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小さな君と小さな小さな僕ら  作者: 水瀬誠人
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2度目の年末2

柚葉のお母さんと合流して神社へと向かおうとした時に近くに神社があることを教えて貰い初めて行く場所に期待を持っている間に、柚葉のお母さんの名前が響子である事を知れた。これから柚葉のお母さんと呼ぶ度にお義母さんと呼んでくれてもいいんですよ?とからかわれることがなくなるから俺としては助かっていた。

初めて来た神社は草が生い茂っていて人もあまりいない隠れ家のような神社だった。でも俺はこの神社にどこか見覚えがある気がした。昔に来たことがあると言われればそんな気がする、胸のつっかえを飛ばしてくれと言わんばかりに俺は賽銭を投げ入れた。

「じゃあこのまま柚葉ちゃんの家に直行だね。」

「大丈夫ですか、響子さん。」

家で遊ぶ事の許可を得ようと声をかけたら響子さんが驚いた顔をしたが直ぐにかまわないと言わんばかりの優しい顔をした。

「じゃあ、決まりね!」

笑顔で柚葉と文也が先頭を切っていく。響子さんのさっきの顔が気になって話しかけようと後ろを振り向いたら予想外な事に向こうから名前を呼ばれた。

「和也くん?」

「はい、なんですか?」

返事をすると少し考える仕草を見せて直ぐになんでもないわ勘違いだったみたいと笑顔を向けられる。その笑顔は、亡くなった母に似ている気がして胸が締め付けられた。あの日も笑顔で大丈夫と言っていた気がする。

これは俺がまだ幼かった時の話、今はもうあまり覚えてはいないが俺の母は癌で亡くなっていた。抜け毛を隠すためにカツラを被って

苦しかったのを俺の前では、必死に隠して大丈夫だよと笑顔を見せてくれた母。当時は嘘をつかれたと思ってかなり落ち込んだし、言われる筋合いのない父親にまで暴言を吐いて傷付けさせてしまった。でも今は母が俺の事を思っていた事が分かり母の事が生前よりも好きになっていた。

「和也、置いていきますよ。」

椿に呼ばれて神社の前で立ち尽くしていた事に気付く

「すまない、すぐ行くよ。」

この神社に母は関係ないだろうが、母に謝るように母に感謝をするように頭を下げる。

柚葉の家に着いてからは、いつもの日常だった。いや、柚葉がいるからいつもではないかもしれない。柚葉と迎える2度目の年明けは前回よりかは落ち着いていてカウントダウンをする余裕があるほどだった。年が明けてからはテンションが上がり椿が詩を読んで柚葉が褒めたり、俺が好きな歌を歌うとカラオケがしたいという話になり、家で擬似カラオケをして時間を潰していた。そして今年もやってくる柚葉との別れの時間。だが今年は大丈夫なのだもう言う言葉は決まっているのだから。

「また、来年な柚葉。」

「今年ですよ和也。」

指摘されて笑ってしまう。去年から成長してるようで成長していない俺たちに。

「和也さん!」

家を出て駅の改札を通ろうとした所で響子さんに呼び止められる。

「どうしたんですか?響子さん、そんな慌てて。」

「言うか迷ったんですけど、言って置きたくて、あなたのお母さんは寧々さんじゃありませんか?」

「ええ、そうです。母の名前は寧々でしたが、それをどうして?」

「やっぱり。実はですね、昔この町で貴方の母と和也さんと私と柚葉は出会っているんです。」

元気だった頃の母は出掛けるのが好きでよく電車でどこかに連れていったものだ、恐らくその時に知り合ったのだろう。

「寧々さんが、癌で入院してお見舞したに時計を預かりました、和也がいつか貴方のとこに現れたらこれを渡してくださいって。何も無しに現れるなんて無いと思ってたから受け取る事なんて到底出来なかったのですが、最後の頼みと言われて断れずに」

そう言って俺に時計の入った箱を渡してくれた。箱から出てきたのは、葬式の後に探されていた母が愛用していた懐中時計だった、時計を開けると手紙と写真が挟まっていた。

『愛する和也へ

大丈夫って嘘ついてごめんね。この手紙を和也が読んでるのは何歳の時なのかな?もしかしてお母さんよりも年上になっているのかな?それともまだ小学生かな?いずれにしてもお母さんは和也の姿がこれ以上見れないのは残念で仕方ありません。和也にお願いがあるとすれば、お父さんよりも長く生きてきっと無茶するお父さんを助けてあげて欲しいということくらいでしょうか。和也には和也の人生があります、だから和也の好きな様に生きればいいとお母さんは思います。ただ、ピーマンを残すのは良くないと思いますよ。

あなたの母親より。』

この手紙を見て俺の目から涙が勝手に流れていた、止めようとしても止まらない、涙が溢れてくる。母の温かい言葉や、当時の好き嫌いの心配にまで、自分が母に本当に愛されていたことを気付かされ涙が止まらなかった。


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