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優君とハーレム

#1


「改めて思うんだけど…」

「ん?」

 

 文乃は柚葉に視線を向けたが、柚葉はまだ優太が『キャンピング帽子』や『ガードロボ』をポケットに仕舞っているのを見ていた。


「『四次元ポッケ』って、異世界モノで言うマジックバッグだよね?」

「あー、魔法の幾らでも入るカバンの事よね?」


 それを聞くと優太は頬を膨らませた「魔法じゃなくて、科学だもん!」


「科学って、空想科学じゃん…」柚葉は小声で横を向きながらブツブツと愚痴った。

「いいでしょ…。優君怒らせないの」


「じゃあ、街に行くけど、準備はいい?」優太は片付け終わると振り向いた。

「大丈夫!お願いね。優君」


「大丈夫かなぁ…。この服装からして怪しまれそう…」


 三人は昨夜取り出した衣服の中でも、出来るだけ目立たない様にと、白または茶系の服を選んではいたが、まだ遭遇していない現地人が自分達の姿を見て怪しまれないかは解らなかった。


「あんまり目立つ様なら、向こうの人の服装を参考にして、『着せ替えキャメラ』で着替えましょ」

「うん、僕もそれでいいと思う」

「まぁそうだよね…。ここで迷っても仕方ないし…」


 柚葉の反応を見て、優太はポケットからピンク色をした扉を取り出した。


「おー!アニメで見た『どこでも扉』だ」

「じゃあ、いくよー」


「「うん」」


「一番近くの街!」と口に出しながら優太はドアノブに手を掛けた。

「え?そんなアバウトなのでいいの?」

「うん、漫画を読む限り、使った人の思考補完機能があるみたい」


 説明しながら優太が扉が開くと、その先には壁に囲まれた街がすぐに目に入る。三人は優太を先頭に扉をくぐった。


「あれ?街の外なの?」柚葉は扉を抜けるとキョロキョロと見渡した。

「当たり前じゃない、街中でいきなり扉が現れたら、大騒ぎになっちゃうでしょ?」

「あ、そうだよね」


「あそこから街に入るんじゃない?人が並んでるよ!」


 優太の言葉に二人は視線を送ると、確かに踏み固められた道の先は街に続いており、その入り口には何十人もの人や荷馬車が並んでいた。


「あれ?入り口二つあるよ?」柚葉は長い列が出来ている横に、馬車が2台しか並んでいない、もう一つの入り口に気付いた。


「あっちは、貴族みたいな偉い人が入る為の門じゃないかしら?」

「あー、確かに、ちょっと豪華な感じの馬車が停まってるね」


「あれって馬車?引いてる生き物、馬じゃないみたいだけど…」優太はそっちを見ながら目を細めて言った「とりあえず、近くに行ってみようよ」


 扉を仕舞って、三人は少し遠目から舗道に入ると、長い方の行列にゆっくり向かって行った。だが、ある程度近寄ったところで、文乃は二人の服を引っ張って止めた。


「え?なに?」

「どうしたの?文お姉ちゃん」


 三人は一端道から外れると、文乃はチラチラと行列の方を見ながら困った表情を浮べた。


「どうしよう…。今話し声聞こえたけど、全然知らない言葉だったよ…」

「え!ランバルディア語って、もしかしてスキルで選択しないと駄目だったのかな?」

「えっと、確かにポイント1で『万能言語』って能力はあったけど…、通常会話も含まれるとは思わなかったから…」


「大丈夫!『ほんやくこんにゃくゼリー』があるから!」


「あー!それ、知ってる!ネコえもんの道具でも有名だよね!」

「私も知ってる!でもそれって異世界の言葉でも平気なの?」それでも文乃は心配そうな表情を浮べた。


「大丈夫!映画でも動物から機械の宇宙人まで、ほとんど大丈夫だったんだから!」


 優太は文乃を安心させるように、ポケットから3つ取り出すと一つずつ配り、最初に自分で食べてみせた。


 そこに丁度通りかかった男性に声を掛ける「すいません!この街はなんて名前の町ですか?」


「ん?坊や、この街は初めてかい?ここはオルドラーダって名前の街だよ」


 まだ食していない二人は、黙ってその様子を見ていたが、優太が異界の言葉を話して男性がそれを受け答えているのを見ると、会話が通じているのを理解した。


「そうですか、どうもありがとう!」優太はペコリとお辞儀をして二人に向き直った「ね!大丈夫でしょ?」


「うん、本当にネコえもんの道具は凄いねぇ」

「でも、これってどれ位効果が続くんだろ?」


「えっとね。それは説明されて無いんだけど『アンキ食パン』と同じで食べて消化されるまでって言う人もいるのね。でも、漫画の大魔界大冒険では猫にされちゃった女の人と1ヶ月、宇宙を旅する事になってて、消化されるたびに『ほんやくこんにゃくゼリー』を食べてたとは思えないから、1回食べたら、僕はずっと効果があると思うの」


「あー、なるほど…。でもどっちにしろ、この道具って優の脳内から再現されてるから、その効果が正しい事になるんだよね?」

「あ、そうよね」


 二人は感心しながら、『ほんやくこんにゃくゼリー』を口にしていき、二人が食べ終えるのを見ると、優太はまたポケットをごそごそと漁り出した。


「あっちの方が、空いてるから、あっちから入ろうよ!」と優太は先にそちらに歩き始める。

「え?ちょっと優君、大丈夫?」

「お姉ちゃん、もう聞かなくても大丈夫だと思うよ…」


 優太の後ろを二人は黙って付いて行くと、馬車の後ろに優太は並んだ。


「優君、向こうの列の人がみんなこっち見てるけど、大丈夫?」

「た、確かに視線が痛い…」


 徒歩でこちらの列に並ぶ者はほとんどいない為か、反対の列に並ぶ人々も、世間知らずの子供が訳も解らず列に並んでいると思われている様だった。


「大丈夫!」と優太は前を向いた「あ、もう順番が来たよ」


「おい!なんだお前達は!」と重厚な鎧を着込んだ兵士が三人に目を向け。

「一般の者は、隣の列に並びなおせ!」隣の兵士も不機嫌そうに言ってきた。


「すいません、これでお願いします!」と優太は気にせずに1枚のカードを取り出した。


 それを見ると、二人の兵士の態度は急変した。


「あ!どうぞお通り下さい!」

「開門!」


「マジだ…。何、そのカード?」柚葉は門を抜けながら優太に聞いた。

「『オールマイティパスカード』、これがあると何処でも入れるの!本当は有効期限があるんだけど、神様が制限無しにしてくれたから、使い放題だよ!」

「す、凄いね…」

「お姉ちゃん、それしか言って無いよ」

「柚もでしょ!」




#2


 三人が門を抜けると、すぐに露店から酒場、宿屋といった旅行者に向けた街並みが広がっていた。


「おー!ネズミーランドの入った所の売店みたいな街並み!」

「あ、確かにそんな感じかも!」


 二人は賑やかな周囲を見渡しながら目を輝かせた。


「格好は大丈夫みたいね。注目されてる感じはしないし…」

「どっちかって言うと、黒髪の方が目立ってるかも…」

「まぁその辺は気にしても仕方が無いから…」

「そうだね…、とりあえずお金稼がないと…」


「じゃあ、お姉ちゃん達にこれ渡しておくね『糸なし電話』、困った事があったらいつでも呼んでね」


 優太に紙コップの様な電話を渡されると、二人はきょとんとした。


「あ、うん、ありがとう優…」

「急にどうしたの優君?」


「えっと、じゃあ、僕はこの辺で…」と優太は1歩後ずさった。


「え!何言ってるの?優君!」

「何で、急にそんな事言うんだよ優!」


「だ、だって、お姉ちゃん達、冒険者になるんでしょ?僕、スキルとか無いし、血とか怖いから…」


「え?確かにそのつもりだけど、だからってお別れする事無いだろ?」

「そうよ!昨日までずっと一緒にいようね!みたいに言ってたじゃない!」


「そ、そうだけど、ぼ、冒険者とか怖いし…」言いながら優太の視線が泳ぎ始めた。


「あやしい!」

「うん!絶対あやしいよ優君!」


「ぜ、全然あやしくないですし…」

「じゃあ、正直にお姉ちゃんに言いなさい!」文乃は頬を膨らませて優太に詰め寄った。


「だから、その…」と優太はポケットに手を入れ「じゃあ、そう言う事で!『ヘリトンボ』!」と竹とんぼの様なひみつ道具を取り出した。


「待て待て!逃げんな逃げんな!こんな所で飛ぼうとすんな!」と柚葉は慌てて優太のシャツを掴んだ。

「優君、何で逃げるの!」文乃の視線が更に鋭くなった。


「べ、別に逃げてませんけど…」

「今、逃げたでしょ!」

「わかった優…、とりあえず、怒らないから、どうしてか話してみ」


 それを聞くと、優太はいぶかしげな表情を浮べて二人を見つめた「本当に怒らない?」


「「うん…」」


「ホントに?」

「ホントだってば…」


 優太はしばらく二人をジーッと眺めてから、モジモジと前で両手を組み出した「じゃあ、話すけど、ホントに怒らないでね?」


「「うん」」


「あのね…。昨日思い出したんだけど、学校の同じクラスの鈴木君がね。漫画貸してくれたのね」


「「うん」」


「異世界モノの『異世界に行ったけど、奴隷少女が協力的なのでハーレムを作りました』って漫画で、読んで凄くドキドキしたのね!」


「わー…、タイトル聞いただけで内容がわかるネーミングセンス…」

「それ、優君が読んじゃいけない漫画じゃないの?」


「…え?読んじゃった…」


「ま、まぁお姉ちゃん、話が進まないから、そこは置いておこう…」柚葉も明らかに不機嫌な文乃を見て話を戻した。


「だから、せっかく異世界に来たんだから、ちょっとハーレムとかいいなぁって思ったの!」


「「…」」二人は優太の素直過ぎる言葉に、見つめるだけになってしまった。


「と言う訳ですので…」優太は二人の反応を見て、1歩後ずさった。


「待て待て、逃げんな」柚葉は慌てて優太の服を掴んだ。


「…怒ってないよね?」


「怒ってないけど、要するに姉ちゃん達と別れて、奴隷の女の子を買って、ハーレム作りたいって事?」

「うん!」優太はニコニコ顔でコクコクコクと何度も頷いた。


「まったくもう!うちの可愛い優君になんてモノ読ませるの!」文乃は頬を膨らませ「優君、『取り寄せハンドバッグ』貸して!」と優太に右手を出した。


「え?」

「その鈴木君を取り寄せて、お説教するから!」


「怒ってるよね?これ、絶対怒ってるよね?」優太は泣きそうな表情で柚葉に目を向ける。

「怒ってません!」文乃はピシャリと言った。


「ま、まぁ、優太も男だし、ハーレムとか憧れるのは解るけど、なんで急にそんな風に思ったんだよ」


「だってね…」優太はしょんぼりした表情で下を向いた「クラスの皆が優太は小さいし、気が弱いし、全然男らしくないから、絶対彼女とか結婚できないな!って言うんだもん…」


「え?そんな事無いだろ?」

「うんうん!優君は絶対、将来かっこ良くなると思うし、結婚できるんじゃないかな?」


「でも、そんなの解らないでしょ?」


「まぁそうだろうけど…」文乃は落ち込んでいる優太に少しだけ同情した。


「でも、そんな弱気じゃ奴隷の女の子買っても、言う事は聞くかもしんないけど、優太の事好きになるかは別の話だろ?居心地悪くなるかもしれないじゃん」


「そうだよ優君、お金の関係なんだから、そういった気持ちはずっと付いてくると思うよ」


「大丈夫!ネコえもんの道具でね。5分間一緒に入ると好きになる傘とか、一緒の家にいる時だけ好きになる道具とか、大きな卵に15分入れて最初に見た人を好きになる道具みたいなのが色々あるから!」


「洗脳じゃん…」

「ダメなヤツだよ優君!それダメなヤツだよ!」


 優太はそれを聞くと不貞腐れた表情を浮べた「…あのね」


「…なに?」柚葉はいじけた優太を見つめた。


「人を好きになるのって、一種の電気信号なんだって」

「そうなの?」

「あー、なんか聞いた事あるかな?」


「だから、科学的に行っても問題ないんじゃないかな?」

「どんな理論だよ!」

「最低だよ優君!」


「だって、普通に話すと女の人怖いし…」優太は落ち込んで下を向いた。


「大体ね優君、ハーレムとか、そんな沢山の女の子をお嫁さんにするとか良くないでしょ?」


 それを聞いて優太はしばらく文乃を見詰めると、クルリと後ろを向き「すいません」と手近な男性に声を掛けた。


「ん?なんだい?」

「この国って、何人くらいの女の人と結婚できますか?」


「はは…」男性は後ろの文乃と柚葉に目を向けた「そりゃあ、養えるなら何人だって結婚にすればいいさ!この街だけでも、男より女の方が3倍は多いんだからね!」


「え!そんなに多いの?」と優太は驚いた。


「ああ、男は戦争に行ったり危ない仕事で、どうしても死んじまうからなぁ…。坊やもかわいい彼女を大事にしてやりな!」と男性はバチッとウインクをした。


「そうですか、どうもありがとう!」優太は礼を言うと、また クルリと向き「ハーレム大丈夫だって!」と文乃に親指を立てた。


「ま、まぁ異世界だしね…」柚葉は見るからに不機嫌な文乃をなだめた。


「文お姉ちゃん…、お、怒ってないよね?」


「怒ってません!」


「言い方が、怒ってるよね?」優太はびっくりして、また柚葉に聞いた。

「怒ってないって本人が言ってるからさ…」


「じゃあ、わかった!優君!」文乃は出来るだけ明るく聞いた。


「え?何が?」


「私ね。優君はかわいいし、大事な弟みたいに思ってるし、大好きだけど…」文乃はすこし照れくさそうに口にした「優君は、私の事好き?」


「うん!文お姉ちゃんと柚姉ちゃんは、女の人の中で一番大好き!優しいし、いつも遊んでくれるし、綺麗だもん!」優太は即答した。


「ほんと!」

「うん!」


「じゃあ優君、お姉ちゃんが優君の彼女になる!まだ優君は小さいし、結婚とかは早いけど、最初は彼女からで、どうかな?」文乃はそう言って、優太の肩に手を乗せた。


「え!ずるい!私だって、優の事好きだし彼女になりたい!」


「えー、まぁ柚だったらいいけど…」文乃はそう言うと、もう一度優太の方を向いた「じゃあ、お姉ちゃん達が彼女になるので、どうかな?」


「うーん…」優太は文乃と柚葉に視線を向けると、少し悩んで返事をした「ごめんなさい…」


「え!何でだよ!今、姉ちゃん達の事一番好きって言ってたじゃん」

「そうよ!お姉ちゃん達の何が嫌なの?」文乃は頬を膨らませた。


「一番好きだし、凄く嬉しいよ!でもね、えっと…。お菓子で例えるね」


「「うん」」


「お菓子で言うとね。お姉ちゃん達は、一番大好きなお菓子なのね!」


「「うん」」


「でも、ハーレムはいろいろなお菓子がいっぱいだと思うの!だから、ハーレムの方がいいかなぁって思った」


「ど畜生だよ優君…」

「そんな姉ちゃん達を遠足のお菓子みたいに言うなよ…」


「と・に・か・く、そんなのお姉ちゃんは許しません!」


「うう…、文お姉ちゃん、すぐダメって言うんだもん…。だから言いたくなかったのに…」優太は脱力気味にチラチラと文乃を見ながら「もう、いいよ…」とポケットに手を入れた。


「待て待て!逃げんな…」と柚葉は優太の服をまた掴んだ。


「もうほっといて!街で出来るお仕事探しながら、奴隷の女の子と22世紀の暮らしするから!」


「ん?」それを聞くと柚葉は少し考えた「お姉ちゃんお姉ちゃん!」


「なに!」文乃は、鬼の形相を妹に向けた。


「優太がいなくなるって事は、こっちの生活で私達もいろいろと困るんじゃ?」

「そんなの今、関係無いでしょ!」

「いや、あるって!こんな時代遅れの世界に来たんだからさ!」

「今は、優君の倫理観の話の方が大事でしょ!」


「あーもう!話が進まない…」


「あの…、もう行っていいですか?」優太は文乃の視線から逃れる為に、柚葉の後ろから言った。


「ダメです!」


「待て待て優、わかった!じゃあ、姉ちゃんが優の彼女になって、将来結婚もする!」

「…え?それ、さっきも言ったよね?」


「それで、ハーレムも許す!」

「え!本当!」


「柚!何言ってるの!」文乃は二人を睨み付けた。


「あのさお姉ちゃん、確かに優太にはまだハーレムとか早いけど、こっちの倫理観で言うなら、別に間違った事言ってないよね?」


「そ、それはそうだけど…」


「それにまぁ、優太はちゃんと私達の事を考えて、別れてハーレムを選んでる訳でしょ?日本から一緒に来た私達はハーレムとか許せないのを理解してるから、嫌な思いさせないように別れる決断してる訳じゃん」


「う、うん…」


「私は優太の気持ちを理解してるし、正直に言って優太の事好きだし、優太ならこっちで日本以上の生活を約束してくれるから、この際、ハーレムも目をつぶるよ!」

「そんな打算的な!」


「恋愛とか結婚だって、そういった面は大事じゃん!お姉ちゃんが優の考え方が嫌なら、こっちの金髪、筋肉だるまでも捕まえて理解し合って結婚すればいいんだよ」


「…え?」


「だからさ、優!」

「なに?」

「ちゃんと、お姉ちゃん大事にしろよ!それで私が一番のお嫁さんだからな!」

「うん!大事にする!柚姉ちゃん大好きだから、一番のお嫁さんにする!」


「そんなの駄目!私も優君のお嫁さんになります!」


「…え?でも…」優太は心配そうに文乃に目を向けた。


「はー」と文乃はため息を吐いた「分りました!私も柚葉と同じ条件でいいです!でも、そういった娘を選ぶにしても、私達が駄目だなって思ったら、その娘は駄目だよ!」


「うん、…ん?」と優太は良く解らないといった表情で柚葉を見つめた。


「優が変な女の子に騙されない様に、姉ちゃん達も判断するって事だけど…」


「それだと、文お姉ちゃん全部駄目って言うんじゃないの?」

「そこはちゃんと優君の事を大事に思ってくれる人なら、駄目って言わないから…」


「だって、どうする優?」


「んー、嬉しい!」優太は満面の笑顔を浮べた「本当はね!文お姉ちゃんも柚姉ちゃんも一緒だといいなぁって思ってたんだけど、嫌って言われると思ったから、嬉しい!」


「でも優君、ハーレムとか優君にはまだ早いから、そういったのは、大きくなるまでは駄目だからね!」

「うん、わかる!ちゃんと我慢する!」


「もう優君は、そういった返事だけは、素直なんだから…」

「変なところ、頑固だしね…」

「…うん」文乃は疲れ切った様子でため息を吐いた。




#3


「そろそろ、移動しよ。さすがにちょっと休憩したい、お金無いけど…」

「じゃあ、お金集める?」優太はニコニコ顔で言う。

「え?どうやって?」

「あのね『マネービー』って道具があって、蜂が町中に落ちてるお金を集めてくれるの!」

「え!マジで?」

「うん!ここじゃ目立つから、目立たないところで集めようよ!」


 優太の意見で、三人は大通りを少し進んで脇道に入り、ちょっと広めの袋小路に入った。


「ここ、変な人来ないかな?」文乃は袋小路を見渡して、心配そうな表情を浮べる。


「あ、そうだよね。『交通規制時計』置いとくね。これを置くと、時間内は誰も入れないの」


 説明しながら優太は時間をセットし、袋小路の入り口に交通標識型の時計をセットした。

 優太は満足そうに、そのままポケットに手を入れると次に箱を取り出す。


「それがマネービー?」


「うん、この中に蜂がいっぱい入ってて、お金を集めてくれるの!」優太はそう説明して「じゃあ、みんな!お金を集めてきて!」と声を掛けた。


 すると巣箱から大量の蜂が空に飛び立って行く。


「思ったんだけど優君」

「なにー?」

「この蜂、こっちの世界のお金分かるの?」


「…え?えーっと、22世紀までにいろんな国やお金がある訳だから、お金と判断できる物を集めてくるんじゃないかな?」

「蜂にお金登録されてるんじゃないの?」


「え!」柚葉の言葉に優太は眉をひそめた「そうなのかな?じゃあ、蜂にこっちのお金覚えさせないとかな?」


 優太が不安そうな表情をしていると、1匹の蜂がコインを持って戻ってきた。


「あ!お金持ってきてる!」柚葉は巣箱に入って行く蜂を見て驚いた。


「ちゃんと、お金分かってるみたいね」

「あ!考えてみれば、優の設定の認識で用意されてる道具だから平気なのか…」

「あー、そうだよね」


「それより、街中に蜂がお金集めてるの目撃されてる方がヤバイかな?」

「だとしても、ここには入れないから、考えてもしょうがないかも…」


 三人は、しばらく蜂がお金を回収して来るのを眺めていたが、1時間もすると、相当な量が集められたので、そこまでにした。さっそく文乃が用意したタオルにお金をジャラジャラと出していく。


「あ!金貨が入ってる!」柚葉は1枚拾い上げる。

「ほんとだー!2枚はあるかな?」

「ほとんど銅貨だけど、銀貨もちょっとあるね!」全て出し切ると優太もお金を拾い上げて眺めた。


「大き目の銅貨もあるけど、お金の価値が分からないね…」

「でもまぁ金貨があれば、だいたい平気じゃない?」

「そうよね!」


 三人は、文乃と柚葉の可愛らしいポーチに、適当にお金を分けて詰めると、一つは優太のポケットに仕舞い、もう一つは柚葉が昨日実家から取り寄せた斜め掛けのカバンに仕舞った。


「スリとかいそうだから、気をつけてね」

「うん、一応、ファスナー閉めるから大丈夫だと思うけど、警戒しておく」


 お金の調達が済むと、優太は巣箱と交通標識型の時計を回収した。


「んー!お金が手に入ると、いろいろ気持ちに余裕が出来るね!」

「うん!」


「こっちのご飯食べたい!」優太は嬉しそうに手を上げる。

「あ!そうよね!気になるよね!」

「その前にさ、冒険者になっておこうよ!」

「なんで?」

「ふふん!異世界モノだと身分証みたいなのくれるし、いろいろな情報が集められるってセオリーがあるんですよ!」


「それ、この世界でも、通用するか分からないでしょ?」

「あの神様ぽい人が、こっちの世界の情報を地球で流してるって言ってたから大丈夫だと思うよ」

「あ、そうなの?」




#4


 三人はまた大通りに出ると、観光気分で周囲を見渡した。最初に入った門から三方向に大通りは延びており、現在歩いているのは中央に向かっている通りだった。

 見渡す限りでは一番賑やかな通りで、左右に連なる商店には商人らしき人物から観光客まで多様な人々が出入りし、飲食を取り扱う店では外までテーブルと椅子が並べられ、まだ昼前だというのに、酒を酌み交わしている集団も多く見受けられた。


「冒険者のお店ってどこなの?」優太は柚葉に聞いた。

「私も初めてなんだから、知らないって…」


「あ!あそこに兵士みたいな人がいるから聞いてみる?地球で言うお巡りさんみたいなものよね?」

「あ、そうかも!」


 文乃は二人組みの兵士に近寄ると、声を掛けた「すいません。私達、冒険者になりたいのですが、店舗の場所はご存知ですか?」


 それを聞くと二人組みの兵士は、文乃達に目を向けて、少し驚いた表情を浮べた。


「君たちの様な子供が冒険者にかい?」まず右側の長身の兵士が返した。

「やめといた方がいい、あそこは気性の荒い奴らのたまり場みたいなもんだ。泣かされるだけだぜ」左側のがっしりし体型の兵士は、首を振りながら諭してきた。


「えっと、ご忠告ありがとうございます。それでも行くだけ行ってみたいので、場所だけでもお教えて頂けますか?」


「まぁ、そうだね…」長身の兵士は灰掛った髪をかき上げると、通りの先を指差した「この先を行くと広場に出るのだけど、そこを超えてさらに真っ直ぐ進むと、左側に樽があって、その樽に何本もの旗が刺してある建物がある。その建物が冒険者の組合だよ。建物にはアルドゴドイット冒険者組合って、名前が出てるけど、字は読めるかい?」


「あ、はい!読めます」

「じゃあ、先に進んで、迷うようなら、その看板を探せばいい」

「はい!ありがとうございました!」文乃はペコリとお辞儀をすると二人の下に戻った。


「そういえば、『ほんやくこんにゃくゼリー』で字も読める様になってるね」

「うん!読める様になるよ!」

「便利よね…、優君いなかったら、会話とか本当に困ったと思う…」


 三人は他愛の無い会話をしながら道を進んでいたが、柚葉は右手の商店を見ると立ち止まった。


「あ!ちょっとまって!」

「どうしたの柚?」

「そこに、剣とか売ってるお店あるんだけど、見て来ていいかな?せっかく戦闘系の能力もらったから、出来たら一つ欲しいんだよね」

「あー、そうよね…。自衛の為にも、あった方がいいわよね」


「武器なら僕の『名刀雷光丸』あげようか?」

「え?そんなのあるの?」

「うん、レーダー付いてて、寝てても相手を倒せるの!」

「凄いけど、それ私の能力、全否定じゃん…」

「じゃあ『ライトニングサーベル』もあるよ。性能同じだけど…」

「そんなに言うなら、刀の方貰っておこうかな…」

「うん!」

「でも一応、自分の実力も見たいしお店を見てくるね」


 柚葉を先頭に三人は店内に入ると、中には壁一面に多様な武器が飾られていた。


「わー、いっぱいあるね!」優太も目を輝かせて周囲を見渡した。

「ほんとねー」


「うーん、やっぱり剣かなぁ」

「触らせて貰えば?」


「そうだよね…」柚葉は正面のカウンターの店主の会話が終わるのを待つと声を掛けた「すいません、この剣って手に取って見てもいいですか?」


「…構わないけど、金はあるのかい?」

「ありますけど、ちなみにこれってどれ位の値段ですか?」柚葉は適当な1本を指差して聞いた。

「それは4800ルベルだな」

「へ、へー、それ位なんだ…」


 二人の会話を聞きながら、優太と文乃は後ろを向いてポケットから出した貨幣を確認していた。


「えっと、銀貨は1枚で何ルベルなのかな?」文乃は貨幣を裏返したが、数字的なものは入っていなかった。

「1000ルベルかな?」

「じゃあ、金貨が1万ルベル?」

「わかんない…、なんでお金に数字みたいなの書いてないんだろ?」

「うーん」


 二人は図案的な物しか描かれていない貨幣を見ながら途方にくれた。


「あ、あそこに僕より小さい女の子いるから、ちょっと聞いてくる」

「え?あ、うん、お願いね優君」


 優太は、大きさの違う銅貨を3枚と銀貨を1枚持つと、女の子に近寄った。


「こんにちは!」

「…こ、こんにちは」


 女の子は話し込んでいる母親の後ろで退屈そうにしていたが、話し掛けられると、驚きの表情を優太に向けた。


「あのね、ちょっと聞きたいんだけど、このお金って、何ルベル?」と優太は一番小さな銅貨を見せた。


「…1ルベル」女の子は何でそんな事聞くのだろうといった表情を浮べる。

「じゃあ、これとこれは?」と優太は中と大の大きさの銅貨を続けて出した。

「10ルベルと100ルベル」

「じゃあ、銀色が1000ルベルで金色が10000ルベル?」

「うん」

「えっと、ちなみに10ルベルで何買えるかな?」

「おっきいパン、2個買える」

「あ、あー、そうなんだ…。どうもありがとう!」

「うん」


 優太は女の子に手を振ると文乃の下に戻った。そして、今聞いた情報を文乃に伝える。


「ありがとう優君、ちょっとお金の価値分かったね!10ルベルが100円くらいかな?100が1000円?銀貨が1000ルベルで1万円、金貨が1万ルベルで10万円?」


「金貨って1万円くらいじゃないのかな?」

「うーん、純度の高い金って日本だと1g5000円以上するけど、どうなんだろ?」

「え!そんなにするの?」

「うん、見たこと無いけど、日本でも10万円金貨ってお金があるらしいよ」

「じゃあ、10万円位なのかな?」

「それも日本の話だからねぇ…。こっちの世界が金がたくさん取れる世界だと、もっと安くて、1万円くらいの価値しかないかもしれないけど…」

「じゃあ、あの剣、4万8000円?」

「そうかな?高すぎる気もするね…」


「うーん…、ちょっとあのおじさんの心、読んでみる」


 優太はそう言うと、『四次元ポッケ』からヘルメットを取り出した。


「心読むって、その道具で?」

「うん『悟りメット』って言って、相手の気持ちが読めるの。ちょっと聞いてくる」


 優太がヘルメットを被ると、店主と話している柚葉の下に向かった。


「柚姉ちゃん、いい剣あった?」

「ん?うん、これがいいかなぁって思うんだけど…。優、何そのダサいヘルメット」


「僕もダサイと思うけど、黙っててよ…」優太はしょんぼりしたまま店主の方を向いた「すいません!お姉ちゃんにこれ、買って上げたいんですけど、幾らですか?」


「ん?坊やが、贈り物をするのかい?」

「そうですそうです!」

「そうだな、まけて3200ルベルだな!」


 それを聞くと優太は店主のあまりの強欲さに顔をしかめた。


「えっと、1300ルベル位で…」

「ははは、流石に、そんなに安くはできないねぇ…」

「じゃ、じゃあいいです…。他のお店行きます…」と優太は1歩後ずさった。

「あー、待った待った!2000ルベルくらいならどうだい?」

「そんなにお金無いんで…」

「じゃ、じゃあ1600ルベルなら、どうだい?」


 横で見ていた柚葉はいきなり半分まで値段が落ちて驚いた。


「んーと、1600ルベルで剣吊るすベルト付けてくれるなら…」

「んー、まぁいいだろう!姉想いの弟君に負けて、それで売ろう!」と店主は笑顔を向けた。


 相手の内心を知る優太は、ぎこちない笑顔を返すと、ポケットの貨幣が入った袋から銀貨を2枚取り出した。店主は薄汚れた貨幣を見て、一瞬、表情を曇らせたが、手にとって本物の銀貨だと確認すると、お釣りとして大きい銅貨4枚を寄越した。


「優、なんで、あんなに安くなったの?」柚葉は店主が店の裏手に剣を持って行き、ベルトの用意を始めると聞いた。

「このヘルメットは相手の心が読めるの。あの剣、1200ルベル位で売れればいいみたい」

「え!」

「ベルトが200位だから、ちょっと損してるけど、あのおじさん、僕達には高く売る気持ちが強いから、まぁしょうがないかなぁ…」

「そうだね…。普段スーパーで買い物してる身としては、簡単に騙されるとこだったよ…」


 店主は戻ってくると柚葉の腰の位置に剣帯を付け、ベルトの穴と金具を調整すると、鞘の大きさに合う帯執おびとりを設えて剣帯に固定した。


「体と腕を左右に振って、鞘が邪魔にならないか確認してみな」


 店主の言葉通り柚葉は体を動かすと、自分で勝手に具合のいい位置にベルトを調整し直し、そして物足りなさを感じた。


「えっと、なんだろ?ジャンプした時、下が浮く感じが嫌かな…」

「ああ、それなら鞘皮を横に広いものに変えてやる。あとは帯執りの長さを短めにすれば、それ程気にならないはずだ」

「うん、ありがと…」


「研ぎ直しと柄皮の張り直しは、終わりましたよ」裏手から青年が出てくると柚葉の剣を見せた。

「ああ、こちらのお嬢さんだ」

「毎度どうも…」青年はそう言うとカウンターに抜き身の剣を置いた。


 柚葉は慣れた様子で剣を手に取ると、水平に線を引くように剣を流し、そのままスルリと鞘に収めた。


「うん、いい感じ、ありがとう」

「へー、お嬢さん、それなりに腕前はありそうだね」青年は柚葉の様子を見ながら感嘆した。


「うん!柚姉ちゃんすごいね!」

「え?あ…」


 言われて気付いたが、柚葉は能力として得た『全武術』が自分の中に宿っているのを感じた。ランバルディアで生まれた数々の戦う術が、自分の中に生きている。先程の鞘の位置も剣を扱う上で自分の中の感性が、その位置では不快だと告げていた気がした。


「柄皮は張り変えたばかりだから、落ち着くまで派手に振るわない方がいいよお嬢さん」

「うん、ありがとう」

「その様子なら、多少の事は自分で出来そうだが、何かあったら持って来な」店主は片付けながら声を掛けた。

「うん、その時はよろしく」


 柚葉が店主に背を向けたので、優太も文乃の下に戻ったが、文乃の顔を見ると優太はびっくりして慌てて『悟りメット』を外した。


「ん?どうかした?優君」

「う、ううん、なんでもない…」優太はブルブルと顔を震わせると下を向いた。




#5


「ぼったくりのお店かと思ったけど、買った後はしっかりしてたね」

「うん!」


 三人は先程教えられたアルドゴドイット冒険者組合を目指して、街路を進んだ。


「あ!ここじゃない?樽に何本もの旗が刺さってる」文乃は店先を見ながら二人に言った。

「そうだね。看板も『アルドゴドイット冒険者組合』って書いてあるし」


「…僕も、冒険者になるの?」


「え?えーっと…、なれるならなった方が、いろいろとできる事が増えると思うよ優君」

「それに優、姉ちゃん達の彼氏になったんだから、ちゃんと守ってくれないと!」


「…あ!そ、そうだよね!」優太は文乃をチラチラと見ながらコクコクと頷く。


「じゃあ、中入るけど…」

「変な人に絡まれたりしないかしら?」


「うーん…、優、なんか道具用意はしといて…、最悪、私がなんとかするけど…」

「うん!用意しとく!」


「だ、大丈夫?」

「なんかね…。『全武術』の能力の所為か、感覚的に戦う事に対して、体が過敏になってるんだよね…」

「え?どういう事?」

「えっと、相手に掴まれたら体をこう動かせばいいみたいな感覚が体の中にあるんだよね…」


「はー、改造されると、そんな風になっちゃうんだね…」

「怖いわね…」


「え?そんな反応?」


 柚葉は二人の反応にブツブツ言いながらも、最初に組合内に入って行った。組合の内部は、そこそこの広さがあり、大き目の木製のテーブルが4つと、同じ木製の丸椅子が雑多に何脚も散らばっていた。正面には広めのカウンターがあり、男女の職員が数名忙しなく動いている。

 現在は、優太達以外に訪れているのは、六名ほどで、二名は左手のボードに掲げられている依頼書に目を向けており、四名はテーブルで顔を突き合わせて話し込んでいた。


「こうゆうのって、1階は酒場とかじゃないのかな?」

「え?冒険者の組合って、お仕事くれるのよね?」

「うん」

「行った事無いけど、ハローワークの1階で居酒屋やってる感じなの?」


 それを聞くと柚葉は文乃を見つめた。


「言われて見ると、確かにその組み合わせはおかしいよね…」


「もうお昼過ぎてるから、お腹空いたね…」

「そうね。登録終わったら、ご飯食べに行こうね優君」

「うん!」

 

 柚葉は周囲を伺いながら、カウンターに寄って行く。すぐに職員らしき若い女性が顔を上げて、柚葉に視線を合わせた。


「すいません、冒険者になりたいんですけど…、こちらでいいですか?」

「はい、構いませんよ。えっと…、三人ともお若いですが、全員ですか?」

「はい、出来たら全員で…」


「基本的に、登録料をお支払い頂ければ、年齢に関わらず登録は可能です。今の時期ですと翌日には登録証はお渡し出来ますので、受け取り次第、お三方に合った依頼の受注は可能です」


「えっと、はい…」


 柚葉の横で文乃と優太もカウンター越しに話を聞く。


「登録料は一人1000ルベル、依頼を三度失敗すると降格、初期の場合は組合登録証の剥奪となります。逆に依頼の達成率、組合への貢献度等で組合登録証の段階が上り、より難易度の高い依頼の受注が可能となります」


「はい…」


「組合登録証は、依頼の提供、他の町の同組合の紹介、組合内で保有している情報の提供、関係組合の紹介、依頼を受ける上での初期訓練、こちらは有料になりますが、受けることが可能になります」


「えっと…、登録証が身分証みたいになったりするんですよね?」


「え?いえ、冒険者の組合員には、金銭さえお支払い頂ければ誰でもなれますから、そういった身元を保証するものではないですね。もちろん登録証があれば冒険者といった存在だとは解りますが、組合側が登録者がどういった人間かなどの保障する物ではございません」


「え?あ、そうなんですか…」


「はい、こちらでは登録に来られた方の身上調査を一々行っておりませんから…、ただ、登録者の方が国及び街の法、組合のルールを犯した場合の登録証の剥奪などはありますね。こちらは信用問題に関わってきますから…」


「柚姉ちゃん、身分証なんているの?僕、日本でも持ってなかったけど…」優太はカウンターに顎を乗せたまま柚葉に視線を向ける。


「え?そう言えば、確かにそうだよね…」

「考えてみると、身元を保証するって、凄く難しい事よね?」


「そ、そうですね…。基本的に街に入られる時も、犯罪手配書でも出されていなければ、通行税さえ支払えば出入りは出来ますし、王侯貴族の方なら家紋などで身分を証明される場面も御座いましょうが、何か、そういった証明が必要なのですか?」


「あ、いえ…、なんとなくそう思っただけなんで、気にしないで下さい…」


「そうですか、では、お名前をお伺いしますが、識字はできますか?」

「はい」

「では、こちらの皮紙にお名前と一行様の名称がございましたら、そちらの方も明記もお願いします」


「えっと、それはなんですか?」


「簡単に言えば、同じ仲間達で名前を持つ事をモルドと呼びまして…。高位の依頼を達成した時などの名声に関係してきます。例えば、あそこに居られる四名は『イストラル』と呼ばれるモルドの方々で、このオルドラーダの街では、かなり名の通った方々なんですよ」


 イストラルのメンバーは、視線を向けられると体つきの良い男性が笑顔で挨拶代わりに片手を上げた。


「じゃあ『ネコえもんズ』で登録お願いします」

「待て優!勝手に決めんな!」


「あとモルドは、闘技会の参加時にも必要になりますね」


「え?それなんですか?」


「10日に1度、多くのモルドの方が順位を競って闘技会に参加されております。オルドラーダでは上位50位を掲示しておりますが、王都などでは所属されている方が多いので、上位100位まで掲示しているそうですよ!」


「それって参加しなくてもいいんですよね?」

「はい、戦闘を主としないモルドの方々は参加しない事が多いですね。参加条件は、三名までの同モルド員、使用武器は組合が用意した物のみ、魔法は下位の指定されたモノのみになります」


「勝つと順位が上って、お金が貰えたりするんですか?」


「報奨金に関しては僅かばかりですがございます。ですが参加される方のほとんどは名声目的の方が多いですね。こういった冒険者といった存在はやはり腕前も大事ですから、順位が上るほど指名で依頼が掛ったりしますので…」


「あー、なるほど…」


「闘技会は冒険者組合が主立って運営しておりまして、賭けの胴元にもなっておりますので、宜しければ是非!ご参加くださいね!」


「えっと、それ、組合の運営費になったりしてるって事です?」

「はい!その通りです!それでは、記入が終わりましたら、また、私の方までお持ちください!」


 柚葉は皮紙を1枚受け取ると、カウンターに備え付けられている羽ペンと墨に視線を向けたが、面倒なので自前のボールペンを出して手近なテーブルに向かった。

 文乃と優太も、近くの丸椅子をテーブルに寄せると座り、皮紙に目を向ける。


「モルドってパーティ名だよね?どうする?」

「私は、なんでもいいけど…」

「カッコいいのがいい!」

「ネコえもんズは、嫌だからね…」


「じゃあ『ユウタン』!」


「…もう、優は黙ってて…」


「優君、ユウタンだと有名になった時、自分が恥ずかしいと思うよ…」

「あ、そうだよね…」


「可愛い名前がいいなぁ…。ちょっと日本入ってて」柚葉はそう言いながらボールペンで皮紙をトントンと叩いた。


「かわいいの…?じゃあ『ナポリタン』!」

「優君、ナポリタンは日本じゃないんじゃ…?」文乃は優太の意見に突っ込みを入れる。

「いや、ナポリタンは日本?でも食べ物ってなんか可愛いよね…」

「あー、確かに!」

「じゃあ『にくまん』!」

「ヤダ…、それならまだナポリタンの方がいい…」


「そうねぇ…。こんにちは、ナポリタンのフミノです!」文乃は改めて言い直してみた「あ、言いやすいかもね」


「あ、そっか、言いやすいって言うのも大事だよね」

「うん」

「それに、ちょっと有名になったら、ナポリタンだったら地球のこっちに来た人が声を掛けてくれるかも!」

「あー、そうよね!」


「柚姉ちゃん、闘技場に出るの?」

「いや、それはまだ分かんないけど…」

「じゃあ、モルド名はナポリタンにしようか、私達の名前はフミノ、ユズハ、ユウタでいい?」

「名字はいいの?」

「一応、名前だけでいいんじゃない?知らない世界でフルネームってちょっと抵抗あるよね?」

「うん」

「ふーん」


 文乃がこちらの文字で一通り名を書き終えると、三人は改めてカウンターに登録に向う。先程の受付の女性は、それぞれの名前を確認すると1枚の穴の開いた銅製のプレートを見せた。


「それでは、明日、こちらにそれぞれのお名前とモルド名を掘り込んでお渡しになります」

「はい、よろしくお願いします」

「料金の方ですが、お一人様1000ルベル、三名様で3000ルベルですが、大丈夫ですか?」

「えっと、はい、金貨でも大丈夫ですか?」柚葉はポーチから金貨を1枚取り出して、受付の女性に見せた。

「はい、構いませんよ」


 金貨を受け取ると、受付の女性は1度席を外してお釣りを用意して戻ってきた。そして、別の皮紙にスラスラと三人の名前とモルド名、自分の名前をサインをして柚葉に返す。


「それでは明日、こちらまでこの用紙をお持ちください。引き換えに登録証をお渡しします」

「はい、ありがとうございました」


「それでは、ご質問等が無ければ、本日は、ここまでになりますが…」

「えっと、大丈夫です。ありがとうございます」


 柚葉がカウンターを離れると、優太はカウンターから顔を上げ、受付の女性に手を振った。受付の女性は笑顔で優太に手を振り返した。

■あとがき


すいません。やはり3話目で35000字は長すぎるという事なので、急遽分割しました。ですが、本来3話目と4話目は一まとめの話の為、内容を継続して読んで頂くために、二日連日投稿する事にしました。


さて、とうとう街に着いて、優君がいきなり暴走しかけてますが、凄い力を手にしたらこういった気持ちも沸いてくるんじゃないかな?とも思います。ただ、逆に終わってみると、優君は「あの時、なんでこんな馬鹿な事いっちゃったんだろう」とトラウマ的に後悔してしまうエピソードでもありますね。


あと、金の相場ですが、コロナの影響で書いていた時期と相場がかなり変動していますが、三人が地球を離れた時期は、その程度の相場だったと思ってください。


感想、誤字報告ありがとうございます!


次回は明日ですが、異世界の嫌な部分が見えてしまう話ですね。そして、5話以降から投稿は緩やかになります。3話(実際は4話)くらいまで投稿すれば、どういった世界か理解して頂けるかな?と最初の数話はペースをあげて投稿しています。


それでは、また!

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