Men's side
男子陣営の話です。
僕の名は東玄 春馬 高校三年だ。
――まあ、覚えてもらう必要はない。
学校では副会長の任に就き、頭脳派・・と言いたいところだが、成績は残念ながら2位だし眼鏡もかけてない。
僕は進学が差し迫っている今日この頃、夏休みだというのに学校へ行き、一人で補習することを日課としていた。
それは夏休み終盤に至った今日も例外ではなく、誰もいない講義室で黙々とペンを動かしていたら・・
景色が変わっていた――
―――――――――――――――――――――――――――――――
状況を説明しよう。
僕は・・・“僕達は”体育館に集めら、奇妙な女の声の放送が始まった。
その話によると、僕たちは現実とは違うどこか別の世界に集められ、これから互いの陣を取り合う方式のゲームとやらをするそうだ。
何をふざけたことを・・とそう思い、周りの奴等のように悪態の一つでもつこうと思ったが、開きかけた口は突然隣の生徒が掻き消えたことにより妨げられた。
突如人が消えることにより、悲鳴や怒号が連鎖して起こっていたが、叫んでる奴等もまとめて消えた。
僕が消えたのは、もう体育館の中の人数が両手の指で数えられるほどになってからだった。
一秒ほど視界が真っ白になり、体は浮遊感に包まれた。
視界を覆いつくした白は段々と薄まっていき、やがて深い青を基調とした薄ら暗い部屋にいることが認識できた。
まあ、部屋というよりはホールといったところか。
直径20メートル程の“やや”すり鉢状になった円形のホールで、天井も3メートルはある。
中心には、これまた大きい直径3メートル程の円卓がどかっと置かれ・・・とここで気づいた。
円卓には既に複数人の男子生徒が囲むように座っており、その後ろから立ったまま円卓の面を覗き込んでいるいる者もいた。
何事かと好奇心に負け、自分も他の生徒と同じように立ったまま身を乗り出し、円卓の面を覗いた。
それは地図だった。
確か今回僕達が《ゲーム》とやらをする範囲は限られていたはずだ。
体育館で聞いた説明によると、この学校を中心として半径3キロメートルの円だった。
その円卓の面には、その範囲が青く映し出されていた。
天板の部分が液晶画面となっており、タッチパネルでもあるようで、複数の生徒が地図を拡大したり回転させたりして遊んでいた。
「悪いけどちゃんと地図が見たい、遊ばないでくれるかな。」
地図が高速でブレて詳しく見れないことに腹が立ち、つい言ってしまった。
意外にも遊んでいた生徒は手を止め「あっ、すみません」と謝ってくれた。
後輩だったようだ。
それはそうと僕は、まじまじとその地図を見た。
家や道路を表したり区切ったりしているのは、全て青い線と地の黒色の二色で表現されており、建物や森は中も青く塗りつぶされていた。最初は見づらいと思っていたが、よくよくみると実に精密で分かりやすい。
他の生徒がやっていたように二本の指をあて広げることで、拡大もできる。
青と黒の地図の中に一つだけ白い点があった。恐らくこれは僕たちが今いる拠点の位置だろう。中心の学校側から見て、半径1.5キロ付近の東北の住宅街の中にある。
どうやら相手のチームの拠点の位置は映らないようだ。まあ当たり前か。
簡単に説明すると、北西は背の低い山があり、真南には海がある(海といっても海の部分は殆ど範囲外で、もう砂浜の部分だけと言ったいいかも)他にも球技場にもなるただっ広い公園や商店街などがあるが、その他は全て住宅街で占められている。
僕たちの拠点は特に住宅が過密に集まった東北の区域にある。
(山や林のど真ん中に設けられるよりはマシだね・・)
とりあえずまあ、この円卓の地図を使って《ゲーム》のエリア確認ができるということが分かった。
だが、こんな地図がこんなホールのような場所に置かれて、しかも円卓に表示される・・。エリア確認のためだけにあるとは思えないが・・・
『ピンポンパンポーン』
体育館でも聞いた放送の音だ。
周囲の男子生徒が騒ぎ出す
またルールの補足でもするつもりだろうか・・?
確かに、個人的には体育館でのルール説明は不十分のように感じた
例えば相手チームのメンバーを《捕獲》する方法とか、ね。
だが、次に述べられる、簡単な事実に僕は呆気にとられた。
『ただいま、すべての皆様の拠点への転移が完了致しました。』
僕は僅かに眉根を寄せる。
(今頃? 僕が転移されるときは10人も残っていなかったはずだが・・)
僕が転移されて既に10分ほどが経過している。
自分の腹時計とかではなく、このホールに最初からあった青く光る壁掛け時計風の時計で、常時時間は確認していた。
残り10人に至るまで507人を転移させるのは、体感時間では1分程しか掛かっていなかった。
10人程度を10分もかけて転移させるのは、いささか遅すぎる気もするが・・。
まあどうでもいいか、と割り切る。転移し終えて暫く経って放送を流したという可能性もあるのだから。
とりあえず今は放送に集中することにした。
『では、これよりより詳しいルールと仕様の説明を始めたいと思います。
既にお気づきの方もいらっしゃると思いますが、皆さんが転移された最初の部屋には今回を行う範囲を縮小して表した地図・・《マップ》があるかと思います。
《マップ》には今は拠点の位置を表す白い点しか表示されていませんが、他にも拠点の外にいるメンバーは緑でマップ上に表示されるようになります。
また、マーカーやサブポイントなど便利な機能がございますので、使用する場合はマップの画面をダブルタップすればメニューが表示されます。』
僕は試しに円卓の天板を間隔を空けず二度タップした
するとタップした部分を中心に三つのウィンドウが三段重ねに出てきた。
上から
【Marker pens】
【Sub points 】
【 ??? 】
一番上は普通にマーカーだった。
指でなぞるとそれに沿って黄色の太めの線が引かれた、タップで色も変えられるようだ。
真ん中はどうやらゲームとかで言う《ビーコン》だ。
選択するとタップした場所に三角形のマークが置かれ、画面に現れたホロキーボードで名前を決めれるようだ。
一番下は何度選択しても何も起こらなかった。なにか条件を満たすと選択できるようになるのだろうか・・?
『これにて《マップ》の説明を終了させていただきます。
次に戦闘・生活面です。皆さん、左手首をご覧ください。』
言われて自分の左手首を見た。
何か黒いバンドのようなものが巻き付いていた。
『それはこの《ゲーム》において必需品となるものです。
外側にスイッチがあると思いますので、押してみてください。』
黒いバンドにスイッチも黒だったので分かりにくかったが、カチッという感触とともに左手首の上にホロウィンドウが浮いていた。
これにはさすがに驚いた、やはり別の世界ということか・・。
周りも、おおーだとかすげぇとか頭の悪そうな感想を口々に言っている。
こんなもの現実世界に持って帰れたら、どれほど利益になる技術だろうか・・。
まあ、《ゲーム》が終われば“なかったこと”にされそうだがね。
改めてウィンドウを見る。
そこには【100p】【Lv1】【戦闘品】【生活品】の4つの項目があった。
だが選択できそうなのは【戦闘品】【生活品】だけだ。
『そのウィンドウは指先で押す動作だけを感知します。つまり指先以外では操作するのは不可能となっております。
では、まずは一番上の100ポイントとレベルの部分について説明しましょう。
ポイントは、この世界での通貨と思っていただければ良いです。
下の【戦闘品】【生活品】というところでは項目の名前のとおりのものを、ポイントを払って買うことができます。
ポイントは一人当たり4時間で100ポイント、つまり一日で600ポイント貯まります。』
僕はそこで試しに【戦闘品】と【生活品】を選択してみた。
まず【戦闘品には上から
【Shock・BLADE】 100P
【Net・LAUNCHER】100P
【Net・AMMO×3】 100P
【生活品】には上から
【カロリーゼリー】0P
【食糧S】10P
【食糧M】30P
【食糧L】50P
【学校指定制服上下】 100P
【下着 上下】 30P
・
・
・
【戦闘品】は3つしかなかったが【生活品】のラインナップはかなり多く、20はあるだろうか・・。
おそらく【生活品】には、生活に必要な衣食品やその他歯磨きといった生活必需品が備わっているのだろう。
『次にレベルです。レベルが上がると【戦闘品】【生活品】に出てくる品物のラインナップが増えます。また、身体能力もわずかに上昇します。レベルアップで増える品物は完全にランダムで、他の生徒同士が被ることもありません。
では、そのレベルを上げる方法について説明します。レベルは経験値を一定値まで得ることで上がり、その経験値を得る方法は主に二つあります。
1つは《拠点》の外に出ること。・・《拠点》の外で活動しているだけで、経験値はじわじわと貯蓄されていきます。また、その量は《拠点》から離れれば離れるほど肥大していきます。ですがこれはあまり効率の良い貯め方ではありません。
2つ目に相手チームのメンバーを攻撃・捕獲することにより経験値が得られます。その量はかなり多く、レベルアップを目指している方にはこちらを推奨します。』
聞きながら僕は苦笑した。
経験値を貯めてレベルを上げて強くなる・・まるで本当にゲームだ。RPGでもやっている気分になりそうだな。
『では、【戦闘品】【生活品】の品物について説明いたします。最初に【生活品】ですが・・、これついては一目でわかると思いますので説明は省かせていただきます。
それでは【戦闘品】の3つの品物をまずは見てもらいましょう。』
は?と呆ける生徒の中、突然ドンッという音とともに虚空から現れた黒っぽい青色のトランクケースが円卓の傍の床に落ちた。
近寄ってみた僕はトランクケースの留め金を外し開く・・と同時に周囲の生徒もぞろぞろと僕の周りに集まりケースの中を覗き込む。その途端、おおっというどよめきの声が上がった。
中には怪しく青黒く光るハンドガンサイズの中折れ式グレネードランチャーのようなものと、その弾とみられる3つの太く短い金属筒、そして艶消しの黒色をしたゴムでできたナイフのようなものが入っていた。
横合いから他の男子生徒がトランクの中を奪い取っていき、手にとってはすげーと漏らしている。
『そのショック・ブレードとネット・ランチャー・・とその弾は、今回の《ゲーム》において最も基本的な相手の無力化装備となっています。
まずはショック・ブレード・・これは刃のないゴム状の武器ですが、一定以上の速度で振り、相手の体に打ち付けると相手の意識を強く揺さぶることができます。』
バタン!という音が響いた。
見ると、先ほどショックブレードと思わしきものを取って行った生徒がそれを片手に青ざめていた。
彼の目の前には仰向けに倒れ、どこか遠い目をした生徒がいた。
おそらく遊び半分にショックブレードで隣の生徒を殴ったところ、その相手がぶっ倒れて動かなくなったということだろう。
周囲の生徒の冷たい視線がブレードをもった生徒に刺さり、今にも泣きだしそうな顔になったとき・・
むくっと殴られた生徒が、右手を頭に当てながら起き上がった。
それから暫くの間土下座している男子生徒を尻目に説明の続きを聞いた。
『ショックブレードは相手を無力化する力こそ強大ですが、相手に肉薄しなければ当てられないというデメリットがあります。
そこで使用するのがネット・ランチャーです。
ランチャー上面についたストッパーを外すと、トリガーの前を軸に下向きに中折れし、露出した銃身に直接弾を込めます。
一発ずつしか撃てず、再装填に時間がかかりますが、8メートルほどの距離なら当たれば確実に無力化できます。』
そこで円卓の天板の地図が消え、代わりにネットランチャ―を持った黒い人(コナ〇の黒い人みたいだ)がマネキンのようなものにランチャーを向けている映像が映った。
黒い人が引き金を引くと、青い色のネットが銃口から放射状に放たれ、5メートルほどの距離に設置されたマネキンは、網に包まれながら倒れた。
『網の内側には粘着力の高いジェルが塗られており、自力で抜け出すことは困難となっております。
そしてこのように無力化した相手には《ジェイル》というこの首輪状のものを首に付けると《完全無力化》となり、全ての武器の効果は発動しなくなり、引き金は固定され引けなくなります。
また、身体能力も大幅に低下するため他人の助けなしでは逃げることは不可能になります。この状態となった相手チームメンバーを《拠点》まで連れ帰ることが《捕獲》となります。ちなみに《ジェイル》は付けられている本人では外せず、首輪をしていない相手チームメンバーか付けた本人によってのみ外すことができます。』
言いながら、円卓の画面には《ジェイル》といった黒いチョーカーにも見えなくはないそれを相手に付ける映像と外す映像が流れた。
どうやら、この首輪は留め金というものはなく、付けるときは相手の首にそのまま差し込むだけのようだ。
首輪は相手の首を透過し、首にきっちりと巻き付くといった具合だ。(なお外す時も首を透過し、外れる。)
『《ジェイル》拠点出口脇の販売機で一つ10Pで販売しております。バンドからは購入できませんので注意してください。』
なぜ【ジェイル】だけ別売?と思ったが、それより気になることがあった。
このバンドから品物が買える・・?そう思い、バンドからウィンドウを開き、適当に【Shock・BLADE】を選択してみる。
自分の【100P】といったところがみるみる下がっていき【0P】となった。
そしてバンドが急にぺかーと光だし、目の前の何もない虚空から、さっき出た3点セットのやつより小さめのトランクケースがぱたりと床に落ちた。
(まじかよ・・。)
中を開けると、確かに艶のない黒色をしたナイフのようなものだけが入っていた。
手に取ってみると、・・うーんいかにもオモチャっぽい。
刀身は1センチほどの厚みで刃もないし、剣腹を持ち、力を籠めるとぐにゃんと曲がり、放すと元に戻った。・・それが余計オモチャっぽさを加速させている。
さっきと違うことは、トランクの中にはブレードとは別に黒いベルトのようなものが入っていることだろうか。
ベルトにはブレードに比べ、側面に亀裂のように穴が開いた少し厚く長い長方形のものがくっついていた。
どうやらブレードのホルダーらしい。穴にはショック・ブレードがすっぽり収まった。
僕はとりあえずそれを腰に巻き、服の下に鞘を隠しながら放送を聞いた。
『では、これが最後の説明になりますが、まずは皆さんに一人リーダーを決めてもらいます。』
リーダー?めんどくさそう、お前やれよ、と声が上がる
リーダーと聞いて僕は内心焦る。頭の悪い奴がリーダーにでもなれば何が起こるか分からないし、自分自身もリーダーにはなりたかった。
『リーダーとなる者にはこの《リーダー・リング》をつけていただきます。』
円卓の上に細身の白い指輪が音もなく現れる。
『リーダーは、他より強い能力が与えられる他、外にいる自分のチームメンバーに、その指輪とメンバーのバンドを通じて声の振動数を読み取り、《拠点》から会話したり、指示を出すことのできる唯一の存在です。高い状況判断力と的確な指示が求められるため、そういったものを兼ね揃える人物をリーダーにすることを推奨します。』
周辺の生徒が騒めく。俺だ俺だ、と主張する人物もいなければ、~がいいと思うという推薦の声もない。
みんな不安に思っているんだろう、なんせ重要度や必要とされるスキルを問うなら、生徒会やキャプテンよりも責任は重い。
――だが僕の足は動いていた。
小声で「お前やれよ」「いやだね」とひそひそ話をしている横を僕は真顔で通過する。
やがて円卓までたどり着き、周りの生徒が怪訝そうな顔をする中で、右手で指輪を取る。
くるっと振り返り生徒の顔を改めて見る
(どいつもこいつも呆けた面しやがって・・)
おおっといけない、あやうく心の内が顔に出そうになった・・あくまで優しく控えめに・・
「皆さん、自分こそがリーダーにという方がいないのであれば、ここは生徒会副会長を務める、この東玄 春馬に任せてはもらえないでしょうか? 私にはこの《ゲーム》に絶対勝つという自信があります。皆さんが私でよければというのなら、拍手をいただければと思います。」
最後に深く一礼する
結果だけ言うと、場には200数名が奏でる壮大な拍手の音が響いた。
どの生徒もほっとした顔でリーダーの就任を快く迎えてくれた。
明るい拍手の音は、反対にぽつぽつと僕の心を黒く蝕んでいた。
そうか、これが復讐心というものか・・。
頭を上げた“俺”は右手に持った指輪を左手の薬指に添える。
「ありがとうございます皆さん!では、力及ばずながらこの僕がリーダーを務めさせていただきます!」
こうやって副会長の俺がこのチームのリーダーになれたんだ。
あの女も向こうのリーダーに就いているに違いない。
生徒会長の座を俺から奪ったあの女なら・・。
ニコニコしつつも内心で歯ぎしりをし、俺は指輪を左薬指に通した。
『このチームのリーダーは決まりました。3年1組の東玄さんです。おめでとうございます。
では、これにて全ての説明を終了とさせていただきます。ご健闘を』
男しかいないの空間は、戦いの始まりに沸いた。
どうだったでしょうか。
今回約7000文字となっていますが、これだけ書くのはかなり疲れました(笑)
投稿間隔の早く、ボリュームもあり内容もいい大手のユーザー様には頭が上がりません。