図書館会話
『むかしむかし、おおむかし。赤の国と青の国はひとつでありました。
しかし、騎士の国であるそのひとつの国は派閥がおきていました。
それは、剣はなんであるべきかということ。
それは人を守るためか、はたまた人を傷つけるためのものか。
そんな争いの中、派閥は大きくなって、ついにそのひとつの国はその派閥を飲み込むことが出来なくなりました。
そして2つの国へと分裂した赤の国と青の国は、いつしか敵国として概念が生まれてしまったのです。
それからというものの、ふたつはひとつであったはずなのに互いにぶつかり合い、戦争を起こしてばかりになりました。
騎士達は、お互いの信念を貫くために、永遠に戦い歴史を刻むことになったのです。』
そんな昔の物語。
アスールはため息を吐いた。
それを見て俺様は首を傾げる。
「んだよ、図書館来てぇから連れてきてやったのに。」
「あはは、違うよレイ。……ただ、昔の人たちはもっと選択肢がなかったのかなって。」
俺様はアスールの読んでいる絵本の正体を知って、あぁと理解する。
その絵本は赤の国でも青の国でもとても有名な絵本だ。
なるべくわかりやすく、ある程度の子供が読めるその本は絵本ではあるが確かに騎士達の歴史であるため人気が今でも残っている。
作者が不明なのが不思議だが。
「よく、俺達は喧嘩もするし、怒鳴りあってお互いの意見を言うこともあるだろうね。」
俺達というのは、俺様2人ではなくこの国の人達のことを言っているのだろう。
「でも、それって深く言うと自分の意見を相手に理解して欲しい。わかって欲しい、共有したいって、そういう心理な気がするんだ。」
「……。」
「だから、戦争なんかじゃなくて、ちゃんと口で話し合って、お互い理解し合えたらいいと思うのに。」
とんでもなくお気楽なやつだと避難してやりたいが、あいにく俺様もそう思ってしまった。
それは、自分の意見を相手に認めて欲しいからだ、と。そういうことを。
それは分かってしまったのだ。
「貴様は、」
「ん?」
「……本当に話し合いだけで世界が解決するとでも思っているのか?」
アスールはあはは、と笑った。
「そんなことは無いよ。……俺達が思う剣は人を護るためにあるって、人を護るためにもしかしたら、ううん、その為に人に剣を振るわなくちゃいけなくなる時もある。
生きてる限り、体にも心にも絶対誰かに傷つけてしまうのは宿命かもね。それでも、そんなことがなるべく起きないように話し合いがいいのに。……自ら望んで戦争を起こすものばかりだから、誰もが傷つきてしまうの。」
言いながらアスールは悲しそうに微笑んだ。
「だから、自分を傷つけていることも知らないんだね。」
なんて言いながら俺様を見た。
「んだよ。」
「……君自身が君を傷つけて、なんになるというの?」
「……。」
俺様が、俺様を傷つけてる?
馬鹿なこと言うなよ。
んなわけねぇだろ、このど阿呆。
なんて言いたかったのに、その瞳が哀に包まれ綺麗なものだから、何も言えなかった。
「まだ、俺を殺したい?」
「あったりめぇだろ。」
「なのに、ずっと生かしてくれるんだね。」
俺様はバク、と胸が痛いほど鳴った。
こんなことで動揺して、クソみたいだ。
「……魔女にでも会ってこいよ、クスリで頭治してもらえ。」
魔女とはミラという少女だ。常にパジャマを着ていて常に寝ているというとんだだらけた、そして唯一魔力を持っている女の子だ。
「えーっ?ひっどーい!ミラちゃんそんな事しないもん!」
「もん、とかお前が言うな気持ち悪ぃ。」
はぁ、とため息した。
でも、こいつと、なんだかんだこんな場所に来て、殺せなくて、……。
問題は俺様にあるのかもな。
どうして、いつもお互い半殺しまでになって終わりなんだろう。
なんなら、
「お前が俺様を殺してくれればいいのに。」
「えっ?」
ぼそっと呟いたつもりだったのに、きこえてしまっていたらしい。
う、と唸るとアスールは何故か嬉しそうに笑って俺様に抱きついた。
「わああ!それって君なりの最大の愛情表現じゃない!?すっごく嬉しい!」
「んなわけあるか!い、今のは違うっ!勘違いするなドアホ!!俺様を殺すなんて100万年早いわ!」
真っ赤になってくのを感じる自分の顔をにやにやしながら見つめるこいつにイラッとくる。
また一言怒鳴ってやろうかと思ったけど、図書館の司書から「図書館ではお静かに。」と注意されたのでとりあえずアスールに腹パンを決めてから大人しくしたのである。