」
「優も一緒に泳げばいいのにー、今年買った私の水着、結構エッチだよ!」
「え…!」
「なに馬鹿な事言ってるの!優君も一緒に海行ったから見てるでしょ?」
「あ!そう言えば、そっか…」
「う、うん…」優太はモジモジしながら下を向いた。
「じゃあ、一緒に泳ぐなら、少しくらいなら胸触ってもいいよ」
「え!!」
「柚!」文乃は見るからに不機嫌になると柚葉を睨み付けた「優君にエッチな事、言わないの!」
「ぶー、別にいいじゃん、婚約したんだから、胸くらい触らしてやったってー」
「まだ優君にはそういう事、早いでしょ!」
「はいはい…」柚葉は面倒そうにクルリと振り向くと、両手を頭の後ろで組んだ「ちぇー、優太は姉ちゃんとお風呂入る方がいいのかー」
「え!」優太はびっくりして文乃を見つめた。
「ば、馬鹿じゃないの!優君はもうちゃんと一人でお風呂入れるもんね?」
「えっと…、う、うん…」
「あ、ばっかだなー優!入れないって言ったら、一緒にお風呂入ってもらえたのにー」
「え…」
「だ、駄目よ!そんなの…、恥ずかしいもの…」文乃は顔を赤くして俯いた、
「ふーん、じゃあ、優!姉ちゃんとお風呂入るか!」
「…え?」
「私は小さい頃に一緒に入ってるし、優ならそんなに恥ずかしくないしさ!」
「もう!馬鹿な事言ってないで、寝室で着替えて早く泳いできなさい!」
「はーい」
柚葉は楽しそうに笑いながら、寝室に向かって行った。
「ゆ、優君、お風呂入ってくるけど…、覗いちゃ駄目だよ…」
優太は目を見開いて、何度もコクコクと頷いた。
その後、三人は豪華な部屋でゆったりと寛いだ。『グルメテーブルクロス』でデザートを出し、泳ぎ終えた柚葉は日本から取り寄せたゲーム機で優太と楽しみ、文乃はソファに座りながら魔導書を取り出して学んでいた。
「明日は冒険者の登録証を貰ったら、どうするの?」
ゲームのし過ぎで、文乃に叱られて渋々入浴を終えた優太は、髪をドライヤーとブラシで整えて貰いながら聞いた。それを聞くと文乃は一度手を止めて、視線を上に向ける。
「んー、まず、どんな依頼があるかを確認するでしょ?あと、良さそうな宿を紹介してもらって、寝る場所を確保したら、受けた依頼の準備をして、行けそうなら依頼をやりに行く感じじゃないかしら?」
「僕、怖いの嫌だな…」
「そうだよね…。優君は、ひみつ道具だけ用意しててもらって、危なくなったら助けてくれればいいんじゃないかな?」
「そうそう!依頼は姉ちゃん達にまかせとけって!」柚葉はソファでスマートフォンの画像を確認しながら言った。
「…うん、わかった!」
「むー、やっぱ電波の届かないスマホは、悲しい物があるなぁ…」
「異世界に来てまでスマホ弄ってる方が、おかしいの!」
「そうだけど…、こればっかはどうにもならないよね?優…」
「うーん、こっちで電話する位なら、出来るかもしれないけど、地球の情報をやり取りとかだと、今は難しいかも…」
「そっか…」
「一応、『お好み箱』とか、昼間あげた『糸なし電話』があるから、通信手段とかスマホに近い道具はあるのね」
「まぁ電話できるだけでも便利だけど…、『お好み箱』ってどんなの?」
「四角い形の物なら、何にでも代用できるの!テレビとかラジオとか、音楽聞けたり、ライター、冷蔵庫と…」
「すげー、でも確かにスマホぽいね…」
優太は、少し考えると『四次元ポッケ』から『天才メット』を取り出して被った。
「えっと、さっきも言ったけど通信はどうにか出来るかもしれないけど、インターネットはこっちの世界で用意しても意味が無いから、向こうのインターネットと繋ぎたいって事だよね?」
「ゆ、優君、あんまり本気にしないでいいからね…」
「まぁ、こっちの世界でネット環境を構築しても、それを広める道具とかを用意しないとだしね…」
「そうすると、一番簡単なのは、『取り寄せハンドバッグ』みたいに向こうと通じてるゲートにLANケーブル通して、モデムと繋いで、こっちにもモデムを用意して無線LAN 飛ばすとか…」
「あー、地球で言うなら私の家のモデムにLANケーブル繋いで、優ん家まで引っぱって、優の家でそのケーブルにモデム繋いでネットするって事だよね?」
「うん、でも、これには向こうでモデムを繋いでくれる協力者が必要かな?あとは…、柚姉ちゃんのスマホを改造して、スマホ単体で向こうと通信可能にするとか、ネコえもんの道具には未来とかと通信可能な道具があるから、時間軸や次元を超えた通信をやり取りする方法があると思うのね。その装置を組み込めれば、異界間の通信が可能になると思う。言葉を作るなら、ゲートアドレスを設定して、地球側の電波を拾えるようにする感じ…」
「次元を超えた通信?」
「えっと、この場合の次元は、別の世界を意味してるのね。次の元、要するに始まりの違う世界なんだけど、ネコえもんの道具には絵本みたいに空想の世界に入り込める道具もあるのね。そういった世界は、ある主の別次元って考えられている部分もあって、22世紀の科学では何かしらのワームホール的なものを開く技術が確立してるんだと思う」
「ごめん、もう全然わかんない…」
「優君、本当にそこまでしなくていいからね…」
「うん、でも便利だから、こっちでも柚姉ちゃんと文お姉ちゃんと僕で、スマホで電話出来る様にはするね」
「優、スマホ持って無いじゃん」
「それはどうにかするけど…」
「『フヤセル鏡』?」
「それでも増やせるけど、鏡だから左右が逆になっちゃうから、それは駄目かな…」
「あー!そっか…」
「でも優君、こっちで金属とかプラスチック、材料なんかを用意するのは大変なんじゃない?」
「そういった物も『何でも工具箱』とか『合成鉱脈の雫』『材質変換装置』があるし、『ハツメイター』って発明の道具があるから、必要に応じて新たに道具とか施設を用意する事も出来るよ」
「どうでもいいけど、このヘルメット付けてると優が頭いい感じがして、へんな感じ…」と柚葉は優太のヘルメットを外した。
「じゃあ、そのうちプラスチックの加工工場みたいなのも出来たりするのかしら?」
「え?プラスチックとか、何から出来てるかよく知らないから解りませんけど…?イカの骨?」
「外したら、一気に馬鹿になった…」
柚葉は泳ぎ疲れたのか、早々に寝室に向かったが、優太は『どこでも扉』の使用距離を拡大させる為に、地図の登録を始めた。文乃は、柚葉と優太の衣服や荷物を纏めたり、階下のプールで魔法の練習をしていた。
「優君、そろそろ寝ましょ」
「う、うん…」
優太は『天才メット』を外して、工具を仕舞い始めると、チラチラと文乃を見ていた。
「優君、歯、ちゃんと磨いたよね?」
「うん」
「電気消すけど、暗いの怖かったら、ベッドの横のスタンド点けてていいからね」
「うん」
「じゃあ、優君、おやすみなさい」
「…おやすみ、文お姉ちゃん」
優太はモゾモゾとベッドに潜りこんで目を閉じたが、昼間の事が気になって、どうしても寝付けなかった。
「文お姉ちゃん、もう寝ちゃった?」ベッドから出ると優太は枕を抱えた。
「…ん?まだ起きてるけど、どうしたの?」
「一緒に寝てもいい?」
「え!どうしたの?優君…」
「…だって、今日のハーレムの事で、すごく怒ってたでしょ?」
「あー…、まぁ、怒ってたと言えば怒ってたけど…」
「うー…、ごめんなさい…」
「ん?うん…、でも、今頃どうしたの?」
「お店で、『悟りメット』被った時、文お姉ちゃんがすごい怒ってる解って…、駄目な事言ったって気付いたの…。ごめんなさい」
文乃はしばらく優太を見つめていたが、ため息を吐いて掛け布団を持ち上げて僅かなスペースを開けた。
「もう!今日だけだからね優君」
「…うん!」優太は嬉しそうな表情を浮べると、その隙間に潜り込んだ。
「嬉しそうな顔して優君は調子いいんだから…」
「ごめんなさい…、ハーレムとか良くないよね…」
「まぁ私は良くないと思うけど、こっちの世界だと普通になってる訳だし…」
「僕、やっぱりハーレムより、文お姉ちゃんと柚姉ちゃんが居てくれた方が嬉しいから、ハーレムやっぱり止める!」
「…ん、うん、そう言ってくれるのは嬉しいけど、まぁ私達二人をお嫁さんにする気なら、ハーレムみたいなものだよ…」
「そうだけど…、えっと、え?」
「まぁそこはいいよ…。わたしも柚がいないと寂しいし、こんな世界だから三人で居たいし…」
「うん、僕も!」
元気になり始めた優太を見て、文乃は少しだけ笑った。
「やっぱり、私も小さい頃から優君と一緒に居たから、これからも優君と居たいな」
「うん!」
「でも優君、まぁ優君はまだ小さいけど、私達と結婚するって事は、いろいろな事をしっかりして、そのうち私達を守ってくれる様になってくれないと嫌だよ?」
「…えっと、頑張る!」
「ん、んー、守っていけるって言うのは、ケンカとかが強くなるとかじゃなくて、えっと、優君のお父さんも、働いたりしてお金貰ったりして、家族を守ってたでしょ?そう言う意味なんだけど…」
「あー、わかる…」
「うん…、私もね。優君のお嫁さんになる為に、お料理とかお洗濯とか、お家の事いっぱいできる様になって、お仕事も魔法を使える様に頑張るからね」
「文お姉ちゃんは、もうお料理とか家の事とか、凄い出来ると思う…」
「ありがとう、でも、こっちの食べ物って、いろいろと違うでしょ?優君の道具は便利だけど、やっぱり自分でいろいろと作りたいから、こっちのお料理も覚えたいな…」
「文お姉ちゃんのお料理なら絶対美味しいと思う!」
それを聞くと文乃は優太を優しく胸元に抱きしめた。
「ありがとう優君、これからもずっとそばにいてね」
「う、うん」
優太は文乃の胸の膨らみを感じながらドキドキとしていたが、しばらくすると、その胸元から懐かしい優しい匂いを感じ、目を閉じているうちに眠気が襲ってきた。文乃は、スースーと寝息を立て始めた優太を見ると、同様にドキドキとしていた自分に少しだけ笑った。
「おやすみ、優君…」
小声でそう言うと、文乃は無邪気な優太の寝顔を見て、その額に優しく口付け、自分も目を閉じた。
■あとがき
実質3話の後半です。本来はここまでが3話でした。ちょっと世界観が解かる位までは投稿したかったので、次回から少し間隔を開けての投稿になります。(ストックなくなちゃう…)
さて、異世界の食と宿事情に三人が翻弄されていましたが、バックパッカーなどをしていた方などは安宿あるあるではないでしょうか?自分も蟻にはタイ、カンボジア、ベトナム辺りで数回やられました。南京虫はラオスで1回あります。今ではいい思い出…、じゃないな…。
食事の肉の匂いですが、食文化と慣れもありますね。北海道の方でも羊肉は平気でも牛肉が臭いと言う方もいますし…。
ただ、モンスターの肉とか出されても現地人ならともかく、日本から来た方には無理だと思います。だって、地球にはあんなにいっぱい動物がいるのに、スーパーには鳥豚牛しか売られていないんですよ!それなのに異世界に来たら、多様なモンスターの肉を美味い美味いって食べれないと思うんですよ。
すいません。文句が言いたいんじゃなくて納得したいだけなんです…。
感想、誤字報告ありがとうございます!
さて、次回は初めての依頼を受ける話ですが、ちょっと悲しい話ですね。文字数が22000字もあるので、また分割するかもです…。
では、次回から投稿は緩やかになります。ストックなくなちゃうから…。
予定では、10月5日になっています。予定が決まりましたらまた活動報告にあげたいと思います!
それでは、また!