ナポリタンと仲間達
#1
「ナポリタンの皆様!昨日は闘技会で素晴らしい勝利を収めたそうですね!」
ファルケンの冒険者組合の職員サントル・ヒルデはカウンター越しに身を乗り出して興奮していた。柚葉達四人は昨日の闘技会の賞金の受け取りと依頼、王都への所用で来ていた。
「あー、どうも」と柚葉はペコリと頭を下げた。
昨日は闘技会の勝利後に、闘技会の受付を担当しているヘルマウル・クロールに柚葉とエルメシアは大絶賛され、周囲のモルド、闘技会職員、観客からも多くの反応を貰って柚葉は戸惑っていた。
「クロールがとにかく凄かった!と言ってましたよ!」
「そ、そうですか…」
「ああ、すいません…。それで、本日はどういった御用件でしょうか?」とヒルデは姿勢を正す。
「依頼の納品と昨日の賞金を受け取れたらと思ってきました」
「ああ、はい!依頼の品は受け取りますね。査定させて頂いて、双方の報酬をご用意させていただきます!」
「はい、お願いします」
優太と文乃は依頼の掲示板を眺めていたが、柚葉の後ろに居たエルメシアは昨日自分達に話しかけてきたモルド、ガガシャのメンバーが入って来たのに気付いた。
「お!昨日の姉ちゃん達じゃん!」とガガシャの少年冒険者が話しかけてきた。
「おー、昨日はども!」と柚葉は軽く返す。
「姉ちゃん達、マジで強かったんだな!」
「まぁねー!私が二人抑えるって言ったじゃん」と柚葉はニヤリとする。
「いやー、あんな強いとは思わなかったし…」
「でも、そっちも勝ってたじゃん!おめでと!」
「ありがとー!俺たち2連勝だからな!次勝てば、ランキング入り狙えるぜ!」と少年冒険者は笑顔で言う。
「いいなぁー。うちはあと2回勝たないとだよ…。まぁその前に闘技会に参加してくれる後一名を見つけたいんだけど…」
「ん?んー、それならすぐ見つかると思うよ。将来優秀なモルドに入りたいソロの冒険者って結構いるからさ。これからギルド通して、面会の申し込みがすげー来るんじゃないかな?」
「え?うち、女の子3人と男の子一人だから、いきなり来られても困る…」
「あ、あー」と少年冒険者はエルメシア、文乃、優太に目を向ける「あいつも冒険者なの?」と優太に目を向ける。
「優?うん」
「つえーの?あ、強かったら闘技会に出てるか…」
「うーん、優は弱いけど、ある意味最強と言うか…」
「…え?なんだそれ?魔法使いみたいなもん?」
「え?あー、まぁそんな感じ…」
「まぁー、このメンバーにいきなりおっさんとか来ても、エロい事されそうでちょっと嫌だよなぁー」と少年冒険者はズバスバと言う。
「まぁねぇー」
「ラズル!行くぞ!」とガガシャのメンバーが少年冒険者に声を掛ける。
「あ、やべ!俺、ラズルって言うんだけど、またね!姉ちゃん達!」とラズルは慌てる。
「うん、私は柚葉」
「私はエルメシアです」
会話が終わって振り向くと、ヒルデが戻って来ていた。
「あ、あー」とヒルデは困った表情を浮べている。
「あ、すいません」
「いえ、実はもうモルド『ナポリタン』に加入依頼の問い合わせが3件来てまして…」と言い辛そうに伝えてくる。
「え…」
「しかも3件とも男性ですね…」
「断ってください!」とエルメシアが即答する。
「解りました…」
「簡単には入れられないしね…」と柚葉は困った表情を浮べる。
「それと逆に…」ヒルデは言い辛そうに続けた「シルバウの冒険者組合のモルド『タンデラ』からユズハ様に面会の申し出が来ております」
「え?なんかしました?」
「いえ、こちらはモルド『タンデラ』がユズハ様にタンデラに来ないか?と、引き抜きの依頼だと思います」
「え…、私、ナポリタン抜ける気無いんで、そっちもお断りしてもらえますか?」
「はい、解りました」
「まだ一勝ですけど、いろいろな影響がありますね」とエルメシアはうんざり気味の表情を浮べる。
「では、こちらが今回の依頼料と賞金になります」とヒルデは盆に賞金を乗せて差し出した。
柚葉はそれを仕舞うと、少し考えてヒルデに向き直った。
「すいません。これからナポリタンの加入の申し出が来ても、受けられないと言って貰えますか?」
「はい、構いませんが、私の個人的な意見として、闘技会に参加するなら3人揃えた方が良いと思いますよ」
「そうですね。でもそれは、こっちでどうにかするので…」
「解りました。それでは次回の闘技会のご参加の申し込み、お待ちしております」とヒルデはにっこりと笑った。
柚葉とエルメシアはカウンターを離れると、ひと息吐いて優太達と合流した。
「いろいろ大変だね」と文乃は声を掛ける。
「うん、闘技会だけ見てモルドの加入を申し込まれても、うちは私が殺すのとか駄目だし、モルドハウスの事とか考えると安易に決められないし、女性の多いモルドとかあるから、まず人柄を考慮しないとね…」
「そうですね…。ですけど、きっといい仲間が見つかると思いますよ」エルメシアは笑顔を浮かべて励ました。
「ただ、二人だとこれから対策されるだろうし、もう一人は確かに欲しいんだよね…」
「なんか、外、急に暗くなってきてない?」と優太は建物の外を見ながら言った。
「え?あ、ホントだ!」と柚葉も窓から外を覗いた。
「ああ、皆様はアスーリアを見るのは初めてなんですね!」とエルメシアは微笑ましそうに言う。
「アスーリア?」と文乃は問い返す。
「はい、空に浮かぶ聖域群島です」
「え?それって空飛ぶ島って事?」と優太は驚いた表情を浮べる。
「はい!」
四人は外に出ると、空を見上げる。するとかなりの高度に大小数々の岩を携えた島が浮かんでいた。
「ラペタや!ラペタはあったんや!」と柚葉が興奮した様子で言う。
「すごい!行きたい!」と優太も興奮したように言った。
「それは難しいと思いますよ。アスーリアには昔から多くの人が挑みましたけど、到達した人は居ないと聞きますから…」
「え?なんでだろ?」文乃は魔法や飛行生物のいるランバルディアなら到達できる気がした。
「と言うか優、衛星であんなのが飛んでるって気付かなかったの?」
「え?あー、まさか空に島が浮かんでるなんて思わなかったし…。お互い空を飛んでると、発見しにくいんじゃないかな?」
「あー、確かに…」
「でも、面白そうだから、スパイ衛星で追跡して調べてみる!」そう言うと優太は人気の無い建物の間に入っていった。
文乃は心配して優太の後に続く。しばらくすると建物の間からシュルシュルとロケットが上がっていった。
「今のは何ですか?」とエルメシアは柚葉に尋ねる。
「優太がロケットを打ち上げたみたいだけど、花火みたいだったね…」
「はぁ…?」とエルメシアはよく分からない返事をした。
「でもエルさん!この世界って、不思議な場所がいろいろとあるね!」と柚葉は子供のように笑顔を浮かべた。
「そうですね!ユータ様、フミノ様、ユズハ様と少しでも多く見れたらと思います!」
#2
翌日の昼食後、優太はモルドハウスを囲う壁を作ると言うので、四人は表に出ていた。すでに優太は正面以外の壁の建設を進めており、文乃とエルメシアは話しながら、これから必要であろう施設の位置決めを行っていた。
「駐輪場っているかな?」柚葉は隣の優太に聞いた。
「え?いらないんじゃないかな?乗るならプラントエリアで乗れば?一周、舗装されてるよ」
「アンダーワールドで乗っても面白そうだけど、この森から街道まで舗装するんでしょ?」
「するつもりだけど、変な人来られても困るよね?ちょっと考えてる…」
いま文乃とエルメシアは花壇や焼却炉などの間取りを決めていた。モルドハウスと発電施設の間には、プラントエリアに続く通路があるが、今は重厚なシャッターが下りている。
「それにしても、とにかく素晴らしい施設だね!」
「そうでしょ!」
「でも広すぎて、夜中にトイレ行くの怖くない?」
「あ…、僕も思った…。部屋にトイレ作ればよかったかな?」
「まぁ夜は居住エリア以外のシャッター下ろしてるから、そこまでじゃないけど…」
「うん、寝る前にアルエ捕まえとかないとだね」
優太と柚葉は、文乃とエルメシアが相談しているのを見つめていたが、柚葉はスキルの影響か、周囲の森から視線を感じた。視線のみをそちらに注視すると、白髪の子供がこちらを覗いている。それを見ると柚葉は好奇心を刺激された。その白髪の上には獣耳が見えたからだ。
(優!優!)と柚葉は小声で優太に声を掛けた。
「え?なに?」
(外の森に、かわいいケモミミ幼女が居る!)
(…え!)と優太も小声で返したが、そちらに顔を向けてしまう。
(見たらバレちゃう!可愛いから捕まえよう!)
(…え?)
(なんか追跡する道具出して!)
(えっと、『石ころころ帽子』でいい?)と優太はポケットから灰掛かった帽子を取り出す。
(うん!)
優太と柚葉は帽子を被って姿を消すと手を繋ぐ、お互い認識出来なくなってしまうからだ。
「あ、逃げた!」と柚葉は獣耳の子供が隠れていた場所から離れたのを見て言った。
「いや、帰っただけじゃない?」
話しながら二人は慌てて後を追う。
「この辺に住んでるのかな?」柚葉は森に入りながら聞いた。
「うーん、一応、この近辺は調べたけど、村とか無かったと思うよ…」
森に入ると、獣耳の子供はすぐに見つかった。子供は特に気にした風も無くゆらゆらと尾を揺らしながら、森を進んでいた。この辺は、膝丈ほどの草と木々が疎らに生えているだけなので、二人が進むのも追跡するのも容易かった。
(かわいい!狐の獣人かな?)
(うーん、狼じゃない?しっぽがだらんって下がってるよ)
(狐も下がってない?)
(狐はぽわんって感じのしっぽじゃない?)
(え?そう?)
柚葉は優太の表現がよく分からなかったが、見ると確かに前を進む獣耳の子供の尾は狼のような気がした。
二人が話しながら追跡していると、突然、獣耳の子供は立ち止まり振り返った。
柚葉はヤバイと感じ、優太を抱き上げるとピョンと跳躍して木の枝に掴まった。ガサッと音を立ててしまった為、二人はドキドキして様子を伺っていたが、獣耳の子供は戻って来て、先ほど二人が居た位置で周囲を伺う様にキョロキョロとしていた。
獣耳の子供はしばらくそうしていたが、特に何も無いと判断すると、また先を進んだ。
(あー、びっくりした)と柚葉は降りるとホッとした。
(うん、獣人だから敏感なのかな?)
再び二人は追跡を開始すると、水の流れる音が聞こえてくる。さらに進むと開けた場所に出たと思うと小さな川が流れていた。手近な木の後ろに二人は身を隠して様子を伺うと、獣耳の子供は服を脱ぎだし、小川の中に入って行く。
(遊んでるね…)と柚葉は奔放な獣耳の子供を見ながら言った。
(うん、かわいい!)
満足するまで水遊びを楽しんだ獣耳の子供はプルプルと身を震わせて水を切ると、頭からまた服を着て、小川の先に進んだ。そこには木製の仕掛けがあり、獣耳の子供は近くの石に括り付けてある縄を引くと自ら引き上げた。
(あ!魚取ってる!)
(もしかして一人で住んでるのかな?)
獣耳の子供は近くの壷に魚や小エビなどを入れると、仕掛けをまた戻した。そして壷を大事そうに抱えると、また歩き出す。それからそう遠くない場所に一軒の家が建っていた。
(こんな所に家があったんだね!)
(こんな小さな家だと気付かないかも…)優太は様子を見ながら言った。
家に戻ると獣耳の子供は屋根の付いた炊事場に壷を置き、土焼きの竈に手近な木をポイポイと放り込んで、ブツブツと言って火を点けた。
(え?魔法使った!)と柚葉は驚く。
(うん!すごい!あんな小さいのに!)
次に獣耳の子供は手近な大きな壷から柄杓で水を汲むと、黒塗りの大きな鍋に水を入れて、背伸びをして竈の上に乗せた。そして自分で小さな踏み台を運ぶと、先ほどの壷を持ってきて中の獲物を鍋の中にポイポイと放り込んだ。
(あんなに小さいのに料理してるんですけど…)
(偉いね…)
しばらく獣耳の子供は木製のお玉でグルグルと鍋の中をかき混ぜていたが、ピョンと踏み台を降りると、炊事場の天井から紐で吊るされた干した草を毟り取り、次に土焼きの小さな壷を持ってくると、干草と一緒に少しだけその中身を鍋の中に放り込んだ。
(なんか入れたね)
(お塩?)
すぐに鍋がグツグツと煮立ってくると、獣耳の子供は近くの木製のバケツを持って竈の火に水をぶっ掛けて消火した。そして、鍋の中に柄杓で水を入れて温度調節すると、そのまま鍋の中身を掬い上げて味を見る。
(ケモミミ幼女の料理面白い!)
(すごい大胆…)
獣耳の子供は目を見開いて味に満足すると、中身を手近なお椀に掬い上げ、両手でお椀を持つと、そのまま家に向かい、家の戸をドカッと蹴り開けて中に入っていった。
(よし、家の中を覗こう!)
(うん!)
優太と柚葉は窓から中を覗き込むと、ベットにおそらく母親であろう獣耳の大人が寝ており。先ほどの獣耳の子供は作った食事を食べさせている所だった。
「偉い!あの子、お母さんに料理作ってたんだ!」
「うん、でも、毛の色違うね。お母さんは茶色だけど、あの子は白いよ」
「猫だって、生まれてくる子猫は柄が違ったりするじゃん」
「あー!そうだよね。お母さん病気なのかな?」
「よし!捕まえるの中止!病気を治して仲間にしよう!」
「…え?」
そう言うと柚葉は『石ころころ帽子』を外して、先立って家の入り口に向かった。優太も帽子を外して後に続く。
「すいませーん!」と柚葉はコンコンと扉をノックする。
するとすぐにドタドタと中から音がしたかと思うと、扉が勢いよく開き、柚葉のおでこに扉がゴッとぶつかる。
「誰です?」と獣耳の子供は聞いた。
「つっ…」と柚葉は額を押さえて蹲った。
「大丈夫、柚姉ちゃん…」
「どうしたです?」と獣耳の子供は蹲った柚葉を見ながら聞いた。
「えっと、こんにちは!」と優太は代わりに挨拶をする。
「あ!近くに住んでる、大きな家の子供です!」獣耳の子供は優太を見ると知ってるとばかりに言った。
「う、うん…」
「どうしたです?」
「あー、痛かった…。えっとね。私たち、近くに引っ越して来たから、挨拶に来たんだよ!」
「住んでるの知ってるです!クー見てたです!」
「う、うん、クーちゃんって言うの?」
「そうです!クーナはクーでクーナです!」
「ん?」柚葉はなにか不思議な説明を受けた気がした。
「えっと、大人の人居るかな?」と優太は代わりに聞いた。
「居るけど、お母さん、病気で死にそうです…」
「…え?」優太はストレートなクーナの物言いに驚いた。
「病気なの?」と柚葉は尋ねる。
「そうです!」
「私たち、病気を治す薬を持ってるんだけど、お隣さんだし治そうか?」
「病気治せるです?すごいです!」
「う、うん、じゃあ、中に入ってもいいかな?」
「いいです!中に入るです!クー、お爺ちゃんが死んじゃって、お母さんも死んじゃったらどうしようかと思ってたです!」
「そうだよね…」と柚葉は頷く。
クーナを先頭に家の中に入ると、すぐに先ほど覗いていた部屋に通される。外観から見た限り、この他にもまだ部屋はありそうだったが、二人は今は気にしなかった。
「お母さん!お隣さんが来て、薬くれるです!病気治るです!」とクーナは寝ている母親を揺すった。
その説明を聞いて母親は目を開けると、少し身を起こして、二人に視線を向けた。
「え?あ、あの…、どなたですか?」
「えーっと、近隣に越して来た者ですが、ご病気と伺って薬を差し上げようかと…」
「え?」とクーナの母親は意味がよく分からないといった表情を浮べる「あの…、薬を頂いてもお支払いできる金銭はありませんので…」
「お金いるです?」クーナも振り向いて柚葉に聞いた。
「いえ、お金とか要りません」
「うん」と優太も頷く。
「で、ですが…、薬を頂いても、私達はなんのご恩も返せないと思います」母親は訝しんでいた。
「大丈夫です!お友達になって頂ければ!」
「お友達!なるです!」とクーナは嬉しそうに優太を見ながら言った。
柚葉が説明している間に優太はポケットから『お医者様カバン』を取り出すと、聴診器を取り出して、クーナの母親の手にピトっと貼り付けた。するとすぐに注射器型の飲み薬が出てくる。
「え…、あの…」
「これ、薬です!」と優太は自信満々に言った。
「それ薬です?飲むとお母さん、治るです?」
「うん!」
「凄いです!魔法です?」
「違います!科学です!…あれ?医学かな…」
「ですから、どうぞ飲んでください!」と柚葉は注射器を持って勧める。
「飲むです!」
「え?あの…」クーナの母親は明らかに怪しい薬に戸惑っていた。
「ほんとに、病気治りますから!」と優太も後押しをする。
「のーむーでーす!」とクーナは頬を膨らませて、母親に抗議する。
「えっと、クーちゃんもまだ幼いですし、お母さんが病気で倒れたままだと困ると思います!」と柚葉は言い切った。
「困るです!」
「わ、わかりました…。それでは頂きます…」と母親は僅かに口を開けて目を閉じた。
そこに柚葉はゆっくりと薬を流し込む。クーナの母親は躊躇いながらもゆっくり飲み下すと、すぐに体調の変化に気が付いた。
「治ったです?」クーナは心配そうに聞いた。
「え?あれ?そんな…」クーナの母親はベットから出ると、自分の体調が戻っているのに気付いた。
「もう治ったです?」クーナは驚いて優太の方を向いた。
「うん、凄い薬だから、すぐ治るよ」
「信じられません。こんな薬があるなんて…」
「科学です!」
「科学、凄いです!」とクーナはピョンピョン跳ねて喜んだ。
「あ、あの、このお礼はどの様にすれば…」と母親は恐る恐る柚葉に尋ねた。
「え?本当にお礼とか、考えてなかったんですけど…」
「あ!」とクーナは何かに気付くと慌てて外に出て行く。
優太はなんだろうと、その後姿を見ていた。するとすぐにクーナは両手にお椀を持って足でバンと扉を蹴り開けて戻ってきた。
「どうしたの?」と優太は聞いた。
「お礼です!」とクーナは両手に持ったお椀を柚葉と優太に手渡した。
「あー…、ありがとう」と柚葉は受け取る。
「うん、ありがとう…」と優太も礼を言う。
「飲むです!」とクーナはニコニコ顔で言った。
「…え?クーナ、お客様にそんな物を…」
「じゃ、じゃあ頂きます…」
「う、うん…」
二人はニコニコ顔のクーナの勢いに押されて、ズズっと一口飲んでいった。
「あ、あれ?結構美味しいね。アラ汁みたいに魚の風味出てて、なんか一緒に入ってる草が臭み消しになってる感じ!」
「うん、小さいエビみたいなのがプチプチしてて、美味しいかも」
「美味しいです!」
「す、すいません。娘がこんな貧しい食事を…」
「え?いえ、ご馳走様です…」
「うん、ご馳走様です」
柚葉はベットの横のテーブルにお椀を置くと、改めてクーナの母親に向き直った。
「それで、お礼とは別の話なんですけど、良ければ家で働きませんか?」と柚葉は提案した。
「…え?」
「実は最近、こっちに引っ越してきたんですけど、家が凄く大きくて、管理が大変なんですよね!ですから、良ければ二人で家に住み込んで働きませんか?」
「すごい大きい家です!」
「え?えっと、ですが…」
「部屋とか服とか、食事、お給金もちゃんと出しますし、難しい仕事とかは無いんで、良ければ是非!」
「うん、部屋もいっぱいあるから、どうぞ!」と優太も勧めた。
「一緒に住むです?」
「うん、僕、ゆーたん!」と優太は自己紹介をした。
「私、ゆずのん!」と柚葉も続いた。
「え?ゆずはんじゃないの?」と優太が問い返す。
「それ関西人みたいでヤダ…」
「クーはクーナです!」
「うん、それもう聞いた」
「あ、私はシーナと申します。ここで娘のクーナと二人で暮らしています…」
「はい、シーナさんですね!それで、どうでしょうか?」
「柚姉ちゃん、1回お家見てもらえば?」
「あ、そうだよね!」
優太はそう言うと、『どこでも扉』を取り出して開いた。
「凄いです!あれ、ゆーたんの大きいお家です!」とクーナは開いた扉の先を見て言った。
「え?魔法ですか?」とシーナは怒涛の展開に目を白黒させた。
「科学です!」
「科学凄いです!」
四人が扉を潜ると、エルメシアが家の前に居り、目を丸くして四人を見つめた。
「お二人とも何処に行ってらっしゃったのですか?心配したのですよ!」
「あ!帰ってきた!」と文乃も家から出て来る。
「ただいまー!獣人の家政婦さんスカウトに行ってた!」
「え?…だれ?」
「シーナさんとクーナって言うんだよ」と優太が説明する。
「クーナはクーでクーナです!こんにちはです!」
「あ、はい、こんにちは…」と文乃は背伸びして挨拶をするクーナを見て返した。
「こっちが、私のお姉ちゃんのふみのんで、こっちのキレイなエルフさんがエルさんだよ!」と柚葉が紹介する。
「ふみのんとエルさんです!」
「うん、そう」
「えっと、家政婦さんって?」と文乃が問い返す。
「二人とも近くに住んでるから、家でお掃除とか食事の手伝いとかしてもらおうかと!スカウトしてきた!」
「また、勝手に決めて…」
「大丈夫!二人とも、凄くいい人だから!」
「いい人です!」
「あの…、強引に誘われて困っているんじゃないですか?」と文乃は申し訳無さそうにシーナに尋ねる。
「あ…、いえ、実は先ほどまで病気だったのですが、お二人に治して頂いて、そのお返しをしたいとは思っているのですが、私などがこの様な立派なお屋敷で出来る事などあるのでしょうか?」とシーナは後方に立つ巨大なモルドハウスを見て恐縮していた。
「あります!こんなでかい家、四人じゃ手が届きませんから!」と柚葉が断言する。
「まぁ確かにそうだけど…」と文乃も一部認めた。
「とりあえず、中に入って話したらどうですか?」とエルメシアは勧めた。
#3
二人は食堂に通されると、優太達が椅子に座ったので続いて腰掛ける。
「ゆーたん、クー、ここに住むです?」クーナは隣に座る優太に聞いた。
「うん、そうみたい、嫌?」
「嫌じゃないですけど、お爺ちゃんのお家どうなるです?」とクーナは心配そうに聞く。
「うーん、近いからたまに帰ってお掃除とかすれば?」
「は!そうです!近いからたまに帰るです!だから、ここに住むです!」
シーナは、年の近い優太と話す嬉しそうなクーナを見ながら複雑そうな表情を浮べた。
「その…、私はここで働けばよろしいのでしょうか?」とシーナはおずおずと尋ねる。
「はい!」と柚葉は即答する。
「ちょっと、勝手にどんどん決めない…」
「えー、だって、見て!あのクーちゃん、ちょーかわいいよ!」
一同はクーナに視線を集める。
「クーです!」クーナは元気に返事をした。
「う、うん、凄いかわいいけど…」
「あのシーナさんは狩狼族の方ですよね?」とエルメシアが尋ねる。
「はい」
「フミノ様、狩狼族は信義を重んじる一族と聞きますから、こちらで雇うと言うなら信頼は置けると思います」
「そうなんだ…」
「それにユズハ様が仰る通り、この家の規模ですと、私たちだけでは管理に手が足りないのも確かです」
「確かにそうだね…。冒険者の依頼を受けたり、料理、洗濯、掃除とか考えると、それぞれ個人の時間もあまり取れなくなるし…。優君のひみつ道具のサポートはあるだろうけど、人が管理する部分もあるだろうからね」
「そうですね。そうすればフミノ様は料理に集中して頂けますし…。ユータ様やユズハ様はこちらの世界の料理はあまりお口に合わないようですから、現状ですとフミノ様がお作りになられるのが一番だと思います。掃除や洗濯などは、私達が代われますが、食事はフミノ様以外に用意できる方がおられません」
文乃は説得力のあるエルメシアの言葉を聞いて、シーナを今一度観察してみた。背がとても高く、おそらく175cmは超えていると思えた。病気をしていたとはいえ、もともとスラリとした肢体なのだろう。その濃い茶色の髪は長く豊かな胸元辺りまで乱雑に伸びているが、容姿は整っており若さも感じられる。クーナを産んでいるとは言え、日本人の年齢だと二十台後半辺りなのではと文乃は思えた。
「えっと、私達はこちらで働いて頂けるのは嬉しいのですが、シーナさんは本当に構わないのですか?」
「はい、病を治して頂きましたので、何かしらのご恩返しはさせて頂きたいと思っています」
「あー、病を治した事は、妹が勝手にやった事なので気にしないで頂いて大丈夫なのですが…」
「いえ、あのままでしたら、私は亡くなっていたと思います。そうすれば幼い娘は、後を追うような事になっていたはずです…」
「ゆーたん、これなんです?」クーナは目の前に置かれたお菓子の包みを見て聞いた。
「お菓子、甘くて美味しいよ」
「美味しいです?」
「うん」と優太はクッキーの包みを開けるとクーナに手渡した。
クーナはクッキーを受け取るとポイと口の中に放り込んだ。すると口の中に広がる甘味に感激して、目を見開いて優太の方を向いた。
「甘くて美味しいです!」クーナは両手で頬を包み込むと大興奮だった。
「うん、いっぱい食べていいよ」
「食べていいです?」
「うん!」
優太の了解を得て、クーナはもう一つ包みを開けると、クッキーを持ってピョンと椅子から降りた。そしてタタタと母親のシーナの元に行くと、その口にクッキーを押し込んだ。
「食べるです!甘くて美味しいです!ゆーたんくれたです!」
「ちょ…、クー」といきなり口にクッキーを放り込まれたシーナは驚いていたが「あ、甘いですね…」とクッキーの甘味に顔を綻ばせた「すいません。このような高級な砂糖菓子を頂いてしまって…」
「え?クッキーって高級なの?」と柚葉はエルメシアに聞く。
「えっと、こちらの世界では、甘味は総じて高級な嗜好品になりますね…」
「まぁ働いて頂くとして、もうちょっとお話聞かせてもらおうかな?」と文乃は優太とクーナに視線を向ける「話し聞いてても暇だろうし、優君とクーちゃんは、下でお洋服とか下着探して、お風呂入って来れば?」
「お家の中、見に行くです?」
「うん、それでお風呂で体洗ってくればだって」
「お風呂なんです?」
「えーっと、行けば分かるから!行こ!」
「わかったです!行くです!」
二人が行ってしまうと、改めて文乃はシーナの方を向いた。
「えっと、お二人は何でこの森に住んでいたのですか?」
文乃の言葉を聞くとシーナは多少口を開くことに躊躇ったが続けた。
「それはその…、狩狼族は魔王領に組する一族なのですが、私の住んでいた村は王国領に近く、度重なる王国の侵攻に敗れ、私は王国兵に捕らえられて奴隷となりました」
いきなり話が重くなり、文乃と柚葉の表情は暗くなった。
「それでは今でも奴隷印があるのですか?」とエルメシアは尋ねる。
「はい、あります」シーナは割り切った表情で続けた「私達は狩猟の民ですから、敗れて奴隷になった事には納得しています。強い者に弱い者が淘汰される事は自然な事ですし、私達もそうして来たのですから…」
「ですけど、王都からこの森に逃げたのですよね?」とエルメシアは理解して問い返す。
「はい…、私は王都で娼婦として働かせられましたが、そのうちクーナを身篭りました。私は授かった命ですので産みたかったのですが、娼館の主は産む事を許してくれませんでした…」シーナは表情暗く続けた「そして日に日にお腹の子を殺される事が恐ろしくなり、仲間の娼婦の助けを得て私は娼館を抜け出して、この森に逃げ込みました」
「えっと、奴隷印はどうしたのですか?誓約が掛ってますよね?」エルメシアは嘗ての自分の境遇から尋ねる。
「仲間の娼婦に短刀で切り刻んで潰して頂きました」
「いー…」柚葉は聞いただけで痛そうで顔を顰めた。
「それからは出来るだけ王都を離れようと森の中を進み、力尽きた時、あの家に住む優しい魔法使いのお爺さんに助けて頂きました。そこでクーナを産んだのですが、数年後にお爺さんが亡くなり、数週間前に私も病に倒れてしまいまして…」
「そしてユズハ様達に助けて頂いたのですね」
「はい…」
かなり重い話だったので文乃と柚葉は声を掛けれないでいた。
「それならば、ユータ様、フミノ様、ユズハ様を信頼して頂いて大丈夫だと思いますよ!」とエルメシアは太鼓判を押した「私もオルドラーダで奴隷にされましたが、ユータ様、フミノ様、ユズハ様に助けて頂き、今は三名にお仕えしています!」
「いや、エルさんは仲間と言うか家族だと思ってるし…」と柚葉が言う。
「うん」
「ありがとうございます!ですけど、これは私の気持ちの問題なので!」
「あー、うん、そう?」と柚葉はエルメシアの笑顔にそう答えた。
「フミノ様、ユズハ様!私にシーナさんを任せて頂けませんか?私も彼女は信頼できると思いますし、皆様の事情を知っても問題になる事は無いと思います」
「うん、私も信頼できると思うし、エルさんがそう言うならエルさんに任せようかな」
「はい!」
「じゃあ、シーナさんもよろしくお願いしますね!」
「は、はい!よろしくお願いします!」
#4
「わー!凄いですゆーたん!服がいっぱいです!」
「うん、好きな服選んでいいよ」
地下の『壁紙商店』で用意された『ちまむら異世界店』に入ったクーナは、その大量の服を見て大興奮だった。
「好きなの選んでいいです?」
「うん」
「でも、クーお金無いです」
「ここ、お金要らないから大丈夫」
「そうなのです?」
二人は女児用の服のコーナーに行くと、クーナの着れそうな服を選んだ。
「うーん」と優太はクーナの尾を見てズボンが履けるか心配になる「スカートかワンピースぽいのでいい?」と現在着てる服を見て判断する。
「わかんないです」
「えっと、こんな感じの服」と手近なワンピースを手に取る。
「あー!いつも着てるの、こんな感じの服です!でもこっちの服の方が、キレイでかわいいです!」
「そう?じゃあこれ着れる?」
「わかんないです…」
「じゃあ、着てみれば?」
「こんなキレイな服着ていいです?」
「うん、ここでこんな小さい服、クーしか着れないから大丈夫」
「わかったです!」とクーはにっこりと笑った。
その場でクーナは脱ぎだすと、優太からワンピースを受け取ってモゾモゾと着始めた。優太は川遊びの時点でクーナはこんな感じだったので、特に気にせずその様子を見ていた。
「どう?」
「着れたです!」
「ちょっと大きいかな?」
「大丈夫です!」
「でも、肩の所だらんってなってるよ。もう1こ下のサイズ着てみて」と優太は隣の服を手渡す。
すぐにクーナは同様に服を脱ぐと優太から服を受け取って着始める。
「どうです?」
「うん!このサイズでいいみたい!」
「ちょうどです!」
「じゃあ次、パンツ探そう」
「パンツなんです?」
「え?えっと、下に履く下着の事だけど…」
「わかんないです」
「まぁ履いた方がいいと思うよ。良く分かんないけど」
「じゃあ、履くです!」
二人は女児の下着売り場に行くと、適当なサイズから試着を始めた。
「どう?」
「履けたです!」
「尻尾大丈夫?」
「パンツの上の辺り、尻尾出てるです」クーナは自分のお尻の辺りを見ながら言った。
「ふーん、じゃあ、同じサイズのもう1枚くらい持って、お風呂行こ」
「はいです!」
優太はそのまま地下から大浴場に向かっていたが、クーナは始めて見る環境に大興奮で、何度も優太に質問していた。
「あ、アルエだ」と優太は大浴場出口の休憩所で涼んでいるアルエを見つけた。
「アレ、なんです?」
「アルファーって動物で、僕のペット、アルエって名前なの」そう言うと優太はアルエを呼び寄せた「アルエおいでー」
するとアルエはムクッと起き上がりキョロキョロすると、すぐに優太を見つけ駆けだした。
「走って来たです!」
「うわ!」と優太はかなり手前から跳躍してベタッと張り付いたアルエに驚いた。
「真っ白でかわいいです!」クーナは優太に抱かれているアルエを見ながら挨拶をする「アルエ、クーナはクーです!」
「クー」とアルエはそちらを向くと一鳴きした。
「ゆーたん!アルエ、クーの名前言ったです!」
「いや、アルエ、普通にクーって鳴くから…」そう言いながら優太はアルエをクーナに抱かせてやる。
「ふわふわで可愛いです!」とクーナはアルエに頬ずりをする。
その様子を見ながら優太は、アルエとクーナの毛色が全く同じ事に気付いた。クーナはひょいとアルエを正面から見つめると改めて挨拶をした。
「アルエ、クーです!お友達になる…」
「クー」言い終わる前に、アルエは体をクッと曲げてクーナの顔面に後ろ足で蹴り入れた。
「アルエ、蹴ったです!」走って逃げるアルエを見ながらクーナは優太に訴えた。
「アルエは前から見ると、すぐ蹴るんだよ」
頬を膨らませて怒っているクーナを連れて、大浴場の暖簾を潜るとクーナは目を輝かせた。
「すごいです!なんかいい匂いするです!」
「そう?水に入るから、そこのロッカーに服全部入れてね」
優太は説明しながら、自分の棚から前もって用意されている下着と着替えを取り出して、自分のロッカーに入れる。これは面倒臭がり屋の柚葉の提案で、1階と地下の脱衣所に用意される事となった。
「裸になったです!」
「うん、じゃあタオル持って行こ!」と優太は入り口の横に積んであるタオルを取ると中に入った。
「行くです!」とクーナもタオルを一つ取ると優太に続く。
「まず、体流すよ」
「ゆーたん、なんで腰に布付けてるです?」
「え?チンチン見えちゃうから」
「クーも付けるです?」
「クーはいいんじゃない?」
クーナはなんとなく納得した表情を浮べると、浴室を見渡した。
「うわー!ゆーたん凄いです!煙出てるです!」
「う、うん、湯気ね」
「上から川流れてるです!」
「ほら、体流すよ」と優太はクーナにお湯を掛けてやる。
「あ!熱いです!」
「え?そんな熱かった?」
「熱いけど、大丈夫です…。なんで熱いです?」
「え?お風呂は熱いの入るんだよ」
「そうです?お風呂凄いです…」
「じゃあまず、体洗おう!」
「洗うです」
二人は並んで洗い場の椅子に腰掛けると、優太はまず頭を洗う事にしたが、獣耳のあるクーナが上手く洗えるか心配になった。
「まず髪の毛洗うけど…、耳に水掛かっても大丈夫?」
「大丈夫です」
「じゃあ、最初は僕が洗ってあげるね」まず優太はシャワーを適当な温度に調整すると、クーナに確かめさせた「これ位だと、頭に掛けて熱い?」
「大丈夫です!」
「じゃあ、掛けるね」
立ち上がると優太は、クーナの髪にシャワーでお湯を掛けてやる。一応、耳に入らないように、その周辺はあまり濡らさない様にした。
「お湯掛かると、なんかへんな感じです!」
「そう?次、シャンプーで洗っていくよ」
「洗うです?」
「うん」シャンプーを適量手に出すと、優太はクーナの髪をモシャモシャと洗い出した。
「ゆーたんゆーたん!くすぐったくて、気持ちいいです!」
「うん、目に泡が入ると痛いから、目は閉じたほうがいいよ」
「わかったです!」クーナは素直に目を閉じた「…口に入ったです。苦いです」
「口、ゆすいだ方がいいよ…」優太はシャワーを出して口元に当ててやる。
「苦いけど、いい匂いです!」
「うん、次、コンディショナーするねー」
一通り洗ってやると、クーナは今度は自分が優太を洗いたいと言い出した。優太はいろいろと教えると、クーナは楽しそうに優太を洗い、それが終わると二人は1階の露天風呂に浸かった。
「ゆーたん、あったかいですねー」
「うんー」
「こんなにいっぱいのお水、クー初めて見たです!」
「地下から…」そこまで言って、優太は少し心配になった「クー、おしっこ、お風呂の中でしちゃ駄目だよ。したくなったら、する場所あるからね」
「わかったです!しないです!」
「うん、じゃあ次、サウナ入る?」
「サウナ入るです!」
二人は浴槽から上がるとサウナルームに移った。サウナに入るとクーナは目に見えて落ち着きが無くなっていった。
「大丈夫?」と優太はクーナの様子を見ながら聞いた。
「ゆーたん、ここ熱いです!出るです!」
「サウナは熱いから、座って汗を出す場所なんだよ」
「座って、汗出すです?」
「うん」
「じゃあ、座って汗出すです」
「うん」
二人は並んで座ると、優太は正面のゲームの攻略動画に視線を向けた。
「ゆーたん!もう汗出たです!出るです!」そう言うとクーナは立ち上がり優太を引っ張った。
「え?はやい!」
「出るです!」
「まぁいいですけど…」
クーナはぐいぐい優太を引っ張って出ると、水風呂にピョンと飛び込んだ。
「ゆーたんも入るです!」
「クー、飛び込んじゃ駄目だよ!」
「サウナ、熱かったです!」とクーナは下唇を突き出して不満を表した。
「いや、全然入ってないですから…」
「ゆーたん、この水変な匂いがするです」
「え?あー、塩素が入ってるからね。えっと、キレイな水って事!」
「そうです?じゃあ、飲むです」
「ちょちょ、キレイだけど飲まない方がいいよ!のど渇いたならあっちで水飲めるから!」
「じゃあ、水飲みに行くです!」
「うん」
クーナは水風呂から出ると、入り口に向かった。
「ゆーたん、おしっこもしたくなったです」
「じゃあ、1回脱衣所に出ようか…」
二人が脱衣所に出ると、丁度柚葉とエルメシア、シーナが入ってきた。
「あれ?もう入ったの?」と柚葉が聞いた。
「ううん、クーがおしっこだって」
「あ、そうなんだ。私達もシーナさんをお風呂に案内しようかと思ったんだけど…」
「それなら、私がクーナにトイレを教えますよ」とエルメシアが受け持つ。
「その方がいいね。シーナさんも一緒に行って、教わってね」
「はい」
「優はまだ入る?」
「うーん、もう体洗ったし、みんなが入るなら出ようかな…」
「じゃあ、お姉ちゃんが二人の部屋にベットと布団一式を運ぶって言ってたから、手伝ってあげて」
「わかったー」
それを聞くとクーナが不安そうな表情を浮べた。
「ゆーたん、一緒に入るです!」
「クーはお母さんと一緒に入りなよ」
「ゆーたんも一緒がいいです!」とクーナは頬を膨らませる。
「僕は、クー達の部屋の用意してくるから…」
「じゃあ、クーも行くです!」
「クーちゃんは、優がお気に入りになっちゃったんだねぇー」
「ゆーたん可愛いです!」
「後で会えるから、クーはお母さんに体とか洗うの教えてあげて」
「クーナ、言う事を聞きなさい」とシーナが嗜める。
「…うー、わかったです」
優太はタオルで体を拭い始めると、1階のロッカーから衣服を取り出して着始めた。ちなみにこのロッカーは1階と地下で共通空間となっており、どちらからでも同様に物が取り出せるようになっている。
夕食、文乃はエルメシアとシーナを補助に付けて生姜焼きをメインにマカロニサラダ、味噌汁、他数品を手際よく作り上げた。それを食堂の用意をしていた優太、柚葉、クーナが座卓に並べる。
「すごいいい匂いがするです!」とクーナは大興奮で料理を眺めた。
「生姜焼き僕大好き!」
「ゆーたん、美味しいです?」
「うん!」
「生姜焼きって、豚ロースをペロンって焼くのもあるけど、こんな感じに豚バラと玉ねぎで炒めたヤツの方が私好き!」と柚葉は姉が作った生姜焼きを見ながら言う。
「僕も!」
「クーも!クーもです!」
「クーちゃん、まだ食べた事ないでしょ?」
クーナは目をぱちくりして柚葉を見つめた。
「じゃあ、夕食にしよー」と文乃が厨房から出てくる。
「す、凄い台所でした…」とシーナも手を拭いながら出てきた。
「この施設の全ては、ユータ様がお作りになられたのですよ!」とエルメシアが説明した。
「…ユータ様は凄い方なのですね」
クーナは優太の隣に座り、他の面々もそれぞれ席に着く。食卓には、日本人の三人には箸、ランバルディアの住民にはフォークが用意されていたが、クーナはそれを見ると不思議そうな表情を浮べた。
「ゆーたん、なんで棒2個あるです?」
「これは箸って言って、挟んで食べる道具だよ」
「それで、挟むです?」
「うん」
「じゃあ、クーもそれで食べるです!」
「いいけど、最初はちょっと難しいよ?」
「ゆーたんと同じがいいです!」
「じゃあ、割り箸持ってくるから、それで練習してみて」
「そう言えば割り箸って、最初に箸を練習するのにはいいらしいよ」と文乃が思い出す。
「あー、確かに塗り箸より掴みやすいよね」
「でも、クーちゃんには長いかなぁ…」
「今はいいんじゃない?後で自分の箸探してもらえば?」
「そうだね」
優太が割り箸を持ってくると、文乃と優太がクーナに基本的な箸の持ち方を教えたが、やはりすぐには上手く扱えなかった。
「指痛いです…。早く食べたいです…」
「じゃあ、今日はフォーク使えば?」
「今日は、こっち使うです…」とクーナは空腹に負けてフォークを選択した。
クーナが諦めると、すぐに食事となり、それぞれ食前の祈りを始める。
「豊穣の神カカイル様、万物から零れし糧を、今日の恵みとしてお与え下さる事を感謝します。我は…」とシーナは膝に手を置き神に祈りを捧げる。
「カカイル様、今日もありがとです!」母の正面に座るクーナも膝に手を置いて簡単な祈りを捧げた。
シーナが祈りを終えると、柚葉がエルメシアに聞いた。
「エルさんは、シーナさんとまた違うお祈りなんだね」
「はい、エルフである私の主神は女神ラーバビト様ですので…」
「あれ?神様って3ついて、タルタカン様、ハーメ様、ザッカイン様って聞いたけど…」と文乃は聞いた。
「お姉ちゃん、よくそんなの憶えてるね…」
それを聞いてエルメシアは少し眉を顰める「それらは人族が主に信仰する三大神ですね」
「私たち狩狼族は魔王領の者でしたから、エルバディア神族を多くの者が信じております。カカイル様もエルバディア神族の一神ですね」
「魔王領の人って魔王を信仰してるんじゃないの?」と柚葉は聞く。
「神と王は違いますから…、ただ信仰に近い存在に昇華された王はもちろん居りますが…」
四人がそんな会話をしている中、クーナは夢中になって食事を頬張っていた。
「ゆーたん!すごい美味しいです!」
「うん、美味しいよね」
「クー、こんなに美味しいの初めてです!」
「そ、そうなの?」
「ゆーたん、その白いのなんです?」
「え?あー、これご飯」
「それも美味しいです?」
「うん、僕、ご飯好きだし」
「じゃあ、クーも食べるです!」クーナは用意されていた自分の茶碗を持つとフォークで白米を掬い上げて口に運ぶ「これ…、なんか…、味薄いです…」とクーナは口をもぐもぐ動かした。
「クーちゃんは、こっちの方がいいんじゃない?」と柚葉は手を伸ばす「ちょっと茶碗貸して」
そして茶碗にクーナの皿の生姜焼きを乗せてやると手渡した。
「これ、一緒に食べるです?」クーナは茶碗を見ながら聞いた。
「うん!」
「あ!美味しいです!しょっぱいのが、丁度いいです!」
「あ、生姜焼き丼美味しそう。僕もやろうかな…」
「本当に美味しい食事です…。ですが私がこちらでお手伝いするだけで、ここまでして頂いて、本当に宜しいのでしょうか?」とシーナは食事を頂きながら恐縮する。
「ええ、先ほどご覧になった通り、この建物はとても広いですから、シーナさんが来て頂いてとても助かります」とシーナの教育係を買って出たエルメシアは続ける「それと狩狼族の方なら獣の解体も得意ではないですか?」
「え、獣の解体ですか?…えっと、まぁ一通りやれる自信はありますが…」
「良かった!私もある程度はできるのですが、実はこの建物の隣接する地下に、ウシとブタと言う動物を飼育しているのですが、馬より大きく、私一人ではとても時間が掛かってしまって困っていたのです!」
「あ、そうなのですね!任せてください!馬1頭程度なら、私一人でも運べますし!」
「さすが狩狼族です!助かります!」
「えー、馬一頭を一人で運べるの?」と柚葉は驚く。
「私たちは出来ないですから助かりますけど、シーナさんは病み上がりなんですから、無理はしないでくださいね」と文乃は心配する。
「はい、ありがとうございます!ですが狩狼族は本能的に狩りを得意としているので、時間が空いた時にでも、その施設を見せて頂きたいですね!」
「それでは、食事の後にでもご案内しますよ。きっと、驚かれると思います!」とエルメシアは笑う。
「あ、そうだ!シーナさんって戦えます?」と柚葉は嬉々として問う。
「え?まぁ…、ですが、今は奴隷印がありますので、それほどお役に立てないと思いますが…」
「それは後で優太に消してもらいましょう」
「え?消せるのですか?」
「はい!もう一度エルさんのを消してますし!」
「ユズハ様、シーナさんを冒険者にする気ですか?」
「うん!」
「うーん、柚、それは止めた方がいいんじゃない?奴隷印を消すのはいいけど、シーナさんは王都から逃げて来たんでしょ?王都に行かせるのは良くないと思うよ」
「そうですね。狩狼族の方なら十分戦力になるとは思いますが、悪い柵を巡らせると王都に行かせるのは危険だと思います」
「あー、確かにそうだね」
「そうですね。王都の主要門では、種族毎の咎人を警戒していると聞きます。狩狼族はそれほど多くないですから、ご迷惑を掛ける面の方が多いと思います」
「そっかー」
「はー、クーお腹いっぱいです!」
「良かったね」と言った優太はまだ食事を続けている。
「クーちゃんと優君は、食べ終わったら、食器洗いのお手伝いしてね」
「わかったです!」
「うん」
クーナはまだ食卓にたくさん並ぶ食事を見て、少ししょんぼりした表情を浮べた。それと同時に頭部の耳がへにょと下がる。
「ゆーたん、さっきのクーのお礼のご飯、美味しくなかったです?」
「え?いや、あれはあれで美味しかったよ」
「ホントです?」
「うん、いろいろな小さいお魚入ってて、塩気だけだったけど、複雑な風味があって美味しかったよね」と柚葉も同意する。
「良かったです!じゃあ今度、ゆーたん一緒にお魚取りに行くです!」
「うん、いいよ!」
#5
翌日の昼食後、食器を洗った優太が戻ってくると柚葉が優太を呼んだ。
「えっと、王都にいる日本人を探したいの?」と優太は柚葉に聞き返した。
「うん、なんかいい道具ない?」
「どんな人でもいいの?」
「うーん、冒険者の女の人で、他の日本人とつるんでない人がいいかなぁ」
「あー」
「あと人柄のいい人?」
「うーん」と考えながら優太は『四次元ポッケ』を漁る。
しばらくして優太はポケットからちょんまげの付いたカツラを取り出した。
「なにそれ?」
「『七人のお知り合い』って言って、これを被って知り合いたい人の名前を言うと、七人目にその人に出会えるの」
「名前知らない人なんだけど…、居るかもわからないし」
「名前を言っても、コンピュータの判断で似た名前の人探したりするから、名前言わなくても、そんな感じの人って言えば会えるんじゃないかな?」
「そんな適当な…」
「ちょっと注文が細かくて難しいんだもん…」
「まぁちょっとやってみようかな…。ただ、これ被るの恥ずかしいな…」
「やるなら王都でやった方がいいよ。知り合うまで走らされるから…」
「クーちゃん連れてって、被らせようかな…」
「耳が邪魔で無理じゃないですか?」と隣のエルメシアが言う。
「くっ…、自分で被るか…」
柚葉はエルメシアを伴って王都に向かうと、まずファルケンの冒険者組合に向かった。
「始めますか?」とエルメシアは聞いた。
「うん…」と柚葉はカツラを取り出す。
幸いファルケンの冒険者組合は受付以外、2組ほどの冒険者しか居なかったので、柚葉は少しだけ安心した。
「似合うとは言いませんが、まぁすぐ外せるといいですね…」エルメシアはその姿を見ても真面目な表情を浮べる。
「そ、そうだね」柚葉は出来るだけすぐに脱ぐ為に要望を口にする「王都に居る元日本人の女性で日本人とモルドを組んでない性格のいい人と知り合いたい」
すると、頭部のちょんまげがぐるぐる動き出し、先端が指の形を象って柚葉を引っ張った。
「ユズハ様大丈夫ですか?」
「う、うん」
『七人のお知り合い』はファルケンの冒険者組合のカウンター前で柚葉を止め、ヒルデの頭部にぴょんと飛び移った。
「え?ユズハさん、なんですか?」と受付のヒルデは目を白黒させる。
「あ…、すいません」
「組合職員なら知り合いは多いですね」エルメシアは冷静に分析する。
ヒルデは『七人のお知り合い』に誘導されて、カウンターから出ると手近なファルケン所属の冒険者の元に向かった。
「レグルさん、こちらはユズハさんと申しまして、『王都に居る元日本人の女性で日本人とモルドを組んでない性格のいい人と知り合いたい』そうです」
すぐに『七人のお知り合い』はテーブルで談笑していたレグルの頭部に移り、柚葉の方を向き直った。
「そうなんだ。ヒルデの知り合いの柚葉さん、こっちだ」とレグルは組合を出て『七人のお知り合い』に引きずられる様に走り出す。
柚葉とエルメシアはすぐにレグルの後を追跡する。
「なんか、すごい迷惑な道具だね…」
「それもそうですが、対象者と周囲を洗脳している感じもしますね…」
レグルはしばらく走ると、王都北西部の広場に着き、一人の中年女性の前で立ち止まった。
「あれ?レグルどうしたんだい?」
「やあ、モルデッドこちらはユズハさんと言って、『王都に居る元日本人の女性で日本人とモルドを組んでない性格のいい人と知り合いたい』そうなんだ」
そう言い終わると『七人のお知り合い』はレグルの頭部からモルデッドの頭部に移り、柚葉の方を向き直った。
「まぁそうなの!レグルを紹介したヒルデの知人の柚葉さん、こっちよ!」とモルデッドはちょんまげに引かれるように走り出した。
「マジでちょっと洗脳入ってるね…」柚葉は後を追いながら言った。
「はい、出会う方がみんな好意的なのが怖いですね…」
それから三人目のモルデッドは、四人目に商人のハスラーを紹介し、ハスラーは五人目に冒険者のイゼルシャンを紹介した。イゼルシャンの後を追った二人は、シルバウの冒険者組合に入ると、受付嬢のビビアスを紹介された。
「彼女で六人目だよね?」
「そうですね。次に目的の人物に出会うはずですが…」
「あ!チエさん!」とビビアスは組合内の一組のモルドの一人に声を掛けた。
「ん?はーい」チエと呼ばれる中年女性は振り向いてカウンターに歩を進めた。
「チエさん、こちらはユズハさんと言って、『王都に居る元日本人の女性で日本人とモルドを組んでない性格のいい人と知り合いたい』そうなんですよ!そこで是非チエさんを紹介しようと思いまして!」とちょんまげのカツラを被ったビビアスは紹介する。
「あー、そうなんですね…。性格は分からないけど、残りはピンポイントに私の事ですね…」
「あ、あの倉持柚葉と申します!」と柚葉はペコリと挨拶をする。
「ああ、はい、柏千恵です」
エルメシアは二人が挨拶しているうちに、ビビアスの頭部からスポッとカツラを回収した。
「えっと、日本から異界渡りして来た方ですよね?」
「うん、まぁ異界渡りと言うか、向こうで死んでるから転生したと言いますか…」
「ああ、そうですね」と柚葉は少し笑う。
「おい、チエ婆!今日はもう俺たち帰るぜ!明後日、早朝にここに集合だからな!」
「分かってるよ!クソガキ!」
「もうバルド!」と仲間であろう小柄な獣人の少女はムッとする「チエさん、すいません!お先に失礼しますね」
「うん、モルターシャ、気を付けて帰るんだよ」
「はい!」とモルターシャはペコリとお辞儀をして去って行く。
柚葉はモルターシャと呼ばれる後衛系の装備をした少女を猫系の獣人と判断した。
「えっと、お邪魔しちゃいました?」と柚葉は心配する。
「いや、今日は依頼の下準備だけで、今終わったところだから丁度良かったよ」
「そうですか、それでその、私たちまだこちらに来たばかりでいろいろとお話を聞きたいんですけど、いいですか?」
「ああ、いいよ!」千恵は笑顔で言った「私も最近の日本の話を聞きたいからね」
エルメシアは二人の会話を聞きながら、千恵を観察した。身長は柚葉と変わらない程度で、中肉中背、皮製の鎧に身を包み、柚葉と違いこちらの世界の生活に揉まれた所為か浅黒い。その容姿は美しいとは言えないが、愛嬌があるとは言えた。年齢的には中年と言っていい頃合だろう。
「えっと、ここで立ち話もなんですから…」
「うん、そうだね。まだ来たばかりって言ってたよね?」
「はい、20日も経ってないですね」
「じゃあ、私の知り合いの店でいいかな?安いし日本人にもそこそこ食べやすい物を出す店があるんだよね」
「そうですか、じゃあ、そこで!」
「あっと、その子は?」と千恵はエルメシアに目を向ける。
「あ、すいません。私達の仲間のエルフのエルメシアさんです」
「クフレェナ・エルメシアと申します。チエ様」
「様とか、こそばゆいから、チエでいいよ」
「では、チエさんと呼ばせて頂きます。私はエルで構いません」
シルバウの冒険者組合を出て、千恵を先頭に二人は付いていくと、大通りから幾つかの小道に入った。エルメシアは僅かばかり警戒したが、すぐに美味しそうな匂いが漂ってくる。千恵はその匂いの元である店の前で立ち止まった。
「ここだよ」
「いい匂いがしますね」
「でしょー。マゼラーって料理がメインなんだけど、日本人的に言うと辛いポトフって感じかな?」
「あ、美味しそうですね!」
「じゃあ、入ろ入ろ」と千恵は最初に入っていく。
前の路地は狭かったが、店内はそれなりの広さがあり、女性の千恵が選んだだけあって、それなりにお洒落な内装をしていた。千恵は店内の角の席を選ぶと手前に座り、二人は並んで千恵の前の席に腰掛ける。
「お酒は…、まだ飲まないかな?」
「はい、水で…」
「私も水でお願いします」とエルメシア。
「じゃあ、私は少し飲ませてもらおうかな?」
「どうぞどうぞ」
「注文も私がしちゃっていい?」
「はい、お願いします」
千恵は引き受けると、店員を呼び軽めに注文する。
「さてと、柚葉ちゃんだっけ?」
「はい」
「さっき私たちって言ってたけど、一人でランバルディアに来たんじゃないの?」
「そうですね。私とお姉ちゃんの文乃、あと隣に住む幼馴染の優太と一緒に死んじゃったんで、同時にこっちに来ました」
「へー、死んじゃった事には同情するけど、同時に誰かと来れたのは羨ましいなぁ…。私は完全に一人だったからねぇ」
「ですよね…。大変でしたか?」
「そりゃあもう!落とされた場所から人が居る場所まで行くのも大変だったし、生活して行くのもね…」
「そうですか…」
「えっと、地球と比べて1日の長さが違うとか気付いた?」
「あ、はい」
「おー、すごいね!私は1ヶ月くらい気付かなかったよ!まぁこっちだと月が無いから、1ヶ月って感覚が無いんだけど…」
「あ、やっぱり月が無いんですね…」
「ないない!」
そこへ、店員が料理を運んでくる。一通りの料理を置くと、千恵は大判の銅貨を数枚手渡した。
「あ、私が払いますよ」と柚葉は慌てる。
「大丈夫大丈夫、今日はね!これでもここでは先輩だし、年長者として奢らせてよ!」と千恵は笑顔を見せる。
その笑顔を見ただけで、柚葉は千恵に心を許していた。三人は軽く飲み物で乾杯して喉を潤すと続けた。
「えっと、お話したくない部分もあるとは思いますけど、スキルとかを貰って、こちらで生活を始めたんですよね?」
「うん、そうなんだけど、私って貧乏性って言うか、ポイント3の『行商』のジョブとか、細々といろいろと貰ったんだよね。そしたらまぁ、何をやっても中途半端だったって言うか…」
「え、そうなんですか?」
「うん、一人で一撃でモンスターを倒せるスキルなんて持ってないし、器用貧乏そのものって感じで…」と千恵はポリポリと頬を搔く「例えばだけど、何かしらの危険が近づいたりすると忠告は出来るけど、対処はほぼ出来ない感じかなぁ」
「あー」
「でも細々とスキルの数はあるから、普段の生活とかはわりと便利だし、冒険のサポート役では重宝されてるから、一応生活は出来るんだよね」
「そうなんですね」
「あ、冷めちゃうから食べてね」と千恵は置かれている匙を二人に回す。
「ありがとうございます」と柚葉は一口食べてみる「あ、美味しいですね!ちょっとピリ辛であとを引く感じです」
「うん!口にあったなら良かった」
「えっと、他の日本人の方とか会いましたか?」
「会ったね。十人くらいかな?地球の人だともっとかな?」
「そんなにですか?なら、一緒に仲間になるみたいな話は無かったんですか?」
「もちろんあったけど…、私と違って、その子達はすごいスキルを持ってるから、私じゃ付いていけないし…」
「あ…」
「でも、ランバルディアの普通の冒険者にしてみたら、何十個もスキルを持ってる私は、十分すごい人だからね。強い日本人にただ追従するより、普通の冒険者の仲間に必要とされてる方が、私には居心地が良かったんだよね」
「なるほどー、分かります」
「ちょっと湿っぽくなったけど、こっちに来て大変だったでしょー」
「まぁそうですね…」
「基本的に、食事不味いしね…。こっち!」
「そうですね…」と柚葉は苦笑いを浮べる。
「衛生面やばいし、米どころか麦も無いし、医療もほぼ魔法頼みだし!」
「え?お米は分かりますけど、麦も無いんですか?」
「うん!知らなかった?」
「はい…、でもパンぽいの売ってますよね?」
「売ってるけど、あれ中身麦じゃないよ」
「…え?麦が無いと…」
「うん、地球人としてはいろいろキツイね。パン、ケーキ、麺、ルー関係も駄目だし、ギョウザとかの皮、他にもいろいろあるよね…」
「えー、こっち来る時、地球に似た世界って聞いたんですけど…」
「それは私も思った!まぁ現段階で私が知る限り無いってだけで、絶対じゃないけどね…」
「千恵さんはこっちに来て、どれくらいなんですか?」
「地球で言うと5年位かな?」と言いながら千恵はチビリと酒に口を付ける。
「え、そんなに!」
「うん、前に会った日本人の男の子は、異世界モノの物語で麦が存在しない話なんて読んだ事ねぇよ!って愚痴ってたよ」
「ですよね…」
「あー、話してたら思い出しちゃった。麦もそうだけど、お米ももう一度食べたいなぁ…。同郷の人と会うとこういった感覚あるんだよね…」と千恵は懐かしむように目を閉じた。
それを見た柚葉は横のエルメシアに視線を向ける。エルメシアは気付いたようにコクリと同意した。
「えっと、千恵さん!良ければ今からうちのモルドハウスに遊びに来ませんか?」
「え?今から?つか、もうモルドハウス建ててるの?」
「はい、実は私たち、お米と麦の栽培に成功してるんですよね」
「え!本当?」
「はい!ですから、良ければ今から食べに来ませんか?」
「いや、気になるけど、いきなり行ったらお姉さんとかお隣の子とかに悪くない?」
「全然大丈夫です!むしろ二人にも千恵さんのお話をいろいろと聞かせたいんで!」
「あー、でも、どうしようかな…」
「フミノ様が、夕食はカツ丼にすると仰ってました」
「カ、カツ丼?…い、行く!」
#6
三人は軽く飲み食いを終えると、手近な路地裏に入った。そこで柚葉は『ワープペンシル』で大きく円を描く。
「え?なにそれ?」と千恵は驚いた表情を浮べる。
「移送のゲートを開いています」とエルメシアは説明する。
「え?転移系は相当高位の魔法使いくらいしか使えないって聞くけど、柚葉ちゃんってすごいね」
「あ、私じゃないですね。幼馴染の優太が出した道具です」
「え…、今って、こういった道具もポイントで選べるの?」
「あー、いや、その説明も難しいんですけど、優太が特別と言うか…」そう言うと柚葉は先に円を潜った。
「千恵さん、どうぞ、安全ですので…」
「あ、うん、どうも」と千恵は柚葉に続いて円を潜る。
柚葉は円をモルドハウスの玄関に繋げ、ワープ先で千恵とエルメシアを待っていた。二人が潜ったのを見ると、玄関のチャイムを鳴らした。その間にエルメシアが『ワープゴム消し』で円を消していく。
「ゆーたん!ゆずのんが帰って来たです!」とひょこっと覗いたクーナが声を上げる。
「柚姉ちゃんおかえりー」と優太は三人を出迎える「その人が、見つかった人ー?」
「うん、そう!柏千恵さん」
「はじめまして!園畑優太です!」と優太は挨拶をする。
「クーナはクーでクーナです!」とクーナも優太に続く。
「ぎゃ、二人ともかわいい!こんにちは!私は千恵って言います!」
「チエちゃんです!」とクーナはすぐに返す。
「隣の幼馴染って言うから、同じ年くらいのカッコいい男の子を想像してたよー」
「ユータ様は、カッコいいですよ!」とエルメシアは頬を膨らませる。
「あ、ごめん…」
「柚、おかえりー、優君が言ってたけど、日本人の方に会えたんだね」話し声から文乃も玄関ホールに現れる。
「うん!」
「初めまして!私は倉持文乃と言います。柚葉の双子の姉です」
「あ、はじめまして、先ほど知り合った柏千恵です」
「千恵さん日本食が恋しいみたいだから、連れて来ちゃった!」
「そうなんだ。全然構わないけど、今日、カツ丼なんだけど…。もっと日本食ぽい方が良かったかな?」
「大丈夫!カツ丼大好き!」と千恵は即答する。
「そうですか、なら是非食べていってくださいね!」
「うわ!嬉しい!ありがとう」そこまで言って、千恵は改めて周囲を見渡す「つか、この建物凄くない?上の電気だよね?」
「そうですね。これも優太の道具で作られてます」
「…え?」
「まぁ食堂でゆっくり話しましょう」
一同は、千恵を中心にゾロゾロと食堂に移る。千恵は日本に近い設備の建物に驚いた表情でキョロキョロとしていた。
「うわ!畳だ!懐かしい!」
「どうぞどうぞ、上がって下さい!」と柚葉は勧めた。
「えっと、まだ夕食まで時間がありますから、お菓子でも摘んでてください」と文乃がお菓子箱を手にする。
「ああ、私達ちょっと摘んできたから、お構いなく」と千恵は答える。
「クー、チョコ食べたいです!」とクーナはお菓子箱を漁る。
「え!チョコあるの?食べる!」
その勢いに、クーナはビクッとして尻尾が逆立ち、手に持っていたチョコの包みを千恵に差し出した。
「フミノ様、厨房の方はわたしが見て来ますから、こちらに居てください」とエルメシアが受け持つ。
「うん、ありがとう。シーナさんが今カツ揚げてるから」
「はい」
「他に誰か居るの?」
「クーちゃんのお母さんのシーナさんって狩狼族の方が居ますね」
「へー」
「シーナはクーのお母さんです!」
「それにしても、みんな若いねぇー。いいなぁ私ももう少し若くこっちに来れたらなぁ…」
それから日本から来た三人は、地球との差異を幾つか千恵に質問した。その中でも、麦が無い部分は文乃も驚いた。
「じゃあ、麦の変わりに何を使ってますか?」
「粉物はジャダ粉って言うジャダ豆から挽いたのが一般的かな?」
「あ、それ食べたよね?」と優太は最初の食堂を思い出す。
「食べたね」
「他にはモモ芋の粉とかハルシ粉って言う植物の種子の粉かなぁ…。そう言えば、お米と麦は見つかってないけど、黍は見つけたって日本人の知り合いが前に言ってたよ」
「キビってなに?」と優太が聞く。
「きび団子の黍だけど、普段はほとんど食べないかなぁ…。五穀米とか?」と文乃が説明する。
「鳥の餌に入ってそう」と柚葉がぼやく。
次に千恵の方から三人は質問され、優太の事を聞くと驚いた。
「え?ネコえもんのひみつ道具貰うとかってアリなの?」
「アリだったみたいですね…」と文乃は頷く。
「あの中から選ばなくちゃいけないって思い込んでたけど、確かに自分の欲しいものを言うって発想は無かったなぁ…」
「そうですね…」と今度は柚葉が頷いた。
「子供の発想と言うか、優君すごいな…」
「ゆーたん凄いです!」と優太が褒められてクーナが嬉しそうにする。
「えっと千恵さん、優君のひみつ道具の事は内密に…」
「あ、そうだね!大丈夫、誰にも言わないから!」
「千恵さんはこちらに来て5年って聞きましたけど、失礼ですけど、お幾つなんですか?」文乃は自分達の年齢の設定を決めないとなので聞いてみた。
「私いま41歳のはず…、こっちだと129歳って事にしてる」
「その129歳ってどうやって決めてますか?」
「本当の年齢に3.1掛けした数字かな?最初に知り合った日本人がそれ位で調整してるって言ってたよ。その人死んじゃったけど…」
「そ、そうなんですね…」と文乃は顔を顰める。
「41歳だと優のお母さんの明子さんと同じ年だね」と柚葉が言った。
「え?そうなの?」と千恵は笑った「じゃあ優君、お母さんだと思って甘えてもいいよー」
優太はそれを聞くと、千恵を見つめてポロリと涙を零した。
「あ!ゆーたん泣いちゃったです!」
「…え?ぎゃ!ごめんね優君!おばさん、ちょっと軽率な事言っちゃったよね…」
「うう…」と優太は涙が止まらなくなった。
文乃は隣に座る優太を優しく抱きしめると頭を撫でた。
「ゆーたん、お母さんと会えなくて寂しいです?泣いちゃ駄目です」クーナは優太の背中に抱きつくとべそをかき始める。
「ほら優、千恵さんも悪気があって言った訳じゃないんだし、そんなに泣かない…」
「いや、柚ちゃん、今のは私が悪いから…。まだ10歳でしょ?そりゃお母さん恋しいと思うよ」
「…ちょっと明子さんの事思い出しちゃっただけだよね優君」
「…うん」と優太はしゃくりあげながら頷いた。
「優には私達が居るじゃん」と柚葉は横を向いて口を尖らす。
「ゆーたん、あとでクーのお母さん貸してあげるです!だから泣いちゃだめです!」クーナは涙で顔をぐちゃぐちゃにして優太に抱きついた。
しんみりした雰囲気になったが、しばくして優太は文乃から離れた。
「…もう、大丈夫…」と優太は多少しゃくりあげながら目元をゴシゴシ擦った「…ごめんなさい」
「いや、謝るのは私だから、ごめんね優君」と千恵は申し訳無さそうにする。
「ううん、ちょっと寂しくなっちゃっただけだから大丈夫…」
「千恵さん、もう優君は大丈夫ですから気にしないでくださいね」と文乃は笑顔を浮かべる。
「まぁ私がずっと謝っていても、優君も困るよね…」
「そういえば、千恵さんはランバルディアに来る前は何をなさってたんですか?」と柚葉は話題を変えた。
「私は美容師だよ」
「え!すごい!」と柚葉は目を輝かせる。
「美容師なら、こちらの世界でも美容師として働いてるのですか?」と文乃は聞いた。
「いや、個人的に知り合いの髪を切ってあげる事はあるけど、商売ではしてないね」
「えー、なんでですか?」と柚葉は不思議がった。
「道具がね…」
そう言うと千恵は後ろ腰から無骨な鋏を取り出した。
「鋏ですか?」
「うん、地球だと鋏ってそれなりに歴史があるらしいけど、こっちだと一流の鍛冶師に頼んで金貨4枚払っても、このレベルなんだよね…」
「鋏ってそんなに違うの?」と優太は不思議そうな表情をした。
「えっと…、優君、この鋏で何か切ってみて…」と千恵は優太の前に鋏を置いた。
「うん」と優太は何を切ろうかとキョロキョロする。
「お菓子の袋あるです」とクーナはポケットから包みを取り出す。
優太はそれを受け取ると、千恵の鋏を手に持った。その鋏は持っただけで、それなりの重みがあり、地球の鋏を使い慣れている優太には扱い辛く感じた。
早速、優太は鋏でビニール製の袋を切ってみたが、刃を入れてた瞬間、へにょとお菓子の包みが鋏の刃と刃の間に挟まった。
「あれ?」と優太は一度お菓子の包みを外し、ゆっくりと刃を入れる事でようやく切る事が出来た。
「ようするにこっちの世界だと、鋏に対しての理解力と噛み合わせの技術が足りてないんだよね。作ってる人は刃物作りのプロなんだけど、重さとか材質、構造、かみ合わせ、支点の部分のネジ止め、もち手の感触とか、作ってもらうといろいろ不満が出ちゃって、どうしても日本で使ってた最高の鋏を知ってると、こっちでやってく気になれないんだよね…」
「あー、本業で鋏を作ってる方なら手製の品でもいいとは思いますけど、現代だと鋏は工業製品が優れていますからね」と文乃は千恵の本職としての苦悩に同情した。
「私ね。こっち来て、最初に後悔したのが自分の鋏を持って来なかったって事なんだよね…」と千恵は深いため息を吐いた。
「じゃあ、はい」と優太はポケットから『取り寄せハンドバッグ』を取り出す。
「え?」と千恵はハンドバッグと優太に視線を返す。
「あー!そっか!取り寄せればいいのか!」と柚葉はパンと手を叩いた。
「取り寄せるって日本から?」
「はい!『取り寄せハンドバッグ』は日本からでも取り寄せられるんですよ!」
「え?マジで?」
「あ…、でも千恵さんって、こっちに来たの5年前でしょ?まだ鋏残ってるかな?」
「うーん、まぁ駄目だったら、別の方法考えるね!」と優太は明るく言った。
「これって何処にあるか判らなくても大丈夫なの?」と千恵は聞いた。
「うん、取り寄せたい物を思い浮かべれば大丈夫」と優太が答える。
「うー、最後はアパートにあったはずだから、お母さんが実家に持ってってくれてれば残ってるはず!お願い、お母さん!」
千恵は意を決したように『取り寄せハンドバッグ』を開いて中に手を突き入れた。すぐに何かを感じ取ったのか掴んで引き抜く。その手には皮製のシザーケースが握られていた。シザーケースには数本の鋏や櫛、髪留めなどが差し込まれているのが見える。
「あ!鋏!」と柚葉がすぐにそれを見て声を上げる。
「や、やったー!」と千恵は目に見えて喜んだ。
「お菓子じゃないです…」クーナはそれを見てがっかりした表情を浮べた。
「クーちゃん、空気呼んで…、空気…」
「ヤバイ涙出た…」と千恵はシザーケースを抱きしめて塞ぎこんだ「こっち来た5年間で、一番嬉しかったかも…」
「良かったですね…」と文乃も少し目を赤くする。
「はい!じゃあ、商売道具も戻ってきた事ですし、千恵さん髪切って下さい!」と柚葉は手を上げる。
「うん、いいよいいよ!」
「まだ夕食まで時間あるし、その前にお風呂入ってくれば?」と文乃が薦める。
「あ…、お風呂あるの?」
「凄いのありますよ!」
「ここ、施設凄いから期待しちゃうな!」
「じゃあ、私が案内しますね」
「うん!」と千恵は柚葉が立ち上がったのを見て立ち上がるが、優太の方を向いた「優君!鋏、本当にありがとうね!」
「うん!」
#7
「ヤ、ヤバ過ぎる…。このモルドハウス…」
入浴を終えた千恵は、地下の休憩所で柚葉と涼んでいた。
「でしょー」と柚葉はニヤリとする。
「靴屋にちまむら、ニコリ、ホムセン、100円ショップにドラッグストアって、優君やり過ぎでしょ!」
「そこはまぁ、私もそう思いますけど…。今、千恵さんが着てる服も下着もそれで用意できた訳ですし…」
「…そうですね。本当にありがとうございます!」と千恵はペコリとお辞儀をした。
そこに優太とクーナが仲良くやって来る。クーナは手にお盆を持ち、その上に青い水の入ったビーカーが乗せられていた。
「チエちゃん!飲むです!」
「え?」と千恵はその怪しい水を警戒する「いや、ごめんね。私、これから冷たくて美味しいビール飲みたいから…」
「え…」とクーナは驚いた表情をすると、優太に視線を向ける。
「優、なにその水…」
「若返りの水、千恵ちゃん、さっきもうちょっと若かったらって言ってたから…」
「「え!」」と柚葉と千恵の声が重なる。
「じゃあ、クーが飲むです」
「駄目だよ!クーが飲んだら、赤ちゃんとかになっちゃうかもよ!」
「え?この水飲むと若返るの?」と千恵は恐る恐る聞いた。
「うん、ネコえもんのひみつ道具で『年の池ロープ』ってあるのね。それには、スイッチが二つあって赤い水は年を取って、青い水は若返れるの」
「マジかい…、ネコえもん最強じゃん!」と柚葉は多少呆れる。
「ただ、漫画版は1杯で1歳効果があるんだけど、アニメ版だとビーカーの1メモリで1歳なのね。これはどっちのか、まだ調べてないの…」
「頂きます!」と千恵はビーカーを掴んだ。
「ビール、いいです?」
「クーちゃん、空気呼んで…、空気…」
千恵は一気にビーカーの水を飲み干すと、柚葉の方を向いた。
「どう?若返った?」
「あー、いや、これ多分、1杯1歳の方ですね…。1歳じゃ違いわかんないです…」
「む…、クーちゃん!この水ジャンジャン持ってきて!」
「わかったです!バケツ、入れてくるです!」
「ちょちょちょ、千恵さん、いきなりそんなに若返ったら、周りの人に怪しまれちゃいますよ!」
「あ…、確かに、それはヤバイね…。毎日1杯づつくらいにすればいいかな?」
「まぁそうですね…。それでも10杯くらいで様子見た方がいいですよ」
「くっ…、しがらみが辛い」
「あ、そうだ!千恵ちゃんのお店用意したよ」と優太は思い出した様に言う。
「え?私のお店?」
「そうです!行くです!」とクーナはそう言うと千恵の手を引いた。
四人は休憩所から商業スペースに向かうと、新たに『壁紙商店』が張られており、そこには『美容院』と書かれていた。
「文お姉ちゃんに書いて貰ったの」と優太は店名を指差した。
「え?この中が美容院って事?」と千恵は驚く。
「美容院と美容室って何か違うのかな?」と柚葉は素朴な疑問を口にした。
「いや、私が知る限り同じはず」と千恵はさっそく中に入って行く。
中に入ると、一般的な美容院の内装、そのままと言った感じだった。
「おっきい椅子です!」とクーナは一番手前の椅子にポスッと座った。
「うわー!まさか異世界で自分のお店持つ事になるとは!」と千恵は感激した様子で見渡す。
「内装とかどうですか?実際のプロの方だと、配置とか、こだわりのある部分もあるとは思いますけど…」
「いや、大丈夫!基本的な配置はしっかりしてるし、細かい配置はこっちで変えれるから!」
「そうですか…、でもお客は私たちだけになっちゃいますけどね…」
「いいよいいよ!専属美容師になっちゃうよー。カットから化粧、着付けまでなんでもやっちゃうよ!」
「え?着付けも出来るんですか?」
「うん、私は上手い方だと思うよ。一時期着付け教室にも通ってたし、美容師は成人式とか、どうしてもやる場面出てきちゃうからね」
「へー」
「私、将来的に自分のお店持ちたかったから、美容師として美容関係は真剣に勉強してたんだよね…」
「おー!頼もしい!」
「どうする?さっそくカットする?」
「あー、夕食の後でもいいですか?」
「うん!何時でも!…色は変える?」
「あー、どうしようかなー。うちの学校うるさかったから、学生のうちは変えれないと思ってたんですよね…。とりあえず、今回はカットだけで、髪型はそのままで揃えてもらえますか?」
「うん!軽くしてあげる」と千恵はニヤリとした。
『皆様、お食事のご用意が整いましたので、食堂の方へお越しください』とエルメシアの館内放送が入る。
「ここ、放送も入るんだね…」
「広いですからね…」と柚葉はチラリと見上げる。
四人は食堂に戻ると、すでに食事が用意されていた。
「うわ!美味しそう!」と千恵は席に着きながら喜びの声を上げる。
「汁物は、お吸い物にしちゃったんですけど、味噌の方が良かったですか?」と文乃は尋ねる。
「いや、お吸い物で大丈夫!ご馳走になってるんだから、文句は言わないよ!」
「久しぶりの日本食でしょうから、作る方もちょっと緊張しました」
「フミノ様のお食事はいつも美味しいですよ」とエルメシアは小鉢に入れられたキャベツの千切りとポテトサラダを配っていく。
「そうですね」とシーナはニコリとする。
「ちゃんと三つ葉が入ってるのがいいよね!」
「そうですね!グリンピースが乗ってるのが出てくると、イラッとします!」と柚葉は隣に座る。
「わかるわかる!」
「ゆーたん、葉っぱあげるです」クーナは隣の優太に小鉢を回す。
「自分で食べなきゃ駄目だよ」
「それじゃあ、食べましょうか!」と文乃が声を掛ける。
それぞれ自分の席に着くと、日本勢は「いただきます」と言い、エルメシア達が祈りを捧げ終えてから食事が始まった。
「ヤバイ…、お米美味しい…」と千恵はゆっくり味わいながら食べていた。
「お肉、美味しいです!」とクーナは逆に搔き込むように食している。
「シーナさん、揚げる時火傷しなかった?」と文乃は隣のシーナに確認する。
「大丈夫です。フミノ様が言った様に、浸けてから落としましたから」
「千恵さん、お代わりあるんで、良ければ…」今度は千恵に文乃は声を掛けた。
「あー、食べてから考えるね!」
「はい!」
「あ、千恵さんビール飲みます?」と柚葉が思い出す。
「あー、いや、今はいいや!柚葉ちゃんの髪切ってからにする」
「千恵ちゃん、泊まっていく?」と優太は聞いた。
「え?いいの?」
「いいですよ。客間ありますし!」
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかなー。またお風呂入りたいし」
「千恵さんは、王都では宿暮らしなんですか?」と文乃は聞いた。
「いや、王都の南区に家買ったんだよね。日本人的にはやっぱり持ち家って憧れがあったからね!」
「へー、南区って貴族の人達多いんですよね?」
「うん、ちょっと高かったけど治安はいいよ。端っこの方だけどね。それでも市場、ギルドとか、主だった所に出るのは便利だね」
「へー、いいなぁ」と柚葉はカツ丼を食しながら羨ましがる。
「いいなぁって、こんな凄い家に住んでて言う言葉じゃない!」
「あ、いや、まぁそうなんですけど、立地的にここ、王都から10km離れてるんですよ。だから王都に入るときは、毎回東門からお金払って入ってるんですよね…」
「あー、ひみつ道具でいきなり現れる訳にはいかないもんね…」
「「「あ!」」」そこまで言って、気付いた一同はピタリと動きを止めた。
「良ければですけど、ここから飛ぶ時に千恵さんの家、ちょっと借りてもいいですか?」と柚葉が聞く。
「うん、いいよいいよ!うち2階建てだし、2階の部屋余ってるから移動用に一室提供するよ!」
「やったー!」
「良かったですね!ユズハ様」
「じゃあ、千恵ちゃん家とここ、後で繋げるね」と優太が笑顔を浮かべた。
「『どこでも扉』でいいんじゃないの?」と柚葉は優太に聞く。
「それでもいいけど、もし知らない人が千恵ちゃん家の『どこでも扉』使っちゃうと困るから、『ポチットドア』をこっちと向こうに張っておくよ」
「それ張るとどうなるの?」
「ボタンの裏側に行きたい場所を書いて、ボタンを押すとそこに繋がるの!これから、こういった場所も増えるだろうから、12箇所まで登録できるし、そっちの方がいいと思う」
「おー!ボタン押すだけで行き来できるのはいいね!」
「うん、私も気軽にこっちに来れるしね!」と千恵も喜んだ。
「千恵さん、良ければ毎日でも来て下さいね!食事は一人増えても変わりませんから」
「やったー!」
(アルエ…、アルテ…、葉っぱあげるです…)とクーナは足元のアルエに小声で言った。
アルエはジッとクーナを見上げると、ピョンとクーナの膝に乗ってテーブルの上をキョロキョロする。クーナは肘でアルエの向きを調整すると、アルエは小鉢に気付いてモソモソとキャベツの千切りとポテトサラダを食べ始めた。
「クー!」
「アルエ、クーの葉っぱ食べちゃったです」
「いや、どう見てもクーちゃん、アルエにあげてたでしょ…」と柚葉は呆れた。
「クーナ!ちゃんと食べなさい!」とシーナが叱る。
「クーちゃんには、新しくもっと沢山あげるね」と文乃は笑った。
「葉っぱ、嫌いです…」倍量の千切りキャベツを受け取ったクーナは泣きべそを浮べた。
それを見て一同は笑う。
「つか、今更ですけど、良ければ千恵さんうちのモルド『ナポリタン』に入りませんか?」と柚葉は勧誘した。
「あー…」と千恵は少し困った顔をした「うーん、凄く嬉しいんだけどね…。柚ちゃんや文ちゃん、優君、クーちゃんとみんな良い子だし、ここまででかなりお世話になったし、他の日本人の人と違って、ガツガツした感じがないから居心地良さそうなんだけど…」
「駄目ですか?」
「ごめんねぇ…。今組んでるモルド、もう3年の付き合いなんだよね…。私の事、ババアとか言うヤツ居るけど、なんだかんだで大事な仲間で、いきなり私が抜けたらきっと困るだろうから、今こっちに入る事はできないなぁ」
「あー、それなら仕方ないですね!」
「うん、そういった千恵さんだから誘った訳ですし、気にしないでください」と文乃もフォローする。
「ごめんね。もし、モルドが解散するような事があったら、また誘ってくれる?」
「もちろんです!」
「それと、まぁこのモルドは優君いるし優秀そうだけど、もし困った事あったら冒険者の先輩として頼ってくれていいからね!」
「はい、その時はよろしくお願いします!」
「でも、本当に、こっちで相談できる同郷の人がいるのって心強いよね!」と文乃。
「いやいや!お米とか食事とか、私が受けてる恩恵の方が凄いから!ここ、本当に凄いし!」
「ふふふ、千恵さん、これくらいで驚いてもらったら困りますねー。後で『アンダーワールド』に行ってみましょうか!」
「え?何それ?」
「『アンダーワールド』とは何ですか?」とエルメシアは優太に聞いた。
「プラントエリアの事みたい。地下にあるから柚姉ちゃんが勝手に名前付けちゃった」と優太は少しブーたれる。
食後、プラントエリアに向かった千恵と初めて訪れたクーナは目を丸くした。
「ぎゃー!何ここ!え?電車!」
「外です!」
「う、海あるじゃん!」
「速いです!高いです!」
「わー!お菓子の山だー!」
「チョコ食べるですー!」
と、二人は倉庫に駆けて行った。
#8
「ゆーたん、お爺ちゃんの家に行って、どうするです?」
「えっと…、ほら、クーとシーナさんがうちに住むようになったから、ロボット置いて、代わりに掃除とか見張りをしてもらうかと思って」
「あー!お掃除してくれると、嬉しいです!」とクーナはニッコリと笑った。
二人は仲良く手を繋いで先を進んでいたが、道中で物音がする度に優太はビクッとした。
「この辺って、魔物とか出るの?」
「出ないです。お爺ちゃんが、家の近く、魔物とか来ない魔法の石埋めた、言ってたです」
「あ、そうなんだ」
「でも、お爺ちゃんもお母さんも勝手に外出ると、クーの事怒るです!」とクーナは頬を膨らませる。
「まぁ勝手に出たら駄目だと思うよ…」
しばらく優太はクーナの誘導で進んでいたが、小川近くになった頃、クーナが立ち止まって鼻をひく付かせた。
「なんか、鉄みたいな匂いするです」
「…え?」
「こっちです」
「行くの?」
「いつもはしないです」とクーナは先を進んでいく。
仕方無しに優太は後に付いて行くと、しばらくして血痕が目に入った。
「え?」
「人が死んでるです」
「…え?え!」優太はクーナの言葉に身を強張らせる。
クーナは大きな木にうな垂れる様に寄り掛かっている人に近寄ると、顔を覗き込んだ。
「あ、まだ生きてるです!綺麗な女の人です!」
「え?まだ生きてるの?」優太は周囲に流れている血の量からして驚いた。
「スースー、息してるです!」
それを聞いて、恐る恐る優太は近寄ると、頭部に2本の角が見えた。右肩口から腹に掛けて裂傷が見え、一部は黒く瘡蓋が出来始めているが、まだ傷の深い部分は鮮血が流れ出ている。
「角が生えた人だね。シカの獣人かな?」
「この角、シカです?シカはなんです?」
「シカって動物の種類、クーは狼でしょ?」
「…え?クーはオオカミ違うです!クーはクーです!」とクーナは頬を膨らませた。
「えー、まぁいいですけど…」
「ゆーたん、これ治せるです?」
「え?治せるけど…」
「じゃあ、治すです」
「んー、治してもいいけど、悪い人だったらどうするの?」
「悪くないです!角、カッコいいです!おっぱいも大きいです!」とクーナは意識の無い女性の胸をフニフニ揉みしだく。
「ちょちょちょ、怪我してる人なんだから!」
「柔らかかったです!」とクーナはにっこり笑う。
優太はクー怖いなと思いながら、ポケットを漁る。『万病剤』は外傷には効果が無いので、『お医者様カバン』を取り出し、聴診器を女性に当てると薬を手に取った。
「薬飲ませないと…」
「これ、クーのお母さん治した薬です?」
「うん」
「じゃあ、すぐ治るです!」とクーナは嬉しそうな表情を浮かべた。
クーナの手を借りながら、優太は女性の顔を上に向かせると、その唇に薬を流し込んでいく。上手く流し込みながら女性の表情を見ていたが、クーナの言うとおり見惚れるほどの美しい女性は年の頃は20代半ば程に見え、流れる様な長い銀髪は、今は自身の血で所々ベッタリと固まってしまっている箇所もある。
「…ゴホッゴホッ」と意識の無かった女性は、急に液体を流し込まれて咽てしまう。
しかし、その後は無意識にか、自身が水分を欲していたのか、徐々に薬を受け入れていった。
「あ!怪我、治ったです!」クーナはすぐに塞がっていく傷口を見て驚いた。
「もう大丈夫だけど、こんなにいっぱい血が出てたから、もうちょっと寝かせておいた方がいいかも」
「じゃあ、お家帰るです?」
「うーん、怒られないかな?」
「…お、怒られるです…」クーナにはシーナが怒る姿が容易に想像できた。
「でも、お爺ちゃん家に行くって言って来たんでしょ?」
「言ったです。アルエに…」
「え!アルエに言ってもしょうがないでしょ!」
「言うと行っちゃ駄目って言われるです…」とクーナはしゅんとする。
優太は、これは自分も同様に叱られると思った。そして、女性がどういった理由で怪我を負ったかは分からないが、連れて帰り犯罪者の場合、いろいろと面倒な事になる気がした。
「うーん、どうしようかな…」
「…お爺ちゃん家に連れてくです?」
「あ、そうだね。そうしようか」
『スモール電灯』で優太は女性を小さくすると、両手で大切に持った。
「小さくなったです!」クーナは驚いて女性を見つめた。
「お爺ちゃん家で大きくするから…」
「ゆーたんは凄いですねー」とクーナは優太と並びながら女性に視線を落とす。
クーナの家に着くと、優太は女性をベットに寝かせ『ビッグ電灯』で元に戻す。
「とりあえず、ロボット置いて面倒見てもらって、怒られる前に家に帰ろう」
「わかったです!」
優太はポケットから前もって用意しておいたプラスチック製の人形を出すと床に置き、内部の『ロボッチャー』を起動させる。プラスチックの人形は若い女性型で、これも優太が王都で『プラモデル化カメラ』で撮影したものだ。ちなみにこれは『プラモデル製造装置』で作られている。
「とりあえず、この人の世話してくれる?後はお留守番と部屋の掃除でもしてて!」と優太はロボットに命令する。
ロボットは理解したようにコクリと頷くと、周囲を見渡した。
「これ誰です?」
「知らない人だけど、人形だから」
「この人、ゆーたん作ったです?」
「うん」
「ゆーたんは、何でもできるですねー」
その時、ベットの女性が目を覚ました。
「う…、ここは…」
「あ…、起きちゃった」
「こんにちは!クーです!」
女性は顔を上げると、優太とクーナ、後方の女性型のロボットに目を向ける。
「わらわは確か小川を超え、大木で…」女性は少しずつ記憶を呼び戻していた「その後、気を失ってそなた達に助けられたようじゃな…」
「ゆーたんが治したです!」
「凄い怪我だったけど、もう治したから、大丈夫だと思います…」
「治した?かなり致命傷に近かった傷のはずだが…」と女性は右肩に目を向ける「そんな…、傷口まで綺麗に消えておる…」
「ゆーたんは凄いですから!」
「高位の治癒士であったか…、だがここまで見事に怪我を治すとは…」
「角、触ってもいいです?」クーナはうずうずした様に聞いた。
「あ!僕も!」と優太はクーナに同乗した。
「む…、まぁ恩人ではあるし、我がホーンに目を付けるとは見所のある子達だ。触れるがよい!」
二人は左右の角を、それぞれペタペタ触ると、嬉しそうな表情を浮べる。
「かっこいいです!」
「うん!」
「シカです!」
「ドリルみたい!」
「…む?シカ?ドリル?」女性は二人の言葉に怪訝な表情をする「我がホーンは形状を変える位、容易いぞ」とキュルっと滑らか且つ天井に着くほどの長さへと形状を変えた。
「うわー!凄いです!」
「カッコいい!」
「そうであろう!」と女性は後ろのロボットに目を向ける「そちらの女性は、ずいぶんと寡黙だな」
「これ、人じゃなくて、人形だよ」と優太はヒョイとプラスチック製のロボットを持ち上げる。
「む!そなたの傀儡であったか」
「名前、なんて言うです?クーはクーナでクーです!」
「僕、優太!」
「そうか、我が名は…、いや、語らぬ方が良いのであろうな…」と女性は面を下げた。
その時、部屋の一部に円が現れたと思うと、柚葉が中からヒョコっと顔を出した。
「あー!いた!」
「あ、ゆずのんです」
「こらー!二人で森に入ったら危ないでしょ!」と柚葉は円を潜ると腰に手を当てて叱った「って、この人だれ?」
「死に掛けてたから、ゆーたんが治したです!」
「え?怪我してたの?」
「うん」と優太が頷く。
「ユズハ様、居りましたか?」とエルメシアが円を潜る。
「うん、やっぱりクーちゃん家にいた」
続いてシーナと文乃も円から中に入ってくる。
「クーナ、また勝手に!」とシーナはそこまで言って後方に目を向けて驚いた「チ、チートベルベルグ様!」
「「「え?」」」とその名を覚えている面々は驚いた表情を浮べる。
「…狩狼族の者か、ならばわらわを知っておっても不思議ではないな…」
「え…、チートベルベルグって魔王のですか?」とエルメシアがシーナに聞いた。
「はい…」とシーナはチラリとエルメシアに視線を返す。
「え?死んだんじゃないの?」と柚葉も驚く。
「えーっと、確か打ち倒したって聞いたけど、殺したとは言ってなかったかも…」と文乃は思い出す。
「え?魔王なの?」と優太は驚いて聞いた。
「はい、チートベルベルグは魔王ですね」とエルメシアは教える。
「シカの獣人じゃなかったの?」と優太は本人に聞いた。
「シカです!角あるです!」
「いや、そんな事は、一言も言ってはおらんが…」
「シカじゃなかったら、なにです?」
「魔族じゃな…」
その場に微妙な空気が流れる。
「えっと、いきなり暴れたりしないですよね?」と柚葉は確認する。
「命の恩人に手を上げるほど、わらわは恥知らずではない」
「そうですか…。じゃあ、ここじゃなんですから、うちに行きましょうか…」
「その方がいいですね」とエルメシアは同意する。
柚葉の提案で場所を移す事が決まると、順番に『ワープペンシル』で描かれた円を潜っていく。
「あれ?この人は?」と文乃はロボットに視線を向ける。
「あ、それ、僕が作ったロボットでここのお掃除と管理させるの」
「あー、そうなんだね」
「じゃあ、よろしくね!」と優太は円を潜っていく。
モルドハウスに戻ると、食堂の前の居間に全員が集まった。
こちらは全体的に洋間として内装も整えられており、チートベルベルグを正面のソファに座らせると、それぞれ腰を下ろしていく。シーナはクーナを膝に乗せて、おかしな真似をしないように腕を絡めて束縛する。
「なかなかに洗練された良い建物だな」とチートベルベルグは周囲を見渡した。
「ユータ様がご用意されたものです」
エルメシアはチートベルベルグの衣服が破れていたので、後ろから毛布を掛けて庇った。
「えっと、ここまでの経緯を聞いてもいいですか?」と文乃は尋ねる。
「その前に、わらわが来た事でいろいろと迷惑を掛けたようだ。その子等をあまり責めないでやって欲しい」
「あー、はい…」と柚葉は優太とクーナに目を向けた。
「正直に言うと、迷惑を掛ける前にここを出る気ではあったのだが、我が領内の者が居るとは思わなんだ。事の顛末を語るゆえ、これ以降に我が領内の者にあったら、伝えてはくれまいか?」
「は、はい!」とシーナはコクリと頷く。
「さて、どこから語るか…」とチートベルベルグは思慮する「…先ほど、そちらの娘達が言っていた様に、わらわは勇者の一同に敗れた。お互いに死力を尽くし、わらわとしては満足な最後を迎えるはずだった。しかし、我が配下はそれを良しとはせずに割って入り、わらわをシコウ山を越えた先に転移させた」
「ん?えっと、魔王様は勇者の戦いで死ぬ気だったの?」と柚葉はその言い回しが気になった。
「いや、そうでは無い。わらわとて負けるつもりは無かった。だがお互いに死力を尽くし、わらわは完全に敗北したのだ。魔族を率いる王として、わらわを打ち倒した相手には、この首を渡すのは当然ではないか?」
「すいません。そこまで覚悟して戦った事無いんで…」
「まぁそうであろうな…。だが、わらわは自分の最後を想像した時、魔王としての矜持をどう残して終えるのか想像していた。あれは…、あの戦いは、そういった面では、わらわを納得させるだけの内容のある戦いだった。魔王として全てを出し尽くし、それでも勇者の一同はそれを退け、最後にわらわに深手を負わせた」
柚葉を始め、一同は誇り高き魔王の吐露に、見つめるだけになってしまった。
「え、あ…、悔しいとかじゃないんですか?」
「もちろん、そういった感情もあるが、力量差を埋めてあの者達はわらわに勝ったのだから、不満は口には出来ぬな」
「あー、そうですか…」
「だから、あの場に介入し、あの戦いを汚した我が配下に怒りはあった。あったが、それでも我に生きながらえて欲しいと思うほどの、あの者の気持ちは、上に立つ者として嬉しくもあった…」
「魔王様…」と文乃は苦悩するチートベルベルグに感銘を受けた。
「結局、戻る事も死ぬ事もできずに彷徨い、行き着いた先が、その子等が救ってくれたあの場所であった…」
「魔王チートベルベルグ、貴女は本当に噂通り気高き魔王なのですね…」とエルメシアはチートベルベルグを見つめた。
「もう元魔王だがな…」とチートベルベルグは自虐的な笑みを浮べる。
「あの、良ければお食事をご用意しますけど…」と文乃は申し出た。
「あ!そうですね!すぐにご用意します!」とシーナはクーナを降ろすと立ち上がる。
「いや、ここに居れば迷惑を掛ける事になるだろう。すぐにでも立ち去るとする。ただ…」とチートベルベルグは毛布の下の衣服に視線を落とす「申し訳ないが、この毛布を頂けないだろうか?」
「それは構いませんけど…」と文乃はチートベルベルグに対して同情的な表情を浮べた。
「チーちゃん、何処行っちゃうです?」
「もう、魔王辞めたなら、ここに居ればいいんじゃない?」と優太は言う。
「そう言う訳にはいかん…。勇者達はわらわが生きている事を知っている。ここに居ては、そなたらにも迷惑を掛けてしまう」
「チーちゃん、行っちゃ嫌です!」とクーナはチートベルベルグの毛布を掴んだ。
「うん!ここに居なよ!『スーパードゥライ』あげるから!」と優太はポケットから缶ビールを取り出す。
「なんだそれ…」と柚葉が突っ込みを入れる。
「それは何じゃ?」
「飲んで飲んで!」と優太は缶ビールのタブを起こして差し出す。
「ん?まぁ喉が乾いておったから頂こうか…」とチートベルベルグはグビッと口を付ける「これは美味い酒だな!よく冷えておる!」
「飲んだから、ここに居るです!」とクーナがニヤリとする。
「馬鹿を申すな…。この程度では懐柔されぬわ!」
「えー、じゃあ、『凍結 レモン』もあげるから!」と優太は缶チューハイを差し出す。
「いや、だから…」とチートベルベルグは言ったが、視線は缶チューハイに注がれていた「まぁ飲むか…」
「うん」と優太は手渡す。
「これは、なかなかに爽やかな味わいだな!初めて飲むが、これも美味い!」
「じゃあ、ここに居るです!飲み放題です!」
「いや、待て待て!そういった話ではない」とチートベルベルグは横を見ると、優太はどんどん缶をテーブルに並べていた「こらこらこら!並べるでないわ!」
「じゃあ、どうしたらここに居るです?」
「何故わらわに固執する?わらわが居ても災いしか起きぬぞ」
「角、かっこいいです」と嬉しそうにクーナは角に触れた。
「そ、そうか…」
「うーん、私もここに居ていいんじゃない?って思うけど」と柚葉はチートベルベルグに返す「正直言って、話を聞いて『チーちゃん』の事気に入っちゃったし!」
「私も居てもらって構いませんよ。話を聞く限り分別のある方だと思いますし、その考え方も立派だと思います。お互い立場はあるでしょうけど、勇者がここに来たとき、和解できるのではないですか?」と文乃はまっすぐチートベルベルグを見つめた。
「そんな簡単な話ではない…」
「魔王ならそうかもしれないけど、もう元魔王なんでしょ?その立場が無いなら、話は違うんじゃないかな?」と柚葉が詰める。
「私はユータ様、フミノ様、ユズハ様がお決めになられたなら、それに従います」
「元領民として、私は傷付いたチートベルベルグ様を放ってはおけません…」
「もうその言葉だけでわらわには十分だ…」とチートベルベルグは視線を落とす。
その姿を見て一同は黙ったが、優太はチートベルベルグの正面に立った。
「チーちゃんを助けたのは僕なんだから、僕の言う事を聞くべきじゃないの?」
「…それは、わらわが頼んだ訳ではないな」とチートベルベルグは視線を返す。
「じゃあ、どうしたら言う事を聞くの?」
「む…」とチートベルベルグは挑戦的な優太を見て目の色を変えた「いいだろう。場所を変えよう」
#9
2階の体育館に場所を移した一同は、チートベルベルグを前にした。
「ユータとクーナだったな?」とチートベルベルグは二人を前にして口を開く。
「クーです」
「うん」
「お前達は我がホーンを気に入っている様だから、これで話を付けるとしよう」
「え?どうやってです?」
「今から100の時が流れる間に、我がホーンに僅かでも触れられれば、わらわはそなた達の望むようにしよう!」
チートベルベルグは何処からともなく、真っ黒い砂の入った巨大な砂時計を取り出した。柚葉はそれを見ると、そういった事ができるなら代えの服出せないのかな?と思った。
「ちょっとでもいいです?」とクーナは確認する。
「ああ、わらわは避ける以外、特に何もしない」
「わかったです!」とクーナは目を輝かせる「ゆーたん!頑張るです!」
「え?僕が頑張るの?」
「そうです!」とクーナは優太を見つめた。
「まぁいいですけど…」と優太はチートベルベルグに向き直る「じゃあチーちゃん、僕が勝ったら、ここで仲間になって貰いますから!」
「いいだろう!触れる事が出来たのならばな!」
「おおー、優カッコいい!魔王が仲間になるなんてゲーム的でいいじゃん!」と柚葉は嬉しそうに思いを巡らす。
「じゃあ、行くよー」と優太は声を掛ける。
「ああ…」とチートベルベルグは砂時計を置いた。
その言葉を聞くと、優太は『四次元ポッケ』から丸型のストップウォッチのような道具を取り出し、上部のスイッチを押した。すると世界の全ての時が止まった。
優太は『タンマ時計』をポケットに仕舞うと、チートベルベルグの体を登り始めるが、直立不動の状態で止めてしまったので、上手く登れない。仕方なく体育館の倉庫から踏み台を持ってくると、どうにか肩によじ登って角に触れる事ができた。
「はー、チーちゃん、大きい…」と優太はポケットから『タンマ時計』を取り出して押した。
もちろんバレ無い様にすぐに仕舞うのも忘れない。
「ゆーたん!がん…、あれ?ゆーたん消えたです…」
「なっ!」とチートベルベルグは自分の右肩に乗り上げる優太を見て驚いた。
「はい、チーちゃん、優君の勝ちですから!」と優太はペタペタペタと角に触りまくる。
「ゆーたん凄いです!すご過ぎです!」とクーナはピョンピョンと飛び跳ねて喜んだ。
「わらわが反応出来ないほどの速度じゃと!」
「まぁチーちゃんも結構強い方だと思いますけど、優君の方が強いですから!」
「むっ…」
「だから、ここに居なよ!勇者が来ても優君がチーちゃんを守ってあげるから!」と優太は優しくチートベルベルグに微笑みかけた。
それだけ言うと、優太はチートベルベルグの肩からピョンと飛び降りる。
「ゆーたん凄いです!」とクーナは優太のお腹にムギュと抱きつく。
「まさか、こんな年下の男児に、ここまで熱烈に求婚されるとは…」とチートベルベルグは観念したように目を閉じた「だが、魔王とは言えわらわも女!わかったユータ!わらわはそなたのものになろう!」
「「「…え?」」」と突然おかしな事を言い出したチートベルベルグに対して文乃、柚葉、エルメシアは困惑した声を上げる。
「え?う、うん…」と優太はよく解らないといった返事をする。
優太はそれだけ答えると、クーナに手を引かれて遊技場の方に行ってしまう。
「ちょ、チーちゃん?優のアレは、求婚とかじゃないからね?」と柚葉は慌てて言う。
「そうですよ!ユータ様の正妻はフミノ様とユズハ様です!」
「ユータはたった一人でわらわを打ち負かすほどの猛者、出会いもあろうし別に妻が何人居ようが、わらわは構わぬ」
エルメシアは納得いかない表情をしていたが、自分の気持ちも在ったので押し黙った。
「なんで、そういった話になるのかなぁ…」と文乃はため息を吐く「まぁ優君、普段かわいいのに、たまにカッコいい所あるから、気持ちは解らなくも無いけど…」
「確かに…、って納得するところじゃないから!」柚葉は改めてチートベルベルグに向き直る「チーちゃん、私達もチーちゃんが一緒に住むのは嬉しいけど、優は本当は強くないからね?あれはちょっとズルって言うか…」
「それは無いな」とチートベルベルグは言い切る。
「え?何が?」
「今、ユズハがズルと言ったが、わらわに対してはそういった能力は効かぬ」
「え?そうなの?」
「わらわの固有の能力は自己防衛に特化したものでな。『先攻』『優先』『不運』この3つが一体となった能力なのだ」
「え?それどんなの?」
「ふむ…、では実際にあった話をすると、その昔、一人の人間がわらわに対して、『能力奪取』で能力を奪おうとした事があった」
「え?そんなスキルあるの?ヤバくない?」
「まぁ普通に考えれば、そうだな…。だが、わらわの『不運』はどんな能力よりも『先攻』により先に発動し、『優先』により上位化してしまう」
「ん?そうすると『不運』ってどうなるの?」
「ファンブルって、相手が何かしら行動した後に起こるミスみたいな意味合いに使われるよね。野球とかなら、ボールを取ったのに落としてしまうとか…。『暴発』って意味に捉える人もいるし、鉄砲を撃った瞬間弾けるとか…」文乃は言葉の意味合いから推測する。
「え?じゃあ、相手のスキルがミスするって事?」
「そうだ、しかもその能力がわらわに対して悪意が高ければ高いほど、効果は高まり、そして相手に取って、もっとも最悪の形で降り注ぐ」
「なにそれ怖い…。ちなみにその『能力奪取』の人はどうなったの?」
「相手は所持していた214、全ての能力をわらわに奪われた…。わらわにとっては、本当に必要の無いものではあったがな…」
「なにそのヤバいパッシブスキル…。他にはどんなのがあったの?」
「同族で死神と呼ばれるあらゆる『死』を撒き散らすヤツがおったが、直接の『死』は悪意としてはかなり高位になるようでな…」
「え?まぁそうだろうけど…」
「後々、配下の者の調べで分かったのだが、わらわの『不運』はあやつの『死』だけではなく、家族、仲間、あやつに関係する国の重鎮を含め、480名に『死』を振りまく大惨事になってしまった…」
「うわ…、やっば…」
「えっと、ちょっと待って…。チーちゃんて勇者に負けちゃったんだよね?勇者ってよく勝てたね…」と文乃もいつの間にかチーちゃん呼びになっていた。
「それはまず、わらわの能力の事を話そう。この能力はわらわの『魔王としての矜持』により生まれた能力なのだ」
「あー、ちょっと解るかも!ゲームとかでも最後のボスって即死系の魔法とかって効果ないしね…」
「そういった面で、必ずしもわらわの能力は発動する物ではない。あやつも多様な能力を有してはおったが、それは自身の力を高める為のものであった。わらわの『魔王としての矜持』を揺るがさないのであれば、この能力は発動はしない。そういった面でも、あの戦いは魔王として納得の行くものであった」
「なんか、解った様な解らない様な」
「だから、この能力がある限り、ユータはわらわにズルは出来ぬ」
「え?でも優は多分、時間を止めてチーちゃんの角に触ったんだと思うよ」と柚葉は踏み台を見ながら言った。
「ふむ…、ユータの力はどういったものなのだ?」
「ひみつ道具は、基本的に『科学』だね」
「かがくとは、どういった力だ?」
「え、力?うーん…」
柚葉が返答に困ると、文乃が代わりに答える。
「一言では言えないし、人によって解釈は違うと思うけど、チーちゃんが納得する答えとしては、人が今まで培ってきた知識で作り上げる物や技術、そんな感じに考えてくれていいと思う」
「なるほど…、人が延々と積み重ねてきた力か!」とチートベルベルグは納得する「それならばわらわの能力は発動しないだろうな!その力はわらわの『魔王としての矜持』を揺るがすものではないからな!」
「え?そう?」と柚葉は納得いかない表情を浮べる。
「うーん、判断が難しいけど、多様な解釈として鉄砲が科学技術で生まれたとするでしょ?」文乃は少し考えて言った。
「うん」
「チーちゃんに対しては鉄砲も通じるでしょ?」
「あー、通じそう」
「そうすると、科学から生まれた鉄砲と優君のひみつ道具は同じ理由で効果がある事になるんだと思う」
「え?でも、その理由だと道具系なら、なんでもチーちゃんに効果あるんじゃない?」
「そこらへんが曖昧なんだよね。結局チーちゃんの考える『魔王としての矜持』に反しているか、反して無いかなんだと思う」
「あー、なんかわかった…」
「シーナ、これから世話になる!」
「はい、ベルベルグ様!」とシーナは嬉しそうにする。
「いや、ここに住むのならば、シーナさん同様に働いて頂きますよ」とエルメシアが嗜める。
「確かにそうじゃな!もう魔王では無く、一人の女としてユータを支えねばならぬからな!」
「まぁ優と結婚するとかは、後々話せばいっか…」柚葉は諦め気味に言った「とりあえずナポリタンに強力な前衛が入ったって事で…」
その後は、文乃とエルメシア、シーナは夕食の用意を始め、柚葉はチートベルベルグを連れて下着や衣服の用意をし、入浴に向かった。
チートベルベルグはあらゆる面で感激し、施設の素晴らしさを柚葉に伝えていた。
「む!この料理は美味いな!」
チートベルベルグは用意された食事を口に運びながら感嘆した。
「ふみのんのご飯は、いつも美味しいです!」とクーナも賛同する。
「そう?どうもありがとう」
「それにしても、先ほどから何度も言っているが、この建物は素晴らしいな!」
「はい、特に大浴場は素晴らしいと思います!」とシーナはにっこりとした。
「ああ!あれは良い!特にあの、椅子になって程よい電流が流れるものがいいな!」
「え?あれ、痛くない?私座って、一瞬動けなくなったんですけど…」と柚葉は顔を顰める。
「私も苦手だな…」と文乃も同意する。
「チーちゃん、クーの葉っぱ食べてです」とクーナはチートベルベルグの口にサラダを運ぼうとする。
「クー、自分で食べないと駄目だよ!」
「クーナ!」とシーナのお叱りの言葉が飛ぶ。
そこへ、玄関の方から千恵の声が聞こえた。
「こんばんわー!ご飯中にごめんねー」と千恵が食堂の戸を開けた。
「あ、千恵さん、食事用意してありますよ!」と文乃が立ち上がる。
「わ、嬉しい!ありがとー!」と千恵は手に持っていた包みを迎えたシーナに手渡した「これ、お土産のサコの実、甘くて美味しいから食べてー」
「わー、これは食べたこと無いですね。ありがとうございます」
「誰だ?」とチートベルベルグは隣の柚葉に聞いた。
「千恵さんって言って、私達の同郷の人だよ。いろいろ良くしてくれるの!」
「ほー」
「お、新しい人だ!こんにちは、柏千恵って言います!えっと、魔族の人かな?」
「ああ、チートベルベルグと言う、新しくユータの妻になる者だ。よろしく頼む!」
「へー、この辺は王都に近いから、魔族の方ってあんまり見ない…」と千恵はそこまで言って固まった「え?お名前はチートベルベルグさん?」
「ああ…」
「魔族で、銀髪で、女性で、チートベルベルグって、元魔王様のチートベルベルグと同じですね…」と千恵はもしかしてといった感じに最後の方は声が小さくなっていった。
「その元魔王のチートベルベルグが、わらわじゃな」
「森で倒れてたチーちゃんを優が治して、勧誘して仲間になってもらったんですよ」
「へ、へー、そうなんだ…。文乃ちゃん、今日の夕食何かな…」千恵はギギギと文乃の方を向くと、出来るだけチートベルベルグに視線を合わせないようにした。
「今日は、サーモンムニエルとミネストローネ、シーザーサラダですね。お肉が好きなら、鶏肉のピカタもありますよ」
「うーん、相変わらず完璧なメニューだね」
「鳥のお肉、おいしいです!」とクーナはもしゃもしゃと口を動かす。
そんな千恵だったが、風呂上りにチートベルベルグに酒を勧められると、一変していた。
「え?マジで!魔王って結構大変なんだ!」と千恵はビールの入ったグラスを傾けてゲラゲラと笑った。
「ああ、あやつは本当に愚かな配下であった。今思い出してもくびり殺してやりたくなるわ!」とチートベルベルグは拳を握り締める。
「いやー、それは殺すね!私なら5回は殺すね!」
「千恵さん、魔族って冒険者登録できるんです?」と柚葉は聞いた。
「うーん、出来るとは思うかな?でもちょっと、解らないなぁー」
「角、隠せればなぁ…」と柚葉はチートベルベルグの角に視線を向ける。
「ユズハ、わらわもその冒険者とやらになるのか?」
「うん、優も冒険者の登録してるよ」
「なろう!」チートベルベルグは即答した。
「でも、魔族は登録できるかわからないんだよね」
「問題は我がホーンだけならば…」とチートベルベルグはスルッと角を頭部に引っ込めた「隠せば良いのではないか?」
「え!そんなのできるの?」と柚葉は驚く。
「元とはいえ魔王だからな!我がホーンは体内から自在に出す事もでき、体表を硬化させることも可能だ」とチートベルベルグは今度はニュルッと掌から角を突き出してみせる。
「チーちゃん、凄いです!」と優太とネコえもんを見ていたクーナはすぐに反応する。
「カッコいい!」と優太も目を輝かせた。
「そうかそうか」とチートベルベルグはにっこりと笑った。
「よし!ならチーちゃんは人間として、冒険者登録しちゃえばいいか!」
「むー、ナポリタンヤバイなー。次、そのメンバーで闘技場出るんでしょ?」千恵はグビグビと飲みながら柚葉に言う。
「フフフ、千恵さん、次の闘技会では、是非!ナポリタンに賭けてくださいね!」
「フフフ、柚葉ちゃん全財産行かせて頂きます!」
■あとがき
ふー、今回は結構早く投稿できました!久しぶりに1ヶ月に2話!頑張った自分!
さて、今回はナポリタンの人間関係の話ですね。クー、シーナ、千恵、チーちゃんと関わりを持つ人が増えています!
本当は、クーとシーナ、千恵、チーちゃんの話の間にもうちょっとエピソードを挟みたかったのですが、ちょっと駆け足気味に連続して描かれてますね。まぁ施設の閑話はこれから沢山入っていくと思います。
ちなみに予告を入れた後も書き足してましたから、47000字もあります自分が投稿した話の中では過去2番目の長さになってしまいました。
ちょっと新人の話をすると、クーナはムードメーカー的なキャラですね。シーナはナポリタンのお母さん的なポジションです。千恵は良き理解者、相談役ですね。そしてチートベルベルグはヒロインの一人でもあります。
魔王が仲間になるのは、まぁタグ見てた方には必然だと思いますが、異世界ものにはよくある話だと思いますし、分別のある魔王も最近では珍しくはないですね。ただ、これからチートベルベルグという元魔王をいろいろと自分の視点で動かして行きたいとは思っています。
あと、チートベルベルグは、喋り方自体を造語としていろいろ混ぜて採用しています。「わらわ」とか言いますが、実際は女性が謙って使う言葉だったり、魔王がその喋り方どうなの?と思う部分もあるかと思いますが、実語より雰囲気重視で採用しています。
アスーリアには、そのうち探検に行く事になります!
主人公の優太ですが、読者の方には影が薄いなど感じる部分もあるとは思います。実際は柚葉と文乃も主人公ですけどね。
優太は最終的にはまぁ成長物語ですし、主人公らしい成長を遂げます。ただ、現状では10歳の少年ですから母親が恋しい部分もありますし、年長者の中で、それほど出張って何かをする事は少ないです。
先の展開的には優太は、そのうち、いろいろな面で「え?」みたいな部分が存在する主人公でもありますね。現状では、ひみつ道具の存在感も優太の存在感として加味してるので、そういった風に見て頂ければと思います。
次回は、チートベルベルグと柚葉が模擬戦したり、闘技場に参加したり、王都散策したり、冒険したりする話の予定です!
感想、誤字報告ありがとうございます!
それでは投稿された際には、またよろしくお願いします!
それでは、また!




