赤騎士の困惑と
あぁ、と俺様はため息する。
訓練が終わり、今日もまた俺様はそれでも訓練を続けようとした。
その時である。
「あははっ、訓練が終わったのにまだ訓練続けるの?レイって真面目!」
出やがった。
天使みたいな顔して、中身はとんでもない根性の悪魔であるアスールという男。
1週間に3回……いや、4回は赤の国に訪れている。おかしいとは思わないのか?
敵国にノコノコとやってくるだなんて、殺されてしまうかもしれないというのに。
そしてこいつは俺様に会うために会いに来ているとかいって毎度馬を走らせてはここに来ているのだ。馬を走らせすぎだ、この馬鹿は。
「……また来たのかよ。」
「んー、出来ることなら毎日会いたいんだけどね!」
「やめろ、俺様を殺す気か。」
ぶる、と身の毛がよだつ。
本当に恐ろしい男だ。
これまでこんな敵の陣地にノコノコとやって来て、何を企んでいるというんだ?
それでもその純粋な青い瞳に邪な濁りはどこにもないらしく、尚更目眩がする。
俺様はこいつが嫌いだ。
さっさと殺してやりたい。
というか殺すべきだ。
剣をさ、と抜いて負けないスピードでアスールに飛びかかった。
アスールは目を丸くすると慌てたように俺様のスピードに対抗出来る速さで剣の鞘を使い俺様の剣を受け止めた。
俺様のスピードについてこられるのはこいつしか居ない、自慢のスピードがこいつにはなかなか効かないのだ。
ちっ、と舌打ちしながら剣にさらに力を入れるとなんとアスールはそれを凄い力で対抗しながら嬉しそうにわらった。
「ふふふっ、真剣なレイ、かっこよくて凄く好き!俺、そのうち負けちゃうかも……。」
「……。」
ドン引きだ。
こんな状況でなんの緊迫感もなくただただ嬉しそうに頬を染めている。
俺様はつい、その剣を降ろしてしまった。
アスールは「どうしたの?」と首を傾げる。その無垢な顔にさらに苛立ちを覚えて舌打ちをし睨みつけると剣を地面に叩きつけ、俺様は歩き出した。後ろから「ま、っまってよー!」と声が聞こえて追いかけてくる。
うっとおしい……うぜえ……ぶっころしてやりてえ……。
アスールは早足で歩く俺の隣に並んで歩き始めた。
「せっかく君に会いに来たのに……、いっぱい仲良くお話しようよ。」
「悪いが俺様に敵国と話をすることなんてない。話し合いなら剣での話しあいをするか?」
いわば殺し合うか?の意図。
それを察したアスールは呆れたようにため息した。
「君の頭の中は闘うことしかないの??もうちょっと平和的になろうよ。それじゃあ君がそのうち傷ついちゃう。」
「傷つく?逆に言ってやるが貴様の脳みそはいつだってお気楽で浮いてるな。そんなふわふわしてるとそのうち傷つくのは貴様かもな?」
立ち止まりその首にスパイ道具として使ってる小さなナイフを突きつけた。
アスールはまたもや大きな青い目を更に丸くさせると、照れくさそうに笑った。
「あはは、君の言う通りかも……そのうち俺、君に殺されちゃうなぁ。」
笑ってんじゃねぇよ。
俺様はナイフをしまいながらまた舌打ちすると歩き始める。相変わらずアスールはついてくる。
青の国の騎士長は、昔から知っている。というより……まぁ、色々あって幼い頃に会っていた。
その時はお互い幼くて色々理解してなかったが、大きくなってみたらこれだ。
なんてネジの外れた男だ。
そしてネジがぶっ飛んでるくらいにはかなり強い。
赤の国の民とまで仲良くなっている始末……。
何を企んでやがる、と疑うもその瞳にはただただ仲良くしたい、会いたい、それだけの純粋なものしか見えなくてもっと頭が痛くなった。
「……はぁ、んで?俺様は貴様に何をすればいい。」
「……!」
このまま放置してもついてくるだけだ、なら早めに要件を聞いてさっさと済ませて終わらせてしまおう。
アスールは嬉しそうき目を輝かせると俺様の腕をいきなり掴んで走り始めた。
「ぉっお、おい!?!?何だよ!?」
「ふふっ!まぁまぁついてきてって!」
「おいっやめ、貴様、は、離せっっっ!!!」
ついていけない。
色々とついていけない。
こいつに関わるとほんとに頭がおかしくなる。殺してやりたいと思うのに実際に会うと殺せなくなる。これは病気だ。はやく治さなくては。
俺様はげっそりとしながら馬鹿力で掴むその腕に引っ張られて情けなく走らされるハメになったのであった。