私は決してだまされない
1
迷惑メールがあとをたたない。
『下着姿を撮ってみたの!』
『三百万の件は確認できていますか?』
『公衆トイレにあなたのアドレスが書いてありましたよ?』
『不在のため、お荷物を持ち帰りました。下記よりご確認ください』
といった詐欺メールが送られてくる。
あの手この手で、アドレスに誘導しようとする。
そこに何があるのかは知らないが、ろくでもないことにちがいない。
決してだまされはしないのに、次から次へと送られてくる。
文字化けで読めないものもあった。
微妙な日本語のものもあった。
あれは翻訳ミスだろうか?
海外から発信されるメールも多いのだろうか?
ごくまれに、一日に何度も何度も送られてくるのは、なんなのか?
発信元のフィーバータイム?
企業ノルマ?
新人研修?
わからない。
わかっているのは、決してだまされないという、シンプルな答えだ。
どんと構えて、受け流すのみ。
2
よくわからないメールがきた。
『サービス終了まで、残り一年です』
不安を煽るのは常套手段。
なんのサービスか不明なのはよいとしよう。
ただ、一年は長すぎる。
余裕すら感じてしまう期限設定は、なにかのミスだろうか?
最近、自撮りした下着姿をSNSにあげるという、けしからん風潮が蔓延しているらしいが、私は決してだまされない。
3
よくわからないメールがきた。
『異世界に転移しませんか?』
有料ゲームにでもつながるのだろうか?
無料といいながら重課金をもとめられるのだろうか?
ルール無用の詐欺メールとはいえ、情報提示にはわかりやすさを要求したい。
まさか勘違いを期待している?
だとすれば、本気で誘導する気はあるのかと問いつめたい。
最近、お金をばらまく大富豪がいるらしいが、私は決してだまされない。
4
よくわからないメールがきた。
『リセットボタンがあります。あなたの人生の』
死ぬの?
殺されるの?
不親切な情報提示に惑わされ、自殺サイトにでも誘導されるのか、脅迫メールの一種なのかと疑ってしまった。
迷惑メールを送りつけるのは、金銭が目的のはず。
人生のリセットで思いつくのは、借金の返済。
金融関係だろうか?
多重債務による借金苦をリセットする。
借入先を一本化してスッキリさせましょう、高金利で、という流れなのか?
なんであれ、高利貸しに用はない。
最近、自宅のパソコン機器および記録メディアを完膚なきまでに破壊したのち、失踪する若者が増加しているらしいが、私は決してだまされない。
5
よくわからないメールがきた。
『あなたはいま、仮想世界にいます。お忘れの方はこちらへ』
世界は仮想空間であり、我々はゲームキャラのような存在である。
そういう説があることは知っている。
興味がないこともないのは確かであるが、いったいどこへ誘導する気なのかが、まったくわからない。
おそらく、まったく関係のないアダルトな有料サイトにでもつながるのだろう。
最近、メールアドレスと思われるものが、壁一面に呪詛のように書きなぐられた、不気味な公衆トイレを発見してしまったわけだが、私は決してだまされない。
6
自宅に荷物が届いた。
心あたりはないが、住所も個人名も間違いはない。
小型の段ボール箱に入っていたのは、箱型の装置。クイズ番組で解答者が連打してそうなボタンで、要するに、なにかのスイッチであった。
『サービス終了後は有料となります。継続される方は押さないでください』
よくわからない説明書が添付されていたわけだが、私は決してだまされない。