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僕、優君です!

#1


「あ!優君、おはよう」


 園畑優太そのはたゆうたが家から出てくると、隣の家の双子の姉妹の姉、倉持文乃くらもちふみのが声を掛けた。

 

「おはよう!文お姉ちゃん、柚姉ちゃん!」

「おはよ、優…」


「柚姉ちゃん、ちょーねむそう」


 優太は二人の家の前まで行くと、姉妹の妹、倉持柚葉くらもちゆずはを見上げた。


「うん、眠い…。新しく始まった異世界モノの深夜アニメ観てたら、2時過ぎてた…」


「ほんと馬鹿でしょ?15歳にもなって!優君、こんな風になっちゃ駄目だからね!」

「うるさいなぁ…」


 優太はそれには答えず、笑顔で返した。


 三人揃ったので、文乃は優太と手を繋ぎ、いつも通りの通学を始める。


「柚姉ちゃん、アニメ面白かった?」

「うーん、まだ1話だからよく解んないけど!あれはもしかしたらブームが来るかもしんない。録画したから学校終わったら観に来なよ」


「うん!行く!」優太は興奮した様に防犯ブザーをベーベーと鳴す。


「ゆ、優君、それ無闇に鳴らしちゃ駄目だからね…」

「優、もう五年生なんだから、そうゆうの止めなよ。な?」

「はーい…」


「優君、朝ご飯はちゃんと食べたの?」文乃は長い髪をかき上げながら聞いた。

「うん、食べたー」


 文乃と柚葉の高校の制服を見ながら、優太は少しだけ自分も同じ学校に行きたかったなぁと思った。この幼馴染の姉妹は自分を本当の弟以上に可愛がってくれたが、年を重ねるごとに一緒にいられる時間は減っていき、優太は少しだけ寂しい気持ちになっていた。


 姉の文乃は家庭的で、炊事洗濯などを家でも率先して行い、双方の母親が留守の時などは、優太に食事を作ったりなどもしていた。そんな女性的な文乃は優太の初恋の相手で、最近は手を繋ぐだけでも気恥ずかしさがあったが、その手を離してしまうと、もう二度と繋ぐ事ができない様な喪失感があった。


 逆に妹の柚葉は、体を動かしたり趣味に費やす時間の方が長く、その髪も楽だからという理由で短めに整えられていた。優太にとっては柚葉は姉と言うより兄に近い存在で、一緒に居るだけで楽しい存在だった。ただ、年々文乃以上に育っていく胸を優太は強く意識しており、不意に抱きつかれたりなどすると心臓が跳ね上がる思いを何度もした。


「優、この間のゲームクリアした?」

「まだー、あれ最後の方凄く難しいんだもん…」

「じゃあ、今度姉ちゃんにやらしてみ!クリアしてやるから!」

「やだ…、自分でクリアする!」


「優君、今度の土曜日、またお母さん達カラオケ行くって言ってたから泊まりにおいでね」

「うん!」


「にひひ、また夜にカップラーメン食べる?」

「食べる!」

「もう!あんまり悪い事ばっかり教えると、おばさんに言うからね!」


 その日の三人が覚えている出来事はそこまでだった。




#2


(あれ?)


 柚葉は眠りから覚めた様に目を開けると周囲を見渡した。そこは何もない広大な空間だった。


「やぁ、覚醒したかな?」


 柚葉がそちらに視線を向けると、金髪碧眼の男性が視線を返していた。その服装は白い一枚のシーツのみで仕立てた様な簡素な作りで、どう見ても現代人には見えない。


「えーっと、神様ですか?」柚葉は率直に尋ねた。


「はは…、流石は日本人、理解が早いね!そこはまぁ、そう思ってもらっても構わないんけど、正確に言えば違うよ。僕の名前は…、まぁそれもいいか」


「…私に能力的なモノをくれる方ですよね?」


「うん、そうだね」

「じゃあ、私、死んじゃった訳ですか…」

「うん」


 それを聞くと柚葉は僅かばかりショックを受けた表情を浮べ「全然、覚えてないけど、どんな感じに死んじゃったんですかね?」と尋ねる。


「三人とも、アクセルとブレーキを踏み間違えた高齢者ドライバーに後ろからバーン」


「相当痛そうな死に方だから、覚えてなくて良かったですよ…」

「だろうねぇ…」


「えっと、今の私ってどんな状態なんですか?」

「仮初めの肉体と魂の状態だね。実際の肉体は死んでいる。そして、新たな世界に行くならば、今までの肉体を用意する事も出来る」


「えっと、三人って言いましたけど、ここに居るのは私だけですか?」

「ここに居るのは君だけだけど、それぞれの担当の者が同様に事を進めているよ」

「あ、じゃあ、お姉ちゃんと優も死んで…。まぁ、そうゆう事ですか…」


「うん、そういう事だね」金髪の男性は笑顔のまま話題を変えた「さて、先に聞くけど、現世の束縛から解放されて死ぬか、現状のまま異世界に行くか、どちらがいいかな?」


「えっと、セオリー通り、異世界に行きますけど、向こうでお姉ちゃん達には会えたりしますか?」

「ああ、他の二人が異世界行きを希望するなら、同時刻の同位置にあちらに送ると約束するよ」

「そうですか、ちょっと安心しました」


「では、異世界ランバルディア行きを前提に話を進めるけど、ここまでで他に何か質問などあるかな?」


「あー、そのランバルディアって世界は、やっぱり魔法とかあるファンタジー世界ですか?」

「うん」

「やっぱり、そうなんですね…」


「その部分は、ちょっと訂正しておこうかな」柚葉の担当の男性は表情を変えずに続ける「君達が定番だと思っている異世界の情報だけど、あれはうちの広報係りが、そちらに情報を流していてね」


「え?」


「まぁ簡単に言えば、死後にこういった状況になっても、受け入れ易くする為の下地作りかな」

「あー、なんか、ちょっと納得しました…」


「スキル、魔法、異種族、モンスター、その辺をベースに、定期的に多少改変した情報を流したりして、ランバルディア行きの希望者を増やす地道な努力をしているんだよね」


「そんな事をしなくても、普通に生き返れる方を選ぶ人の方が多くないですか?」


「いやー、一昔前は『そんな世界より、オラ、おっとうとおっかぁのいる世界に行きてぇ』って死を望む人も多かったんだよね…」


「ああ…、広報活動して正解でしたね…」


「他には何か質問はあるかな?」


「んー、向こうには私達の他にも、地球から来てる方がいるんですよね?」

「いるね。ただ、際限なく送れる訳じゃない。規定数があってね。丁度、三名の枠が出来て君達が選ばれた訳だ」


「何故、地球からランバルディアに人間を送ってるんですか?」

「そこは詳しくは言えないんだけど、ランバルディアという世界はいろいろと欠けた世界でね。君たち地球で生まれた人間がランバルディアに赴く事で、それを埋める事が出来る。そんな感じだね」


「えっと…、私達がランバルディアに行くのは、他に何か目的がある訳じゃないんですか?」

「僕達から君達に何かをお願いするのは、ランバルディアに行ってくれないか?それだけだよ」

「そう、なんですか?」

「うん、送った時点で僕達の目的は達してると言っていい」


 柚葉はそこまで聞くと、少し黙り、頭の中で気になっていた事を纏めた。相手側も特に急いでいる訳でもないのか、澄ました表情で柚葉を見つめ返す。


「今の話だと、地球の人とランバルディアの人には、何か違いがあるって事ですか?」

「同じ人間ベースの存在だと、肉体面では差異は無いと言っていいね。君が向こうの男性と関係を持って、子供を宿す事も可能だよ」

「そうですか…」

「うん、エルフやドワーフといった地球外の異種族は別として、人間としては、地球かランバルディア、たまたまどちらかに生まれてしまった程度の認識でいいよ。でも僕達には、その地球で生まれたって意味が大事なんだ」


「なるほど…」柚葉は納得すると次の質問に移った「ランバルディアに行った後に、あなた方に会えたりしますか?」


「会えないね。残念だけど、僕達はランバルディアに対しては、君達を送るくらいしか干渉できない」

「そうなんですか?」

「うん、出来たらもっと楽だったんだけどね…」


「じゃあ、能力的なものをくれる理由はなんですか?」

「それは、君たちにランバルディアに行って貰う為の特典と、せっかくランバルディアに送ったのに、すぐに死んでもらったら困るからだよ」


「ああ、そうですよね…。モンスターとかもいますしね」

「うん、ゴブリン、オーク、ドラゴン、その他、魔王と揃ってるよ。地球での情報通りだろ?」

「そうですね…。えっと、まだ貰ってないですけど、その能力的なものって強力なんですよね?」

「うん、君の選択次第だけど破格の能力だね」


「もし、そういった能力を使ってランバルディアで、何か大きな事を起こしたとして問題になったりしますか?」

「ならないね。それこそ王になったり、世界征服、大量虐殺を行ったとしても、僕達としてはなんとも思わないよ」

「え?でも能力を与えてるんですよね?」

「うん、さっきも言ったけど、僕達は送った後は干渉できないしね…。もちろん、ランバルディアの住民と共栄してもらえたらとも思うけど、ランバルディアの人間がそういった人間をその状況まで対策出来ないのなら、それはそれで仕方の無い事なのかな?って思うね」


「はぁ…」柚葉は向こうの世界大丈夫かなと少し思った「じゃあ、最後に…」


「うん、何かな?」


「ランバルディアから地球に戻る事は可能ですか?」と柚葉は言ってニヤリとした。


「嫌な事を聞くなぁ…。まぁ正直に答えると可能だよ。実際にそれを行った者もいる。簡単な事ではないけどね…」

「で、出来るんだ…」


「こっちとしては、せっかく送った人間を逃がしたくは無いんだけど、個としての意思は尊重したいとも思ってるから、そこまでの努力をするならば仕方が無いのかな?とも言える。ただ、戻ったしても、君たちは死んだ事になっているから、その部分は忘れないで欲しいね」

「あ…、そうですね」


「それと、戻って地球側に何かしら甚大な被害を与える状況になるなら、こちらに限っては僕達は干渉するよ」

「え?地球の場合は、するんですか?」

「うん、地球側では干渉できるから君達を引き上げられるんだし、逆に地球側に被害が出るとランバルディアに対して行っている事にも支障が出るからね。まぁ戻って、緩やかな生活を送る位なら問題視はしないけどね」


「そうですか、戻れる可能性やランバルディアでの行動に自由度があるなら、すこし安心しました」




#3


「それじゃあ、恩恵、贈物、スキル、能力、ギフト、まぁなんでもいいけど、選んで貰おうかな」


 金髪の男性はそう言うと、柚葉の前にモニターめいた物を出現させた。


「おー」柚葉は画面を覗き込みながら感嘆の声を上げた。


「スマホと同じ感じに操作できるから」

「便利ですね」

「うん、そっちの時代に合わせて変えてるからね。なんだったら、巻物、本、マウス、キーボード、コントローラー、タッチペン、音声検索と選べるけど…」


「マジかい…、まぁタッチパネルでいいです…」


「そう?じゃあ、その中から好きなスキルを10ポイント分選んでくれるかな?能力の横にポイントが書いてあるから、合計で10ポイント選んだら教えてくれる?」


「へー、ポイント制なんですね…」

「うん、最近は自由度の高い方が喜ばれるだろうって、会議で決まってね」


「昔能力もらった人は、怒るでしょうね」


 それを聞くと金髪の男性は真顔になった「えっと、向こうに行ったら内緒にしてくれる?」


「解りました…」柚葉は少しだけ笑った。


「あと、灰色の名前のスキルは残念だけど選べないものなんだ」

「…え?」


「8ポイントのスキル持ちは二名、9ポイント10ポイントのスキル持ちは一名までしかあちらに存在してはいけない事に決まってね」

「あー、なるほど…、それだけ強力な能力なんですね」


「それと、ここで選ぶスキルとランバルディアに存在するスキルは似て非なるものだと思って欲しい。もちろん、今から君が選ぶスキルの多くは向こうに存在するスキルより強力なものだけど、そういったものは使用者の使用法にもよるからね」


「どんなに優秀なスキルでも上手く使わなければ宝の持ち腐れって事ですね」

「そうだね」


「向こうのスキルを私が取得することは可能ですか?」

「うーん、いろいろな条件があるとは思うけど、現地人と君が同様に訓練を始めて、同様に修める事が出来たなら、同様にそのスキルは得る事が可能なはずだよ。ただ先天性のスキルだったとしたら、それは難しいかもしれないね」


「なるほどー」


 改めて柚葉は画面を見ると、能力は多様にあり、現代で楽しんだ異世界モノの物語で存在したスキルはほぼ揃っている気がした。ただ、やはり強力なスキルはポイントが高く、10ポイントという制限で何を選ぶかは、相当悩まされると思えた。 

 

「幾らでも悩んでくれてもいいよ。これからの生活に関わってくる事だからね」

「そうですね…」


「さっきも言ったけど、終わったら三人同時にあちらに集合させるから、その辺も安心していい」

「あざす…」


 柚葉は画面をどんどん送っていくと、向こうで使えるアイテム群の欄に移った。


「能力以外に物もあるんですね…」

「うん、切れ味抜群の伝説の剣みたいな物もあるよ」


「ゲーム的ですね。ステータスオープンも出来ます?」

「残念ながら、それはできないね。ただ『鑑定』を選択すれば、数値では無く色による視覚情報は得られるよ」

「『鑑定』って定番ですものね。うー、悩むなぁ…」

「だろうねぇ…。ちなみにレベル的な数値の成長も無いからね」


「あー、定番のマジックバック的な物もありますね」

「あるけど、向こうの世界で似た様なアイテムが存在するよ」

「じゃあ、やめとこ…」


「まぁ聞きたい事があったら、幾らでも聞いていいから、答えられない場合もあるけど…」


「はい、あ!容姿変換、性別変更、種族変更、年齢変更、視力回復まであるんですね…」

「うん、その辺も人気あるね。新しい世界で新しい自分としてやり直したい人もいるからね」


 その欄を眺めていくと、柚葉は気になるスキルを見つけた「あー、『不老』かぁ悩むなぁ…。でもポイント8…」


「えっと、データによると『不老」の取得者は過去8名、こちらの時間で最長512年、最短3日で亡くなってるね」

「え…、3日…」

「異世界だからねぇ。老いる事が無くても、うまく立ち回れなければそんなもんさ」


「ちなみに、お姉ちゃんと優が何を選んだかは教えて貰う事は…」

「それは教えられないね。個人情報にもなるし、こういった能力は下手に公言しない方がいいと言っておくよ」

「ですよねー」


「向こうの人間で異界から来た人間が特別な力を有しているのを理解している者もいるから、無用な発言は自分に危害が及ぶと考えた方がいい」


「なるほど…」と柚葉は画面に当てていた指を止める「あ、職業的なのを選ぶと、向こうではその職業として認識されるんですか?」


「いや、それはちょっとお得な能力の詰め合わせみたいなものかな?漠然と能力を並べられても、なかなか選べない人も多くてね。どうもゲームで言うキャラクターメイキングみたいなものが苦手な人も多いらしくて、こっちでお得な詰め合わせを用意したって訳」


「あー」と柚葉はその職業の欄で視線を止めた「あ、ダンジョンマスターもあるんですね」


「うん、最近の流行で作られた比較的新しい職業だね」

「どんなものなんですか?」


「魔法使いの一種なんだけど、1冊の専用の本が与えられて、使用者はその本から必要な物を選んで魔力を消費して迷宮を組み立てていく感じだね」

「ちょっと面白そうですね」


「ただ、最初はそれほど凄い物は用意できないだろうね。魔力の許容量は使用者の熟練度などで増加するからね。ただ、迷宮核を置かれた迷宮で一定格以上の魂を持つ生物を殺した場合、核にその生物に見合う魔力が吸収される。使用者は迷宮核の魔力を自由に使うことが出来るから、そうなれば軌道に乗ることが出来るかな」


「一定格の魂?」

「一概には言えないけど、例えば蟻などを捕まえてきて大量に殺したとしてもダメって事だね」


「あー、解かります」と柚葉は質問を変える「迷宮のモンスターとかはどうなってるんですか?」


「同様に書物から魔法生物を作り出したり、召喚する事で主従契約を結ぶ事が出来る」

「ほほー」


「まぁそういった職業の中から選んでもらえれば、割と方向性は決めやすいと思うよ。普通にポイント消費するより、お得な能力の詰め合わせだし、勇者とかポイント7だけど凄い人気で、最近だと十人に一人は勇者を取得するね」

「勇者のバーゲンセールですね…」


 それから柚葉はかなりの時間をかけて選んでいった。


「よし!それじゃあこれでいいかな?」

「はい!長々とありがとうございました!」


「うん、それじゃあ向こうに送るとするけど、君が死ぬ直前に身に付けていた物は、そのままの状態だからね」


「あ、ありがとうございます。親切ですね」


「まぁ裸で送る訳にも行かないしね。解っているとは思うけど君たちの格好はランバルディアでは、相当異質だから早めに何とかした方がいいと思うよ」

「所持品はカバンもですか?」


「えっと、うん、君は死ぬ直前にカバンを持っていたから、それも所持してるね」

「やった!ジャージと体操服があるのは嬉しいな!」


「じゃあ、いいかな?」

「はい!」


「それじゃあ、向こうでの生活を頑張って!もう会う事は無いだろうから、さようならと言っておこうかな」

「はい、いろいろとありがとうございました!さようなら!」


「では、目を閉じて…、次に目を開けた時は、そこはもうランバルディアだ!」


 それを聞くと柚葉は金髪の男性を名残惜しそうに見つめてから、ゆっくりと目を閉じた。




#4


 三人はほぼ同時に目を開けると周囲を見渡し、お互いが居る事を確認した。


「し、死んじゃったね…」まず最初に柚葉が二人に声を掛けた。

「そうだね…」


「もう、お父さんにもお母さんにも会えないの?」優太は泣きそうな表情で二人に問いかける。


「優…」


「優君…」文乃は優太を見つめると、自分の郷愁をも打ち消すように優太を強く抱きしめた「会えないけど、私達がいるから…」


 それを聞くと優太は目を閉じて、文乃を抱きしめ返し、少しだけ泣いた。


 異世界ランバルディアに送られた三人は、地球を離れたという喪失感から始まった。


「よし!じゃあ、お互い何を授かったか確認しようよ!」柚葉は二人が落ち着いたのを見ると明るい口調で言った。


「そ、そうね!私達に何が出来るかお互い確認した方がいいよね」文乃も優太を元気付ける為に明るく続く。

「うん!」優太は目をコシコシと擦って笑顔を浮べた。


「その前に、ここ何処だろ?」そう言って柚葉は周囲を見渡す。


 二人も柚葉の言葉に再び周囲を見渡したが、周りは膝下ほどの草が茂った草原、柚葉の右手側に緑豊かな森林が見える事だけが確認できた。


「私が担当してくれた神様が、送る先は知性のある生物から一定の距離、離れた場所って言ってたよ」

「あ、そうなんだ。いきなり人が現れるのを見られない為なのかな?」


「じゃあ、近くに街とか無いの?」


 二人は優太の言葉を聞くと、納得した表情を浮べた。


「そうゆう事だよね」

「そうよね…」


「ま、まぁ取り合えず、お互い何を貰ったか確認しよう!」柚葉は取り繕う様に言った。

「うん!」

「そうね!」


「じゃあ、私から言っちゃうよ!」柚葉は自信満々に二人を見つめ「私が貰ったのは『全武術』『身体強化』『怪力』の3つだよ!」ふふんといった感じに胸を張る。


「『身体強化』『怪力』は解るけど、『全武術』ってどんなの?」

「それ、ポイント8なんだけど、現在までのランバルディアで生まれた全ての武術、それに伴う知識や技を全て会得してるって言ってた。これまだこっちで選択した人いないんだって!」


「え、強化って…、柚姉ちゃん改造されちゃったの?」優太はびっくりして柚葉を見つめた。


「え?されて無いって!…多分」そう言って柚葉は姉を見た「…されてないよね?」


「し、知らないけど…、どういった感じに授かったのかしら…」

「ぼ、僕、柚姉ちゃんが、改造されても大好きだからね!」


「ん、うん…、ありがとう…」柚葉は自分の体を抱きしめながら落ち込んだ表情を浮べた「でもなんか、そう言われると自分が自分じゃなくなったみたいでテンション下がる…」


「じゃ、じゃあ!次は私が言うね!」

「う、うん!」優太は横目で柚葉をチラチラ見ながら明るく返事をした。


「私が授けて頂いたのは『全魔法』と『魔力上昇』の二つ」


「やっぱね!お姉ちゃんなら絶対魔法系行くと思ったから、戦闘系選んだんだよねぇー」

「私だって、柚ならそうするって思ってました!」


「え!文お姉ちゃん、全部の魔法使えるの?」


「うん、こうやって…」文乃はそう言って目を閉じて意識を集中し「あ、出た」とその右手に一冊の凝った装飾の本が現れた。


「わ!本出た!」


「え?それって、わざわざページ開いて読むの?」それを見ると柚葉は怪訝な表情を浮べる。

「ううん、本に触れていれば、いま自分が必要としている魔法を検索出来て、魔法を唱える事も出来るって」

「へー、さすがポイント9も消費するだけはあるね!」

「うん、実際に読むことも出来るから、どういった魔法があるか勉強しないと…」

「へ?なんで?」

「だって、魔法なんて使ったこと無いし、知らなければ、その魔法を必要としてると考えないでしょ?」

「あー、そっか、うん、魔法を選ばなくて良かったよ!」柚葉は脳筋だった。


 文乃と柚葉は、自分達の能力を紹介し終えると、優太に目を向ける。


「じゃあ、次は優君の番ね!」

「優は、どんなスキルもらったんだよ」


 柚葉の言葉を聞くと優太はきょとんとした「え?スキルとか貰ってない…」


「え?」柚葉は驚いた表情を浮べた。


「あ!優君は魔法の品みたいなのを選んだって事よね?」

「ううん、選んでない…」


「え?ちょ、優!なにやってんだよ!神様みたいな人に選んでって言われただろ?」

「うん、言われたけど、そんなのいらないって言った」


 それを聞くと、二人は驚愕の表情を浮べた。


「ゆ、優君、新しい世界は危ないって聞かなかった?」

「聞いた」


「じゃあ、なんで何も貰ってないんだよ!」

「え?貰ったよ」


 それを聞くと、二人はきょとんとした。


「えっと優君、それはリストから選ばないで、自分の欲しい物を貰ったって事?」

「うん!」


「え?欲しい物って、なに貰ったのさ?」


「『ネコえもんに出てくるひみつ道具』全部下さいって言った」


「「…え?」」それを聞くと、二人は真顔で優太を見つめた。


「くれた!」と優太は三日月形のポケットを嬉しそうに掲げた。


「マジかい!それアリなの?」柚葉はポケットを見ながら唖然とした。

「アリだから、貰えたんだろうけど…」


「そんな事言う人いなかったけど、まぁ人間の考えた物だからいいよって神様言ってくれた」


「その神様、絶対解かってないよ…」

「優君、昔、ネコえもん博士って言われてたし…」


「神様にそれだけで大丈夫?って言われたけど、大丈夫です!って言ったら、優太は小さいから心配ですねって言われた」


「…可愛いは正義だわ」

「優君が子供だから許してくれたのかも…」


「それで神様『ネコえもんに出てくるひみつ道具』は知らないから、僕の知識から再現するって言ってた。あ!あと、道具の使用回数はおまけで無制限にしておいたからねって言ってくれた!」


「マジぱねぇ…」

「い、異世界に22世紀の道具持ち込んでいいのかな?」

「22世紀の道具って言っても、仮想22世紀の道具だし…」


「あ!『四次元ポッケ』盗まれると困るから、『スペアポッケ』隠しとこ!」


 そう言うと優太は、嬉しそうに『四次元ポッケ』に手を入れた。

■あとがき


*作者はあとがきを書きたい人間なので、「■あとがき」に関しては読者の方の判断でお読みください。


どうも初めまして!福岡と申します。ノクターンからの方は引き続きよろしくお願いします。


普段は「小説家になろう ノクターン」の方でメインとなる『異世界に行ったけど、すぐ戻ってきた。』という作中97%エッチシーンが無い作品を描いてます…。気になったら、そちらもよろしくお願いします。


さて、この作品ですが、1話を読み終え、キーワードのタグを見れば、先の展開がどんな内容か理解できると思います。そんな内容です!



タイトルの『もっと上手く扱えるんだ!』ですが、単純に言えば読者の方も「自分の方がもっと上手く扱うわ!」と思うと思います。ただ、これに関しては、それだけでは無いと書いておきます。



物語としては三人の成長物語、スローライフがメインです!もちろん家族は増えていきますが、優君が幼馴染の文乃と柚葉とイチャイチャしてる場面を書ければ、まぁ満足です…。戦闘シーンは書きたくないから出来るだけ減らす予定です…。



更新は7話(15万字くらい)までストックがありますが、かなり遅めのペースと明記しておきます。ごめんなさい。3万字超えてる回もあるので分割も考えています。


個人的には作品タイトルもあらすじも目を引かない様なものにしたので、ひっそり書いて行きたいと思います!


次回の更新は、3日後の予定です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ねこえもんの道具(笑)斜め上の使い方、楽しみにしてます [気になる点] いまはなし [一言] まってましたよ どしどし更新お願いします!!
[良い点] 新作楽しみにしておりました。 ストックもあるということですので3日後が楽しみです。
[一言] (´・ω・`) 確かに……その発想はなかった…… てか私ならあさっての方から怒られるんじゃないかって考えちゃう。 ともあれスタートおめでとうございます。
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