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小さな君と小さな小さな僕ら  作者: 水瀬誠人
2/5

1度目の年末1

「人身事故の影響により、運転を見合わせております。お客様にご迷惑をおかけいたします。」

「人身事故かぁ…仕方ないからここから歩いて帰るか?」

「まぁいいんじゃね?たまにはさ。」

この2人と過ごすと楽しくて楽しくて仕方ない。もし仮に砂漠に放り出されたって結局楽しんで死ねるのでは無いかと思えるくらいだ。

だから、神社へ電車で向かいまだ年が明けてもいないのに参拝するという奇妙な行動をする俺達に神様が与えた罰も全く気にせずに済んでいる。

「そうと決まれば善は急げだな!1番最後に改札出た奴ジュース奢りな、ドン!」

文也の合図により突然競争が始まる。文也はノリで行動することが多く、それが吉となれば凶となる。今回は多少の鬱憤とした晴らすには吉だが、安全面では凶だ。

現に全員が、誰かとぶつかりそうになる。怪我をさせないようなスピードで走っていた俺は、当然のようにビリだった。

「和斗が、奢りな。」

「負けちゃったか。」

他愛ない話をしながら文也の家に戻り、そしてまた他愛ない話をするのかと思ったら、今年はそうではなかった。どこからか、懐かしい曲が聞こえてくる、この曲を聞いたのはいつぶりだろうか。

「懐かしいな椿」

「そうですね、卒業の時に歌いましたか。」

「覚えてるか?文也?」

後ろを振り返っても文也の姿は無かった。はぐれたかと思ったが、ホールに入っていく姿が見える。

「あそこから鳴ってるみたいやし、行ってみよや。」

走って文也を追いかける。

そこには、年が変わる前に何かから解き放たれたようにはしゃいでいる人たちがいる。

「この曲ははしゃぐような曲じゃないやろ」

「うわ、なんやあの踊り。」

変な踊りを全く曲調に合わずに踊っている様がこれまた面白かった。

ここは閲覧席としては二階の立見席らしい、みんな立って笑っていると思いきや一人蹲って肩を震わせている。気になった俺は考えるよりも先に体が動いていた。

「どうかしましたか?お姫様。」

このテンションに当たりすぎたのか、まるで王子様のように話しかけてしまう。

しまった!なんだお姫様って、意味がわからないし、クサすぎる。誰か俺を消滅させてくれ!

「お兄ちゃん誰?」

「椎名和斗、気軽に和斗って呼んでいいよ。どうして泣いてたの?」

「じゃあ、和くん!泣いてた理由はいいの。それよりも楽しい話をしましょう!」

少女は先程の涙が嘘のように笑顔を向ける、きっと何か言い辛いことだったのだろう。

「いいよ。今からここを出て鬼ごっこでもしようか?俺の友達もいるし。」

そう少女に伝えて、少し離れた所にいる文也達を呼ぶ。

「何してんだ?和斗、ナンパか?」

「アホか、まあいいや今から鬼ごっこしよや。」

「突然やな、まあええけど。」

こういう時は文也の軽いフットワークが助かる。

競争をまたもするといった、文也の提案を受け入れ今度は少女も入れて知らない街を駆けていく、公園の場所なんか知らないのにただただ走っていた。地の利がある少女に道案内をしてもらっていた俺と少女だけ公園に辿り着き、LINEで地図を送って2人の到着を待つ。

「そういえば名前なんて言うん?」

「私はね、白築柚葉。柚葉って呼んでくれていいわ。」

「分かった、柚葉。」

名前を呼ぶと照れくさいのか体を少しくねらせている。それを見て思わず笑いそうになるが必死で堪えた、よくよく考えるとまず全員の自己紹介から始めた方が良さそうだな。

すると、椿 文也の順に公園に入ってくる。

「全員揃った所で自己紹介タイムだ。俺の名前は椎名和也、趣味は歌を歌う事や、まああまりうまないけど。」

「はいはい!次俺!俺はな百地文也。気軽に文也って呼んでくれていいよ。趣味は…運動かな。」

次が誰かと見回すと全員の視点が椿に向く。

「あ、僕?柊椿っていいます、両方漢字一文字で終わるのでテストの時数秒得するのが取り柄です。詩を書くのが趣味です。昔それがきっかけで虐められてたのを和也に助けられました。」

「最後は私ね、白築柚葉と言います。小学四年生です。好きな事は、楽しかったら何でも好きね。趣味というか得意な事はピアノを弾くことかしら」

文也が拍手をするから俺達も釣られて拍手をする。拍手と共に笑みも浮かんでくる。

「改めてよろしくね和くん、文也くん、椿くん。」

「なんで、和也だけ和くんなのさ。なんかずるいよ。」

文也が不貞腐れながら異議を唱える。それは俺も気になった為柚葉を見るも、目が会った瞬間顔を背けられた。あれ?俺、何かしたか。

「ふーん、まあいいんじゃないかな。呼び名なんて自由でね白築さん」

「そうね、そうよ!でも私の事は柚葉って呼んでよね、椿くん。」

「うん、分かったよ。柚葉。」

同じ名前の呼び方なのに椿が言うと顔のかっこよさも相まって格の違いを感じてしまう。

「ところで、鬼ごっこをするんじゃなかったのか?」

「ああ、そやったな。じゃあ俺、鬼やるからみんな隠れてな、缶蹴りや。いくでー30数えるからないーち、にー」

急に遊びが変わって缶蹴りが始まる。

しかも缶蹴ってないじゃないか!始まり方が完全に隠れんぼなのだが。先程持っていた缶を置き勝手に数え始める。

「柚葉、走れ!」

「うん!」

幸いこの公園は広いので30秒もあればある程度距離をとることが出来ると思い走ると、椿だけ文也の近くにある円柱の遊具に隠れた。遠くを探しに行くか近くを探すかで勝負が決まりそうな危険な賭けに出たな。

そんなことよりも俺達も隠れ場所を決めないと残り時間が10秒しかない。

仕方ないので、俺と柚葉はアスレチックの後ろに隠れる。

「にじゅうくーさんじゅ!さーてーどこかな、皆はどこかなー。」

そう言って真っ先に文也は、開始地点の遊具を探し始めた、あいつ終わったな。あっさりと椿が捕まる。ただ、文也の迷いない動作に違和感を覚える。多分あいつ、音を聞いてやがったな、そう考えるとここもバレていると思った方がいいな。

となると俺がやることは

「柚葉、ちょっと話がある。」

「何?和くん」

作戦を伝えると柚葉が困りながらも了承してくれた。となると後はタイミングだな、ギリギリまで引きつけろ、まだ行けるもっと来い文也。さあ…よし、今だ!

突然アスレチックから飛び出してきた俺の姿を見て文也が一瞬たじろぐが、すぐさま缶へと向かっていく。

「文也、見つかりそうだからって焦ったな。逆側から逃げればいいものを」

「要は脚の速さなんだよ、文也!」

だが、文也と俺では身体能力が高い文也に利がある、だが不意をついたこれならと思ったが、存外届かない。そして無情にも文也の足が缶を踏みつける。

「和也、みっけ!」

だかこれでいいのだ、文也が缶から足を離れ探しに行こうと缶から離れたその油断を柚葉は逃さなかった。柚葉が蹴った缶は宙を舞い軽快な着地音を鳴らした。

「うそ!いつのまに…さては和也!お前の仕業やな。」

「ぴんぽーん、ここは自然も多かったしね

利用させてもらったさ。」

「くそ、やられたー。なら、次は鬼ごっこだ!」

文也が、悔しそうに次の案を出している中

俺は柚葉とハイタッチをしていた。

「やったね、柚葉。完璧だったよ。」

「ううん、和くんの作戦のお陰だよ。」

無言で見つめ合いお互いが笑う。

「こら、そこいちゃつかなーい、罰として柚葉ちゃん鬼ね。増え鬼スタート!」

こうして、俺達は時間なんて忘れて変に大人ぶってしまった高校生から子供へと戻った感覚に陥っていた。

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