第2話「俺、王子じゃねぇんですけど」
クロムくん、旅立ちます。
王子様に別れを告げてから、魔法使いは──クロムは、お城を出ました。
万が一にも王子様に危険があってはいけないので、護符を数枚渡しておくのを忘れません。
あれ、でも此奴なら自分で何とか出来るんじゃね?
そう思ったのは主に手を振って背を向けた後でしたが、まぁいいかと思い直します。
王子様と長年付き合いのある彼は、迅速な思考の切り替えが、とても得意でした。
(さァて、どうすっかなー……)
箒でひとっ飛び!
でも良かったのですが、クロムは敢えて徒歩を選びました。
急ぐ理由も特別ありませんでしたし、お城の裏手にある森の中に、世にも珍しい薬草があると母から聞いていた為、散策がてら収集して行こうと思ったからです。
さくさく、さくさく。
草を踏み締める音が、辺りに響きます。
普段はお城の絨毯に吸収されてしまうその音に、クロムは新鮮さを覚えていました。
そして肝心の薬草は、と言うと。
あっちで見付け、こっちで見付け。
母の言っていた通り、森中で貴重な薬草を沢山発見しました。クロムにとっては宝の山です。
(すげぇえ! これ薬草大事典にも載ってる、超レア物じゃーん!!)
一体どれ程の価値があるのか。
考えただけでも、テンションは鰻登りです。
クロムは夢中で薬草を集めました。
と言っても、根こそぎ乱獲したりしません。若い芽のものは残し、熟した物だけをきちんと見分け、少しずつ分けてもらうのです。
そうでないと森の生態系が狂ってしまいますし、次に来た時にもう無くなってしまっていては、困るのは自分です。
せっせ、せっせ。
森の恩恵に感謝しながら、クロムは少しずつ薬草を摘んでいきました。
そうして。
広大な森を、随分と歩き回った頃。
不意に、自分以外の誰かの気配がすることに、気が付きました。
(……ん?)
それも、複数の気配。
最初は、何か不測の事態でも発生して、自分の力を必要とする王子様が追って来たのかと思いましたが、違うようです。
(……話し声……? いや、違うな……これは……泣き声、か……?)
どうやら誰かが泣いているようです。
こんな森の中で一体どうしたのだろうと、クロムは歩を進めました。
がさり。
一際大きな茂みを掻き分けると、その向こうに誰かが居るのが見えました。
1、2、3……7人の小人達です。
(小人……森の守護者達が、何でこんな所で……?)
森を住み処とし、森のもたらす恩恵に感謝している彼らは、非常に保守的です。人間が入ってくるのを良しとせず、見付け次第、警告したり追い返そうとします。
しかし……。
今の彼らは、クロムの存在に気付いた今でも、呆然とこちらを眺めるばかりでした。
皆が皆、はらはらと涙を流しています。
蓄えられた髭が、涙で濡れていました。無言で静かに泣いている彼らは、ちょっと異様な光景です。
(えっ……ちょ、何これ?)
流石に7人からじっと凝視されると、引いてしまいます。
まずいところに出くわしたなぁ。
どうしたものかと考えを巡らせようとした時、リーダー格の小人が、はっと気付いて叫びました。
「──もしや、王子様では……!?」
「ハァ!?」
クロムは礼節も忘れ、思わず素で返します。
何言ってんの!?
と。
しかし小人達は意にも介していません。それどころではなさそうです。
「そうじゃ……きっと、そうじゃ……!」
「そうじゃ、白雪姫がいつも言っておったものな!」
「姫を救いに来てくだすったのじゃ……!」
自分達で話を進め、誰もが笑み崩れています。まるで暗闇の中、光明を見出だしたかのようです。
対するクロムは、理解が全く追い付いていませんでした。
(──ッはァアア!? 何!? 何言ってんの!?)
言語は同じである筈なのに、全く頭に入ってきません。
にこやかにこちらに歩み寄る彼らに、恐怖すら覚えます。
「さっ! 王子様、どうぞこちらへ!」
「白雪姫はこちらです! ささ、どうぞ!」
そう言って、小人達は力強く引っ張り、背を押しました。
ローブをぐいぐい引っ張られ、クロムも流石に焦ります。
「イヤだからちょっと待ってって! あの、誰かと間違ってねぇ!?」
「こちらの棺に眠っておりますのが白雪姫ですじゃ」
「聞いてーーーー!!」
さくっとスルーされ、思わず絶叫してしまいました。
拙作をお読みくださり、ありがとうございます。
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