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RUTS  作者: 三品大
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四十一話 一月十二日

   一月十二日


 今日は祝日だ。周りは朝から賑わっていて、まだお正月のお祭気分が抜け切っていない感じがした。東は、そんな街の様子を気にも留めずに、車を運転していた。

 立花佳織が細い路地へ入ると、舌打ちをして、東もその路地へ入る。立花の歩く早さに応じて、車の速度も変えている。東は、いつも通り立花を尾行していた。

 立花が小さな服屋へ入ると、東はいったん大きな路地に出て、路上駐車をした。バックミラーでその店先の様子を窺うことができる位置だ。

 しばらくすると、立花が店から出てきた。彼女がこちらの通りに出てきたのを確認すると、再び尾行を開始する。

 今日の彼女は、近所を散歩するような足取りでいたので、街まで出てくるのは予想外だった。これならば、徒歩で尾行したほうが効率がいい。

 東は立花に対して、また頭の中を駆け巡るような混沌とした感情を抱いていた。あの廊下での友達との会話。

 すでにこちらの魂胆は知られていたのだ。それでいて彼女はあのような自然な振る舞いをしたということになる。女優の才能があるじゃないか、と東は思う。

 しかしこれからどうすればいいのだろう。立花は東と距離を置こうとしている。これでは、彼女を手に入れることはできない。永遠など、程遠いことのように思えた。

 立花は、徐々に人通りの少ない道へと進んでいった。彼女はそういう場所にある穴場のような店を好んだから、その行動に違和感はなかった。

 慎重に尾行を続けていると、横のさらに細い路地から、フルフェイスのヘルメットを被り、原動機付自転車に乗った人間が東の前に出てきた。東は、このバイクのせいで尾行に支障が出ることを懸念した。早くどこかへ走り去って欲しいと思った。

 だが、そのバイクは方向を変えることなく、東の進行方向に向かって、走っていった。これはやっかいなことになったな、と思った。あの系統のバイクは遅いし、動きも鈍い。

 バイクは滑らかに走っていくが、なぜか、立花の後ろまで行くと、スピードを緩めた。東をそれを怪訝に思った。

 するとその瞬間、バイクは勢いをつけて走り出し、立花が右脇に抱えていたハンドバッグをひったくった。

 東は慌てた。このような異常事態は想定していなかった。立花は以前にも強盗に襲われたが、二度同じようなことが起こるとは思わなかった。

 立花はバッグを持ち去った強盗に向かって何かをがなり立てていた。

 東は一瞬呆然とするが、すぐ正気を取り戻した。

 金を狙った強盗。それがバッグを盗んでいった。ということは――

 東はエンジンを吹かして、強盗の後を追った。強盗が曲がった角を曲がると、遠くにかろうじてその姿が見えた。東は急いでそれを追う。

 それと同時に、道路に目を配る。特に何もないとわかると、強盗を追うことを再開する。しばらくすると、強盗に追いついた。それからしばらく追い続けると、いつまで経ってもいなくならない後方の乗用車に気付いたのか、後ろを振り向く回数が多くなる。東が後を追っているとわかったのだろう。

 強盗はまた細い路地へ入った。そしてなにやら体の前の方でごそごそとやっていたかと思うと、突然、道路脇へ何かを投げ捨てた。

 それが立花のハンドバッグだとわかると、東は停車して、車から出た。

 辺りの様子を見て、誰もみていないことを確認してから、そのバッグを懐へしまい込んだ。

 立花の持ち物を手に入れた。

 東は多幸感に満たされた。立花が触って、毎日使用していたもの。それを今自分が触っている。

 立花はよく強盗に遭う女だ。しかしそれによって東は得をしている。

 車へ戻ると、東は自宅へと向かった。


 携帯電話、札束を抜き取られた財布、化粧道具、ハンカチ、写真。東は写真に目を留めた。この東の部屋には山のように立花を撮った写真があるが、カメラに向かってポーズをとっているものはなかった。

 東は興奮してその写真を眺めた。どの写真でも立花は笑っている。この表情はいい、これは駄目だ、と品定めしていった。すると、ある写真が気になった。

 その写真では、立花は知らない男に寄り添っていた。

 誰だ、この男は。

 東は残りの写真も見てみる。すると、他にもその男に寄り添う立花の姿が写っているものが何枚もあった。

 立花の男だろうか。東は憎しみがこみ上げてくるのがわかった。

 君は他の男とそういう関係になってはいけないんだ。

 東の写真を持つ手は震えた。やはり是正しなければならないんだ。しかしどうしたら…。

 ふと、バッグのなかに別のものが入っているのがわかった。ノートのようなもので、その留め金のようなものが壊れていた。そのノートは日記帳なのだとわかった。

 立花の日記帳だ。

 そう思って中を開いてみると、表紙の裏に名前が書いてあった。

「え?」

 東はその名前を見て思わず声を上げてしまった。そして、食い入るようにその日記帳を読み始めた。

 それを読み終わると、東は天を仰いだ。


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