姫の恐れるもの
オレはくすくすと笑いながらその様子を眺めていた。
オレの目の前には優雅な椅子と机があって、そこに座ってお茶会をしているアスールと、無理やり座らされていて嫌々言うにも何だかんだ楽しそうにお茶菓子を楽しんでいるレイの姿があった。
オレの名は、ヴェルライガー・スカル。ヴェルと呼ばれている。
髪は短く緑色で、頭のてっぺんから生える1束だけ濃い緑色なのがちょっとアイデンティティだったりする。レイのスパイの仕事と、騎士の仕事を支えている秘書的存在がこのオレだ。
言い忘れたがオレは女だ。
こんなナリでよく間違われるが気をつけるんだぞ。
あぁ、あとオレは姫だからな。そう、アスールと同じ立ち位置にいる女だ。
男みたいな育てられ方をしたが紛れもないお姫様だ。よろしくな。
「ふふっ、どうっすかね?美味いっすよね。」
「うん!すごく美味しいよヴェルちゃん!」
先程アスールが楽しそうにルンルンとげっそりとしたレイを赤の城に連れてきて、「ヴェルちゃんお茶しよ!」なんて言うのだ。
敵国である、しかも騎士長が楽しそうに赤の城にまで来るだなんて。
しかもスパイ目的なのではなく、純粋に遊びに来てるのだ。
もうこちら側の毒が抜けてしまう。
オレはその誘いに笑いながら紅茶を楽しむための裏庭に移動して、オレの特技である御茶菓子を作りもてなしているのだ。
アスールは本当にレイが好きだ。
レイははぁ、とため息してオレを見る。
「おいヴェル、こいつになんか言うことはねぇのかよ。」
「と言ってもなぁ……、別にいいんじゃないっすか?好意を持たれて嬉しくない人なんて所詮赤の国だとしてもいないっすよ。」
「……。俺様はこんな奴に好まれたくない。」
「えー!!ひっどー!」
ケラケラとそこまでショックも受けてなさそうな笑いを浮かべながらアスールは笑った。
一時期この人と、過去に敵国で無くすためにお見合いをしたことがあった。
王子と姫とで。
しかしオレが男のような振る舞いだったため、お見合いどころか友達のような関係になってしまい恋仲とは程遠くなってしまった為、それは破棄になった。
王様である父様も呆れ返っていたが、お前はそれでいい、と笑ってくれたのを覚えている。
赤の残虐な王だと言われている父も娘には優しいのだ。
1番残虐で愛がないのはレイな気がした。
それでもレイはアスールが殺せない。
あちこちの騎士にはスパルタでやるくせに、と少し心の中で笑った。
「まぁいいじゃないっすか?アスールさんが着てから両方の国がどんどんいい方に傾いてきている気がしますわ。」
「そりゃあお前あれだ、なんかの勘違いだろ。」
「レイは頭がかたすぎるんっすよ。」
「はぁ!?んなこたァねぇ!」
オレとレイの会話を聞いてくすくすと笑っている。でも本当にアスールはすごいと思う。軽く危険物に扱われる勢いでの凄さだ。
敵だからとか、嫌いだからとかそんな概念がアスールの中には存在しないのだ。
仲良くしたいから仲良くする、会いたいから会う、好きだから好きと伝える。
自分に正直すぎて、そしてそれは何故か反感を買うことをなく全ての人に受け入れられている。
…………天使の皮を被った悪魔だ。
下手をすればそう呼ばれるに違いない。
それほどこの王子は危険で怖い存在なのだ。
「……。」
オレは少しだけ身震いした。
なんて、恐ろしい男だ。
「敵に回したくないな……。」
ぼそっと呟いて笑った。
もう立ち位置的に敵なのかもしれないけれど、それでも彼には敵だという概念をオレに当てはめることのありませんように。と。