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ヒーローの居る町2(初版  作者: 335遼一
5/10

《伍》

「雨強ッ、風えっぐッ⁈」

 予想していた事とはいえ、イチローは腕で視界を確保しながら思わず叫ぶ。

 滑走路に続く二重の自働扉を超えた瞬間、イチローたちを猛烈な雨風が襲った。

 センター備え付けの風速計は、人が真っ直ぐ歩けなくなる目安の十五メートルを記録。

 吹き荒れる風によって四方八方から飛んで来る大粒の雨は、衣服の上からでも感じられるほど強く、顔に至っては痛いほどの勢いだ。


『‥! 前方より飛来物!避けるのじゃ!』

 UFOに乗っているので唯一まともに周囲が確認できるカミヤの声に、イチローたちは身をひるがえす。

 直後、ある程度まとまった量の、板状の物体やら何か黒い塊やらが彼らの脇を通り抜けて行った。

 それらはイチローたちの前方、メイン滑走路Aに鎮座するシャトル手前に広がる、文字通り黒山の人だかりから飛んできた物だ。

 突風に煽られてコケた機動隊員たちが手放したシールドや脱げたヘルメットが、飛来物の正体だった。


「‥ん、おぉ! 待ちわびたぞ『超人(ヒーロー)』」

 仲間に助け起こされている隊員の一人が、横一列で近付いてくるイチローたちの姿に気付いて声を上げる。

 すると機動隊員たちが一斉に振り返り、歓迎の声が次々に上がった。


 大の大人、それも警察の先鋭である機動隊の人々がイチローたちのような若者を持て(はや)すのも『超人(ヒーロー)』という存在がそれだけ世間から信頼され、頼りにされている証だ。


 さながら、()()()()()『モーセの伝説』が如く、左右に分かれた隊員達の輪をイチローたちが越えると、機動隊の指揮官と思しき赤いタクティカルベストを身に着けた男性がまさに振り返ろうとしている所だった。

 背中にはニホンの【地球警察機構】を現す地球に桜を重ねたイラストと『(オノエ)(ポリス)(デパートメント)』のロゴが大きく入っていた。

 わざわざ合掌して一礼するキャプテンにやや戸惑いつつ、彼もぎこちなく合掌して頭を下げ返した。


「大変お待たせしました。【超人(ヒーロー)学園】より派遣された、第二次選抜チームのリーダーを務めます天元院と申します」

「俺は【地球警察機構 尾ノ枝支部】のサキガケだ。本件の部隊長を勤めている。今回は宜しくお願いするよ」

「状況に何か進展は?」

「投降に対しての返答は依然ナシのツブテ。何を聞いても『超人(ヒーロー)を連れて来い、話はそれからだ』の一点張りだね。先行チーム…、君達の先輩達からの通信も不通のままさ。でも要求どおり君達が来てくれたから、少しは対話に応じるかも知れない」

 サキガケ氏は近くに立っていた、何かの機械を背負う隊員を一人呼びつける。

 彼は機械から伸びる受話器を受け取り耳に当てると、十秒ほどしてから「『超人(ヒーロー)』が到着した」と端的に言う。

 どうやら通信の相手は、シャトルの中に居る海賊たちのようだ。

 暫くボソボソと対話を続けるサキガケ。

 ただ雨風が強い所為で、イチローたちに会話の内容までは良く聞こえない。


「‥解った。これから向かわせる」

 サキガケは受話器を機械に戻すと、誰かに合図を送るためか天を指差し、指先をくるくると回す。


 すると隊列の後ろの方で「待ってましたーッ‼」と威勢のいい声が上がり、隊服の上からエリの高いコートを羽織った一人の女性が、肩より少し長いロングヘアをなびかせながら勇ましく歩いてきた。

 その後ろをついて歩くのは、ボサボサ髪をツインに結び、かなり分厚いビン底メガネを掛けた女性。

 イチローとヒカル、そしてカミヤとアマミには、この二人に見覚えがあった。


「コレから君達には、警察側の代表者二名に同行してシャトルに向かって貰いたい。ハバネ、ヒラガ、ご挨拶を」

「宇宙犯罪対策課 巡査の羽羽(ハバネ) (つばさ)とは私の事!『ハバネさん』と呼んでくれ給え、若人諸君!」

 ハバネはそれこそ嵐のようなテンションで、イチローたち一人ひとりに激しい握手をしていく。

 笑顔も相まって、下手な『超人(ヒーロー)』よりよっぽどヒーローっぽい言動だ。

 あとイチローたちを『若人』とは言うが、彼女も十分若い。

 

「私は巡査見習いの平賀(ひらが) (まなぶ)です。若輩者ですが、先輩ともども、本日は宜しくお願いします!」

 ヒラガは背筋を伸ばしビシッと敬礼する。


「アレ? 何時かのお巡りさんだ!」

 アマミの反応にヒラガは一瞬キョトンとしたが、イチローたちの顔をマジマジと見て思い出したらしく「あっ」と声を上げた。


「んん? マナブの知り合い?」

 ハバネが訊ねると、ヒラガは「【十字商店街】の案件で…」と彼女に小声で耳打ちする。


 実は今から数ヶ月前、イチローたち(キャプテンとレンは居なかったが)は『とある事件』で彼女たちと会っているのだ。

 尤も、実際に会話をしたのはヒラガとだけで、ハバネ本人とは話していないが。

 詳細は割愛するが、あの時ハバネたちは、何の役にも立たずに現場から退場してしまっている。


「あぁ、そう言えば誰かが居たと思ったけど、そうか君達だったの! いやはや、あの時は恥ずかしいところを見せてしまって申し訳ない! でも、今回は大丈夫。大船に乗った気で居てくれていいから!」

 カミヤのUFOから伸びるロボットアームを、ブンブン振りながらハバネは笑う。


 激しく上下に揺さぶられるUFOから『にょあああ!』と奇声を上げるカミヤ自身が、その『事件』の当事者だった事にはまったく気付いていない様子だった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「先ずは私が中に入って話すから、合図したら君達はマナブと一緒に入って来て」

 シャトルの大きな搭乗ハッチへと続くタラップを登りながら、『超人(ヒーロー)』チームとハバネたちは再度打ち合わせをする。

超人(ヒーロー)』にしろ警察にしろ、立て篭もり案件のアプローチは交渉を前提とし、実力行使は最終手段でなければ成らない。

 平和的に解決できるなら、それに越したことはないのだ。

 

「とは言え、相手はやる気満々な訳ッスよ? やっぱ最低でも一人、俺たちの誰かが先頭のほうが…」

 心配するイチローに、マナブは「心配ご無用です!」と、腰に手を当てて胸を張った。


「私達が着ているこのベスト、何を隠そう尾ノ枝警察署の誇る技術開発部の()()()()()()なのですよ。防弾、防刃は勿論、万が一トラック級の物に轢かれても大丈夫なエアバックの機能もついて、並の攻撃ではビクともしません」

「へぇ、こんな薄くて軽いのに凄いんですねぇ。僕が『コスチューム』作る時のベース素材にしたいな…」

 ヒカルはマナブの着るベストをマジマジト見つめ、指でベストの手触りを確かめる。


超人(ヒーロー)』にとって、コスチュームや装備を『作って着る』というのはある種のステータスだ。

 中には自作する猛者も居るが、基本的にコスチューム等を身に着けているということは、世間から『超人』として一定以上評価され、それらを提供してくれる『スポンサー』がついている事の現われでもある。

 特に着る機会の多くなるコスチュームは、一目で『超人』と認知してもらうには必須。

企業による最新技術の詰まった装備があれば戦闘力は勿論のこと、防御性、機動性が格段に上昇し、活躍の幅もグッと広げられる。

 イチローたち若手にとって、コスチューム獲得は第一目標なのだ。


「この演習が終わったら、技術部の人に掛け合ってあげましょうか?」

 ヒラガの提案に、ヒカルは目を輝かせて「良いんですか?」と食いついた。


「もちろんです。『超人(ヒーロー)』が警察に協力するのが責務なら、逆もまた然り。試作品でよければ提供してくれるかも知れません」

 思わぬ僥倖に感動した様子でイチローを見るヒカル。


 しかし「良かったな」と言おうとしたイチローは、フッと今の会話に引っかかる物を感じた。

 自然な会話でヒカルはスルーしていたが、いまヒラガは可笑しな事を口走っていなかっただろうか?


 イチローはそれを問い質そうとしたが、先頭を行くハバネが搭乗ハッチをやや乱暴にノックしたので、質問は後まわしにしてシャトル側へと向き直った。


 ところがイチローが顔を正面に戻したその瞬間、『ボンッ』と風船が割れるよう音が鳴り、体を「く」の字に曲げたハバネが高速で彼らの頭上を通過していく。

 ハバネの体は程なく重力によって数メートル下の地面に落下。

 二、三回バウンドした後に、下で見守っていたサキガケのやや手前に転がる。


 突然の事に何が起こったのか解らず、イチローたちは唖然として固まってしまった。

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